蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

ジャンル別蔵書家10 [飛び出す絵本 Pop-Up Book]

[飛び出す絵本 Pop-Up Book]

 

 「飛び出す絵本」と書きましたが、これは日本のやや昔風の言い方であり、仕掛け絵本、ポップアップ絵本という表記の方が一般的かもしれません。
 西洋において、仕掛けのある本の歴史は長く、16世紀前半に遡ります。ゆえにこの分野にも数多くの稀覯本があり、とりわけその元祖と目されているペトルス・アピアヌスの「皇帝天文学」(Astronomicum Caesareum,1540)は市場に出れば数十万ドルは下らないだろうと言われています。(日本では国立天文台が復刻版を所蔵してました) ポップアップブックというのは子供のおもちゃのようなイメージがありますが、児童向け商品が出るようになったのは実は十九世紀に入ってからなんです。

 ただそうは言っても、著名な作家が登場して技術的なレベルが上がったのはそれ以後の事です。A・ニスター(英)、メッゲンドルファー(独)、クバシュタ(チェコ)、サブダ(米)といった各時代を代表するカリスマたちによってこの媒体の可能性は拡張され、今日では名実ともに芸術と言えるものとなりました。

 ところで、ロバート・サブダやマシュー・ラインハートの活躍に見られるように、ここ20年ほど、このジャンルにはスポットライトが当たっています。しかし、それは下記のウォルド・ハント氏の功績によるところが大きいでしょう。

 

 

 ウォルド・ハント Waldo Hunt 1920–2009
 ウォルド・ハントは飛び出す絵本のコレクターというより、むしろこの種のものの出版業者として代表的な存在である。いわば仕掛け絵本の仕掛人といったところか。「この業界を支配し」というより、アメリカのポップアップ本の隆盛をリードした存在であり「現代のポップアップ本業界の父」「ポップアップの王様」と見なされている。
 飛び出す絵本は、ハントが60年代に登場する以前には不採算のジャンルだったのである。20世紀の前半頃までは、イギリス向けに輸出を行っていたドイツの出版社がこの分野を代表する存在で、アメリカのポップアップ本は非常に質が悪かった。その理由は、組み立てが複雑なためにラインによる生産が不可能で、制作に手間とコストがかかった事に尽きるのだが、ハントはこれを克服するため、生産地を人件費の安い日本に移し、後にはラテンアメリカへ移した。このようにして出来上がったのが第一号作品の「BennettCerf’sPop-Up Riddles」(1965年)であった。
 彼はシカゴに生まれ、カリフォルニアで活動した。彼の経営する Intervisual Books はハリーポッターのポップアップ版で特によく知られるが、その他にも科学教育に関するポップアップ本など広く出版し、同社の「動く本」は1000冊を越える。ハント氏とその会社は、児童書の中で従来低く見られがちであった仕掛け絵本から、国際アンデルセン賞やケイト・グリーナウェイ賞の受賞作を出してこの分野の存在意義を高めた。

 ウォルド・ハントはコレクターとしてもさすがに規模が大きく、所蔵は4000冊に及ぶ。そのコレクションは、稀覯本に数えられるアンティークから現在市販されているものまで幅広い。うち500点は2002年にロサンゼルス中央図書館で展示されている。

 

 

 エレン・G・K・ルービン Ellen G. K. Rubin 
 popuplady.com
 9000冊以上の飛び出す絵本と、数千のポップアップのエフェメラ(一枚もの、カード類など)を所有。41言語に渡る世界的なコレクションである(手話や点字を含む)。おそらく個人としては最大級では?
 ご本人は子供時代には一冊もこの種の本を持っていなかったそうだが、幼い息子のために2冊買ったことから火が付いた。息子が成人して家を出た後、その部屋を自分のコレクションルームに替えたという。
 彼女は医学や科学に関するものから収集を始めたそうで、最近のサブダ作品などはあまり認めていないらしい。またスミソニアンでポップアップ本に関する講演もしており、詳細は上記サイトを参照。

 

 

 モーリス・センダック Maurice Sendak 1928-2012
 ご存知のように二十世紀を代表する絵本作家の一人。彼もメッゲンドルファーのファンだったらしく、この19世紀ドイツを代表する仕掛け絵本作家に関しては世界で最も重要なコレクションを築いていたといわれている。まあ世界中で売れた「かいじゅうたちのいるところ」の印税だけでも相当なものだろうから、資金は潤沢なのだろう。
 この分野の本は元来壊れやすいにもかかわらず、扱うのが主に子供であるという理由から、メッゲンドルファーの当時物の美本は極めて希少である。センダックのこうした貴重なコレクションは死後、ローゼンバッハ社が手に入れた。

 

 ジェラルディン・レボウィッツ Geraldine Lebowitz
 南フロリダ在住。収集歴は30年近い。19世紀以来のポップアップ本700冊を所有し、過去にはコレクションのf大規模な展示も行っていた。彼女のコレクションはクバシュタの貴重なアンティークに特徴がある。
 ちなみに鎌倉に メッゲンドルファー という日本唯一の仕掛け絵本専門書店があって、そこの在庫が大体700冊ぐらいらしい。

 

 Joe Yow
 仕事をリタイアしてから集め始めたので収集歴は5,6年と浅い。最初は科学教育関係のものやゲーム・オブ・スローンズのポップアップ本から開始し、現在では400年前のレアブックを含め、黄金期のものから現在に至るアンティーク本を広く集めている。
 アメリカは近年この分野で優れたアーティストが出てきているので誘惑は多いのだろう。100冊以上のポップアップ本と2000冊以上のレアブックコレクションを持つ。

 

 澤田隆治 Sawada Ryuji 1933-2021
 飛び出す絵本という媒体は管理人も子供の頃から好きなジャンルなので暇になったらちょっと集めてみようかなぐらいな気持ちはあったが、日本を代表する演芸バラエティ番組のプロデューサーだった澤田隆治氏がこのジャンルの大コレクターだというのは知らなかった。メッゲンドルファーの「City Park」を紹介するコレクター然とした写真と「てなもんや三度笠」や「花王名人劇場」のイメージがどうもしっくりこない。
 しかし方々で飛び出す絵本についての講演活動をされていたようで、250点ほどのコレクションを展示した事もある。澤田氏は多くの演芸関係の著書を多く残し今年亡くなった。コレクションは 大島絵本ミュージアム へ寄贈された。

 

 

 

 今アマゾンを見ていたら、メッゲンドルファーの「インターナショナルサーカス」の普及版復刻が安く出てたので思わずポチってしまいました。この時代の仕掛け絵本の復刻は昔探したときにはほとんどありませんでした。
 ここの管理人が今所有するポップアップ本は、十年ぐらい前に買ったサブダの「アリス」一冊だけです。(子供の頃は何冊か持ってましたが) 特に、最後のトランプが舞うシーンは、一体どういう構造になっているか一度分解して調べてみたいのですが、勿体なくてなかなかできません。

 

 

 

 

 

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テーマの著者 Anders Norén

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