蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[103] 現代日本の蔵書家たち1 一万クラスのひとたち

★漂流教室関谷「こんにちは。今日から、私たち二人が現代日本の蔵書家を紹介していきます。今日は所蔵数一万冊以上のクラスです。かの寿岳文章先生も『蔵書家というには相当持ってなければならない。それには1万冊が基準になる』とある座談会でおっしゃっていました」 
☆純クレ梅本 「ブログをご覧の皆様も、他にもこういう人がいてこれくらい本を持ってるんだけど、って情報がございましたら こちら へお知らせくださいね。すぐ管理人が追加しますから」


★関谷「で、一万越えの蔵書家なんだけど。誰がいる?」

☆梅本「まず作家の池波正太郎(Ikenami Shōtarō 1923–1990)。それと澁澤龍彦 (Shibusawa Tatsuhiko 1928-1987) 。イラストレーターの赤瀬川源平(Akasegawa Genpei 1937–2014)。それと芸能界を代表する読書家と言われた児玉清さん (Kodama Kiyoshi 1934–2011) 。この人たちの蔵書がだいたい1万冊ぐらいです」

★関谷「寿司屋に厳しい時代劇作家と、女装癖のある幻想文学作家がちょうど同じぐらい本持ってたというのが面白いね。赤瀬川の方はイラストレーターというより・・・作家とか漫画家といった方が」

☆梅本「マルチな才能です。『櫻画報』は名作ですね」

★関谷「児玉清だけど、芸能人ではもっと本持ってる人がいたような・・・・・」

☆梅本「森繁」

★関谷「ああ、森繁」

☆梅本「森繁久弥さんは三万冊越えてるのでもう少し後でやります。
    それより本を多く持っている皆さんが必ず悩まれるのが、どうやって収納しようかって事です。これから紹介する7人は皆一万クラスで比較的最近の人たちですが、アイデアは色々ですね。
    博報堂ケトル代表の嶋浩一郎(Shima Koichiro 1968-)さんは、玄関が三階までの吹き抜けで、その壁一面が本棚。書斎もリビングも壁は数メートルの高さまで作りつけ本棚になってます。家族には『床はいらないから壁をください』だって。
    古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山力也(Koyama Rikiya -)さんはその真逆です。本棚をほとんど置かずにひたすら床に積むだけ。四畳半の部屋に一万冊積んでるのですごい光景です。
    ライターの荻原魚雷(Ogiwara Gyorai 1969-)さんは自宅に6千冊。徒歩2分の近所に風呂なしアパート借りてそこに4千冊。月々三万五千円だそうです。今はそこからさらに2千冊積み増しだって。
    ライターの杉江松恋(Sugie Matsukoi 1968-)さんもすぐ使う可能性のある本だけ自宅兼仕事場に一万冊置いて、あとは倉庫に送っちゃうそうです。だから倉庫分を併せたらこの人はもっと上の所蔵数だと思います。
    早川書房編集部の小塚麻衣子(Kozuka Maiko -)さんは実家に出戻りです。書斎に文庫4000冊、隣の書庫に単行本3000冊、そのまた隣の衣裳部屋にマンガ3000冊、一階の台所には4000冊の入った段ボールが積まれてます。その他、自室にも本はあるって。ご両親はさぞお喜びのことでしょう。
    SFファンタジー評論家の中野善夫(Nakano Yoshio 1963-)さんは神経質で、本の日焼けを阻止するために遮光カーテンにしてるって。本棚のガラスにもUVカットフィルム貼ってます。
    もっと神経質なのは小野不由美(Ono Fuyumi 1960-)って作家で、全部の本が収まる本棚を作ろうとして一冊一冊の厚さを計測したって! 総延長43万8400ミリ。これは1万以上2万に届かないぐらいの量になるそうです」

 

★関谷「夫の綾辻行人もマニアックな感じの作家だからな。本が多いのは旦那の分も交じってるんじゃないの」
☆梅本「推理作家といえば、もう一人いました。霞龍一(Kasumi Ryuichi 1959-)さん。1万5千冊の所蔵でこれでも2、3千冊は処分したって」

★関谷「それより小塚さんは御家族も理解があってお父さんは娘の本を五十音順に整理したんだそうだ。このお宅の本棚はお爺さんの代に遡るらしい。
    本編で触れた名古屋の平井家とか山梨の渡辺家とかそういう何代も続く蔵書って、家の記憶というか、そこの家の人たちがどういう事を考えてきたのかとかが刻まれてる様でいいもんだね」
☆梅本「そういえば、伊藤潤二に『ご先祖様』という短編がありましたね」
★関谷「それを今ここでいう必要があるか?」

 


☆梅本「いいえ・・・ 
    では気を取り直して今度はちょっと昔の人で杉森久英(Sugimori Hisahide 1912-1997)。作家です。『天皇の料理番』書いた人。」

 

★関谷「編集部上がりで色んなジャンル手がけた作家を天皇の料理番の一言で済ますのも・・・」

☆梅本「一万冊も本持ってるんだから色んなジャンル書いてるのは当たり前です。ここは一ページで何十人も紹介するコーナーだからみんなこんな感じになります。ここから学者先生が続きますが、相当えらい先生でも説明は簡略にしてますよ。


    塚本勲(Tsukamoto Isao 1934-)っていう大阪外大の朝鮮語学者が1万439冊。朝鮮語文献がほとんどだそうです。全然私の知らない人です」

★関谷「これは文庫に寄付の口だな」

☆梅本「ええ。津田守(Tsuda Mamoru 1948-)っていう大阪外大のフィリピン専門家も1万3千冊をフィリピン大学に寄付です。フィリピン関係文献がほとんどだそうです。全然私の知らない人です。
    次のお二人はもうちょっと有名な先生になりますが、中国史の倉石武四郎さん(Kuraishi Takeshiro 1897-1975)も漢籍4300、現代中国語2300、和書3300、洋書600の合わせて1万500冊を文庫に寄付です。それとあの桑原武夫さん (Kuwabara Takeo 1904-1988)も1万400冊でこれは・・・」

★関谷「文庫としてどっかに寄付したけど、捨てられた」

☆梅本「そう。捨てられましたね。捨てたのは京都市」

★関谷「桑原さんも京都市をちょっと舐めてたろ。京大に寄付した1000冊の方が貴重書だったんじゃない?」

☆梅本「学者の蔵書って、歿後はどこも引き取りたがりませんね。貴重書ばかりじゃなくて、皆さん結構好奇心旺盛だから雑本の類が多いんですよ。」

★関谷「桑原武夫の様な有名人でこれだから、そこまで知られてない人はなおさらだな」

☆梅本「この一万クラスでは、木越治(Kigoshi Osamu 1948-2018)っていう上智の国文の先生が亡くなった後、弟子がツイッターで必死に蔵書の受け入れ先を探してました」

★関谷「その人にとっては思い入れのある本でも、テーマがバラバラな雑本の類は引き受けにくいんだろうね」

☆梅本「ええ、間宏(1929-2009)っていう労務管理専門の早稲田の先生が1万500冊を寄付してるんですが、労働関係の図書・文献のコレクションだけで、関係ない本はみんな省いてますよ。いまどき図書館に寄付する場合はみんなそうです」

 

★関谷「ところで倉石先生の方は日本語の本が全体の三分の一なのか。こういうのが学者の本棚なんだよね」

☆梅本「こういうのってその人の知的なバックボーンがわかっちゃいますよね。プロローグで紹介した漱石の場合、東北大に寄付された2850冊のうち、洋書が1650冊で和書漢籍が1200冊なんです。」

★関谷「あの人は江戸っ子だ漢詩マニアだ言っても、結局本職は英文学者なんだな」

☆梅本「中国文学の小川環樹先生 (Ogawa Tamaki 1910-1993)は1万1400冊を文庫に寄付されてるんですが、和書が1万1千と洋書が400冊で漢籍がないんです。ご専門だから無いって事はあり得ないので本来なら全部で3万ぐらいいくかもしれません」

★関谷「このひと湯川秀樹の弟さんだね。」

☆梅本「ええ もともと漢学者のお家で、他のご兄弟には中国史学の貝塚茂樹さんもいらっしゃいますね。
    で、この小川さんの師にあたるんですが、鈴木虎雄さん(Suzuki Torao 1888-1980)が1万4千冊。漢詩人としても名を成した中国文学者です。京都支那学派の重鎮で文化勲章も受賞されてます。もう一人漢学者を一人追加です。目加田誠さん(Mekata Makoto 1904-1994)。1万6千冊の蔵書でこの方も学士院会員でした」

★関谷「日本の近代政治史のドンだった岡義武教授 (Oka Yoshitake 1902-1990)が9007冊、と・・・ これ足りないんじゃないの?」

☆梅本「岡義武さんは明治関係の1700冊だけ別のとこへ寄付されてるんです。前回触れた吉野作造の明治文化研究の文庫と一緒にしておくためなんだって。この人吉野作造の弟子でその研究も引き継いでるんです」

★関谷「つまり合計して一万越えになるということか」

☆梅本「今日は紹介する人が多いのでどんどん進めちゃいます。 中国書誌学の神田喜一郎さん (Kanda Kiichiro 1897-1984)。京都国立博物館の館長をされていました。1万700冊の蒐集は、伝説的な蔵書家だった祖父神田香巌のものも引きついでいるそうです。評論家の林達夫(Hayashi Tatsuo 1896-1984)も1万ぐらいでこれは明大へ寄付。岩波書店の顧問格ですごい威張ってた人ですよね。宗教学者の堀一郎(Hori Ichiro 1910-1974)の1万1千と、民俗学者の平山敏治郎(Hirayama Toshijiro 1913-2007)の1万4千は成城大に寄付。キルケゴール研究で有名な桝田啓三郎(Masuda Keizaburo 1904-1990)は洋書約7300冊と和書4300冊で計1万1600。政治学者の宮田光雄(Miyata Mitsuo 1928-)は職場の東北大学に1万4637冊を。」

★関谷「インド学の泰斗だった辻直四郎先生 (Tuji Naoshiro 1899-1979)も東洋文庫へ寄付した分だけで1万2千か・・・ おなじ東洋学ではイスラム哲学の権威の井筒俊彦 (Izutsu Toshihiko 1914-1993)が1万3700冊だけど、井筒さんはイラン革命のときにあっちから貴重な文献を大量に持ち帰ってるんだよね。これも文庫として寄付だ」

☆梅本「そして、あの竹内理三さん (Takeuchi Rizo 1907-1997)が1万1500冊。戦後を代表する中世史家の一人です。」

★関谷「竹内さんの平安遺文とか鎌倉遺文のような史料集成の仕事は戦後の日本史学の金字塔ですからね。」

☆梅本「日本経済史の土屋喬雄(Tsuchiya Takao 1896-1988)先生は、明治維新以後の本とそれ以前の古文書を分けて別々に寄付してるんですが、本の方は 13408冊だって。東大経済学部に寄付された古文書類が4千点あるんだけど、文書類はカウントしません。それはそうとこの人、労農派だったんですね。ボケっとこの人の書いた概説書読んでたけど全然気づかなかったです。
    一方、英国経済史の小松芳喬先生 (Komatsu Yoshitaka 1906-2000)は約1万2千を寄付してます。これ全部洋書なので全体なら2万ぐらい行くかもしれませんね。
    あと、京大の末川博 (Suekawa Hiroshi 1892-1977)さんも1万2千を寄付です」

★関谷「これ民法の世界では東の我妻、西の末川と言われ並び称されてた人だよな。」

☆梅本「名著『言論出版の自由』で知られる伊藤正己先生 (Ito Masami 1919-2009)は2カ所への寄付分合わせて14510冊」

★関谷「東京大学法学部長で日本学士院の会員、最高裁判事もやった人だよな。
    でもなんか学者ばっかり続いて・・・それより作家でいないの? 遠藤周作 (Endo Shusaku 1923-1996)なんかこのクラスじゃなかった?」

☆梅本「ああ、ノーベル賞候補にもなった国際的なカトリック作家にもかかわらずミニUFOを捕まえたという中学生のほら話を真に受けた人ですね。確かに記念館に8千冊と町田市に2千冊ありますから遠藤さんも1万クラスです」

★関谷「あとプロレタリア文学の中野重治 (Nakano Shigeharu 1902-1979)とか・・・」

☆梅本「酒席で小林秀雄に泣かされた作家は大勢いるけど、この人もその一人ですよね。1万3千冊を文庫に寄付してます」

★関谷「檀一雄(Dan Kazuo 1912-1976)だけど、この人も・・・」

☆梅本「ええ、1万冊以上ありました。1976年に死んだ後も、いかず後家の檀ふみが地下室でずっと保管してたんだけど、こないだ家の立ち退きで、ついに母の着物と一緒に処分しました。徹子の部屋でそう言ってたらしいです」

 

★関谷「やっぱり人物の解説は俺がやるわ・・・」

☆梅本「戦後を代表する詩人の大岡信 (Ooka Makoto 1931-2017)が1万と数千冊・・・ これは2009年以来大岡信ことば記念館にあった分です。この時ご本人はまだ生きてたのでトータルではもっとあったと思います」

★関谷「生きてるうちに記念館作って、2017年に亡くなるとその年にもう記念館つぶしちゃった。なんなんだろうこれ」

 

☆梅本「次は政治家いきます。
    国会議事堂の地下には洋品店や理髪店などがあるんですが五車堂書房っていう本屋もあって、ここの店主はもう半世紀もいろんな政治家が本を買うのを見てきたそうです。それでこの人がこれまで特に本を多く買った政治家として、前尾繁三郎を筆頭に伊東正義、倉成正、大平正芳、細田吉蔵などの名前を挙げてました。」

★関谷「みんな昔の政治家ばかりだね」

☆梅本「店主が言うのには今の政治家はみんなスマホばかり見てて本読まないって。教養がないそうです。
    前尾さんはもう少し上のクラスで紹介する事として、この一万冊クラスでは大平正芳(Ōhira Masayoshi 1910-1980)さんと細田吉蔵(Hosoda Kichizo 1912-2007)さんのお二人を紹介しておきます。」

★関谷「戦後の首相で最も読書好きと言われたのがたしか大平さんだったな。」

☆梅本「子供の頃テレビでサミットの映像を観てあのルックスでジスカールデスタンやマルコーニの間に交じってアーウー言ってる姿に『これが日本人だと思われたら嫌だな』とか思ってましたが、玄人筋には評価が高い総理です。中曽根政権で行われた諸改革も大平政権時に立ち上げられた多くの研究会や調査会の答申が土台になってたって。以前はプロローグで九千冊を文庫に寄付したと紹介してたんですが、1万1千冊あるそうでここに置いておきました。」

★関谷「細田吉蔵の方は、今の細田博之さんのお父さんにあたるんだよね。」

☆梅本「ええ 息子さんが2015年に16416冊を太田中央図書館に寄付してます。が、その前にも松江図書館に1575冊を寄付してるので、ひょっとしたら2万超える人がもしれません。全貌がわかるまでこのページに置きます。ちなみに息子の博之さんも読書好きらしいですよ」

★関谷「官房長官と幹事長をやって、今も総理候補の一人だもんなあ」

 

☆梅本「次、在野の雑誌研究者の福島鋳郎(Fukushima Juro 1936-2006)さんがやっぱり雑誌一万数千冊持ってました」

★関谷「占領史の研究では知られた人だよね。病院の警備員しながら本出してたという。さぞかしカストリ雑誌なんかたくさん持ってたんだろうなあ」

☆梅本「ルポライターの保阪正康(Hosaka Masayasu 1939-)さんも蔵書1万冊だそうですよ。柳田さんや大下さんも冊数は判んないんだけどこの職業の人は多そうですね。」

★関谷「猪瀬直樹とか立花隆はもう少し上のクラスで名前が出てくるから」

 

☆梅本「あの白井鐵造 (Shirai Tetsuzou 1900-1983)も1万3000冊を寄付。」

★関谷「誰だそりゃ?」

☆梅本「宝塚の演出家です。私最近宝塚に凝ってるんですけどあのキラキラ舞台の基礎を作った人。レビューの王様と言われてました」

★関谷「そこまで知らないよ。ところで、同じ所有1万冊ってことで児玉清も辻直四郎もみんな一括りにしてるけど、翻訳ミステリのマニアとサンスクリット文献学の最高権威じゃ本棚の内容が全然違うよね。これはこのサイト全体に言えることだけど」

☆梅本「いいんじゃありません? もともとそういう企画なんだから。そもそもアマゾンアフィリを始めるにあたって、商品リンクしやすい形式のブログは何かってことで管理人はこのテーマにしたわけです。各人の本棚の内容だったらここを取っ掛かりに調べてくださいな。あくまでここはそういう初心者向けサイトですよ」

★関谷「しかし・・・」

☆梅本「どんどん進めていきます。今日は多いんです。朝日新聞で10年以上天声人語書いてた辰濃和男(Tatsuno Kazuo 1930-2017)が1万冊。それと、小野崎正明 (Onozaki Masaaki 1900-1976)さんが1万3600冊です」

★関谷「大道興業の副組長だな。ヤクザの親分でもそんな読書家がいるのか」

☆梅本「それは同姓同名の別人です。東北弁護士会の会長の方です。」

★関谷「そんな地方の名士を出してきて、俺が知ってるわけないじゃないか!」

☆梅本「根岸哲也 (Negishi Tetsuya)さんが聞くところによると1万5千あったそうです。」

★関谷「根岸哲也さん?」

☆梅本「一般の方ですよ。某大学の職員で西荻窪にあった古本カフェ「ハートランド」に棚を借りて古本を販売してたって話です。「一箱古本市」で『谷根千賞』を受賞してます」

★関谷「谷根千賞?」

 

☆梅本「え~と・・・古代史の門脇禎二(Kadowaki Teiji 1925-2007)さんですが、精華町へ寄付した門脇文庫が一万冊の規模ですね。
    それと国文学者の川口久雄さん (Kawaguchi Hisao 1910-1993)が1万7千です。内訳は和書漢籍が13000に学術誌4000」

★関谷「この人も知らない・・・また地方の名士か?」

☆梅本「自分の知らない人を全部地方名士にしないでくださいよ。川口さんは金沢大学の教授で・・・」

★関谷「やっぱり地方名士じゃないか?」

☆梅本「業績は全国的にも知られてますよ。wikiにも載ってます」

★関谷「最近は誰でもwikiに載ってるよ。」

☆梅本「松本唯一さん (Matsumoto Tadaichi 1892-1984)が史料14938ですが、絵葉書や写真を除くと1万3千ぐらいですね。」

★関谷「これも知らない・・・ 地方名士か」

☆梅本「地方の名士なんでしょうね。九州の大学教授で火山学者だそうです。このコーナーは有名無名にかかわらずその数持ってる人は全部載せていくので我慢してくださいな。ダメ押しにこのタイプの人をもう一人追加です。
    藤井豊(Fujii Yutaka 1924-2010)さん、小豆島の地域紙「小豆島新聞」の社長です。社長って言っても、取材、執筆、販売、発送、集金を1人でこなしてきて、86歳になって『もう限界だ』って廃刊にしたそうです。1万冊の蔵書『小豆島 藤井豊文庫』はなんと農業倉庫内に作ってます。でも雑本ばかりかと思いきや、この人には郷土史家としての顔もあって、隠れキリシタンについての貴重な資料を含んでるそうです。」

★関谷「こういう蔵書のテーマじゃないと、多分一生知ることがなかった人だ。でもエネルギッシュなお年寄りがいるもんだね」

☆梅本「次はカメラマンの矢野正善(Yano Masayoshi 1935-)さん。料理本に載せる料理写真が専門で、同時にカエデの大コレクターでもあるんで蔵書内容も料理本とカエデ関係が中心です。奈良カエデの郷ひららに玩槭文庫として寄付です」

★関谷「う~ん、いろんな人生があってとしか・・・」

 

☆梅本「次は久しぶりに誰でも知ってる人です。作家の山本有三 (Yamamoto Yuzo 1887-1974)ですから。1万5千冊。」

★関谷「山本有三はもっと昔の人だと思ってたけど、1974年に死んでるから一応このコーナーでいいのか。13000を東京都に寄付して1700を近代文学館に寄付して、残りは陽明文庫に寄付・・・ なんで陽明文庫に?」

☆梅本「晩年近衛文麿の伝記書くために近衛家の資料集めてたそうです。だから近衛家の陽明文庫にって。山本有三は近衛文麿の親友だったそうですよ。さあグズグズせず紹介を続けていきます。もうちょっとで終わりですから。医学史の宗田一(Souda Hajime 1921-1996)が13300冊寄付です。それと中国文学者の増田渉(Masuda Wataru 1903-1977)が1万5千を文庫に寄付。新日本汽船の会長だった松本一郎さん(Matsumoto Ichiro)が1万6千冊を寄付です。内容は主に港湾海運貿易関係のものらしいです。」

★関谷「これで最後か」

☆梅本「いいえ あとまだ5人です。まず哲学者の金森修 (Kanamori Osamu 1954-2017)さんが1万5千から2万ぐらいだといわれてます。でもこれは大学にあった分だけで自宅書斎は別なので本来なら2万越えてる人かもしれません。
    次に東京大学の末次三次先生 (Suetsugu Sanji)が方角関係の文献だけで、1万7千冊を文庫に寄付です」-

★関谷「方角関係?」

☆梅本「あ・・・ いえ、法学関係でした。私もちょっとフラフラして。
    続けます。70年代の流行作家だった梶山季之さん (Kajiyama sueyuki 1930-1975)がやっぱり1万7千冊。これはハワイ大学や広島大学などに散っています」

★関谷「そう言えば、今流行作家らしい流行作家っていないよな。梶山季之って、筒井康隆の『乱調文学辞典』によると1970年代前半の作家の中でも一月に書く枚数が一番多かったらしい」

☆梅本「あの頃の作家ってハードですからね。そのあとすぐ死んじゃうんですよねこの人。私ももう疲れて死にそうです。  
    仕事に戻ります。フランス文学の杉捷夫 (Sugi Toshio 1902-1990)が1万8千冊を寄付です。この先生の『テレーズデスケルー』は名訳でしたよね。」

★関谷「モーリアックだよね、俺はこれ遠藤周作訳で読んでたからよく分からん・・・」

☆梅本「フランス文学の翻訳と言えば、鈴木信太郎(Suzuki Shintaro 1895-1970)先生です。岩波文庫のフランス象徴詩はこの先生のが多かったですね。
    稀覯本蒐集家としても知られていましたが、冊数の点でも1万6千以上ありました。今は豊島区の記念館と獨協大学に分置されています」

★関谷「俺はマラルメもヴァレリーもこの人の訳で読んだから、正直自分がヴァレリーを読んだのか、鈴木信太郎さんの詩を読んだのか、今でもよく分からないんだよ・・・」

☆梅本「ご専門のフランス文学関係のものは主に獨協大学に置かれてるようです。洋書の貴重書を中心に5356冊、和書が1303冊。
    先生は専門以外にも古典や近現代の日本文学など広く蔵書があって、そちらの1万冊は鈴木信太郎記念館にあります。」

★関谷「ネットで見たけど、重厚な記念館だね」

☆梅本「ここは戦前に建てられた鉄筋コンクリートの美しい書斎を記念館にしたもので空襲にも耐えたそうです。これらの情報は鈴木信太郎記念館の方に教えていただきました。これをもってお礼に代えさせていただきます。


    終わりました。これでラストです」

★関谷「今日はいったい、何人紹介したんですか?」

★梅本「63人です。でも、みんな寄付ばかりですね。貴重なものも多いので遺族は売ればお金になるのに」

★関谷「コレクターは自分の作った宇宙を壊したくないんだろうね。」

☆梅本「でも桑原さんみたいに捨てられちゃうと・・・」

★関谷「そんな例は多いみたいだよ。高野山大学の教授だった藤森賢一 (Fujimori Kenich)って人も1万6千冊を市に寄付して、死後十年放置されてたって」

☆梅本「本なんて興味ない人にとっては迷惑以外の何物でもないですもんね」

 

 

 

 

総目次
 
まずお読みください

◇主題  反町茂雄によるテーマ
反町茂雄による主題1 反町茂雄による主題2 反町茂雄による主題3 反町茂雄による主題4

◇主題補正 鏡像フーガ
鏡像フーガ 蒐集のはじめ 大名たち 江戸の蔵書家 蔵書家たちが交流を始める 明治大正期の蔵書家 外人たち 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する 昭和期の蔵書家 公家の蔵書 すべては図書館の中へ 
§川瀬一馬による主題 §国宝古典籍所蔵者変遷リスト §百姓の蔵書
 

◇第一変奏 グロリエ,ド・トゥー,マザラン,コルベール
《欧州大陸の蔵書家たち》
近世欧州の蔵書史のためのトルソhya

◇第二変奏 三代ロクスバラ公、二代スペンサー伯,ヒーバー
《英国の蔵書家たち》

◇第三変奏 ブラウンシュヴァイク, ヴィッテルスバッハ
《ドイツ領邦諸侯の宮廷図書館》

フランス イギリス ドイツ  イタリア
16世紀 16世紀 16世紀 16世紀  16世紀概観
17世紀 17世紀 17世紀 17世紀  17世紀概観
18世紀 18世紀 18世紀 18世紀  18世紀概観
19世紀 19世紀 19世紀 19世紀  19世紀概観
20世紀 20世紀 20世紀 20世紀  20世紀概観
仏概史  英概史  独概史  伊概史

◇第四変奏 瞿紹基、楊以増、丁兄弟、陸心源
《清末の四大蔵書家》
夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢 三国・晋・五胡十六国・南北朝 隋・唐・五代十国 宋・金・元   中華・中共    

◇第五変奏 モルガン,ハンチントン,フォルジャー
《20世紀アメリカの蔵書家たち》
アメリカ蔵書史のためのトルソ
 
◇第六変奏
《古代の蔵書家たち》
オリエント ギリシア ヘレニズム ローマ

◇第七変奏
《中世の蔵書家たち》
中世初期 カロリングルネサンス 中世盛期 中世末期

◇第八変奏
《イスラムの蔵書家たち》
前史ペルシア バグダッド カイロ コルドバ 十字軍以降
 
◇第九変奏 《現代日本の蔵書家たち》
本棚はいくつありますか プロローグ 一万クラスのひとたち 二万クラスのひとたち 三万クラスのひとたち 四万クラスのひとたち 五万クラスのひとたち 六万クラスのひとたち 七万クラスのひとたち 八万クラスのひとたち 九万クラスのひとたち 十万越えのひとたち 十五万越えのひとたち 二十万越えのひとたち エピローグ TBC

◇第十変奏 《現代欧米の蔵書家たち》
プロローグ 一万クラス 二万クラス 三万・四万・五万クラス 七万クラス 十万・十五万クラス 三十万クラス エピローグ1 

◇第十一変奏
《ロシアの蔵書家たち》
16世紀 17世紀 18世紀①   19世紀① ② ③ 20世紀① ② ③

 

 

Δ幕間狂言 分野別 蔵書家
Δ幕間狂言 蔵書目録(製作中)
 
◇終曲   漫画の蔵書家たち 1 
◇主題回帰 反町茂雄によるテーマ
 

§ アンコール用ピースⅠ 美術コレクターたち [絵画篇 日本]
§ アンコール用ピースⅡ 美術コレクターたち [骨董篇 日本]

§ アンコール用ピースⅢ 美術コレクターたち [絵画篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅣ 美術コレクターたち [骨董篇 欧米]
 
§ アンコール用ピースⅤ レコードコレクターたち
§ アンコール用ピースⅥ フィルムコレクターたち
 
Θ カーテンコール 
閲覧者様のご要望を 企画① 企画② 企画③ 企画④


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  17. Grolier, De Thou, Mazarin, Colbert – 蔵書家たちの黄昏
  18. [13] 鏡像フーガ8 昭和期の蔵書家 (1970年頃まで) – 蔵書家たちの黄昏
  19. [10] 鏡像フーガ5 明治大正期の蔵書家 – 蔵書家たちの黄昏
  20. [202] 古代の蔵書家 ギリシア – 蔵書家たちの黄昏
  21. [204] 古代の蔵書家 ローマ – 蔵書家たちの黄昏
  22. [209] イスラムの蔵書家たち 前史ペルシア – 蔵書家たちの黄昏
  23. [212] イスラムの蔵書家たち コルドバ – 蔵書家たちの黄昏
  24. [120] 現代欧米の蔵書家たち 30000クラス,40000クラス,50000クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  25. [300] 主題回帰 反町茂雄によるテーマ – 蔵書家たちの黄昏

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テーマの著者 Anders Norén

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