蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[83] アメリカの蔵書家たちⅧ 20世紀前半 マニアたち

 

 

 ≪ Ⅷ アメリカの書物コレクター 20世紀前半 ≫

 

 

 前頁ではアメリカの大富豪たちの蔵書をみてゆきましたが、その蒐集内容の充実は、彼らの経済力のみによるものではなく、時期的な要因も大きく作用しています。
 実は19世紀末から20世紀初頭にかけて(概ね1880年頃から1920年頃の間)、イギリスの貴族の個人蔵書が崩壊して貴重なものが多く市場に放出され、購入可能となっていました。その結果、この時期にはイギリスからアメリカへ、大量の稀覯書が流れたわけで、この好機に最も経済力のあった富豪たちが率先して、従来のアメリカでは考えられなかったようなコレクションを形成するに至りました。 ローゼンバッハが古書業界のナポレオンとまで称されているのも、後にも先にもないこの最大のチャンスに最も活躍した存在であったためです。

 興味深いのは同時期の極東でも、これと似た動きがあった事です。
 明治初めの日本では、大名蔵書が崩壊した事や、欧米文化流入のため旧来の文化が顧みられなくなった事を原因として、稀覯書の価格が著しく低下しました。そこに買いに入ったのが清末の大蔵書家たちであって、この頃には本草書や江戸考証学の精髄の様な貴重書が大量に中国へ流出しています。(ピークはおおよそ1880年から1884年頃?)
 逆に、義和団事件から清末民初の混乱に至る時期には、中国で著名な蔵書楼が次々に崩壊し大量の漢籍が流出することになりました。そしてそこに買いに入ったのは、やはり日本の財閥や日本の書肆でした。(ピークはおおよそ1908年から1911年頃?)
 英米間がワンサイドゲームなのに対して、日中間はシーソーゲームです。しかし、起こった事態の性質は基本的に同じです。英米両国は英語という言語を共有していたため、英文学がアメリカ人にとっても重要な収集対象となっていたように、日本の旧世代の教養層も漢文を理解し公式の文書なども漢文で書いていたので、日中の教養層は漢籍文化を共有し互いに双方の書を求める状況にありました。(このあたりの経緯は面白いので以前 こちら で詳しく書いてます)

 中国が混乱していた時期、最も多く漢籍を買った日本人は、やはり岩崎弥之助という財閥の当主でしたが、その一方で、田中慶太郎という著名な古書籍商が北京に駐在し大量に本を買い付けて日本へ送っており、その顧客だった内藤湖南や富岡鉄斎の様な学者や芸術家は、現在国宝に指定されているような稀覯書を含む蔵書を構築しています。
 こうした事情はアメリカにおいても同じです。
 英国の貴族たちの蔵書が崩壊したこの期間は、アメリカの蔵書家たちからも従来「黄金時代」と呼ばれており、富豪ほどの財力を持たない教養人も、当時は貴重なものを盛んに買って、重要なコレクションを作り上げています。振り返ってみると、この頃がアメリカの個人蔵書の盛期だったらしく、ミリオネヤでなくとも非常に優れた蒐集が数多くあります。
 では、20世紀前半のアメリカから大富豪当主以外に、重要な存在をこれからみてゆきましょう。

 

 

 

 

☆☆ 
 ハリー・エルキンス・ワイドナー Harry Elkins Widener 1885-1912
 ワイドナー家は一代で富を築いたピーター以来一族にコレクターが多く、うち書物を集めたのは次男ジョセフ(Joseph Early Widener 1871–1943)と長男の息子ハリーの2人。このハリー・ワイドナーは27年の短い生涯に並外れたコレクションを形成して、英文学の選び抜かれた3300冊をハーバード大学に遺贈した。タイタニック号の難破で死亡しなければ20世紀のアメリカを代表する蔵書家になってたと推測する人は多い。
 主に19世紀の古典を対象にし、とりわけディケンズとRスティーブンソンでは、署名入りの初版から原稿その他諸資料まで含んだ充実が指摘される。他にクルックシャンクのカリカチュアの蒐集もあった。ASWローゼンバッハの重要な顧客の一人。

 


 フレデリック・R・ホールジー Frederic R Halsey 1847-1918
 英米文学の初版本を集めた この蔵書2万冊もハンチントンに売却された

 


 ビーヴリー・チュー Bevery Chew 1850-1924
 NYグロリエクラブ第三代会長。 アメリカ文学で優れたコレクションを作ったがこれを売却。次には英文学関係で蒐集を始めた。また優れたコレクションを作り上げてこれをハンチントンライブラリーに売る。この後さらに銀などの金属を装丁に使用した美麗な豪華本の蒐集をはじめ、これは最後にグロリエクラブに寄贈した。所有することではなく集めることが生きがいの様なコレクターだった。

 


 フレデリック・ウィリアム・レーマン Frederick William Lehmann 1853–1931
 著名な弁護士でアメリカ弁護士会長や司法長官を務めた。ディケンズ、ロバート・バーンズなどの希少な初版、著名作家の原稿、ビアズリー、クルクシャンク、トマス・ローランドソンのビジュアル作品を収集した。晩年稀覯書のコレクションを競売にかけた。

 

◆◆
 ジョン・グリスウォルド・ホワイト John Griswold White 1845–1928
 クリーブランドの弁護士。幼少時はラテン語やギリシア語を話すような家庭環境で育ち、チェスの愛好家でもあった。
 蔵書はかなり大きく、死後残された数は60000冊に及び、1969年の展示から垣間見える内容は、中世写本、16世紀の騎士道ロマンス、占星術と魔術に関する文書、ことわざやフォークロア、初期の辞書と文法、個人的な日記など多彩である。
 これらはクリーブランド図書館へ寄贈されたが、概ね民俗学、東洋学、チェス関連の三つに大別されるようで、同図書館もそのように分類した。
 民俗学コレクションは47040冊でアメリカ最大の一つ。チェスコレクションも世界最大級と言われる(チェス史家HJRマレー)。東洋学コレクションはアジア、中近東、アフリカ、オーストラリア、オセアニアと範囲が広く西洋の影響を受ける前の伝統文化に重点が置かれている。

 

 

 

 


 サムエル・W・ペニパッカー Samuel W Pennypacker 1843-1916
 フィラデルフィアの政治家・法曹。同地のロースクール学長やペンシルヴェニア州知事を歴任している。
 ペンシルヴェニアに関する歴史著作があり、コレクションも主にペン家、ペンシルヴァニア、ベンジャミンフランクリンに関する文献を対象に収集した。

 


 ウィルバーフォース・エームズ Wilberforce Eames 1855–1937
 アメリカを代表する書誌学者。司書でもあり、レノックス図書館の館長も務めた。
 蔵書2万冊はニューヨーク公共図書館に寄贈されたが、アメリカインディアンに関する文献1500冊はとくに重要である。

 


 ウィリアム・L・クレメンツ William Lawrence Clements 1861–1934
 エンジニア、実業家。アメリカーナのコレクターで主に独立以前の歴史に関する文献に重点を置いた。
 クレメンツの収集は時期的に、英国貴族の高名な私設図書館が崩壊し、アメリカでも多くの蔵書が売りに出されたコレクターにとっての黄金時代にあたり、彼も多くの個人コレクションを入手している。
 コレクションにはコロンブスの手紙やスペインへの報告、ジェファーソンのメモなどオリジナル文書が含まれ、総数では2万冊を超える稀覯本、2000冊の初期の新聞、および数百の地図という威容である

 


 ヘンリー・ラウプ・ワーグナー Henry Raup Wagner 1862–1957
 歴史家。生涯にわたって数万冊の本と原稿を蒐集している。
 グッゲンハイムの勤務で世界各地へ赴任し、当地で興味のあるテーマを見つけて数千冊を集め、すぐにそれを売るという繰り返しであった。収集対象は冶金学から始まり、ロンドン滞在時には経済学で6000冊のコレクションを作った。メキシコでもその歴史書を集め、チリではラテンアメリカ関係で7000冊を集めている。これらはエール大学やハンチントン図書館に売った。開拓史とメキシコに関する170もの著作を出しているが邦訳はない。

 


 フレデリック・スキフ Frederick Woodward Skiff 1867–1947
 作家。アメリカーナのコレクター。文学と歴史に重点を置いた。死後の競売で蔵書は散逸したが、エステル・ドヒニーなど著名なアメリカーナのコレクターにもスキフ所有の本を持っていた人はいる。

 

 

 

 


 デゥレンヌ家 De Renne Family
 デゥレンヌ家の蒐集は三代に渡り、ジョージア州及び旧南部連邦に関する文献ではアメリカを代表する存在である。
 初代ジョージ・ウイムバーリー・ジョーンズ・デゥレンヌ(George Wymberley Jones DeRenne 1827-1880)は著述家であり、
 1844年から1861年までにジョージア州に関する1300冊以上の取集があったが、多くが南北戦争中に破壊または略奪された。戦後再び蔵書を構築し始める。
 二代目ウイムバーリー・ジョーンズ・デゥレンヌ(Wymberley Jones DeRenne 1853-1916)がコレクターとして同家で最も大きな存在でありコレクションを拡張した。
 (CATALOG OF THE WIMBERLY JONES DE RENNE GEORGIA LIBRARY AT WORMSLOE)

 

 

 

 


 ジョージ・プリムストン George A Plimpton 1855-1936
 アメリカの出版業者。主に教科書や学術書の収集で知られる。
 コロンビア大学バトラー図書館に寄贈された中世からルネサンスにかけての317点の写本は同図書館をその分野で国内最重要の存在にした。彼のコレクションは紀元前1800年頃のバビロニア数学の粘土板までに及んでいる。
 他にも1482年のユークリッド幾何学の最初印刷本、トレヴィーゾ算術書など貴重なものが多い

 


 ジョン・H・ウレム John H.Wren 1870-1906
 英文学が中心であるが、それ以外に古今東西に渡って貴重なものを蒐集した。テキサス大学のランサムセンターにある彼のコレクションはさながら人類文明の展示会の体を成す。
 何千冊もの初期印刷本や写本から成るが、対象とされた時代は長大で博物館クラスの稀覯書に溢れる。写本では古代のパピルスやペルシャの法典、10世紀のコーラン断片から、ダンテ「神曲」の写本に至り、印本ではグーテンベルク聖書の完全なもの、コペルニクスの初版、シェイクスピアーのクォートやフォリオ、ボローニャのラヌッツィ家所有の写本、アルドゥス版などを保有する。他に英国カトリック教徒の著書や写本の豊富なコレクションなども評価が高い。

 

 

 

 

☆☆
 エドワード・ニュートン Alfred Edward Newton 1864-1940
 アメリカの作家、出版者。20世紀前半のアメリカを代表するコレクターの一人。
 アメリカの場合、専門に特化した分野はともかく英米文学の稀覯書を集めるようなコレクターは理性的な社会的成功者が多いが、E・ニュートンは生涯のエネルギーの九割を収集に注いだと自ら語るように非常に熱心な蒐集家であり、書痴に数えられるような逸話が多い。( 一旦売ってまた一から集め始めたり、本目当てで蔵書家の娘と結婚したり)
 亡くなった時点でおおよそ1万余冊を所蔵。内容的には英文学の初版本が中心で、特にウィリアム・ブレイクとサミュエル・ジョンソンに強かったといわれる。
 25000部以上を売り上げた彼の著書 Collection of Book Collecting(1918)によってこの当時は広く知られていた人物である。

 


 ヘンリー W.ベルグ Henry W.Berg 1858–1938
 アルバート.A.ベルグ Albert A.Berg 1872–1950
 英米文学の大きな収集。但し現在ニューヨーク公共図書館にあるベルグコレクションは三つの個人蔵書が合わさったもので、資産家だったベルグ兄弟が著名な二つのコレクション(WHハウとオーエンD.ヤング)を買収し、自らのものを加えて1940年同図書館に寄付している。
 ベルグ兄弟はハンガリー移民出身の医学者。兄は感染症、弟は腹部手術が専門。彼らのもともとのコレクションはディケンズとサッカレーに強みがあった。コレクションには約3500点の稀覯本があり大半が印刷本とパンフレットで100人以上の作家を網羅している。最も重点が置かれたのはディケンズだった。
 WTHハウ(1874–1939)はアメリカンブックカンパニー(シンシナティ)の社長。約16000冊の本と原稿のコレクション。特徴はそれが印刷物と同じくらい原稿が豊富な点。
 オーエンD.ヤング(1874–1962)はゼネラルエレクトリックの会長でRCAの創業者、大統領顧問にも任命された。約15000冊の本と原稿のコレクションは基本的にはWスコット、コールリッジ、R・キャロル、マーク・トウェインなどの英文学だが、妻の好みが反映されたためフランスやイタリア文学、インキュナブラなども含んでいた。他にコンラッドを始めとするモダニストの原稿群。
 これら三つの蔵書が合わさったベルグコレクションはニューヨーク公共図書館に寄贈された後、印刷本は35000冊に拡大している。(現在ではファーストフォリオも四つ所蔵)。バージニアウルフとWHオーデンでは世界最大の所蔵資料を持つ。

 

◆◆
 アブラハム・ローゼンバッハ Abraham Simon Wolf Rosenbach 1876-1952
 20世紀アメリカを代表する古書籍商。名前から明らかな様にユダヤ系である。庄司浅水や脇村義太郎は反町茂雄のことを「日本のローゼンバッハ」と表現していたが要はアメリカにおいてそのような位置づけの存在だった。この人は著述も多い。
 顧客としてはハンティントンとフォルジャーの二人が双璧かもしれないが、J.P.モルガンとその二世も重要な華客だったし、他にもハリー・エルキンズ・ワイドナー、レッシング・ローゼンヴァルトなど、項目を設けた著名な蔵書家がひしめく。
 ただ、ここで触れるのはコレクターとしてのローゼンバッハである。彼が引退した後、店と在庫商品はJ・フレミングへ譲渡されて、今度はそのフレミングがHPクラウスなどと並んでアメリカを代表する古書籍商としてこの世界に君臨していくので、なにもローゼンバッハの膨大な在庫商品がそのままコレクションとなったわけではない。
 しかし最も貴重なものを手に入れる事のできたこの人物が、自らのためにどのようなものをとっておいたのかは興味深い。しかも億万長者を相手に商売をしてきた彼自身も億万長者である。(その意味で反町茂雄の個人的蒐集にも興味を憑かれるところでここは後で別にページを設けます)
 ローゼンバッハにはそのコレクションを納めた図書館が存在する。Rosenbach Museum & Library
 この図書館のコレクションはアメリカ史と英米文学の分野に分かれ、まずアメリカ史では大航海時代から独立期を経て西部開拓期、南北戦争に至るまで、文書・手紙など貴重なオリジナル資料に溢れている。
 英米文学の分野ではチョーサーのカンタベリー物語の原稿から始まって、近代の重要な諸作家の原稿を数多く所蔵する。とりわけ重要なものは、ジョイスが買い戻そうとして失敗し激怒したという伝説の残る「ユリシーズ」の原稿である。
 ローゼンバッハには決定版とされる有名な伝記がある(エドウィン・ウォルフ二世 ローゼンバッハ評伝)

 

 

 

 


 ブルックス・リービット L. Brooks Leavitt 1878–1941
 ウォール街の投資銀行家。希少本や原稿のコレクターでシェイクスピアのファーストフォリオやロレンスの「息子と恋人たち」のオリジナル原稿を所有していた。
 元々は芸術のパトロンで多くの俳優やアーティストと交際があった。中東の絨毯のコレクターでもあった。本の収集を始めたのは恐慌後である。

 


 ハリー・ヘルツバーグ Harry Hertzberg 1883–1940
 弁護士 テキサス州上院議員。収集範囲は広く芸術、宗教、伝記、歴史、衣装、文学についての約15000冊を集めた。しかもその内多くが稀覯本である。
 古いものではキリスト教やイスラム教の写本が凡そ100。グーテンベルク聖書の端切れ。中世の聖書豆本(約1250年)。新しいものでは ホイットマンやミルンの重要な版。ディケンズのリトルドリットの掲載雑誌。F.メンデルスゾーン、ヘンリー・クレイ、ゾラなどのサイン入り手紙。
 また彼はサーカスファンであり、米国で最も古いサーカスコレクションをサンアントニオ公共図書館に寄付している。(現在ウィッテ美術館蔵)

 


 ジョン・ボイド・サッチャー John Boyd Thacher II 1882–1957
 アルバニー市長。コレクションは、インキュナブラ、写本、自筆原稿、フランス革命関連、コロンブスなどの初期アメリカーナと様々な領域に渡る。 
 初期印刷本では500を超えるインキュナブラを保有。アメリカーナの蒐集ではクリストファー・コロンブスに焦点を当てた。
 とりわけ自筆原稿の部門は名高い。独立宣言にサインした人たちの完全なコレクションを持っていたし、フランス革命関連の自筆サインでもダントン、ラヴォワジエ、マラット、ロベスピエールなどを収集。さらにヨーロッパの王室のものは14世紀にさかのぼるという。
 これらのコレクションのほとんどは議会図書館に行った。 

 


 ルイス・M・ラビノウィッツ LOUIS MAYER RABINOWITZ 1887–1957
 ラビノヴィッツは実業家、慈善家、コレクター。リトアニアで生まれのユダヤ人で米国へ移住し、単純労働の傍らクーパーユニオン図書館の本を読んで英語を学び、やがてコルセット製造会社を興して富を築いた。
 ヘブライ語の稀覯本と写本などを集めたラビノヴィッツコレクションは名高い。彼は他に4つのファーストフォリオも所有していたという。印本、写本、絵画などのコレクションの多くは没後ニューヨーク公共図書館、議会図書館、ユダヤ神学校、イェール大学などへ行った

 

◆ 
 デコーシー・ファレス DeCoursey Fales 1888-1966
 弁護士。英米系の小説や原稿など5万点を集めた。これら膨大な蔵書はニューヨーク大学、ニューヨーク公共図書館、モルガン図書館などに寄付されている。

 

 

 

 ここから下は、個別の分野においてとくに重要な蒐集を行った人たちを並べました。文学もあれば世界の地域文化に特化したものもあり、魔術、タバコ、自然科学と種々様々です。個別の作家に集中したコレクターもいます。これこそがアメリカにおける個人蔵書の神髄なのかもしれません。
 ひとつ興味深いのは、学者で大きな収集を作った蔵書家には、その方面では草分け的存在であったり、新しい学問分野を作り出した人が目立つ点です。ラテンアメリカ史のCヘリングや比較神経学のヘリックなど、これは理系文系に関係ありません。性科学のキンゼーもそうです。

 

 

 

☆ ウォルター・クラーク Walter E Clark
 ハーバード大学教授 サンスクリット文献およびヴェーダ文献1500冊

 

◇ ソロモン・シェクター Solomon Schechter 1847-1915
 アメリカのラビでエジプトのシナゴーグを発掘し、その30万点の古文書をコレクション

 

◇ ハリー・フーディーニ Harry Houdini 1874-1926
 フーディーニは二十世紀の前半では名の知れた奇術師で、とりわけその脱出芸は一世を風靡した。
 5000冊に及ぶ世界最大の魔術書のコレクションを作っている。彼の専門だった奇術をはじめ、魔術、悪魔学、超常現象など。
 生前の彼はインチキ心霊師のトリックを暴いていた。1927年遺贈により、議会図書館はそのコレクションのうち3,988巻を受け取った。このコレクションはとくに19世紀以降の比較的新しい文献に強いが、中には1489年までさかのぼる資料もあったという。

 

☆ ジョージ・アレンツ二世
 たばこ文献。 アレンツ二世はアメリカたばこ会社の相続者の一人で、1943年に収集していた たばこ関係の文献をニューヨーク公共図書館へ寄付している。
 寄付の条件は たばこに関する本のコレクションをこれからも拡張し続けるというもの。その世界では名高いアレンツタバココレクションである。わが国でもたばこ総合研究センターが目録「Tobacco:a catalogue of the books,manuscripts and engravings acquired since 1942」の邦訳(「アレンツ文庫世界たばこ文献総覧」)を出していた。
 アレンツには分冊本コレクションもありこれも同図書館に納められている。

 

☆ ジェームス・ギボンズ・ハネッカー James Gibbons Huneker 1857-1921
 声楽及び器楽に関するハネッカーコレクションは今はニューヨーク公共図書館にある。800冊の本にパンフレット、スクラップブックなど。
 ハネッカーはニューヨークの美術、文学、音楽、演劇評論家。

 

 

◆ メルバート・ケアリー Melbert Brinckerhoff Cary Jr. 1892–1941
 印刷に関する文献2300冊を集めた。自身もプライベートプレスを設立した印刷業者である。これはロチェスター大学に寄付された。他にトランプのコレクターでもあり、こちらはイエール大学に。

 

 

☆ ウィリアム・ゲイナー William J.Gaynor 1849-1913
 政治学分野でのゲイナー記念文庫は、重要な政治文書を多く所蔵する。ゲイナーは20世紀初頭の特異なニューヨークの政治家でありNY最高裁の判事や市長を務めた。ニューヨーク公共図書館にある。

 

☆ アルバート・ベルナール・ファウスト Albert Bernhardt Faust 1870–1951
 ドイツ系アメリカ人や米独関係の蒐集。彼自身ドイツ系アメリカ人で、コーネル大学教授としてそれらの研究の道に就いた。その指導の下にコーネル大のドイツ部は米国におけるドイツ系アメリカ人研究の中心地になった。蔵書は同大学に寄付されている

 

 

 

 美食文献あるいは料理書の収集はアメリカでは以下の二人が草分けです。共に貴重な古書を多く含み、議会図書館に寄付され、そこではコレクションはキュレーターによってベアリングされました。

 

◇ エリザベス・ペンネル Elizabeth Robins Pennell 1855-1936
 アメリカのフードライターのはしりの一人。料理人としてのプロフェッショナルな訓練を受けた人ではなく、芸術評論家から流れてきた人である。料理本コレクターとして当時を代表する存在だった。料理書は貴重な古書を含み1000冊以上を所有。彼女自らその目録も作り、これらは後に議会図書館の貴重書コレクションに入った。

 

◇ キャサリン・ビッティング Katherine Golden Bitting 1869-1937
 農務省に勤務した農学者(化学者)。料理に関する古今の美食文献を収集した。写本時代の15世紀から20世紀までの4346巻の美食文学のコレクションは現在米国議会図書館の貴重書コレクション部門にある。

 

 

 

 以下は地域文化に特化した著名な蒐集です。

 

☆ フランソワ・ブーヴィエ M.Francois Bouvier
 フランス文化全般に関する蒐集。6700冊の本と3000冊のパンフレットなどから成り、内容は、王室の生活から政治、社会、文学、芸術、建築に至り、殊に宮殿や装飾品、近世の紋章などに強い。現在はミシガン州立大学の図書館にある。ご本人は農学者らしい。

 

☆ チャールズ・W・ワソン Charles W.Wason 1854-1918
 中国や東南アジアの文献を集めたワッソン文庫は現在コーネル大学図書館にある。
 ワッソンはエンジニアで実業家、そして東洋学者・書誌学者という多彩な顔を持つ。中国に関心を持ち文献を集め始めたが、途中で健康問題のため友人の出版業者アーサー・H・クラークが収集を代行した。彼は中国語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語などの言語の文献を含む9,000巻まで拡大した。コーネル大学にコレクション拡張費用五万ドルと共に寄付した。

 

☆ チャールズ・エームス Charles Lesley Ames 1884-1969
 南アジアの諸国家(インド、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、パキスタン、アフガニスタン)に関する膨大な収集。16世紀までさかのぼる希少な書籍、定期刊行物、パンフレット、原稿群など。大半が英語文献だが、文学作品ではベンガル語、ヒンドゥー語、サンスクリット語のものも豊富。
 エームズは富裕な実業家で、その文庫はミネソタ大学が入手した。以後も増え続ける同地域の文献を収集して拡大している。

 

☆ クラレンス・ヘリング Charence R Haring 1885-1960
 ラテンアメリカ史、同地域の経済に関する蒐集で、現在はフックスカレッジにある。へリングはアメリカにおけるラテンアメリカ史の草分けでハーバード大学教授。30年に渡る在籍中に、ハンケやウィテカーなどの後継者を育成し斯学の興隆に大きな役割を果たした。

 

☆ ヴィルヒャルマー・ステファンソン Vilhjalmur Stefansson 1879-1962
 南極圏と北極圏に関する資料・文献群であるステファンソン文庫は、探検家の個人コレクションとして創設された。ご本人が北極探検家なのでそちらに関する部分の方がコレクションとして隙がないと言われてる。
 収集は専門的文書から、一般的な刊行物まで幅広く、遠征記録や日記、伝記、参考文献、逐次参考文献などに至る。写真類も豊富。現在はダートマスカレッジにある。 

 

 

 

 以下は自然科学関係の大きな収集。

 

☆ チェスター・H・ソーダーソン Chester Hjortur Thordarson 1867–1945
 自然科学書のコレクション。ソーダーソンは同名の電気製造会社を設立したエンジニア、実業家。
 ウィスコンシン大学に遺贈された蔵書の内容は1945年には100万ドル(現在の1420万ドルに相当)と推定され、以後大学図書館のレアブック部門の核となった。内容は、物理、化学、錬金術、動物学、植物学など、科学をテーマにした古いレアなもの、或いは基本的な文献に富む。とりわけ博物学での図鑑は貴重である。

 

☆ チャールズ・ジャドソン・ヘリック Charles Judson Herrick 1868-1960
 神経科学に関する大きな収集。ヘリックは十歳年長のその兄と共に比較神経学、心理生物学の草分けにあたり、シカゴ大学で長く教授を務めた。彼の残した書物や文書はカンサス大学へ寄贈された。

 

 

◆ アルフレッド・キンゼー Alfred Charles Kinsey 1894–1956
  Kinsey Institute for Sex Research
 性に関する文献の収集。出版物のみではなく写真、アート、フィルムなどから成る総合的な資料群である。これらは彼の勤務先のインディアナ大学が購入したが、キンゼーは売却価格を1ドルにしたので事実上の寄贈だろう。
 このキンゼーは、あのキンゼーレポートの作成者である。元来昆虫学者であった彼が生物学的アプローチで行ったこの報告は、アメリカの性に対する価値観を一変させたと歴史的に評価されている。社会学者からの批判や、リサーチ対象がランダムに選択されていなかったという統計上の難点もあったものの、それまで性に関して宗教的に厳格だったこの大国が一転して現代のポルノ先進国への道を歩むきっかけになったことは間違いない。またバイセクシャルの問題にしても、自身バイセクシャルであったこの人物の作成したレポートの方向性が今現在の世論に反映されている。

 

 ラヴォアジエ関連
◇ ニコライ・H・ノイエス夫妻 Mr.and Mrs. Nicholas H.Noyes
◇ スペンサー・T・オリン夫妻 Mr.and Mrs. Spencer T.Olin
 コーネル大学がこの二組の夫婦から1962年に購入したラヴォワジエコレクションはこの近代化学の父に関するフランス国外では最大のコレクション。
 2000冊近くの書籍に膨大な原稿と図面資料で構成され、科学史とフランス史の双方で重要な示唆に富む。とりわけその実験ノートは貴重であろう。コレクションには科学アカデミー関連文献や、ベルトレ、ラグランジュ、モンジュなど当時の他の大科学者との書簡もあり、ラヴォワジエの個人蔵書600巻も含む。

 

 

 

 以下はアメリカにおける書籍蒐集のメインストリームに割合に近いタイプです。

 

☆ ジョージ・ハーバート・パーマー George Herbert Palmer 1842–1933
 英語詩のコレクション。パーマーはハーバード大学教授で作家。ホメロスを翻訳するなどギリシア古典学の素養もあったが講座は自然宗教学である。英語詩に関しても著書があり、コレクションはウェズリーカレッジに

 

☆ エドワード・アレキサンダー・パーソンズ Edward Alexander Parsons 1878-1962
 英文学及び図書史関係の蒐集。パーソンズはニューオーリンズの弁護士で書誌学者として同地の公共図書館に勤務した経験を持つ。60年の間に形成した個人コレクションはビブリオテカパルソニアーナとして知られた。在野の史家として著述も多い。収集はテキサス大学図書館にある。

 

 

☆ W・T・ホーウ W T Howe
 手沢本と自署のある献呈本

 

 

☆ ロバート・ガレット Robert Garett
 ヨーロッパと東洋双方の手彩色写本

 

 

☆ アレン・R・ベンハム Allen R. Benham 1879-1961
 アレン・ベンハムはワシントン大学の英文学の教授。かれが入手した中世ルネサンス文献は2万5千冊に及ぶ。同大学に寄贈された。

 

☆ ルネ・B・ラング Renée B.Lang
 19世紀から20世紀に至るフランス及びドイツ文学のコレクション。内容は直筆サイン入りの手紙、原稿、出版物、書籍(多くのレアブック)及び「ベルエポック」のポスターなど。現在はウィスコンシン大学に

 

 

◆ ハーマン・チャールズ・ケーニッヒ Herman Charles Koenig 1893–1959
 ニューヨーク市の電気試験所に勤務。幻想文学の蒐集家である。また初版本コレクターでもあった。
 幻想文学のファンジンを主宰し、それは1938年から1946年まで20号を数える。ラグクラフトの友人でありその作品を出版して普及に努めた。他にホジソンも彼が世に出している。

 

 

☆ グレンヴィル・ケーン Grenvill Kane
 初期アメリカーナの精選文庫

 

☆ ハーシェル・V・ジョンズ
 初期アメリカーナの稀覯書など。1938年に売却されたが、コロンブスやヴェスブッチの航海記、1849年のカリフォルニア金鉱主の日記にいたるまでアメリカ史上の稀覯本を多く所有していた

 

 

 

 最後は、個別の作家に特化したコレクターです。

 

☆ ジュニアス・S・モルガン二世 Junius Spencer Morgan II 1867–1932
 ヴェルギリウスに関する名高い収集である。彼はモルガン一族の一員で、金融家で大コレクターのジョン・ピアポント・モルガンの甥にあたる。このJPモルガンの壮大な収集に対しても、幾度も助言を行った。
 すでに学生の時分にヴェルギリウスの初期の版の収集を開始しており、図書館への寄贈も早く1896年の時点で5万ドル相当の自らのコレクションをプリンストン大学図書館へ移している。それ以後も、1932年に亡くなるまで毎年そこへ新しい本を追加していたという。最後の寄贈は「1511年にライプツィヒのヴォルフガング・ストッケル印刷したもの」。
 晩年のジュニアスが語ったように、西欧におけるヴェルギリウスのエディションの数は膨大で異版は数えきれない。なのでちょっとしたコレクターでも他の人が持っていないような版を所有していることが多いそうである。
 コレクションはその後も拡大し続けており、現在700を超えるタイトル(約900巻)があり写本も13を数える(所蔵する全346版のうち34版がインキュナブラである)。言語も英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、オランダ語、ドイツ語、ポーランド語、ポルトガル語、チェコ語、ギリシャ語、ロマンシュ語、ハンガリー語などに及ぶ。
 また、ヴェルギリウス自体が印刷以前からメジャーだったので、このコレクションは近代以降の印刷や製本、イラストなどの変遷を総攬する縮図の様なものになっている点でも注目に値する。

 

◇ シンシア・モーガン・セントジョン Mrs. Cynthia Morgan St.John of Ithaca 1852-
 ワーズワースでは最大の個人コレクター。アメリカ人だが少女時代からワーズワースの詩に魅入られ、四十年に渡って収集を続けた。
 蔵書には、すべての詩の通常の版とアメリカ版が揃い、直筆の手紙、版画、肖像画、スケッチなど詩人に関連する遺物も含まれる。夫人の蒐集はコールリッジにも及び、書籍や原稿はス千冊のボリュームである。
 1925年にコーネル大学に買収されてその後さらに規模を拡張された。現在、同図書館のワーズワースコレクションはイギリスのダブコテージに次ぐ世界第二位の規模である。

 

☆ ウィリアム・M・エルキンス William McIntire Elkins 1882-1947
 若き頃ローゼンバッハの顧客となり、英文学をひと通り集めた後、オリヴァー・ゴールドスミスに集中し、この作家の代表的コレクターとなった。

 

☆ エリス・エームズ・バラード Eliis Ames Ballard 1861-1938
 ラードヤード・キップリングのコレクター。フィラデルフィアの弁護士でエドワード・ニュートンとも交遊があった。
1935年にも目録を出版しているが、没後の1942年のオークションカタログには400タイトルあり、初版本や原稿をキップリングの全生涯に渡って広く収集している。この競売ではモルガンが多く購入した

 

◇ バーナード・F.バーガンダー Bernard F. Burgunder
 バーガンダーコレクションは、バーナード・ショーの原稿と本のコレクションとしては世界で最大のもの一つ。約3000冊の本と数千の原稿と手紙などから成る。
 コレクションはショーという人物のあらゆる側面をカバーし、殊に劇場関係ではリハーサルノート、プロンプトブック、演劇の原稿、制作写真、ブロードサイド、ポスター、プログラムなどを網羅して周到を極める。、
 コレクションは1956年にコーネル大学へ寄贈されているが1986年に死去するまで彼はそこに追加し続けた。

 

 

 

◆ バートン・カリー Barton Wood Currie 1877–1962
 ジョセフ・コンラッドの収集家。カリーは著名なジャーナリストで20世紀初頭にニューヨークイブニングワールド、ニューヨークイブニングサンなどに多く執筆した。、
 1927年に大美術コレクターのジョン・クイン所有のパウンドの原稿をローゼンバッハを介して手に入れている。これらは死後にオークションにかけられた。他にシェリダンの「悪口学校」の原稿も所有していたがこちらはロバート・H・テイラーの元へ行ったらしい。

 

 

 

☆ ジーン・ハーショルト Jean Hersholt 1886–1956
 映画俳優。オスカーにジーン・ハーショルト人類愛賞という名誉部門があるが、これは人格者といわれた彼にちなんだものである(グリードのマーカス役などをみると到底そうは思えないが)
 ハーショルトはアンデルセンに関してはその著作の様々な版を収集した代表的なコレクターだった。エルマー・ジョンソンは「二流ともいえる作家のものを集めた最も立派な個人ライブラリーのひとつ」などと随分失礼なことを言っている。
 かのグレース・ケリーがアイルランド文学の蒐集をしていたのは自身がアイルランド系だったためである。それと同様にハーショルトもデンマーク系らしい。

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