蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

ジャンル別蔵書家8 [空想科学小説 SF]

[空想科学小説 SF]

 今日はSF関係のコレクターです。
 まず草分け的な存在であるお三方を。とくにコズレットはアメリカでは伝説的なSFファンでした。

 

  J・ロイド・イートン J Lloyd Eaton 1902–1968 UCR図書館
 ロイド・イートンは医師で呼吸器内科が専門である。すでに高校時代からSFやバルブマガジンの冒険物やファンタジーを集めていた。当時は奇しくもバロウズなどのスペースオペラ全盛期だった。
 この収集は生涯続くことになったが、何分当時は(今も?)この種の収集は世間からも家族からも低く見られ、それなりに苦労もあったようである。
 没後の1969年にSF、ファンタジー、ホラーなどを中心とする約7500冊の刊本をカリフォルニア大学が未亡人から購入する。いわゆる「イートンコレクション」はむしろこれ以後の拡大の方が圧倒的に大きい。同大学のUCR図書館は現在、SF、ファンタジー、ホラーでは世界最大の収集の一つである。
 ちなみに彼はラヴクラフトの初期のコレクターでもあり、この作家に関しては別に単項を立ててある。

 

□ ウォルター・A・コズレット Walter Allen Coslet 1922-1996
 SF小説のコレクター、ファンジンを主催し、全米ファンタジーファン連盟の会長を務めた。収集は三十年代に遡る。
 当初トラック運転手として働いた後に労働省で事務員となる。1972年に35年間に渡って集めたSFの本や雑誌をコレクションをコレクターへ売却したが、彼はその後も蓄積し続けた。
 もう一つの顔として聖書の大コレクターでもあり、こちらも英訳聖書では世界最大級の個人コレクションとも称されている。

 

 

 ウォルター・コズレットは、イートンとは20も年齢が離れていますが、彼ら2人はSF以外にも重要な収集で知られています。イートンは幻想文学、ことにラヴクラフトでは先駆け的な存在でした。コズレットは聖書の大コレクターです。
 このお二方はファン代表と言ってよい存在ですが、これに対して作家・編集者からは日本でも有名なアッカーマンの名前を挙げておきましょう。

 

 

  フォーレスト・J・アッカーマン Forrest J Ackerman 1916-2008
 著名なSF雑誌の編集者であり、自身がSF作家でもあった。(一SFファンとしてもヒューゴー賞で表彰されてますが、200人の作家の版権代理人をしているぐらいなのでこの人はどう見ても業界人でしょう。ちなみにご本人の書いたSF短編の翻訳もあります)
 とくにSFやホラー関係の書籍・グッズなどのコレクターとしては世界的に知られた存在で、個人所有では世界最大級と目されている。18部屋を陳列室にした自宅を「アッカーマンション」と称し、この地にはアメリカ、ヨーロッパは勿論、東欧、南米、日本など世界中から人々が訪れた。ご本人の言によると、レイ・ブラッドベリは「世界で最も興味深い場所」と呼び、ジョージ・パルは「SFのフォート・ノックス」と呼んだといわれる。
 書籍だけで30万冊もあったという話だから、必ずしも個人蔵書の規模の大きくないアメリカでは圧倒的な存在である。ただ、これらは多くが彼が支援したSF作家や映画監督からの寄贈によるとのこと。
 彼の蒐集歴は20年代からで、1932年には世界初のSFファンジン”The Time Traveller”にも弱年の身ながら関わっている。あのローダンシリーズをアメリカで英訳出版することを企画したのも彼であったし、ハインラインやブラッドベリなど黄金期の作家とも親しく、90年を越える人生で逸話に事欠かない。その営為がアメリカのSFカルチャーに与えた影響も計り知れない。
 「アッカーマンション」に関しては日本でもかつてそれを紹介した書籍(「アッカーマンSF博物館」1978年刊行)が出ている。彼の蔵書にはブラッドベリやヴォークト、EEスミスなどの原稿も多いと聞いていたので、管理人もこの項目を書くため、最近参考までに古本で買ったのだが、残念ながらこれは書物よりも、映画ポスターやグッズのコレクション紹介が中心だった。
 しかしメトロポリスから70年代後半までのポスター群は壮観で、一点一点に彼のコメントも付されてる。(それから分かるのは、彼は、今現在最も高く評価されている「2001年宇宙の旅」や「惑星ソラリス」のような観念的作品はあまりお好きではないようで、「来るべき世界」や「禁断の惑星」のような古典的作品を最も好んでいた事である)
 彼のコレクションの、撮影時に使用された小道具などは主に映画会社から提供されている。普通の人が得ることの出来ない物が多く、その意味でVIPコレクターと言っていいのかもしれない。 なお氏は88歳の時(2002年)にアッカーマンションもコレクションも処分した。

 

 

 

 このお三方のアメリカ人の他に、推理小説の項で紹介したE.T.ガイモンもSFコレクターの先駆けだったようで第一回のヒューゴー賞で蔵書家として受賞しています。
 次は、ヨーロッパからは、自らの蒐集で博物館を作ったフランスのピエール・ヴェッサをとりあえず挙げておきます。

 

  ピエール・ヴェッサ Pierre Versins 1923–2001 Maison d’Ailleurs
 フランスのアヴィニョンに生まれ、ユダヤ系だったので大戦中はアウシュヴィッツに入れられた事もあったらしい。SFファンとなるのは、戦後スイスへ移住してからである。
 1957年にSFファンジンを主宰し、同年から1962年にかけて重要な同人誌”Ailleurs”を発行している。自ら4つのSF小説をはじめとして各種の創作も行った。1976年には自らのコレクションでスイスの田舎町イヴェルドン・レ・バンに私設博物館”Maison d’Ailleurs”を設立する。収蔵物は50000点に及ぶとされるが、これはポスター、グッズ、フィギュアなども含まれるため、書籍だけでどのくらいになるのかわからない。
 ここはフランスのSF漫画の蒐集としても重要な拠点であり、日本の古いマンガさえもフォローしている。

 

 

 アメリカ、ヨーロッパときて、最後は日本です。

  野田昌宏 Noda Masahiro 1933-2008 野田昌宏文庫
 日本を代表するこの分野のコレクターと言えばまず思い浮かぶのが野田昌宏氏。フジテレビのプロデューサーでポンキッキを担当した人。晩年NHK市民大学に登場して自らの「専門分野」を語り始めた時には凄い人選だなと驚きました。
 アメリカのお三方もコレクターとしては第一世代だったが、日本における野田氏も同様である。同時期のライバルと言えば伊藤典夫氏ぐらいだろうか。ことにバルプマガジンでは自ら号するように「東洋では最大」の蒐集を誇っていた。これら3000冊は死後早川記念文学振興財団に寄贈されたが、本の方はどうなったか管理人ではよく分からない。

 

  代島正樹 Daijima Masaki 
 http://www2s.biglobe.ne.jp/~yasumama/daijiman.htm
 上記ブログの作者。「本の雑誌」に「東京創元社お蔵入りSF本講義」を掲載。

 

□ 日下三蔵 Kusaka Sanzo 1968-
 日下氏の全蔵書は膨大な数に上るが、SFファンタジーは大きな部分を占めているとのこと

 

  渡辺英樹(Watanabe Hideki -)
 愛知のSFツインズとして有名な双子のファン(その兄の方)。2階ホールの本棚にはハヤカワSF文庫が1500番まで揃っており、創元SF文庫も(完揃いで)隣に並んでいる。ローダンシリーズをコンプリートした時には東京や京都の古本屋まで回ったらしい。もちろんSFマガジンはコンプリートしており、こちらも戦後刊行された翻訳SFは殆どあるとの事。ブログhttp://sciencefiction.asablo.jp/blog/

 

 

 

[ジュール・ヴェルヌ Jules Verne]

  ジャン=ミシェル・マゴ Jean-Michel Margot 1937- http://www.ajmm.net/
 マゴは北米ジュール・ヴェルヌ協会の会長。スイス出身で現在はアメリカ在住である。ヴェルヌに特化されたコレクションを誇り、2008年には膨大な量を上記のピエール・ヴェッサによるSF博物館Maison d’Ailleursへ寄贈している。
 蒐集は19世紀から現在に至るヴェルヌ作品の様々な版から成り、グッズ、オブジェ、ポスター、カード、切手、コミックなども含めて数千点の規模。

[エドガー・ライス・バローズ Edgar Rice Burroughs]

  J・ロイド・イートン J Lloyd Eaton 1902–1968 UCR図書館
 上記参照。イートンはバローズの最初期からのコレクターだった。

  C・ビーチャー・ホーガン C Beecher Hogan 1905–1983
 イェール大で英語を教えていた時に高価なコレクションを築いたが、「精力的で、奇妙なものを集めるコレクター」とも評されたように、興味は大変広くカソリック関係からバローズに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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