情報爆発Ⅰ
「知識には二種類ある、自分自身がその主題を知っているか、さもなければそれについての情報がどこを見ればわかるかを知っている、の二種類だ」
サミュエル・ジョンソン
「(検索機能のある)このような書物は通読することよりも折に触れて参照することで役に立つ」
コンラート・ゲスナー「動物誌」より
■■■ 古代・中世のレファレンス書, 通読と参照読み,
かのバニバー・ブッシュの創案にかかるメメックスこのかたの「機械による情報処理」を万人が利用できる環境になって、もう30年近くが経ちました。そこから波及した様々な事象に関してはここで多言を弄しませんが、これを第二次の情報革命とするなら、近世初頭に起こった第一次の革命の方は、個人蔵書をテーマとするこのブログにとっても最大の結節点になります。
これから手引きとして使うアン・ブレア(Ann M. Blair 1961-)の著作「情報爆発」(Too Much to Know 2010)は、1500年から1700年に至る16,17両世紀に現れたレファレンス書を論じたもので、急激な情報負荷に対して人々がいかに対処したかをテーマにした歴史書です。
膨大な情報の山から必要な情報をいかにして探すか、という必要に迫られて登場した、主に抜き書きによって構成される編纂物を、この著述の中では便宜的にレファレンス書と呼んでいます。これらは現在の辞典、事典、格言集などにあたり、近世初頭にあっては多くの書物を読んだ人の読書ノートの延長線上にあります。
グラフトン学派の方法論によって書かれたこの書物が取り扱う時期は、ちょうどヨーロッパにおける集書が個人蔵書・機関蔵書ともに急速に拡大をみせた時期と軌を一にしていて、この時代の知的状況を側面から浮かび上がらせるにはちょうどいいテーマなんです。西欧の個人蔵書の増大・充実は、つまるところ出版点数の増加の反映に過ぎないので、そのもう一つの反映、人々が必要な情報に手っ取り早くアクセスするための手引きとして重宝していたこの種の書物の興隆に、今ここで少し目を移して置くことは、本篇を裏側から補強する上であとあと何かと好都合なわけです。
ところで西洋において、このような「レファレンス書」といえるものが登場したのは、何も近世初頭のこの時期が最初ではありません。当然このジャンルにも長い歴史があって、現在でもよく知られている書物の数は少なくないわけです。
そこでまず、その直前である中世末期に至るまでの代表的な書物を、みてゆく事にしましょう。
<ヘレニズム時代> BC3C
アレクサンドリア図書館において書記カリマコスが作成した目録「ピケーナス」こそが、世界初のレファレンス用のツールだったと言う人もいるようです。
これは事項別に分類され、のべ130巻にも及び、著者経歴も付属されています。分野別に分けられてはいるものの、その各カテゴリー内では著者名や、一著者の作品名などがアルファベット順に配列されています。書架の場所の記載はないので、実務上の点検目録でもないようだし、ムセイオンに所蔵されている全部の書籍を載せた完全な目録でもありません。なので、これは目的別の用途を持ったレファレンス書だと、一応いえるらしいんです。
ところが、そのアレクサンドリア図書館の生みの親であるデメトリウスに「プトレマイオス」という現存しない書があり、これは芸術から政治までのすべてを一冊に網羅していたというから、こちらこそが世界初かもしれない。これは今で言えば朝日の「知恵蔵」のようなものでしょうか? ああいうのはインターネットの時代以前には結構頼りにされていました。
<ローマ時代> 2~5C
ローマ時代になるとこの種の大著述は多く作られ、共に散逸はしているものの、当時最も博識といわれたヴァロ(Marcus Terentius Varro 116BC-27BC)や、ケルソス(Kelsos 2C)による百科事典がその代表的な作品だと言われています。
現存するものとしては、やはりプリニウス(Gaius Plinius Secundus 23-79)の「博物誌」(Naturalis Historia)37巻が有名です。これは主題別の構成・記述で、古代世界の地理・自然・歴史の知識が集成されています。
他にはスエトニウス(Gaius Suetonius Tranquillus 70-140)などにも百科事典「プラトゥム」(Pratum)があったようですが、多くの著作からの「抜き書き」から構成されたタイプとしては、ゲッリウス(Aulus Gellius 125-180)の「アッティカの夜」(Noctes Atticae)、ストバイオス(Joannes Stobaeus 5c)の「文選」、アレクサンドリアのクレメンス(Titus Flavius Clemens 150-215)の「ストロマティス」(Stromateis) などを挙げる事ができ、これらもこのカテゴリーに入るといえるでしょう。
しかし、ローマ社会におけるこのような大きな類書を生み出す風潮は、帝国が東西に分裂してしまうと西側では廃れてしまい、下記のイシドルス「語源」ぐらいしかめぼしい例を見出すことができなくなります。
これに反して東側では、ビザンツ帝国の下、西欧中世とは対照的に多くの重要な書物を生み出してきました。 最もよく知られたものは、おそらく諸法典や法学者の著述を編纂した「ローマ法大全」でしょう。しかしこの他にも、フォティオスの「図書総覧」「注釈書」があり、おそらく最も重要なものとして「スーダ辞典」の存在が挙げられます。これはビザンツ世界の知の集積ともいえる巨大な辞書(百科事典機能も含む)であり、この時期にあってすでにアルファベット順の配列構成を導入していました。西欧世界でアルファベット順の辞書が登場するのは中世末期以降です。
<中世初期> 7C
中世篇で紹介したセヴィリアの大司教イシドルスが編纂した「語源」(Etymologiae)20巻は、中世でも比較的早い七世紀の段階で成立した百科事典であり、ルネサンスに至るまでの数百年間に版を重ね続けたベストセラーです。神学・歴史・文学・芸術・法学・文法・天文学・自然科学などに渡る多様な内容のこの著作が、情報枯渇気味の中世で果たした役割はいくら強調しても強調しすぎることはありません。
イシドルスはこの時代を代表する有数の蔵書家だったわけですが、これほどのものを執筆するには、伝承される彼の蔵書数だけでは明らかに心もとなく感じられ、そのせいかローマ時代のウァロの散逸した著作が情報源だという見方も存在します。下記の「大いなる鑑」が千年に渡る西洋中世の知の総決算であったとすれば、こちらは古代ローマの知を中世に伝えたものとして、大変重宝された著述でした。
<中世末期> 13C
中世末期になると出版点数も増え、社会に流通する情報の量も飛躍的に増大したことから、それまでになかった様な非常に大部の著作も登場しました。
ドミニコ会士ヴァンサン・ド・ボーヴェ(Vincent de Beauvais)による百科事典『大いなる鑑』(Speculum maius) 全80巻がそれで、1244年から1255年にかけて編纂されています。
これはルイ九世の命を受け、自然の鑑、諸学の鑑、歴史の鑑の三部からなり、後代には道徳の鑑が追加されました。中世末期において最も浩瀚で有名であったこの大著は、レファレンス書としても16世紀以前には西欧最大の存在だったと言えるでしょう。
と、こんな風にレファレンス書の歴史を語ってゆくとキリがありません。このような類書が昔から多い中国の例を持ち出せば話はもっと混乱してくるだろうし、そういえば、書物目録なら古代エジプトのエルドゥフ神殿図書館にもあった筈です。
ただ、以上のことからひとつ言えるのは、この種の書物はやはり情報過多の世界でこそ数多く生産される、という事です。
16世紀に西欧社会が巨大な書物宇宙へ突入した時期にも、こうした書物が雨後の筍の様に次々と登場することになりましたが、この時代のレファレンス書が、今日とりわけて重要視されているのは、おそらく以下の二点によります。
① まず、ゲスナーやツヴィンガーによってそこで考案されたツールは、その骨格が現在でも使用されていること、
② また、「通読」から「参照読み」というふうに、書物の読み方自体にも大きな革命を齎したということ。
上の二点は近世初頭におけるレファレンス書の興隆を、書物の歴史の上での中世と近世の分水嶺のひとつ、と捉える事を可能にするのではないでしょうか。
あとのものはとりわけ重要です。
このブログの古代篇は、本の読み方が「音読」から「黙読」に変わった時期を扱っていました。プラトンまでの音読の伝統が消え、大蔵書家でもあったアリストテレスあたりから黙読という傾向が顕著になりだし、それがやがてアンプロジウスからアウグスティヌスにかけての時代にこのスタイルが主流になってゆく、そうした時代です。
そのつぎの中世篇の修道院時代へ突入すれば、そこはもう静謐な環境の中での修道士たちによる黙読の世界になっています。
そしてこれが近世篇に入ると「通読」が「参照読み」にじょじょにとって変わられていく世界になります。
「参照読み」自体は以前からありましたが、手に取れる本の総体が読み切れなくなったこの時期を境にそうした流れが加速します。特に学者にこういう傾向が強く(というより彼らがそういう風潮を先導し)、また規模の大きな蔵書家にも同様の事がいえます。
声を出して読む「音読」が一般的であった古代末期に、すでにアウグスティヌスは「黙読」を行っており、その姿を見ていた弟子が奇異の念をもって証言していたくだりは古代篇末尾で触れました。
ところが近世西欧より一足先に巨大な書物宇宙へ突入したイスラムでは、イブン・シーナーが一つの書物を最初から最後までじっくり読む「通読」をせずに、難しい一節や込み入った問題のところを探してそこだけを読む一種の「参照読み」を行っていました。それをやはり弟子のアル・ジュザジャーニが畏敬と共に報告しています。 これはイスラムにおける話ですが、近世西欧でも少し遅れて同様の状況に直面したため、似通ったエピソードは多く生まれただろうと思われます。
試しにモンテーニュとモンテスキューの読書スタイルを比べてみましよう。すると、その二世紀の間におきた変化がはっきりします。
ピーター・バーグはモンテーニュとモンテスキューを比較して、前者を「精読」型、後者を「参照読み」タイプと規定しました。モンテーニュは近世初頭の人物ではあるものの、この時代の教養人の常として、前代までの慣習の中で生きていた事がよく分かります。これに反してモンテスキューは、読書スタイルの変革が世間一般に普及してしまった後の18世紀の人間です。
蔵書量に関して言えば、モンテーニュは271冊であり、これに対してモンテスキューのそれは3000冊を越えていました。この点からもモンテスキューの時代にはすでに精読を許さない環境に入っていたのかもしれません。(他の啓蒙主義者の蔵書量をみても、概ねモンテスキューに近い規模で、例えばヴォルテールは6801冊、ディドロは2904冊でした。)
検索エンジンを使用したWEB閲覧が一般的になった現在では、「参照読み」はもっと先鋭的な形で、誰にとっても日常的なスタイルになっています。
■■■ ノーデの分類から
では、ここから実際に近世に刊行された代表的なレファレンス書へと目を移し、検索のための便宜を図る工夫がどのように凝らされて来たのかを確認することにしましょう。
検索ツールというと、何か大げさに受け取られるかもしれませんが、方法は主に二つです。
ひとつは、本文において「情報をどのように配列するか」という事。
もうひとつは、その配列された情報に外から「どのような索引をつけるか」という事。
実は中世ヨーロッパでは、この両面ともに方法らしい方法は存在しませんでした。
まず、辞書ですら長きに渡って内容ごとに分けて記述されており、現代のような調べやすい、「語順になった辞書」(欧米ならアルファベット順、日本ならアイウエオ順)が主流になるのは、相当後になってからの話です。
また本文に対して、それを構成している項目の一覧を付す場合でも、ページ数が付記されている場合は例外的でした。だからこれは「目次」や「索引」には当たらず、あくまで「項目の見出し」を並べたリストに過ぎないわけです。
ところが、これが中世末期(11~13世紀)になってくると、アルファベット順の辞書が徐々に増えてきます。
一方、索引の方でも1247年には聖書の「用語索引」が登場しました。聖書の全語句に対して索引がつけられた事の意義は非常に大きいです。
そしてそれに続いて、神学概念だけをアルファベット順に配列した索引もできました。これは「主題別索引」の誕生にあたり、近世初頭における様々な検索ツールは実はこれらを手本として生まれた、と言ってよいのかもしれません。
中世も末期の頃になると、近世初頭の「情報爆発」と言えるような状況ほどではないにせよ、個人蔵書、機関蔵書共にゆっくりと増え始めていた様子は中世篇の末尾でも触れています。社会における情報量の増加がその端緒にさしかかった時期に、これを受けて検索ツールの基礎がすでに築かれていた、と言っても大きな間違いではないと思います
ところで、マザランの蔵書を管理していた司書のガブリエル・ノーデが書いた「蔵書構築に関する助言」では、レファレンス書に該当するものは「レパートリー」と呼ばれており、彼はそれらをいくつかのパターンに分類しています。
Ⅰ 辞書
Ⅱ 詞華集・格言集
Ⅲ コモンプレイス・ブック
Ⅳ 蔵書目録
Ⅴ 販売目録
というのがノーデによる分類ですが、この他にも、Ⅰに近いものとして百科事典、Ⅱに近いものとして語彙集・抜き書き集があり、さらには、書評集・叢書・セレクトされた名著集などもこのレファレンス書のカテゴリーへ入れていいでしょう。 以下これに従って、その主要なものを見てゆくことにします。 まず、Ⅰの辞書と、Ⅱの格言集・詞華集から。
■■■ 博言辞典、ポリアンテア、格言集
Ⅰ 辞書
① カレピーノの「博言辞典」(Dictionarium latinum 1502)
1502年にイタリアのレッジョで初版が出たアンプロージョ・カレピーノ(Ambrogio Calepino 1435-1511)の「博言辞典」は、近世初期(1450年から1650年の間)に刊行されたおよそ150点に及ぶ辞書の中でも、最も大きな影響力を持ったものであり、本人の死後も18世紀まで版を重ねました。内容はラテン語の語法と、古典の引用などですが(若干の百科事典機能もあり)、無数の編纂者によって改訂増補され、のちに各国語版ではその国の言葉が加わります。それは1590年版では11ヵ国語にも及びました。
辞書というものはアルファベット順(あいうえお順)以外有り得ない、と考えている方もいるかもしれませんが、先にも述べたように実は西欧における辞書は当初は分野別の構成だったんです。しかし、この近世初頭の「博言辞典」はすでにアルファベット順の配列になっており、その意味で近代辞書の基本的要件を満たしていました。
ただ、このような辞書という形式は、字引として使用するためにアルファベット順の項目配列がいったん整備されてしまった後は、情報検索のための工夫はこれ以上はなかなか発達することがないんですね。
Ⅱ 格言集 詞華集
② ドメニコ・ナニ・ミラベッリの「ポリアンテア」(Poliantea 1504)
1504年の初版以来増補を重ねた「ポリアンテア」は 詞華集としては最も成功した著述です。やはり著者(Domenico Nani Mirabelli 1455–1528)の没後、後代の人たちが増補を重ねて大部の書物に膨らんでいます。
「ポリアンテア」の本文は項目がアルファベット順に配列されています。
これに対して、引用された著述家のアルファベット順リスト(典拠一覧)、項目のアルファベット順リストが付け加えられていましたが、共にその箇所のページ数は付記されていないのでこれらは索引にはあたらず、あくまでリストなわけです。その意味でまだ検索ツールとまでは言えません。
むしろ「ポリアンテア」におけるツールとしては、各項目が視覚的に表現されたダイアグラムの図があって、こうした発想はのちのツヴィンガーによる樹形図へとつながってゆきます。
③ エラスムス「格言集」(Collectanea Adogiorum 1500)
1500年に初版が出たエラスムスの「格言集」は、初期近代で最大のベストセラーです。ギリシア・ローマの古典からの格言を広く集めた内容で、古典への関心が高まったルネサンス期の人々の多くがこの書物を求めました。エラスムスにとっても名声が定着するきっかけになった出世作であり、たしか日本でも抄訳が出ていた筈です。 当初収録された格言は約800編でしたが、のちの増補により最終的には4658編も収録しており、書名も Adagiorum Chiliades(「千の格言」)と改題されることになりました。
上記の「ポリアンテア」で各項目がアルファベット順に並べられていたのに対し、「格言集」では項目はでたらめ(ランダム)に配列されています。こういうでたらめ配列のレファレンス書としてはローマ時代にゲッリウス「アッティカの夜」の先例があり、教養あるエラスムスはそれを模したのかもしれません。
にもかかわらず、この「格言集」には、引用された著者の名前をアルファベット順に並べた一覧が巻末に付き、こちらはページ数が付記されていたので、検索ツールとして機能する「索引」になっていました。
この書物に付されたこのような索引は四種に及び(他には、格言ごと、コモンプレイス見出しごと、それ以外の事物や語に対して)、その結果これは「ポリアンテア」以上に機能性が高められた書物と言えます。四つの索引は機能に重複はなく相互補完的でした。
■■■ ツヴィンガー
上記では、辞書や格言集・詞華集の近世初頭における代表的著述に触れました。しかし、この時期のレファレンス書を真に特徴づけるのは、(G・ノーデにより)コモンプレイス・ブックと分類された、一種の総合的著述です。
Ⅲ コモンプレイス・ブック
④ ツヴィンガーの「人生の劇場」(Theatrum humanae vitae 1565)
1565年に初版が出て、以後1571年、1586年、1604年と版を重ねたこの書物は「おそらく、近世初期に一人の個人が編集する最も包括的な知識の集まり」とも評され、ページ数も初版で1500ページ 1586年版では4500ページに及び、この種のものでは当時最大でした。(二版で四巻本)
テオドール・ツヴィンガー(Theodor Zwinger 1533–1588)という人は、バーゼル大で修辞学・倫理学・医学の教授を務め、いい意味での「なんでも屋」です。大蔵書家ド・トゥとの親交もありました。
彼の「人生の劇場」は、同時代の人々の「行動の実例」を集めた書物で、編纂の目的は「よい例と悪い例を示して、読者がいついかなる時あっても行動できるような指針を示すこと」でした。いわば、人間のあらゆる経験を陳列したもの、という事なんでしょうが、200を超える死に方のパターンから、植物の一覧や、教皇・皇帝の一覧まで、あらゆる情報が集められています。
この書物は百科事典と内容が被るものの、アルファベット順の配列ではなく、分野別の構成となっています。書物全体の構成は分野別にして、ツールとしての索引を外から加える、といったやり方をとっているわけです。そして1565年、1571年、1586年、1604年(ツヴィンガー死後に息子が出版)の四つのバージョンを通じて、索引は内容を充実させてゆきます。
1565年の初版では、本文の配列順による項目索引(目次)と、アルファベット順の項目索引しかありませんでしたが、1571年の版で範例や逸話において登場する固有名詞を網羅した範例索引が付きます。1586年版でアルファベット順の典拠一覧が付き、そしてツヴィンガー死後の1604年版では、記憶すべき言葉や事物のアルファベット順の索引(現代の事項索引に相当)も追加されました。エラスムスの格言集もそうでしたが、ゲスナーの四種の索引も重複はなく相互補完的です。
しかしこの書物が特記されるのは、むしろ分野別構成のやり方の方であって、ツヴィンガーという人物の知識の体系化への執念です。
樹形図を使ったこの方法に、ツヴィンガーはどんどんのめりこんでゆき、体系は次第に凝りに凝って複雑怪奇な様相を呈してきます。これらは版を重ねるごとに新しく書き改められ、その度にカテゴリが段階的に細分化され、彼は最大で五段階もの下位区分を設けるに至りました。その結果、のちにはこの樹形図だけで12ページ分を占めることになります。
しかしツヴィンガーの樹形図は、検索の便宜を図るツールというより、彼の世界観や信念、思い入れの要素が強く、煩瑣なものになりすぎて、この書物自体は”でたらめ配列”と同じぐらい使いにくい構成となりました。実際、彼が用意した上記の3種の索引(項目見出し、固有名詞、記憶すべき言葉や事物)の方が樹形図よりよっぽど役に立ったそうです。
いきおい批判も増え、こうした彼の知識体系化の試みは、同時代にはあまり理解されることなく終わります。
ただ、後世への影響は大きく、ツヴィンガー同様に人類の知識をすべて一つの視点からまとめようという企てを抱いた者は、これと同じ方向へ進むことになります。
18世紀のフランス啓蒙主義者たちによる「百科全書」はそのその適例でしょう。ただ、ツヴィンガーが個々の主題を深く掘り下げて、カテゴリの細分化を極めていったのに対し、ダランベールによるそれは学問相互の関係性に焦点を当てる事を主眼としている、という相違はありますが・・・
管理人は中公の「世界の名著」の啓蒙主義哲学者の巻でダランベールの序論に添えられた樹形図的な学問分類を見たことがあります。18世紀の啓蒙主義時代の基本的アイデアのほとんどが16,7世紀のそれをオリジナルとしているのは別にこれに限った話ではありませんが、こうしたヴィジュアルによる知識の体系化自体は西洋ではもっと古くからのものであり、例えば、トマスの「神学大全」でも、神学上の知識がほぼこのスタイルで体系化されていて、それがそのまま本の目次になっていました。ツヴィンガーの「人生の劇場」とダランベールの「百科全書」の間には、ベーコンによる「知識の体系」の存在もあり、あちらの人はこういうのが好きなようですね。
とにかくツヴィンガーの書物においては、彼があちこちから切り貼りして集めてきた情報を整理してゆく中で、樹形図で表現された彼自身の世界理解(世界観)と、検索のための便宜性を調和させようという努力が払われていた事は確かです。
他にも特記すべき点があるとすれば、それは彼の「コピー&ペースト」の手法でしょうか。
近世初期の巨大な編纂物は、他の書物から切り貼りを行うことによって作られていますが、ツヴィンガーもその例に洩れません。しかし驚くのは、彼は単に書き写して抜き書きをするのではなく、そのための古書を購入して完全にばらし、文字通りの切り貼りをしていたことです。
⑤ パイヤーリンクの「人生の大劇場」(Magnum theatrum vitae humanae 1631)
1631年にはフランドルの聖職者ラウレンティウス・パイヤーリンク(Lawrence Beyerlinck 1578–1627)がツヴィンガーの「人生の劇場」を基にしてその後継書「人生の大劇場」を出版します。
ページ数は「人生の劇場」からさらに増加していて、もはや7400ページ(8巻本)。18世紀以前の百科事典的編纂物では最大だそうです。ただ基本的にはツヴィンガーを下敷にしていて、そこからさらに切り貼りを重ねていった本です。
しかしバイヤーリンクはツヴィンガーの原著に編集面で大きな変更を二つ加えています。
彼はまず「人生の劇場」の分野別記述を、「ポリアンテアに倣って」をアルファベット順記述へと変換しました。そしてツヴィンガーがあれほど拘った樹形図もこちらでは全く削除されてしまいました。その意味で単に量的に巨大化しただけではなく、より近代的な書物になった、と言えるのかもしれません。
索引面でもそのことは言えます。
この著作ではついに綜合索引がつけられました。プリンクティウスという人物が作成した「人生の大劇場」の索引は、687ページにのぼる膨大なもので、後の18世紀の「百科全書」ですら及ばない規模です。素材・事物・本文で解説された言葉・実例などをもれなくアルファベット順に配列した索引であり、さらには本文で分類されている項目見出しとは異なる見出しでも索引がつけられていました。索引自体も、巻数・見出しのページ番号・ページ内の位置まで記載するという完備した作りです。
なお一つ付け加えると、ツヴィンガーの樹形図がこちらでは全く削除されたとはいうものの、そもそも樹形図というのは書物自体の構成の反映したものにすぎません。
だから仮にこの書物をアルファベット順に再構成したところで、それは上位区分だけにとどまり、下位区分においてはツヴィンガーの定めた分類秩序が已然保存されている、という事になっていました。これは数段階に渡ってカテゴリを細分化したツヴィンガーの執念のなせる業でしょう。
ツヴィンガーはアルファベット順の配列をとらず、あくまで分野別の配列にこだわりました。
ただ、一口に知識を分野別に配列すると言っても、様々なやり方が考えられます。
今なら「十進分類法」とか「議会図書館分類」など、優れた図書分類の仕方があって参考になるのですが、この時代はまず宗教に基づいて分類するやり方が一般的です。それも「神による創造の順序」「十戒の順序」「聖書の記述の順序」「公共要理の順序」と様々なパターンが存在します。
哲学的な世界観に基づいたやり方もあります。例えば「存在の大いなる連鎖」の順序による分類は、新プラトン派の階層秩序を反映させたものです。
もちろん、歴史的な時代順、地理上の順序などに基づいた記述のやり方も、現在同様よく採られていた方法です。
そして時代の進展と共に主流になってくるのが、やはり学問上の分類に基づいた配列であり、ベーコンやライプニッツの行ったものが嚆矢と言えます。これはツヴィンガーが行ったような個人的な世界分類のやり方と交差しながら現在まで続いています。
しかし、ここはシャムーリン著「図書館分類」を読んでいただければよくお分かりになると思うのですが、「この世界の知識を分類する」というような問題に、個人が取り組めば泥沼になります。
一方、配列した本文に対して外から付ける「索引」に関しては、この時代に基本的スタイルが成立したといっていいのかもしれません。
当時の体系的記述のレファレンス書は、アルファベット順の索引を一つないし複数備えていたのが普通でした。これらは、タイトルの索引、典拠の索引(参考文献)、人名索引、地名索引などさまざまなバリエーションをもちます。 アルドロヴァンディの鳥類集にはなんと17種もの索引がつけられたという話がありますが、勿論これらは多ければ良いというようなものではありません。
最終的に事項索引(主題索引)や総合索引の登場をもって、とりあえず現代のものに近い姿になったわけです。
上述の「人生の大劇場」につけられた綜合索引などはまさにその完成形といえます。 ゲスナーが自ら改訂した「ストバイオス」に付けていた索引も(アン・ブレアによると)当時最高のものであり、リストの主題への言及を集め、厳密にアルファベット順に配列していた、との事でした。
■■■ ゲスナー
ノーデによる「Ⅳ 蔵書目録」「Ⅴ 販売目録」という区分を、ここでは文献目録という言葉で統一する事にしました。
というのも、この項ではゲスナーの「萬有文庫」について語りたいのですが、これは蔵書目録でもなし販売目録でもなし、といった代物なのでこうする他なかったからです。
(尚、目録を書誌とは区別して書く場合、所在が明らかな本が記載されている、というのが図書館学上における狭義の定義による目録です。ちなみにこの時期の蔵書目録で歴史的に重要なものとしては後述のド・トゥ家の目録、販売目録で著名なものとしてはフランクフルト書物市目録があります)。
ところで、そもそも情報をどういう風に配列するかは、大きく分けて二つしかありません。
ひとつはフォルム(形式)による配列です。 一番基本的なのは、タイトルや著者名のアルファベット順(日本であればアイウエオ順)の配列です。1622年にニコラ・リゴーが編纂した「フランス王室図書館目録」は目録の歴史では名高い存在ですが、ここではまず写本と刊本が分離され、それらがさらに言語別に分けられていました。こういうのもフォルムによる分類と言っていいでしょう。
もうひとつは内容面での配列です。 前項で語ったツヴィンガーの「人生の劇場」では、この世の知識を分野別に配列するのに著者が四苦八苦していた事に触れましたが、そこでツールになっていたのは「樹形図」でした。 こうした内容面での分野別配列の例を文献目録で出すとすれば、やはり目録の歴史上で名高い1679年に出版されたド・トゥ家の蔵書目録が、フランスにおいて七分野の分類法を確立したケースが挙げられるでしょう。
とにかく目録のようなタイプの書物は、この二つの方法をどのようにブレンドして利点・特色を出すかがすべて、と言っても過言ではないわけです。以下では、近世初頭にそうした試みを始めた創始者たるゲスナーの営為にごくごく簡単に触れておきます。
Ⅳ,Ⅴ 文献目録
⑥ トリテミウスの「聖職者の著述家について」(De scriptoribus ecclesiasticis 1494)
1494年の出版なので、厳密に言うと16世紀のレファレンス書ではないのですが、ヨハネス・トリテミウス(Johannes Trithemius 1462-1516)によるこの目録は、いろんな意味で次のゲスナーを準備したと言え、「ウル・ゲスナー」あるいは「ウル萬有文庫」としてもおかしくない存在なので項目を設けておきます。トリテミウス本人も、名だたる集書家として西欧近世篇でカテゴリーを設ける予定の人です。
この書物は欧州で最初に印刷された著者名別の目録です。「聖職者で著述活動を行った人」の著作に限定されていますが、蔵書目録や販売目録などではありません(トリテミウスの手元にあった現物は修道院長として蒐集した2000巻ほどに過ぎない)。「萬有文庫」の登場以前としては異例なほど浩瀚な規模で、1000人近くの著者による7000冊が収録されていました。
ただ、著者名の配列は年代順となっており、その意味では中世的な要素も残しています。(と言っても、本文の前にアルファベット順に記した著者索引も置かれており、この目録はその点でも過渡的な存在なのでしょう。トリテミウス自身がそういう人でした)
著者名の次には、著者の伝記、著作一覧、各著作の分野、巻数などが記されるという構成であり、著述家としてのトリテミウス本人も17点の著作と共にここに記載されています。
⑦ ゲスナーの「萬有文庫」(Bibliotheca universalis 1545)
1545年に出版されたコンラート・ゲスナー(Conrad Gesner 1516-1565)の「萬有文庫」は、それまでのテーマや目的を絞って作成されてきた書籍目録から離れて、すべての本(但しギリシア、ラテン、ヘブライの三言語)を目録に録ろうというドン・キホーテ的な構想の下に始められました。これは日本で言えば、さだめし「国書総目録」にあたる試みでしょう。
前述のように従来の文献目録は収録対象を限定して作成されてきました。 蔵書目録や販売目録のほか、あるいは「ガレノスによる自著一覧」のような著作目録、さらにはカトリックの「禁書目録」など、それは多岐に及んでいます。(ちなみに皮肉な事にゲスナーの「萬有文庫」ものちにこの「禁書目録」へ入れられてしまいました)
対象を絞る限り全体数が少ないのでデータ配列の方法も単純な方法で事足りますが、ゲスナーの「萬有文庫」はフォリオ1264ぺージに及び、著者数5200名、文献数12000点というそれまでに例をみない膨大なものであったため(16世紀最大の目録)、ツールにも様々な工夫が凝らされることとなり、その意味で近世初頭におけるレファレンス書として象徴的な存在になりました。後世にも大きな影響を与え、ゲスナー自身「西洋書誌学の祖」という位置づけを得ています。
ゲスナーの「萬有文庫」はトリテミウスの目録の影響を受けていて、情報リソースの点でもこれを基盤に置いています。ゲスナーはそこに、他の書誌、図書館の蔵書目録、業者の販売目録、同時代人からの情報、実際に自ら手にした書物などの情報を付け加えて、古代から現代(16世紀前半)までに書かれた写本や印刷本の壮大な目録を作り上げました。
「ゲスナーとその著作」によると、彼がそのために行ったイタリア各地への旅行は、ヴェネツィアのディエゴ・ウルタド・デ・メンドーサの図書館、マルキアーナの図書館(ベッサリオン枢機卿の蔵書が入っていた)、フィレンツェのロレンツィアーナ図書館(メディチ家蔵書)、ローマのヴァチカン図書館、ボローニャのサン・サヴァトル図書館の様な当時の主要な蒐集を網羅しています。こうした図書館の閲覧の他にも、フランクフルト書籍市における渉猟や、懇意にしていたバーゼルをはじめとする印刷業者たちの助けがこれに大きく与かっている事は推察されます。
最初の著者名別目録、という栄誉はトリテミウスに譲ったものの、ゲスナーはそこでの時代順配列をアルファベット順へ改めて、「通読」から「参照読み」という時代のニーズに答えます。(但し姓ではなく名を先にしており、後に述べる学問分野の体系化のやり方と同様に、彼にも中世的な方法は残っていた)
また、長い著者略伝などを冒頭に置いた著者主体の目録ではなく、それを著作の記述を主体とする方向へ作り変えて、印刷地,印刷者,印刷年,などの刊本の出版事項や、判型、葉数などを記述しました。これにより版の同定・区別が可能となり、それは彼が各地の印刷業者と深く交際していた事による成果ともいえ、西洋書誌学上で画期的な業績とされています。(書誌学という学問自体に、業者やコレクターの知識を学問化した、という側面があります)
勿論、ある学問の始祖である事は、同時にその仕事にはプリミティヴな要素が強いことも意味しています。
雪嶋宏一氏の言うように、ゲスナーの目録には、詳しいデータを得られたものとそうでないもので記述に精粗の開きがあり、版の同定が可能かどうかがそこに依存するため、目録にある総タイトル数を挙げる事は簡単でも、それが実質的に何冊だったのかを同定することは困難です。印刷本で版の同定ができるようなデータが提供されているのは,雪嶋氏によると著者1706名の3855点数に過ぎないそうです。
また中世のパリンプセストのような場合、一冊の羊皮紙本に何冊かの著述が書き込まれていることは珍しくないので、彼が書誌記述を構成単位ごとに行っていた事実とも相まって、ここでも問題が生じます。
これに加えて、著者名目録である「萬有文庫」は訳書の場合だと、一冊の本を著者と翻訳者の両方のカテゴリに入れるというような方針もとっていました。
(以上の理由から、この目録は収録著者・収録著作には昔から異説が多く、例えば「ゲスナーとその著作」では著者数3000名となっていますが、ここではむしろ雪嶋氏による新説を採りました)
狭義の「萬有文庫」(Bibliotheca universalis) については、以上の通りです。
しかしこの書物は当初の計画では、第一部が著者名による目録、第二部が分類による目録、第三部が主題索引という全三部の構想でした。
1545年に出た Bibliotheca universalis はこの第一部に該当し、これ以後、第二部の分類目録にあたる『主題総覧』(1548年)と『神学の分類』 (1549年)が刊行されています。
この分野別の目録になる二分冊は、中世の学問体系による下の21分類からなりますが(前編に19分野、後篇に2分野を載せています)、ゲスナーによってそこからさらに複雑に細分化され、総計では40130に上りました。
1分野 De Grammatica & Philologia 文法・文献学
2分野 De Dialectica 論理学
3分野 De Rhetorica 修辞学
4分野 De Poetica 詩学
5分野 De Arithmetica 算術
6分野 De Geometria, Opticis & Catoptricis 幾何学・工学・反射光学
7分野 De Musica 音楽
8分野 De Astronomia 天文学
9分野 De Astrologia 占星術
10分野 De Diuinatione cum licita tum illicita, & Magia 予言・魔術
11分野 De Geographia 地理
12分野 De Histoijs 歴史
13分野 De diuersis Artibus illiteratis, Mechanicis, & alijs humanae uitae utilibus 諸芸・工学・有用な知識
14分野 De Naturali philosophia 自然哲学
15分野 De prima philosophia seu Metaphysica, & Theologia gentilium 第一哲学もしくは形而上学,ギリシア神学
16分野 De Morali philosophia 道徳哲学
17分野 De Oeconomica philosophia 経済哲学
18分野 De re Politica, id est Ciuili, & Militari 政治学・市民・軍事
19分野 De Iurisprudentia indices tres 法学の三つのインデックス
20分野 De re Medica 医学
21分野 De Theologia Christiana 神学
ゲスナーはここで中世の学問体系を漫然と引き継いだわけではなく、むしろ学問的要請と書誌実務の両方を満たす方向性を模索した痕跡がみてとれます。
彼は21の分野を必須学、周辺学、実質学という三つの体系に分けました。
それによると、まず第1~12分野にあたる学芸三科及び学芸四科が必須学と規定され、これに第13分野の技術・技芸が周辺学として補足されます。そして第14分野からは実質学(基礎学)が始まり、最後の第21分野に至るまで、ここでは主に哲学系統の学問が包接されています。
こうしたやり方には、この当時の大学人であった彼の教育カリキュラムの上での実用性の理解が反映されている、と捉えてよいでしょう。「もし21基礎区分だけに限定し、図書館分類によく見られる姿にするのならば、それはこれまでの中世の分類、学芸七科と技芸と哲学を比べて何ら新しさのないものになる」「しかしこの古い形式にゲスナーによる新しい配慮が個々の学問それぞれの内容理解に取り入れられるならまた違ったものになる」というシャムーリンによる言葉は、ゲスナーの意図を的確に言い表しています。
ゲスナーは分野別の書誌を編む際に、学問の配列に独自に新しい分類を創始する事はあえて行いませんでした。むしろ中世の伝統的な分類の上に新しい区分を導入することで時代のニーズに答えるやり方を採りました。というのも、彼が集めた文献は数世紀に渡る範囲に及んでおり、これらはその時代の学問内容と密着していて、ゲスナーの生きていた時代にはそれらを再定義して新たな分類を創設する条件は未だ整っていなかったからです。 「この制限の中でゲスナーは目録の利用者が実務的に利用でき、学問間の相互関係も働くようにした」というシャムーリンの言葉はこれも至当だと思います。
第三部の「主題索引」は出版されませんでしたが、これは第二部の第二分冊『神学の分類』の巻末に置かれました。この主題索引(Index communis)に採録された主題語は約4000語に及びます。
(また、さらに後になって、著者名目録の『補遺』が1555年になって追加されている事も付け加えておきます。)
ゲスナーというのは、西洋の本の話題になると必ず登場してくる「この人を知らないとモグリだよ」的な人物ですが、よく考えたらこれまでこのブログでは全く触れていませんでした。この目録の編纂によって注目された彼は当時欧州最大の蔵書家だったヤコブ・フッガーからその図書館の司書兼子息の家庭教師のオファーも受けていたが断ったそうです。
では最後に、ここまで触れた七つの歴史的なレファレンス書(①~⑦)における検索ツールの進展具合を振り返っておきましょう。
まず、本文自体の配列に関してはこうなっています。
ランダム配列 ③
年代順配列 ⑥
分野別配列 ④ ⑦
アルファベット順配列 ①② ⑤ ⑦
次に本文に添えられたリストないし検索の進展はこうなっています。
排列順項目リスト ABC順項目リスト 排列順項目索引 ABC順項目索引
② ④ ③④
排列順著者名リスト ABC順著者名リスト 排列順著者名索引 ABC順著者名索引
② ③ ③④⑥
排列順固有名リスト ABC順固有名リスト 排列順固有名索引 ABC順固有名索引
④
排列順事項リスト ABC順事項リスト 排列順事項索引 ABC順事項索引
④⑦
排列順綜合リスト ABC順総合リスト 排列順綜合索引 ABC順綜合索引
⑤
上記の表は、現実にそれに対応するものがあるかどうかよりも、むしろ概念だけで作ったものだから、本来であれば不要なカテゴリもあります。
まず、索引とリストの違いはページ数が付記されているか、いないかです。付記されていれば索引になり一応検索ツールに該当し、いなければ単なるリストです。
ありていに言えば、「排列順項目リスト」というのは表題一覧に該当し、「排列順項目索引」というのは要は目次のことです。
「排列順綜合リスト」なんてのは殆ど意味をなさない言葉ですね。重複を除けば本文そのものに近い。
より左、より上の方がプリミティヴで、より右、より下の方が高度です。従って、世の中の検索ツールの手法は、概ね左上から右下へと進む事になります。番号を付したのは、これまでに触れてきたどのレファレンス書がツール的にどこに該当するかを示したものです
辞書の場合これはもう本文自体が、排列順の項目リストであるとともにアルファベット順の項目リストでもあり、ページ数は当然付記されている以上、索引という事にもなります。従って本来なら上一列全部制覇でしょう。
ここまでお読みになって、おそらく気づかれた方もおられると思いますが、このブログ自体のコンセプトも、一種のレファレンス書です。
また、ゲスナーの項でツールの進展のくだりを読まれてお分かりになったかもしれませんが、列伝風の個人項目を「年代順」に並べていくこのようなやり方は、レファレンス書でも相当古い形式のものにあたり、むしろ近世以前の、中世に回帰するようなスタイルです。(ゲスナーよりトリテミウスに近い)
つまり、目録編纂の過程で記述のスタイルを進化させてきた西洋書誌学の常識からいえば、一番「やってはいけない事」にあたります。川瀬一馬のような例外もありますが、基本的にプロの人があまりやらないのはそのためでしょう。
■■■ 百科事典の時代
主に抜き書きからなるレファレンス書という形式が盛んだったのは17世紀までです。
18世紀になると、有名なチェンバースの百科事典(1738)や、それに影響を受けたフランス啓蒙主義者による百科全書(1751~1780)に代表される「事典」の時代へ移ります。そして世紀後半になると、今日まで版を重ねているブリタニカ百科事典(1768)が出現し、真打ち登場となりました。
百科事典も当然レファレンス書のうちに入りますが、17世紀のコモンプレイス・ブックとは大きな違いがいくつかあり、一番大きなものは「抜き書き」から「分担執筆」へと進んだことでしょう。
コモンプレイス・ブックのように色んなところからの抜き書きを構成しただけのレファレンス書はこの時代にはもう時代遅れになっていました。それでも初期の百科事典はやはり抜き書きが多かったようです。しかしフランスの「百科全書」で著名な人士による分担執筆という形式が登場して以降は「オリジナルの書物」という要素が徐々に強くなってきて、むしろこれ自体が情報のリソース(権威)になってくるわけです。(ブリタニカ百科事典の歴史はそれを如実に示しています)
では、以上のこれら三つの代表的な百科事典について語って行きましょう。かつてレファレンス書編纂において大きな問題だった学問上の分類体系と情報活用の効率性の間の緊張関係は、近現代の百科事典でもやはり依然として続いています。
⓪ この項は「チェンバース百科事典」→「百科全書」→「ブリタニカ百科事典」の流れを辿ってゆくのですが、実は18世紀にはそれらに先立ち、ドイツで相当な規模の辞書が出現していました。
ヨハン・ハインリッヒ・ツェドラー(Johann Heinrich Zedler 1706-1751)による万有語彙辞典(The Grosses Universal-Lexicon 1731-1754)は68巻、6700万語というから17世紀のコモンプレイスブックを遠く越えるボリュームです。分類の面では辞書にカテゴライズされるものの、百科事典的機能に主眼を置いており、事実上のエンサクロペディアとみていいでしょう。
辞書なのでアルファベット順配列だし、量的にも巨大ではあるけれども、後の「百科全書」にみられた言語・歴史・学芸科学というダランベールによる三区分は統合されてごっちゃになっているそうです。その意味でこの浩瀚な大著はこれから語る三つの百科事典に至る過渡的存在なのだと思います。
① チェンバースの「百科事典」(Chambers’s Cyclopaedia 1728)は、科学の各分野の事項を項目別に説明して、それら長短の記事をアルファベット順に並べた1巻本でした(ただし冒頭に知識の系統樹の図を加え、体系への意志もちゃんと示しています)。また、関連項目間に相互参照(クロスレファレンス)を付す手法は、現代的な百科事典の先駆けともいえ、編者イーフレイム・チェンバーズ(Ephraim Chambers 1680-1740)の名前はこれにより不朽になりました。
チェンバース本人は事典を、言い換えによる定義(文法的辞典)、言語の一般的意味での説明(哲学的事典)、学芸分野に関する独自な用語の説明(技術的事典)の三つに区分して、彼自身が編纂しようとする百科事典は、二番目の哲学的事典を目指した、としています。これをもって近代的な百科事典の誕生へ近づいた、と一応言えるのかもしれません。ただその結果、この事典には人名や地名などが記述される事はありませんでした。
1738年の第二版では2巻、2466ページになり、以後1751年まで5つのエディションが登場し、量的にも拡大されます。
とにかく、チェンバースの「百科事典」は海を越えたイタリアでは翻訳もされ、その評判はフランスへも届いていました。そしてこの事典の増訂版のフランス語版を作ろうという企画から、それが変更されて、ダンベールとディドロの編纂による『百科全書』の誕生へとつながってゆく事になりました。
② ディドロ他140人の著者を動員した「百科全書」(L’Encyclopédie 1751~1780)は十七巻、図版十一巻という大部なもので、語数は2500万語に及びました。これはアルファベット順の配列、多数の執筆者、多数巻、挿絵付きの図鑑スタイル、という近代百科事典のスタイルを確立します。
この著述にはツヴィンガーばりの知識の系統樹の図も付いていて、そこではダランベールによって言語・歴史・哲学(科学)という知識の三区分がなされていました。かつてベーコンが行った記憶力・理性・想像力の三区分を、同じように樹形図を付したチェンバースがフォローしなかったのに対し、百科全書による区分はむしろこれを基礎に置きました。
「言語」分野には、文芸以外に音楽や美術も入れられており、このカテゴリはどうやら芸術活動全体(ベーコンの「想像力」)を含むとみていいでしょう。
興味深いのは、工芸・技術が現在のように科学の下位カテゴリではなくて、「歴史」分野の中に自然史として加えられてる点です。この時点ではまだ近代史学は勃興しておらず、大学にも史学講座があまりない段階なので、あるいはこの「歴史」というカテゴリ自体が、アカデミズムの対象になっていなかった知識(ベーコンの「記憶」)を入れるために設けられているのかもしれません。
そして「哲学」という区分は、通常の学問全体を包摂するものとして立てられており、これがベーコンの「理性」にあたります。
ただ、フランスのアカデミーでは、まずアカデミーフランセーズ(言語)が1635年に作られ、次に碑文・歴史アカデミー(歴史)と科学アカデミー(自然科学)が1663年に作られる、という経過をたどっていて(かなりたってから社会科学を対象にした道徳倫理学アカデミーが設立)、管理人にはダランベールによる区分の仕方はこうしたフランスの学問社会の反映のようにもみえます。ちなみに、自然科学、社会科学、人文科学という現在の学問分野の区分では、御存知のように歴史は社会科学の一分野として包摂されています。
このような構成面以外に、この百科事典で最も際立った特色といえば、啓蒙主義者たちによって教会や国家への批判が書き込まれ、彼らの思想の下に世界を再定義するという意図を持っていた事でしょう。16,17世紀のレファレンス書がわりと素直に世界を記述しているのに比べて、18世紀の百科事典は世界の再定義という側面が強く、そういう要素が特に顕著なのがこの「百科全書」です。
ともかくこの「百科全書」は4235セットも出て大成功をおさめ、国外で販売された廉価版まで含めると25000セット、これだけの大冊でここまで売れるのは異例であり、18世紀啓蒙主義の記念碑的な出版物となりました。 版を重ねる事はなく、オリジナルのパリ版はすぐ世の中から消えてしまいましたが、刊行直後からこれを拡充しようとする「後継書」や「模倣書」が頻出します。
「系統的百科全書」(Encyclopedie methodique 1780-1791)210巻は、「百科全書」の出版にも参画していたパンクークによるその後継書です(拡大版といってもいい)。しかしディドロの承認を得ていないので正当性には疑義もあります。これは50年かけてなんと210巻に達します(綴じ方によって216巻にもなる事も)。ラマルクやTジェファーソンが項目を担当しています。
「イベルドン百科事典」(Encyclopédied’Yverdon 1770-1782)58巻は、フォルトナート・フェリーチェによってスイスで刊行されました。さほど反カトリックを出さず、「百科全書」の対抗書とみていいかもしれません。執筆にはオイラーも参加していました。
「経済学百科全書」(Oekonomische Encyklopädie 1773-1858)242巻は、ドイツのヨハン・ゲオルク・クリュニッツの編纂による百科事典。当初1770-1771年に16巻で出されたものの、再版され、こちらの方は彼の死後も継続されて242巻・170000ページにも拡大しました。
これらは西洋の百科事典史上でおそらく量的に最大規模でしょうが、「百科全書」のようなベストセラーとはなりませんでした。また「系統的百科全書」を編纂したパンクークは、「百科全書」の内容に最新の知識を増補したものの、そのアルファベット順構成を分野別に再構成してしまい、歴史に逆行した格好です。
ところで、これらよりはるかに小さなブリタニカ百科事典初版も同じように「百科全書」の影響から生まれた書物です。思想的には多少異なるものの、真の後継者はむしろこちらだったのかもしれません。
③ 1768年に出た「ブリタニカ百科事典」(Encyclopædia Britannica)の初版はわずか3巻。 「百科全書」の成功に刺激を受けて編纂された百科事典には上記のような巨大な書物がありましたが、このブリタニカは誕生当初はごく小ぶりなサイズです。出版に携わったのはスコットランドのカルヴァン派に近いグループであり、ジョンソン博士の辞書における「我々が豚に与えるような麦をエジンバラでは人間が食べている」という例文に反して、ヒュームやアダム・スミスなどを擁したこの当時のエジンバラの知的興隆を伺わせます。 ただ事典自体は、多数の著者を動員したフランスの大百科事典の影響下に出発した割に、単独の著者による執筆という古い形式へ後退していました。とはいえ3巻本で3000セットというから「百科全書」には到底及ばないもののまずまずの成功でしょう。 アルファベット順で数行の小項目と長大な論説項目が混じって配置され、以後これが同百科事典の伝統になります。ただ、現在ではこの初版は他文献からのコピーが多くオリジナリティには欠けているという評価です。思想的にも百科全書に比べ保守的だと言われています。
1777年に出た第2版は10巻で、だいぶ百科事典らしくなりました。初版で省かれた歴史・伝記的項目も取り入れられています。しかしやはりコピーが多かったので、訴訟もいくつか起こされました。
1788年に出た第3版は18巻です。これまでの二つのバージョンが、編集者の個人著作という趣が強かったのに対し(また一個人の能力の限界から他文献からのコピーが多かったのに対し)、この版からは複数の執筆者を動員することになります。おそらく前の版で訴訟が提起された事が影響したとみられ、その意味で「百科全書」にかなり近づきました。60ページに渡る「文法」項目などは歴史的にも評価が高く、結果的にこの版はこれまでイギリスで生み出された最良の百科事典とみなされました。
しかし、この百科事典が「真に偉大なレファレンス書」となるのは、次の19世紀です。とりわけその半ば以降には、大英帝国の興隆とも相俟って、全世界の百科事典のスタンダードとしての地位を確立していくのはご存知のとおりです。
現在まで版を重ねているブリタニカ百科事典には、諸方面から称賛された名だたる版がいくつか存在します。とりわけ”The Scholar’s Edition”(学究に愛された版)とも称された第9版(1875-1889)は、ヴィクトリア朝時代の知の象徴と言えるものだし、版権がアメリカへ移動してやや記事が短くなった第11版(1910-1911)も、その分、項目数が増えてこれまでで最も詳細なレファレンスの一つと称され、学術的評価の点でも第9版に引けを取りません。 1974年の第15版以降は、小項目事典、大項目事典、索引の三部構成となり、2010年の最後の版では32巻、4000万語に達しました。
ブリタニカ百科事典は紙の最後の版が2010年なので、世の中から百科事典が消えて、ちょうど10年経ちました。
この百科事典は執筆者の顔触れが凄いことで有名で、ハイデッガーが「現象学」の項目を執筆したりしています(しかし師のフッサールが書き直す)。また、一つ一つの記事が長く、論文と言ってもおかしくないようなものが少なくありません。中公の「世界の名著 現代の科学」に載ってるマックスウェルの著述なんかも、もとはこの百科事典のために書かれた単独項目の記事でした。
ブリタニカ国際百科事典(1975年以来刊行されている日本語版)のサイトをみると、これまでのブリタニカ百科事典の著名な項目執筆者が載っていて、すでに初期の段階でロックやフランクリンが書いていたようです。それによると、
ジョン・ロック『人間理解』、ベンジャミン・フランクリン『電気』、リカード『ファンディング・システム』、マルサス『人口』、W・スコット『中世ロマンス』『騎士道』『戯曲』、ジェームス・ミル『政府』ほか12項目、ウィリアム・ハズリット『美術』ほか3項目、J.-B.ビオ『電気』『電流』『振り子』、D.ブルスター『写真術』、J.H.バートン『投票』『共産主義』、ケルヴィン卿『電信』、ロバート・スチーブンソン『鉄橋』、ウォルター・バジョット『動産銀行』、P.クロポトキン『アナーキズム』、アーサー・S.エディントン『星雲』、ファン・ヒョーゲル『ヨハネ福音書』、ジェームズ・H.ジーンズ『分子』、ジョーゼフ・リスター『粘菌類』、アーネスト・ラザフォード『放射能』、マリー・キュリー『ラジウム』、L.D.トロツキー『レーニン』、ヘンリー・フォード『大量生産』、アインシュタイン『時空』、フロイト『精神分析』、バーナード.ショー『社会主義-理と展望』、G.K.チェスタートン『チャールズ・ディケンズ』、ジョン・スマッツ『全体論』、スタニスラフスキー『劇場』の一部、ラルフ・バンチ『モザンビーク』ほか3項目の一部、アルフレッド・ヒッチコック『映画』、A.J.トインビー『カエサル』、ポール・サミュエルソン『福祉経済』などなど・・・
トロッキーが執筆した「レーニン」の項目なんてぜひ読んでみたいものですね。
日本版のブリタニカ国際百科事典でも、遠藤周作『サド』、江藤淳『夏目漱石』、岡本太郎『仮面』、竹内均『地球』などがあり、現在の版にある項目としては、養老孟司「解剖学」、ドナルド・キーン「三島由紀夫」、アーサー・C.クラーク「SF」、ヴェンダース「小津安二郎」、J.F.ケネディ「エルズワース」などを読むことができます。
この百科事典はかなり早い段階から国際的な知の標準としての地位を確立していたらしく、アメリカではワシントンやA・ハミルトンが最初の購入者になっているし、日本でも丸善が輸入販売を始めたときは購入リストに伊藤博文、後藤新平、新渡戸稲造、尾崎行雄、徳富蘆花、犬養毅などが名を連ねています。
これを全部通して読んでやろうなんて人も昔から結構多いです。 著名人であれば、バーナード・ショーが全巻読破したと豪語していました。名前は忘れましたが、たしか日本の英語学者にも二回読破した人がいたはずです。林修さんの様に「広辞苑を二回読破した」ぐらいならまだ分かるんですが、こうした何十巻もある大冊の場合、数年がかりの大仕事でしょう。
≪補≫
チェンバース百科事典も百科全書も共に知識の系統樹を冒頭に掲げて体系化への意志を示しているものの、書物の編纂自体はアルファベット順になっています。この理由として、ピータ・パークやこれを引用した本田毅彦は18世紀の社会観の変化(平等化)の影響を挙げていますが、管理人には、個人の社会意識が書物編集の技術に相即的に直結する機序がやや曖昧に感じられ、ツールの利便性を追求した16世紀以来の検索技術の発展から捉えた方が自然に思えました。(両者共にアン・ブレアの仕事が出る以前の指摘です)
ただそうはいっても、18世紀フランスを代表する2大レファレンス書である「百科全書」と「ビュフォン博物誌」の編著者の間には対立関係があった事実は示唆的です。百科全書というアルファベット順配列の「百科事典」と、ビュフォン博物誌という分野別配列の「図鑑」にみられる相違は、当時のアカデミーにおけるダランベールとビュフォンの個人的対立を背景としていたので、これを政治的なものと捉える見解は現在でも存在するからです。 管理人はむしろ、図鑑というジャンルはアリストテレスの「動物誌」以来の学問的な知識分類をどこまでも引き継いでいるだけに過ぎないと思っていますが、ここは後で「図鑑」の項で改めて詳説します。
■■■ おわりに
18世紀以前の西洋のレファレンス書の邦訳はさほど多くはありません。
管理人の知る限りでは、アクレクサンドリアのクレメンスの「ストロマティウス」が出ていますが、あれはキリスト教の概説という面が重視されたんだと思います。他にはゲッリウスの「アッティカの夜」も今刊行中です。あと抄訳なら「ローマ法大全」のガイウスによる「提要」だけが出てたと思います。
ただ、これらはいずれも古代の書物であって、この項で語ったような、巨大な情報量を持つ近世のレファレンス書、となると甚だお寒い限りです。昔から18世紀啓蒙思想への偏向が指摘され、ルソーのマイナーな初期著作を文庫で出してる程の岩波書店ですら、「百科全書」は序説と数項目の抜粋でしか出していません。
個人的にはやはり「スーダ辞典」や「人生の劇場」あたりがあれば、と思うところですが、出版社にとってみれば、専門家を動員して厖大な労力を費やして訳してみたところで「誰が買うんだ」「誰が読むんだ」という話になるんでしょう。もっとも、編集史や書物史の文脈ではかなり重要なので、ゲスナーぐらいは将来どこかが訳してくれる可能性も無きにしも非ずです。
もちろん「16世紀のラテン語辞書を訳してどうする」といった意見は御もっともなのですが、ツヴィンガーやゲスナーの書物が「ある種の名著」である事は否めないし、なにより情報量の豊富さと、突出した主義主張が目立たない点では、スタンダードな古典以上にこの時期の欧州社会を理解する道具に成得るはずです。通常「名著」として翻訳の対象になるような書物は、特定の思潮の或る発展段階を体現するようなものが中心で、その当時における一般的な書物とはとても言えないような代物が多く、この時代の教養層にどの程度影響を与えていたのか、首を傾げるようなものすら散見されます。
そこへいくと、これまで語ってきたような著名なレファレンス書は大部であるにもかかわらず、かなりの部数が出ているので同時代的な影響力は半端ではありません。「人生の劇場」ならケプラーやモンテーニュも持ってたし、ヘンリー8世も所有していた「ポリアンテア」に書き込みを残しています。
一
序説のテーマにそもそもこれを選んだ理由は、レファレンス書と個人蔵書の少なからぬ類似点でした。
まず、レファレンス書を作るには膨大な書物が必要になります。そのためか、こうしたものの編纂者には、著名な蔵書家や、大きな蔵書にアクセスできた人たちの名前が目立ちました。
ローマ期に百科事典を書いたヴァロは当代を代表する蔵書家だったし、中世初期に「語源」を書いたイシドルスもそうでした(共に本篇で項目を設けた人物です)。
近世になってもこうした事情は変わりません。 242巻に及ぶ西欧最大の百科事典「系統的百科全書」を編纂したゲオルグ・クリュニッツには15000巻に及ぶ個人蔵書があったと言われています。わが国でも「群書類従」の塙保己一や「古今要覧稿」の屋代弘賢、「広文庫」の物集高見などのこういったケースはよく知られており、昭和期へ目を移しても、かつて平凡社「世界大百科事典」の編集長を任されていた(名貸しかもしれませんが)加藤周一や林達夫は、彼ら自身が万クラスの書物を所蔵する大蔵書家です(この事典を始めた下中弥三郎もまたそうでした)。
大きな蔵書にアクセスできた人たちの方へ話を移せば、アレクサンドリア大図書館の司書デメトリオスにこの種のものを書いていたという逸話が残ってますし、「英語辞典」を編纂したサミュエル・ジョンソンはジョージ三世の蒐集助言者の立場にあり、その図書館にフリーパスで出入りできる存在だった事はすでに本編でも書きました。かのゲスナーも目録編纂のためのイタリア旅行で、昔日の大蔵書家たちが残した図書館を片っ端から訪問していたものです。
時期的にその盛衰をみていく場合でも、個人蔵書とレファレンス書には妙な並行関係があります。とくに近世という時期においてはそれが強く言えます。
近世初頭になって、蔵書家が数においても規模においても増大するのと軌を一にして、このような書物もまた、数・規模ともに飛躍的な拡大がみられました。おそらくその主な理由は、蔵書家と言えるほどの書物を持てない人たちが知識を得るためにこのような出版物に頼ったからだと思われ、この意味で、レファレンス書は潜在的な個人libraryとして機能していた、という事が言えるのだと思います。
またレファレンス書にはその構成面においてもライブラリー自体を一冊の本にしたようなところがあります。
かつてライプニッツは、ヴォルフォンビュッテル公の図書館の配列についての構想を練りつつ「図書館は百科事典のようでなければならない」と書簡に書いていました。
17世紀後半を代表する大蔵書家だったコルベールの書斎では、本は分野別に本棚に収蔵されていましたが、これと同時に、使用頻度の多い書物をまとめたアルファベット順の表も貼ってあり、コルベールは適時これを参照していたそうです。この様子は、この時期のレファレンス書の多くがいまだ分野別の構成をとっていながらも、補助的に巻末にアルファベット順の索引を付していたのと酷似しています。 要するに、コルベールの書斎自体が一冊のレファレンス書と同じような構成になっていたわけです。
この項では、アン・ブレアの記述に沿って、情報検索への便宜性に重点を置く立場からレファレンス書の構成の進展をみてきました。そして、そうした流れの行きつくところは、けだし全体をアルファベット順の構成にして、多種の索引ないしは総合索引を付す事でした。
しかし、ここからレファレンス書と個人蔵書に大きな違いが出てきます。なぜなら個人の蔵書家で、自分の書棚をこのような配列にしている人はあまりいないからです。
(はっきり口にするか、しないかはともかく)そもそも世の蔵書家が一番強い拘りをみせるのは、「この本の隣にはこの本がなければならない」「この本とこの本は一緒にしておかなければならない」という事であって、実はそのような動機だけで本を買う人も少なくありません(蔵書がバラバラになる事に強い抵抗を示し、無償であってもまとまった形での移譲を切望する蔵書家が多いのはそのためです)。 その意味で彼らの書棚はまさに分野別の配列なのですが、この分野を設定する基準は、一般的なものというよりも、個人的な着想や思い入れに根差したものです。
Aマングエルは、かつてカッシーラーがオットー・ヴァールブルクの巨大な書庫を見学した時の事を記しています。
楕円形の中央閲覧室の書棚に並ぶ本は、美術史と宗教・神話が、あるいは言語学と文化史が混ざり合っており、ヴァールブルクの思想の中ではそれらが互いに関連しあい、一つの概念の中核を形成していました。この図書館には系統だった秩序やアルファベット順、分野別などの分類原理が存在しませんでした。
またヴァールブルクの複雑な思考に従って配列された本は、彼の考え方の変化によって常に並べ方が変えられました。背表紙のタイトルを眺めているだけで酔ってしまいそうなこの書棚は、カッシーラーによって「魔術師の息づかい」と表現されました。
中央閲覧室が楕円形に設計されているのは、おそらく流動性が本棚による鋭角的な遮断を受けないように配慮されたものとみられ、その意味でも確信犯的な図書室だった、という事が言えるかもしれません。 カッシーラーは、「二度とここへは近寄りません。この迷路に入り込んだら二度と出てこれなくなるだろう」という言葉を残して立ち去っています。
だから同じ個人蔵書であっても、このような私的性格の強い蔵書ではなく、むしろ公的な性格の強いタイプにおいて、そこでの目録の編纂等が本(つまり知識)の分類の規範になってきた歴史が西洋にはありました(上述のヴォルフォンビュッテル公やコルベールの書斎は個人所有であっても極めて公的性格の強いものです)。
この点は中国や日本でも同じかもしれません。しかし西欧ではその結果、19世紀後半以降には目録編纂者に代わって図書館学者が書物分類(知識分類)の主役の地位を担うことになります。そして彼らの図書実務に根差した知識の分類のやり方は、知識を分類するもう一つの集団、つまり学者による学問分類と、衝突とは言えないまでも幾分かの齟齬を見せ、その緊張関係は現在でも続いています。
近世初頭に誕生したレファレンス書においては、「コモンプレイスブック」のツヴィンガーも、「目録」のゲスナーも、共に知識をいかに分類するかという問題に直面していました。 晩年のツヴィンガーが樹形図にのめりこみ、この世界の知識をいかに分類するかの泥沼へ入り込んでいったのに対し、ゲスナーは当時の基本的分類に変更を加えず、それに独特の工夫を凝らすことで図書実務や学問的な要請を満たそうとしました。(ここはゲスナーという人物のクレバーなところだったかもしれない。)
しかしこの問題への挑戦は、ツヴィンガーの「コモンプレイスブック」の継承である「百科事典」の世界でも、ゲスナーの「目録」を継承する図書館学の世界でも、ひきつづき繰り返されることとなります。
非常に妙に感じるのは、目録編纂=図書館学の系統の知識分類が学者たちによる知識分類と相応の緊張関係にあるのに比べて、百科事典における分野別構成の方はそことあまりトラブルになってない点です。これは何故なのでしょうか。
おそらく百科事典における知識の分類は、この媒体が19世紀以降からは執筆者に専門家(つまり学者)を動員する様になった事により、学者による学問分類とは大きな衝突をみなかったものと思われます。すでに「百科全書」の時点でベーコンによる分類の大枠での踏襲がみられます。
出版上の問題として、大項目と小項目のバランス等の書物編集面における試行錯誤はその後も継続しました。しかし知識そのものの内容に関わるような分類に関しては、大域的にはともかく小域的にはその後は見るべきものがありません。なぜなら個別の学問分野に範囲を限ってみれば、その学問において各事項の位置づけにコンセンサスが存在するのはごく通常の事だからです。
この点、始祖のツヴィンガーが泥沼に入り込んだのとは逆に、後継者たちのそれはわりとあっさりした展開をとったわけです。
これに対し、目録における分類、あるいは図書実務に密着した分類の方は(始祖たるゲスナーがそれをあっさりと上手くいなしたのにも拘わらず)、以降の展開はむしろ様々な分類の類型が登場して、泥沼の様相を呈するに至ります。途中で主役が目録編纂者から図書館学者へ変わった事でこれにはさらに拍車がかかります。(ここはまた後で詳しく書きます)
二
レファレンスブック”を序説のテーマに選んだ事から凡その見当がついたのは、欧州でラテン語が支配的であった時期についてでした
西欧中世にあっては、教養層にとっての書物世界はまずもってラテン語の世界であり、その意味で欧州はまさに一つでした。これに対して西欧近代では国民国家が成立し、学術・文芸ともに各国語のうちに書物世界が形成されます。この意味で欧州は一つではなくなりますが、その代わりに知識面での上下の階層性が崩れ、国民が一つになった、という事が一応いえます。
中世と近世のこの対比は大きくは間違っていません。しかし歴史の常としてそれほどの単純化をも許しません。
なぜならラテン語は近世に入っても長く使われ続け、15世紀の終わりから、16、17世紀は勿論、18世紀ですら学術・文芸のための公式的な地位を失ってもいないからです。過渡期というにはあまりに長すぎ、また境目も不明瞭なこの時期をどう取り扱うかで、今までぐずぐずしていたわけです。
ところがレファレンス書においては、実はこの区分が非常にはっきり出ています。
百科事典が主流になる前の、アン・ブレアが検索ツールの進展において議論の対象にした近世初頭のレファレンス書は、すべてが16,7世紀のラテン語著作なんです。これに反して18世紀の「百科全書」以降の百科事典は、概ね俗語(各国諸語)による書物です。
レファレンス書の場合、書物編集上のテクニカルな技術の形成が16,17世紀にラテン語話者(筆者)たちの世界で行われ、書物を出版する上での体制の整備が18,19世紀に各国諸国語の話者たちの世界で行われていた事実は極めて示唆的です。
(もちろん実際にはそこまで単純化できません。ブレアが対象にしたのはほとんどが16世紀のレファレンス書であり、パイヤーリンクも17世紀の前半です。一方、最初の俗語によるモレリの歴史事典は17世紀終わりにはもう出てました。だから境界は50年ぐらい前へずれる印象で、あくまで社会の受容を含めての話になります。)
ヨーロッパが世界全体を支配するのに費やした16,17,18,19の四つの世紀(20世紀は支配を維持した世紀、21世紀は支配が揺らぎかけた世紀だとして)のうち、
レファレンス書という書物の一形態の発展においては、前半の16,17世紀と後半の18,19世紀で、それぞれラテン語と諸国語、テクニカルと社会制度、欧州共通と国民国家などの対立軸ができている事は管理人にとっても意外な知見であり、いまから近世西欧篇を書くにあたって羅針盤として参考にさせて貰う事にしましょう。
(現在の状況がむしろ前者と酷似している事はすぐお分かりだと思います。今は近世初頭を思わせるような情報爆発の真っただ中にあり、テクニカルな情報検索や解析の手段が頻出し、英語(それ以上に数学・数式)がかつてのラテン語のような国際的学術共通語の地位を得ていて、かつては各国間で話の通じなかった哲学のような分野ですら概念の互換性や方法論の共有が実現しています。EUも政治・経済・文化・理念等での欧州統合を進めています。)
三
ここまでレファレンス書、レファレンス書と耳慣れない言葉を何度も使ってきました。具体的なイメージが湧かない方もおられるかもしれません。
よく映画などで西洋の立派な書斎のシーンが映るシーンがあります。一様に金文字の同じような規格の書物がズラッと並んでいて、大きさも配色もバラバラな日本人の本棚とは一線を画しています。
山本周五郎の「汚い本棚」という表現は、これはむしろ内容の支離滅裂さについて言ったものなんでしょうが、一般的にわが国の蔵書家たちの本棚が絵面の面でどうしても汚らしく見えてしまうのは、興味の赴くまま本を買っていくとどうしてもそうなっていくからであって、これはいた仕方のない話です。
これに比べて西洋のああいうゴージャスな書斎の場合、本の大きさや装丁が一様なのは、百科事典や叢書・類書などの多巻レファレンス書が中心だったからであり、これはいかに上層の人たちが教養の証としてそういうものを買い集めていたかをよく物語っています。
大冊の組み物を来客に見えるような位置に置く風習は洋の東西を問わないようで、かつて田中慶太郎も清末の頃の中国で地位のある人なら応接間などに「十三経注疏」や「二十四史」「資治通鑑」を備えていたものだと語っていました。
こういうのが悪い方向へ進むと、「来客を威圧するためならオブジェでもいいんじゃない?」って話になります。ちょうどレファレンス書のブームがまっさかりの18世紀のロシアで、クロステルマンって人が紙くずで作ったオブジェの本を売って少なからぬ財を築きました。これを購入した貴族たちが偽の図書室を作ってまさに悦に入ってたわけですが、室内装飾家が壁面に本棚の絵を書いたりする事は現在でもよくありますね。最近はテレワーク向け商品として このようなもの も市販されているようで評判も上々です。
管理人はむしろ見てくれの汚い、装丁がバラバラの本棚こそが知の証という気がしていますが、その一方で、このような大部でゴージャスなレファレンス書が自宅に揃っている環境には、それが住宅事情から望めないものであることは承知の上で、一抹の憧れも残ります。
あちらは5ヶ国語ぐらい解する人はザラにいるので、英・米・仏・独・伊・西のスタンダードな百科事典を自邸に揃えて、金文字の分厚い書物で大きな壁を作るのも一興でしょう。ただ、今ならネット上のwikipediaが語数にしても項目数にしても百科事典としては史上最大規模だし、これはその各国語版も機械翻訳によって不完全ながら大意が掴めます。
むしろ管理人が関心を持ってるのは、近代の百科事典が版を新しくするたびにこの世界を再定義する機能を担ってきた事の方で、それはおそらく「より正確に」「より詳しく」といった利点だけにとどまらないと思われます。必ずそれに相応して、こぼれ落ちてしまった事実や視点が無数にある筈で、言葉の問題が何とかなるんなら、ブリタニカやブロックハウスのような数百年間版を重ねてきた百科事典の古いバージョンを並べて自由に閲覧してみたい、という気持ちの方が強いです。 暗黒時代とされる黎明期ギリシアや6世紀以前の西欧中世にも、仮にこうしたものが一つでも存在していたとすれば、それこそ人類にとっての至宝となったのではないでしょうか。(イシドルス『語源』は、中世初期ではなくむしろ古代の知を載せていた)
レファレンス書には「参照読み」という側面もあれば、自邸に手っ取り早く「人類の知を所有する」という側面もあります。今日はそういうレファレンス書についてお話しました。
情報爆発Ⅱ
アン・ブレアの本では18世紀のレファレンス書までしか扱っていません。これはご本人が近世初頭を専門とする史家である事と、基本的な文献検索技術がこの時期に確立した事をテーマにした本だからです。
なので、それ以後の現在までの展開を今から見てゆこうと思います。というのは、今現在がちょうど第二次の情報爆発の端緒の時期にあり、こうしたレファレンス書がネット時代に入る直前に辿り着いた最終的な飽和状態を、ほんの少し前に私たちは目の当たりにしたばかりだからです。
初めの部分を緻密に記述したこの名著に及ぶとも思えませんが、終わりの部分まで粗筋だけでも書きなぐっておかなければ、レファレンス書の興隆という事態で近世の個人蔵書を裏側からフォローしようとする意図に鑑みて不完全のそしりを免れないからです。
ところでヨーロッパにおいてレファレンス系の編纂物が本当にピークに達したのは、むしろこの次の19世紀だったのではなかったか?とも思われます。
これは、ツールが整備された事を背景にいよいよ本腰を入れてこの世の中の情報をまとめてみよう、という機運が高まったのかもしれません。英仏独いずれの国においても、これに国民国家成立の意志がリンケージして、大事典の編纂は半国家事業の体を成しています。
しかしその19世紀に行く前に、ここで少し足踏みしてみます。
■■■ 情報爆発Ⅱ 18世紀再論 辞書の誕生
アン・ブレアによる18世紀の記述は主に百科事典をめぐるものでしたが、この時代、これと並行して辞書に関しても重要な動きがありました。「百科事典とは区別しうる辞書」というものの誕生も、やはりこの頃にあたるわけです。
たしかにこれまでにも偉大な辞書はいくつも存在していました。ビザンツ時代のスーダ辞典や、ツェドラーの万有語彙辞典(独)など、その例はいくらもあります。しかしこれらは、百科事典との明確な線引きが今一つ弱いんです。
そもそも固有名詞も多く載せているような大きな規模の辞書というものは百科事典としてもある程度は使えるわけです。それは広辞苑をほとんど百科事典代わりに使ってる人が多い事実からお分かりだろうと思います。
辞書の大きな特徴はまずアルファベット順という点ですが、レファレンス書が検索機能の強化に重点を置いてゆく中で、「百科全書」のようにアルファベット順配列を採用した百科事典が次々と誕生している時代にあっては、辞書本来の機能がより強調されざるを得ないのは自明の理でしょう。これに加えて、辞書がその国の言語を対象とするために、国民国家が形成されようとするこの時期にあっては、正しい語義・用法を確定しておく必要性もあって、この流れは一層加速されます。
前回の「情報爆発」はアン・ブレアの同名著書を手掛かりに進めました。ただこの本は、同時代に生きていた学者たちのノート(手稿)作成の変化にも大きな分量を割いており、ご本人の次の仕事はこっちの方面を追求する事に向かっています(歴史屋さんというのは新史料の発掘こそがスポットライトの当たる商売なので、古いものとはいえ既成書を扱うよりそっちへ向かうのは当然かもしれません)。
で、ここからは本田毅彦著「大英帝国の大事典作り」を手掛かりに始めたいと思います。近世初頭の検索ツールの進展を実証したアン・ブレアほど派手な仕事ではないものの、こっちも地味ながら中々好著です。
以下、「オックスフォード英語大辞書」の誕生に至る前史として、以下に西洋の辞書の歴史を語るうえで画期的な意味を持つ英仏の二大辞書、アカデミーフランセーズ辞典(仏)とサミュエル・ジョンソンの英語辞書(英)に触れておきます。
① 「アカデミーフランセーズ辞典」(Dictionnaire de l’Académie française 1694)
辞書というものは概して必要に迫られて作られます。日常的な用語を対象にした辞書がまず作られ、次に専門的な用語を対象にした辞書が作られ、それから二か国語の辞書が作られる、と一般の人は思いがちですが、現実は逆です。
実際には国語辞書よりも先に二か国語辞書が作られて、そして国語辞書が作られる場合も、一般的な単語ではなく特殊な専門用語や難解語を対象にしたタイプの方が最初に登場しました。つまり常用語を対象に辞書が編纂されるまでには、社会や文化がある一定段階まで発展している必要があるわけです。とりわけアカデミーフランセーズ辞典の場合は、フランス語の正式な語義や用法を国が定めるという目的を持つので、国民国家の成立が前提されています。
ヨーロッパではすでに十七世紀初めの段階で、イタリアのアッカデミア・デル・クルスカが作った辞書に、用例を多く取り入れ、出典も詳細に掲載している例がありました。これを受けてフランスでも中央集権化を進めようとするリシュリューが、国民国家の前提となる国語の保存と純化を目的に辞書編纂を計画し、そのための学術団体(アカデミーフランセーズ)を1634年パリに発足させます。
60年後、アカデミーフランセーズの辞書委員会によって刊行された二巻の辞書は、トーマ・コルネイユ編纂による学芸・科学用語辞典の二巻と対になっていて、この辞書の「常用語を扱う」という性格がはっきり際立たせられていました。
刊行が1694年なので、本来十七世紀末の書物なんですがそれ以後、二版1718,三版1740,四版1762,五版1798,六版1835,七版1878,八版1935,九版1986 と現代まで途切れる来なく版を重ねています。18世紀に四度、19世紀と20世紀にそれぞれ二度ずつの改訂を行っている事実は、フランスという国家が革命による価値観の転換をはさみながらも、常に正しいフランス語の用法を示そうという意思を継続させてきた事の表れとも言え、国家による言語の統制と言ったらおかしいけれど、あらためてこの国特有の中央集権制の強さを感じさせます。
これは次の「サミュエル・ジョンソンの英語辞書」にも大きな影響を与えたという事で、それと並べておきます。
② 「サミュエル・ジョンソンの英語辞書」(Johnson’s Dictionary of the English Language 1755)
フランスによるアカデミーフランセーズ辞典の完成はイギリスにも刺激を与え、辞書編纂の機運が高まります。ただ、フランスのようにそのための学術団体を組織しようという考えに対して、ジョンソン博士は懐疑的・侮蔑的な言葉を残しています。
そもそもイギリスは辞書に関しては欧州を先導してきた存在でした。二か国語ではない自国語のみの辞書も、欧州の他の国に先んじて刊行しています。
イギリス最初の辞書は1440年の文法学者ジェフリーによる「ローマ語と英語の宝庫」だとされています。しかし、これは英単語とラテン語単語を対応させた英羅辞書(二国語辞書)でした。しかも名詞と動詞だけの10000項目です。
そして1604年になって、ついに最初の英語辞書として「ア・テーブル・アルファベティカル」(ロバート・コートリー編纂)が刊行されました。仏伊はこれを追う形で、8年後に最初のイタリア語辞書が、35年後に最初のフランス語辞書が刊行されています。 ただ、この「ア・テーブル・アルファベティカル」は難解な語のみを対象にした辞書であり、誰でも知ってるような基本的な語は省かれていました。前述した様に、こうしたスタイルは辞書としてはプリミティブな部類に属します。
このタイプで頂点をなしたのが、1721年のナサニエル・ベイリーによる「ユニヴァーサル語源的英語辞典」(Universal Etymological Dictionary)です。これには四万語が収録されています。やはり彼の編纂にかかる1730年の「ディオクティオーナーリウムブリタニクム」(Dictionarium Britannicum) では収録語数はさらに増えて四万八千語に達しました。実はジョンソン博士が自らの辞書を編纂する際に底本にしたのがこれでした。
1755年に刊行されたサミュエル・ジョンソンの英語辞書は、上述したようにナサニエル・ベイリーの Dictionarium Britannicum を基礎に置いて編纂されましたが、出来上がったものは大きく異なっています。アカデミーフランセーズ辞典において示された辞書編纂の方向性が「百科事典と区別しうる辞書」へ向かっていたとすれば、名高いジョンソン博士の辞書はその金字塔と言える存在です。
主に難解語や専門用語を対象にした辞書から、むしろ常用語の語義や用法を詳細に説明する事へ重点を置き、そのために国民的な詩人・作家の著述からの用例も豊富に載せる方向へと明らかに舵をきっており、しかも特筆すべきはジョンソンはこれまでにないくらい用法を多く集めた事です。
(百科事典がわりに使ってるような辞書から、「辞書としての辞書」の存在を確立したのが、このジョンソン博士の辞書である、と爾来語られてきたわけでありますが、ただこれはこれで今度は文法書との境目が曖昧になりはしないか?という気もします。構成をアルファベット順から体系的な分野別に戻せば、文法書とあまり変わり映えしないからです。
アン・ブレアの「情報爆発」の項で長々お話してきた検索ツールの完成に加えて、これによっていよいよ全てにおいて完備したレファレンス書を編纂する条件が整った事になりました。
■■■ 情報爆発Ⅱ 19世紀 大英帝国の三大レファレンス書
19世紀の大英帝国では、すでにご紹介した「ブリタニカ百科事典」がどんどん版を重ねて内容を充実させてゆくのと並行して、「オックスフォード英語大辞典」や「イギリス国民伝記事典」のように今日でも盛名の衰えていない巨大な編纂物が作られました。
元来イギリス人は辞書の編纂が得意とされているのですが、これら三つの書物はイギリス社会の知のインフラを整備し、ひいてはイギリス国民を文化的に統合して、その結果イギリスという国民国家を作り上げる作業でもありました。同時期のドイツにおけるグリムの「ドイツ語大辞典」やフランスの「リトレの辞書」などにも多かれ少なかれ似たような意義があり、これらの大規模な編纂物は19世紀における国民国家成立の反映ともいえるでしょう。
日本における「故事類苑」や清朝の「四庫全書」のような国家事業ではないものの、これらはツヴィンガーやゲスナーによる16,7世紀のレファレンス書がまったくの個人的営為であったのとは明らかな相違を見せています。国の知的インフラを整備するための一種の「国民的事業」なわけですね。
イギリス国民伝記事典を編纂したレスリー・スティーブンや、オックスフォード英語大辞典の編集者フレデリック・ファーニヴァルには単なる営利的な活動への蔑視があり、公的奉仕の精神が強かったといわれます。
① 「オックスフォード英語大辞典」(Oxford English Dictionary 1884-1928)
1884年の初刊行以来、英語という言語における最大の辞書であり、かつ最も権威のある辞書です。これが編纂された背景には、ドイツとフランスで国民的な大辞書が編纂されていた事が大きく影響したとされています。
グリムの「ドイツ語大辞典」(Deutsches Wörterbuch 1854-1961)は全32巻。
これは当時ドイツを代表する言語学者だったグリム兄弟が1838年に計画を発表し、1854年その第一巻が刊行されました。彼らの死後も継承者があとを続け、普仏戦争、ビスマルクによるドイツ統一期、第一次大戦、ナチス時代を経て、冷戦時も東西の研究者が国境を越えて共同作業した、という非常に遠大な事業でした。1961年についに完成したまさにドイツ文化の金字塔的とも言うべき作品であり、一語一語の語義・用法の歴史的変遷を丹念に位置付けていることに特色があります。
リトレの「フランス語辞典」(Dictionnaire de la langue française 1863-1873)は全7巻。
こちらはエミール・リトレがドイツの大事業を横目に刊行したもので、グリムに比べるとコンパクトながら、辞書で七巻というのはやはり大型辞書の部類に入ります、学問的水準の高さにより19世紀フランスにおいて標準的といえる地位を確立しました。また、この世紀は前述のアカデミーフランセーズ辞典も版を重ね続けている状況でした。
このように大陸で大型辞書が編纂されつつある状況に、コートリーやSジョンソン以来の辞書編纂の伝統を持つ英国民の間でも当然、これらに抗しうる自国語の大型辞書を作らなければ、という機運が高まってきます。というのも、かつてのジョンソン博士の英語辞書やアカデミーフランセーズ辞典は二巻本なので中型辞書に過ぎなかったわけです。(ちなみにわが国の広辞苑も区分としては中型に入ります。日本における大型辞書は、戦前の平凡社「大辞典」と戦後の小学館「国語大辞典」全12巻のふたつです)
ハーバート・コールリッジ(初代編纂者)、フレデリック・ファーニヴァル(2代編纂者)、リチャード・トレンチの三人の提案により企画が始まり、3代編纂者に選ばれたジェームス・マレーがその大半を編集しました。 1884年に第一巻が刊行(5000部)され、44年後の1928年に全十巻(改版で十二巻)で完成します。この時タイムズ紙は印刷の発明以来の壮挙と激賞しました。
ちなみに三代目編纂者には当初ヘンリー・スウィート(マイフェアレディのヒギンズ教授のモデル)が予定されていましたが、彼に断られたため、ジェームス・マレーへお鉢が回ってきたそうです。しかしマレーはこの仕事により現在、英語辞書作成の全歴史を通じて最高の編纂者という評価を得ています。
第1版は12巻。1989年に出版された第2版は20巻で21728ページ、収録語数は約600000語。こちらは現在オンラインで使用されていますが、第3版の編集も進行中という話です。とにかく文献に登場した総ての語彙に対して、語形及びその変化、語源、語義とその変遷、初出時期、実際の用例など精細に記載していく点で、これは英語という生きた言語の標準を定めている辞典とされています。
② 「イギリス国民伝記事典」(Dictionary of National Biography 1885-1900)
三つの巨大編纂物のうちでも量的に一番膨大なのがこれです。かのトレヴェリアンはこのイギリス国民伝記事典を「これまですべての文明が作り上げてきたある国民の過去に関する記録で最善のもの」と述べていました。
この大事典の場合も、やはり他の欧州諸国の状況に触発された感は無きにしも非ずです。というのは「イギリス国民伝記事典」が刊行される四半世紀ほど前から幾つかの国で前例を見ないスケールの人名事典の編纂が行われていたからです。まずフランスとオランダで開始され、オーストリアとベルギー、そしてドイツがこれに続きました。
1852仏「新しい一般的伝記集」(Nouvelle Biographie Générale 1852-1866)46巻
1852蘭「オランダ伝記事典」(Biographisch Woordenboek 1852-1878)20巻
1856墺「オーストリア帝国伝記事典」(Biographisches Lexikon des Kaiserthums Oesterreich 1856-1891)60巻
1866白「ベルギー国民伝記集」(Biographie Nationale de Belgique 1866-1986)44巻
1875独「全ドイツ伝記事典」(Allgemeine Deutsche Biographie 1875-1912)56巻
こうした流れに触発されて、事典に関しては最も徹底的なものを作る英国が参戦します。それが「イギリス国民伝記事典」でした。
イギリスにおいて大規模な伝記事典を作ろうという企画は、貿易業や出版業で財を成したジョジ・スミスが、レスリー・スティーブンに出版を持ち掛けることから始まりました。当初スミスは、世界全体の人名辞典を作ってやろうとまで考えていたそうですが、これでは際限がなくなるので、対象を英国人のみに限定するようスティーブンから説得されます。
こうして彼が自らの私財を投じる事によって、1875年から1900年にかけてこの事典は刊行され、巻数はそれでも64巻(索引含む)に達しました。収録人数は3万人に近く、同時代の大陸諸国の大伝記辞典と比較してもかつて見ない規模になりました。1912年までに補巻も刊行され、それを加えると71巻になります。
レスリー・スティーブンが途中でリタイアした後はシェイクスピア学者として名高いシドニー・リーが編集長を引き継ぎました。彼は上記のQEDを企画したフレデリック・ファーニヴァルによる紹介であり、自らも820人分の伝記(なんと1370ページ)を執筆しました。 この「イギリス国民伝記事典」は現在でも英国史を学ぶ上で、最重要の資料となっています。
ちなみにこの後デンマークとロシアが後を追い、共に自国で最も包括的な人名事典となっています。
1887丁「デンマーク伝記事典」(Dansk Biografisk Leksikon 1887-1905)19巻
1896露「スラブ伝記事典」(В электронную библиотеку 1896-1909)25巻
これは国民の言語を確定する辞書についても言えた事ですが、伝記事典の場合、かつてその国に生を受け事績を残した人物を一堂に集めるという性格を持つため、19世紀における国民国家の形成にはより大きく与かり、またその象徴としての意義もより強く持っています。
おりしも同時期には過去の歴史史料の集成が各国で行われており、19世紀の国民的伝記事典が語られる場合にはよくこれが比較の対象になります。ドイツにおけるモヌメンタ=ゲルマニエ=ヒストリエアカと呼ばれる中世史料の一大集成(1826)から、ギゾーによるそのフランス版や、イギリスにおける1857年の中世史料集が生まれ、さらにはノルウェー(中世法律史料 1846)やハンガリー(歴史史料集 1857)にも波及したこの流れは、確かに国家の過去の記憶を確定する偉大な作業でした。
ただ、それらが概ね専門家向けのツールであったのに対し、事典という成書の形で出版しているこちらはより国民に密着していると言えるかもしれません。 同時代の我が国における水戸の「大日本史」も成書ではありますが、国家のための記録としての性格が強くむしろモヌメンタなどに似ており、ここまで国民化された書物ではありませんでした。
③ 「ブリタニカ百科事典」(Encyclopædia Britannica 1768-2010)
ブリタニカ百科事典に関しては、前々々ページの18世紀に登場した三つの百科事典に関するページですでに解説しました(初版から第3版まで)。ここではその続きとして、名高い”第9版”に至る19世紀における六つの版の流れを追ってみる事にしました。
この百科事典は18世紀最後の第3版の時点ですでに英国を代表する地位を確立していますが、本当のピークはこの19世紀後半から20世紀初めにかけての時期にあるからです。
1801年に出た第4版は20巻。この頃になると「メトロポリターナ百科事典」「サイクロペディア」などの競合を押しのけ、もはや国内に対抗馬は存在しません。ただ、4版までに出た数を合計しても計15000セットと未だに「百科全書」にはかなわないんですね。
1815年に出た第5版は4版の修正版です。
1820年に出た第6版は20巻。この版では、多くの著名な学者や作家に高額の報酬を払って寄稿させるというブリタニカのスタイルを確立しました。その意味で、9版や11版に次ぐ重要なエディションだと言えるかもしれません。その結果、定期刊行物(雑誌類)と並んで百科事典が物書きの重要な仕事になったとも言われます。 やり手の出版者であったコンスタブルがウォルタースコット、マルサス、Jミル、JBピオなどを動員。このコンスタブルという人はまさに中興の祖でしょう。
1830年に出た第7版は21巻。これに三巻の図版が付き、併せて24巻になります。この図版集は現在高く評されています。
1853年に出た第8版は21巻。これに一巻の索引が付きます。執筆者はマコーレーのような英の文人の他、ブンゼンのようなドイツ化学の泰斗も参加し、国際化が進みます。
1875年に出た第9版は24巻。この版では、トマス・スペンサー・べインズの編集の下に、人類学者のフレイザーやC・スウィンバーンなど1100人もの国際的執筆者を動員しました。科学部門の顧問にはマクスウェルやTハクスリーが就いています。このような権威たちの手になる長大な大項目からは、のち単行本化されたものも少なくありません。ブリタニカ歴代諸版のうちでも、前述のようにこの9版は”The Scholar’s Edition”(学究に愛された版)と称され、最盛期の大英帝国の知の象徴ともみなされました。後でお話しする予定の11版と並ぶ存在と言えるでしょう。途中から、編集はセム学のウィリアム・ロバートソン・スミスに変わりますが、これは英で17000セット、米で50000セットも売れました。渡辺昇一氏によると明治の華族が買ったのはこの版だそうです。また、かつてバーナード・ショーが読破したというのもやはりこの版でした。
エリザベス・マレーはヴィクトリア朝時代のイギリスで達成された不朽不滅の業績を、ブリタニカ百科事典の第9版、オックスフォード英語大辞典、イギリス国民伝記事典の三つだとしています。
ちなみに中国の場合、明清期に大掛かりな国家事業として、永楽大典(15世紀初頭)、康煕字典(18世紀前半)、四庫全書(18世紀後半)などが成立しましたが、国家主導であるため万人のためのレファレンスとしての意義は薄いです。ただ学者たちにとっては僥倖なので、知のインフラという言い方は辛うじてできるかもしれません。
殊に四庫全書などは副本がこの世に七つしかなく、しかも宮中深くに蔵せられていました。刊行を行わなかった理由は三万六千巻を越えるというその膨大さのゆえであり、これは同時期に欧州で作られていたレファレンス用の書物とはスケールが何桁も違います。叢書であること、中国の冊子本と洋装本のキャパシティが違う点などを考慮しても正に驚くべき分量です。
四庫全書の面白いところは、民間を広く益したレファレンスとはならなかったのに、成立にあたって民間の力(清代の蔵書家たちの力)をフルに動員している点です。ここは 中国 清代篇 の冒頭部分で詳しく書いていますが、范氏天一閣、項氏天籟閣、銭氏術古堂、徐氏伝是楼、朱氏曝書亭、趙氏小山堂、鮑士恭,汪啓淑,馬裕などこの当時の名うての大蔵書家たちから膨大な異本を供出させ、之をもって勘考に役立たせました。
日本だったら、江戸期から20世紀半ばにかけて編纂された「三大編纂物」と呼び習わされる書物(「群書類従」「古事類苑」「国書総目録」)の存在があり、この種のレファレンス書の盛時はほんの少し後にズレ込むようです。
「群書類従」は叢書、「古事類苑」は分野ごとに記述された百科事典、「国書総目録」は書籍目録にあたります。それぞれ、幕府の和学講談所、明治政府の文部省、岩波書店の編纂にかかる三つの書物のうち、最後の「国書総目録」のみが西洋的な編集スタイル・検索技術が実装されたレファレンス書です。
他に叢書としては、仏典をすべて網羅しようとした「大正大蔵経」も群書類従に勝るとも劣らない最重要企画だし、また史書はレファレンス書のカテゴリには入らないかもしれませんが、幕府の「本朝通鑑」や水戸の「大日本史」の様な巨大な通史もこれと似たような意義を持つ編纂物だと思います。(東大の史料編纂所はそもそも「六国史以来途絶えた官撰通史を、水戸の『大日本史』を越えるぐらいの規模で」という目的で設立された筈ですが、途中から方針が変わり「大日本史料」という史料集の編纂・出版が任務になりました)
もっと幅広く、一般に市販されたものとしては、辞書では「広辞苑」、百科事典では「平凡社世界大百科事典」などが永く版を重ねて、「昭和のスタンダード」といった地位を獲得しています。
ともに、一家に一冊これがあれば、という感じの書物であり、個人的には昔座右の書を聞かれた星新一が素直に「広辞苑」と答えていたのが妙に印象に残ってます。井上ひさしも「無人島への一冊」に「広辞苑」を挙げていました。
■■■ 情報爆発Ⅱ 20世紀 レファレンス書の極楽
序 20世紀のブリタニカ百科事典
Ⅰ 20世紀の百科事典
Ⅱ 主題別百科事典
Ⅲ 変わり種レファレンス書
補 レファレンス書のレファレンス書
補 叢書
様々なコンテンツの最盛期は、じつはネット時代に突入する直前だったのでは? という事は、書物だけではなしに音楽・漫画・映画などに関しても現在よく語られている話です。
そこで、このページではそういう末期のレファレンス書の世界を逍遥・堪能してみましょう。最初に百科事典(General Encycloped)、次に主題別の事典(Subject Encyclopedia)、最後に変わり種、面白辞典(Unusual Reference Books)へ。
序 20世紀のブリタニカ百科事典
まず、これまで18世紀、19世紀とブリタニカ百科事典の諸版の展開を辿ってきたので、この偉大な百科事典の最後の成り行きを看取る事から話を始めることにします。
1902年に出た10版は9版の24巻に新たに編纂された11巻を加えて発売されました。なので計35巻というかなりの分量です。 版権がアメリカへ移動した事もあって、ややアメリカ色が強くなります。しかし依然として編集はイギリスで行われていました。
1910年に出た11版は29巻。編集はヒュー・チザムで執筆者は1507人を動員しました。論説が縮小され、項目数が第9版の17000から40000へと大幅に増加しています。前述のように11版は9版と並び称せられるエディションですが、この版に関しては下で少し詳しく書きます。
1921年に出た12版は11版の29巻に新たに編纂された3巻を加えて発売されました。前の版との間には第一次大戦という大きな出来事があり、これは主にそれを扱っています。しかし記述が不完全だ、という指摘を受け、追加の3巻本は次の版で新しく書き直される事となりました。
1926年に出た13版は11版の29巻にさらに新しく編纂された3巻を加えたもの。この新しい三冊は補遺と言っても馬鹿にできるようなものではなく、独のシュトレゼーマン首相や仏のフォッシュ元帥、アインシュタインやキュリー夫人などが項目執筆を担当しています。
1929年に出た14版は全面的に改訂された24巻。3500人からの寄稿を受けたこの版は1933年以降、継続的に部分改訂されていきます。14版と15版の初版刊行に半世紀近く開きがあるのはそのためです。 この14版は不断に修正されているので、初期のものは11版の豊富な人文学分野の記述がごそっと削除された事で非常に評判が悪いですが、末期の60年代の諸版になると、そうした継続的な修正・増補が蓄積され、戦後アメリカの文化・学術の粋を味わえる優れたバージョンとの評価を得ています。シカゴ大学が中心になって編集されています。
1974年に出た15版ではかなり思い切った実験をします。当時は百科事典の小項目主義が徹底されてゆく中で、かつての大項目への追慕も強まり、20世紀後半にはそうした百科事典も再び刊行されるようになっていた時期でした。こうした風潮を受けてブリタニカのとった対応は、小項目部分と大項目部分の並立でした。15版の全30巻は以下の三部から構成されています。
総索引(プロペディア) 1巻
小項目(マイクロペディア 10000項目)2~11巻 アルファベット順の編纂
大項目(マクロペディア 100000項目)12~30巻 テーマ別の編纂
この二元構成は現在ブリタニカの伝統としてよく知られています。ただ大項目主義と小項目主義の対立の最終的解決がこれではあまりにあんまりな感もなくはないですね。まず入門編として小項目事典があり、より長く総合的な大項目事典が次に来ます。後者が学術論文を集成したような観を呈しています。
≪ ブリタニカ百科事典 至高のバージョン 第11版 ≫
百科事典の全巻セットは、古書アイテムとしては業者にとって引き取りにくい、値段のつかないタイプの本の典型です。これらはアメリカでも、数十年前のものからごくごく最近のものまで、その設定値は75ドルに届かないそうです。
しかし、歴史的価値が認められた重要な版も存在します。その最も有名なものが、上でも何度か触れた Encyclopedia Britannica の 9th Edition や 11th Edition のセットです。 どちらかというとイギリス人は9版を尊重し、アメリカ人は11版を重んじるといった違いはありますが。 第9版や第11版は良好な状態なら300ドルから400ドルで引き取ってもらえるそうで、ことに第11版の無傷の美本の場合、最高3000ドルまで出す業者もいるとの事です。
この第11版は、百科事典コレクターなら何を置いても獲得すべきファーストアイテムとみなされています。
この版が昔から珍重されてきたのは、まず大半の記事が英国で書かれた最後の版だから、という点が挙げられます。これに加えて、第一次大戦が西洋社会に文明の崩壊の様な危機感を齎す直前に刊行された、という事も大きいと思います。ナポレオン戦争後の欧州ではメッテルニヒによるコングレスシステムが成功し、これが崩れかけた頃にビスマルクが国際秩序を修復したため、結果的に第一次大戦に至るまでのべ90年間に渡る平和な時代を享受し、学術・芸術がピークを迎えました。 その意味でこのバージョンは「西洋文明繁栄の最後の時代を刻印し記録した」という象徴的な意義を有しているわけです。
事実、この次の14版になると(12版、13版は11版に補巻を付け加えただけです)、巻数は5巻も少ないにもかかわらず、新時代の科学・技術に関する記述が大幅に増加し、その結果人文系の記述は徹底した削除を受けました。これは新書版500冊分に及ぶと試算されています。
もちろん百科事典としての完成度の面でも11版はこのジャンルの分水嶺と見なされるような古典的評価を受けています。 詳細さの点でそれまでの版とは段違いの規模を誇り、後世「すべての百科事典の祖父母」と称された事からもわかるように、これ以後百科事典が編纂される時には常にブリタニカ11版が目標とされる事となりました(Wikipediaもこれをモデルにしている事は有名です)。ピーター・バークなどは目的によっては現行の版よりも11版の方を評価しています。
また、社会における威光の点でもブリタニカ百科事典はこの版の頃がピークだったのではないでしょうか。初期には編集者の個人著作という色彩が強く、例えば項目記事の内容も、ニュートンの万有引力を否定してアリストテレス風の地水火風を論ずるなど、現在からみると俺様百科事典の感無きにしも非ずでした。 逆に20世紀でも戦後になってくると、30巻前後のボリュームでは社会全体の知識量の増加をフォローしきれなくなってきたり、ブリタニカの長所短所を徹底的に研究したライバルのアメリカーナやコリアーズ、ワールドブックなどと比較されて、その権威も揺らぎがちになっています。
管理人は最近11版全巻の入ったCDを手に入れたのでたまにちらほら見てますが、そつのない項目記事だな、と思って著者名を確認すると、ギョッとするような名前に行き当たる事がよくありました。
Nボーアの3部作が出る3年前に刊行された事典だけに、物理の面では量子力学誕生以前の古典物理の世界に終始しており、自然科学分野はもはや考古学的価値しかないのでしょうが、人文科学の方面では未だにこの版がベストだという人は多いです。例えば、AWポラードの執筆になるとみられる Book Collection の項目では、イギリスの蔵書家についてこれから書くために現時点で手に入る情報とそんなに遜色はないんですね。
(注 第9版や第11版とは別に、現存数が極端に少ないブリタニカ第2版が稀覯本扱いになっています。このセットは数十年前でも三千万円ぐらいしたという話ですから、ブリタニカ百科事典の全エディションをコンプリートしようとするコレクターにとっては鬼門のような存在ですね。)
Ⅰ 20世紀の百科事典
このブログは「ひろーくあさーく」がモットーなのに、ブリタニカ百科事典に関してはちょっとクドクド書きすぎました。次は、もっと広く20世紀の百科事典全般へ目を移してみましょう。
日本ではこのブリタニカほど知られていませんが、世界のもう一つのスタンダードとして、ドイツの「ブロックハウス百科事典」(Brockhaus Enzyklopädie)の存在があります。同じ18世紀に初版が出た「チェンバース百科事典」や「百科全書」が早く世の中から姿を消したのとは違い、英のブリタニカ同様に21世紀まで、四つの世紀にまたがって版を重ねてきた、老舗中の老舗です。ワイマールハウスに残されたゲーテの蔵書にもブロックハウスの六版(1824年)がありました。 各国の百科事典がこぞってこれをモデルにしたという点では、むしろブリタニカ以上かも知れません。
百科事典の各国別のスタンダードでは、アメリカの「アメリカーナ大百科事典」(上のブロックハウスをモデルにした)、フランスのラルース社による諸種の「百科事典」、イタリアの「イタリアーナ大百科事典」、スペインの「エスパサ百科事典」、オランダの「ウィンクラー・プリンス百科事典」(これもブロックハウスがモデル)、ロシアの「ソビエト大百科事典」と「ロシア大百科事典」、中国の「中国大百科全書」、日本の「平凡社世界百科事典」などがあります。
日本の「平凡社世界大百科事典」は、1931年から2007年まで十四版を数え、75年間を木村久一、林達夫、加藤周一の三人の編集長が引き継いできました(後のお二人は 現代の蔵書家たち のコーナーでも名前を挙げた万クラスの蔵書家でもあります)。
このような総合的百科事典には国威発揚の側面もあって、本格的な百科事典を持たない国は、文明国とは認められないような風潮が無きにしも非ずでした。
例えば、ブリタニカとブロックハウスが18世紀末に出版された後、1829年にアメリカーナ(米)、1864年にラルース万有(仏)、1870年にヴィンクラープリンス(蘭) 1905年にエスパサ(西)と、欧州諸国がメインの General Encyclopedia を刊行してゆく中、イタリアのみが国民的と言える百科事典を持たず、国家・国民から待望されるような状況でした。これを受け、イタリアの学界を総動員する規模で「イタリアーナ大百科事典」35巻(Enciclopedia Italiana di scienze, lettere ed arti 1929- 通称Treccani)が1929年に刊行されます。内外の大家が自由な立場で執筆にあたり、数十ページに渡るその大項目からは単行本として出版されたものもあったほどです。文化的な価値の高さゆえに改版によって更新する方法はとらず、補巻を追加するやり方でこの事典は現在まで生き続けています。結局これはユーゴの「ナロードナ百科事典」(1924)やギリシアの「大百科事典」(1926)にすら遅れたものの、内容面ではブリタニカ11版に匹敵する評価を得ました。
「永楽大典」や「古今図書集成」のような歴史上の巨大編纂物をとりあえず別に置くとして、現役の百科事典のうちで量的に大きなものと言えば、スペインのエスパサ百科事典(72巻,補巻を入れると100巻以上)、中国大百科全書(74巻)、ソビエト大百科事典(66巻)の順でしょうか。あとは大体20~30巻前後が中心です。(ただイタリアーナは追加巻を入れると倍ぐらいになった筈です。)
これは一般の方に購入可能な量が、大体30巻数ぐらいを境目にしているためかもしれません。平凡社の世界大百科事典ですら、かつて最初に発売された時には1955年当時での30000円という価格が災いして、予約数は見込みの半分程度にとどまっています。(この損を回収したのが”一万円百科”と呼ばれた同社の「国民百科事典」全7巻でした。)
現代の百科事典としては最大規模と思われるエスパサ百科事典の場合、言語的にラテンアメリカ諸国全体をバックボーンにしている点を考慮に置くきでしょう。続く2点は共産国家の商品です。
百科事典に関して特に重要な問題は二つあると思います。
一つは、これまで触れてきた編集上の問題で、アルファベット順(日本なら五十音順)構成と分野別構成の対立、あるいは小項目主義と大項目主義の対立です。
もう一つは、内容面での政治・思想に関わる問題であり、これは事典が「言葉の意味を説明するためのもの」であるために、世界を定義する機能を持っている点です。
① 小項目主義と大項目主義(アルファベット順か,分野別か)
二十世紀の百科事典は常に小項目主義と大項目主義の間を揺れ動いてきました。便利さや客観性では前者が勝り、世界の知を統一した視点から俯瞰・把握するという点では後者が勝る。
20世紀の初めごろには、前述のブリタニカ百科事典11版が小項目を重視した編集で一世を風靡し、これ以後、全体的にこちらが主流になったかのように見えました。
1960年代前半の「大ラルース百科事典」(Grand Larousse Encyclopdique 1960–1964)はその典型で、これは10巻しかないのに項目数は16万以上にも及びます。(ドイツの『ブロックハウス』も最終版では32万項目というかなりの小項目主義であり、この影響を受けた蘭のウィンクラー・プリンスも項目数は20万もありました。)。 一番極端な例はおそらくアメリカの『コロンビア百科事典』(The Columbia Encyclopedia 1935)だと思われ、これは1巻本で10万項目もあります。
ところが、世紀中葉から後半にかけて「やはり百科事典はこうでなくちゃ」と、分野別構成をとり、項目数を少なく絞り、論文の様な長い記事を載せる大項目主義も復活してきます。
Lフェーヴルらによる「フランス百科事典」21巻(Encyclopédie française 1935-1966)あたりがその先駆けと言え、わが国でも小学館「万有百科事典」20巻(1972)、「丸善エンサイクロペディア大百科」1巻(1995)が五十音順をやめて分野別構成にしました。極端なのは、イタリアの「エイナウディ百科事典」(L’Enciclopedia Einaudi 1977-1984)で、これは14巻もあったのに項目数はわずか600しかありません。
折衷的な対応としては、ブリタニカが第15版(1974)で「両者の併用」というところに落ち着いたのは先にお話ししたとおりです。
こうした形式の源流は、昔の『アメリカーナ百科事典』あたりにあるらしく、この事典は1943年に大項目に小項目を多く加えています(計6万7000項目)。
ちょっと面白いのは、フランスのケースです。ここは1970年代までは上述の「大ラルース百科事典」の天下だったのですが、ブリタニカ百科事典の資本により、本格的な「ユニヴェルサリス百科事典」30巻(Encyclopaedia Universalis 仏 1968)が刊行され、これがやはり大項目・小項目の並立主義をとっていました。
危機感を抱いたラルース社が、新たに大項目主義(約1万項目)の「大百科事典」20巻(La Grande Encyclopédie 仏 1971)を刊行し、小項目の「大ラルース百科事典」10巻とセットで読めるようにしました。二つ併せるとブリタニカのような大項目・小項目並立主義の30巻の百科事典になる、という事なのでしょう・・・
アルファベット順構成・短い記事・多数項目の情報的事典をとるか、分野別構成・長い記事・少数項目の教養的事典をとるかは、実に悩ましい問題です。
管理人はアルファベット順構成で項目数が多く、しかも一項目が長大な事典はないのかな、と思ってますが、そんな化け物みたいなのを作ろうとした人はこれまでいなかったようです(しかし近年のwikiは、まさにその「化け物」に近づきつつあります)。 反対に、項目数が少なく記事が短いのもありません。まあこれでは新書一冊ぐらいに収まってしまうのでもはや百科事典とは言えないかも。
ちなみに、児童向けの百科事典に関しては、頑是ない子供を広大な知識の世界に誘うという目的のためなのか、今世紀前半から分野別構成を堅持する傾向がありました。日本初の児童向け百科辞典である『児童百科大辞典』全31巻(1932)や、その後身の「玉川百科大辞典」31巻(1958)など。
② 世界の再定義
フランス啓蒙派による「百科全書」は、諸著の抜き書きから構成されたツヴィンガーの著作とは違って、著名人をはじめとする様々な専門家に依頼した記事を編纂するという新たな第一歩を踏み出しました。そこから生じた事としては、今度は百科事典自体が情報のリソース源として参照の対象になった事、そしてそのことから「この世界を定義」する立場になった事です。(同時代の辞書でも「ジョンソン博士の英語辞書」に対しては [単著であるにもかかわらず] 同様の指摘がされています)
「百科全書」自身はこの世界の(18世紀啓蒙主義な視点からの)再定義をかなり意識的に行っていたのですが、これに続くブリタニカ百科事典の諸版も「情報のリソース源」という立場から、嫌が応にも自ずからそういう機能を担ってゆきます。これは百科事典というもののある種宿命のようなものでしょう。
もちろん、「百科全書」がやったように自らの思想を前面に出してそれを行った百科事典も多々存在します。
まず直接「百科全書」を意識して編纂がはじめられたものとしては、オットー・ノイラート(Otto Neurath 1882-1945)らによる「統一科学の国際百科全書」があります。これはウィーンの論理実証主義者たちが彼らの哲学観の下に学問を体系化しようとした書物で、カルナップ、ラッセル、Nボーアなど凄い顔ぶれの執筆者を動員したものの、残念ながらわずか2巻までしか出ませんでした。今から見ると彼らの試みは、一家に一セット常備するような標準的百科事典というより、寧ろブルバキの『数学原論』などに近い試みではなかったか、とも思われます。
また、ブリタニカを代表とする従来の百科事典には中産階級の偏見が反映されている、と考えたところから生まれたのが、ノルウェーの「労働者のための百科事典」(Arbeidernes Leksikon 1927)です。編纂に携わったのは主にノルウェー共産党のグループで、1930年代に全六巻で刊行されました。
もちろん、本場ソ連でも同時期に巨大な百科事典の刊行が行われています。オットー・シュミットの編集による「ソヴィエト大百科事典 Bolshaya sovetskaya entsiklopediya 1926~1947」の初版全66巻はこれまでロシア語で刊行された最大の書籍です。当然これは共産主義の価値観が隅々にまで反映された百科事典だと言われています。
戦間期の欧州は過激な左右の拮抗する状況だったので、イタリア、ドイツではこれとは逆の事態が生じました。
イタリアを代表する「イタリアーナ大百科事典」はジェンティーレの下に編纂が行われただけあってこれにはイタリアンファシズムが反映されています。第14巻にある「ファシズム」の項目の最初のセクションはなんとムッソリーニ本人が執筆しています(但し冒頭部はジェンティーレの代筆)。しかしジェンティーレはその一方で、学者の自由な執筆を政権の介入から守ったため、これは未だに百科事典としての評価は非常に高いです。この事典を「ブリタニカ11版」や「エスパサ百科事典」と並べて、三大百科事典と称する評者もいたほどです(Encyclopaedias: Their History Throughout the Ages 1966 Robert Collisonなど)。
ドイツでも、ブロックハウスと並ぶ名門の「マイヤー百科事典 Meyers Lexikon」が、第二次大戦前夜から戦中にかけてつくられた第8版ではドイツファシズムの世界観一色になっていました。そのため連合国が戦後軒並み没収し、本来部数がかなり出てるはずの百科事典にも拘わらず、現在は超稀覯本だそうです。
一方、ブロックハウスの方は、4巻本の「新しいブロックハウス」というナチス精神に基づく小さな百科事典を作って、その間はメインの事典の新しい版を刊行する事は止めていました。これはある意味、賢いやり方でした。
また、同じ百科事典であっても、異なる版の間で思想的な対立がみられたケースさえあります。
ディドロ&ダランベールによる百科全書はオリジナルのパリ版の他、ジュネーヴ版、リッカ版、リヴォルノ版、イヴェルドン版など諸種のバージョンが存在し、これらのうちとりわけスイスのイヴェルドン版が「思想的に行き過ぎ」だと見られたオリジナル版を大きく修正しています。「我々が心から素晴らしいを思う項目だけを残しておく」という編者フェリーチェの言葉の下、彼らの立場からパリ版の精神に改善を加えました。
上記の「ソヴィエト大百科事典」のケースでは、第一版が革命初期の政治理念を体現し、第二版がスターリン時代の政治体制を反映しているために、この間の思想対立がもろにこの百科事典にも及んだ格好です。ソ連では御存じのようにレーニンの側近だった政治家たちが1930年代になるとスターリンによって軒並み粛清されているので、ブハーリンらが編集者に名を連ね、初期ソ連の政治路線の下に編纂された第一版は、第二版によって「政治的・理論的に重大な誤謬を含む」との批判を受け、新しい版では主幹のシュミット以外の編集陣は概ね名前が消えてしまいました。
林達夫や加藤周一が編集責任者を務めていた日本の「平凡社世界大百科事典」も古い版を今読むと、日本特有の戦後民主主義的な思潮が鼻につく人もいるかもしれません。まあ日本の場合、1980年代以前に書かれたレファレンスものにはそういう傾向が強かったです。管理人は子供の時に何かの事典か用語集で「サイレントマジョリティー」という言葉を引いた際、「保守政治家の言い逃れである」みたいな説明(はっきり覚えてませんが)に出くわし、真面目に語釈を施さず、ただ毒づいてるだけの態度に呆れた覚えがあります。
現在のようにオンライン百科事典の時代になってもこうした事態は続いています。
例えば、Conservapediaは、Wikipediaの編集方針がリベラルすぎるという不満から生まれたオンライン百科事典です。twitterやfacebookに対してもこのような「対抗サイト」が存在します。
ただ、この種のものは閑散としがちで、以前なんとかいうtwitterに対するアメリカの保守版SNSをよくみていた事があるのですが、どうも情報も人もあまり集まらない印象でした(勿論これには検索サイト側の情報操作もありえますが)
とにかく百科事典には100年ぐらい続いてるものはザラなので、時代の変遷の中で事大主義の狭路がとんでもない黒歴史につながった場合は多々あります。ナポレオンのエルバ島脱出後の新聞の見出しの変遷みたいな古典的な例を出さずとも、これは百科事典だけに限った話ではないのかもしれません。 かつてアメコミの「キャプテンアメリカ」も、赤狩り時代には「共産主義をやっつけるヒーロー」として活躍していました。ところが時代が変わると「その時に活躍してたキャプテンアメリカは実は偽物であって」「本物のキャプテンアメリカがそれを倒す」というような挿話を新しく拵えて、その新しいキャプテンアメリカで現在まで活躍しいます。そんな恥も外聞もないことをやってまで続けなくてもいいのに、とは感じますが。
③ 普及性とボリュームの限界
以上のように、思想的な「世界規定」の面で各事典がしのぎを削った背景には、百科事典の社会的影響力、つまり「普及性」という要素を見逃すわけにはゆきません。
西欧近代の百科事典というものは、たんに量的に膨大なだけでなくて、相当な部数が出ているわけです。その意味で他の文明圏からみると、ちょっと異常な書物なんです。
百科事典が西欧社会において量的に最も巨大化したのは、おそらく「百科全書」が刊行されて少し経った時期でしょう。啓蒙思想の金字塔といってよいこの大著作が大成功を収めた事に、当時の出版界のテンションが上がってさらに膨大な後継書や模倣書をいくつも生み出していた頃です。
しかし、これらの巨大辞典はほとんど部数が出ていません。例えば、「百科全書」の増補版後継書ともいえるパンクークの「系統的百科全書」は、あちらの研究図書館でも完揃いのセットを所蔵するところは稀です。200巻以上もあるので今に至るまで復刻もありません。先に述べたように百科事典というのは部数が多いため古書価格は中々上がらないものですが、これに関しては書誌学的に稀覯本扱いです。
おそらく編纂者にも普及を目指す気持ちはあったのでしょうが、結局これらのものは「永楽大典」や「古今図書集成」と同じになってしまっています。
その結果、「百科全書」や「系統的百科全書」以降のフランスの辞書・事典市場は、この反動として、ラルース社による1巻あるいは2巻ぐらいのボリュームで辞書と事典を兼ね備え美しいヴィジュアルに満たされた商品が広く大衆の人気を獲得することになります。
この「広辞苑クラス」のボリュームの商品は、辞書と事典を兼ね備えている点以外にも、そのサイズと価格の両面で最も大衆のニーズを掴んでいました。ヴィジュアル重視の姿勢も、ラルース社が現在の出版界の動向を先取りする先見性を持っていた事実を明らかに示しています。これは企業の商業活動が公益性につながった一例であると認めざるを得ません。しかし、これまで見てきた百科事典刊行事業における公益性はこのようなものではありません。
この問題は、公共性と市場性のどちらが文化に資するかという事を考えてみる場合に興味深い視点を提供します。なぜかというと、たいていこの種の問題は欧州(特にフランス)の側がアングロサクソンに対して提起するのですが、ここでは関係が真逆だからです。
前に、19世紀イギリスの三大レファレンス書を語ったくだりで「イギリス国民伝記事典を編纂したレスリー・スティーブンや、オックスフォード英語大辞典の編集者フレデリック・ファーニヴァルには単なる営利的な活動への蔑視があり、公的奉仕の精神が強かった」と述べました。ある時期以降のブリタニカ百科事典の編纂者や経営者についてもこれと同様の事が言えると思います。イギリスほどではないにしても、その国におけるスタンダードの地位を狙うような百科事典には大なり小なり公的な奉仕精神というものがあり、現にコスト的にはペイしなかった偉大な百科事典は数えきれません。採算度外視で世のため人のために刊行された場合も少なくないです。
ここにフランスの啓蒙主義の方法面における変容を見て取る事は可能でしょう。
「百科全書」の頃は大衆の蒙を啓くために世界に対して大量の情報を与える方針をとっていましたが、現在のフランスは専門家と一般人を峻別しており、それは数学の教科書の書き方ひとつとっても英米系との違いは一目瞭然です。(日本の数学のテキストはフランスの影響を受けた簡略な書き方です)
「百科全書」の影響下に出発したもう一つの流れにブリタニカ百科事典があります。
市場性を考慮し、「系統的百科全書」のような放縦な巨大化こそしなかったものの、ここにはラルース社のように市場性ないしは出版文化の創造に重点を置き過ぎた姿勢も見られず、知識の全体を公衆に向かって提示しようする精神は健在です。ブリタニカがなみいる大事典を淘汰して世界のスタンダードたる地位を獲得していった理由は、巻数の量的な拡大が市販性を考慮して概ね30巻以内に抑えられる、このバランス感覚を的確に掴んだ事にこそあったのだろうと思われます。またその範囲でいかに詳細な完成度の高い事典を作るかという点に精力を集中したためでしょう。イギリス人は辞書・事典作りが上手いとよく言われますがこれはその典型のような書物です(この点、ブリタニカ同様四世紀に渡って版を重ねたドイツのブロックハウス百科事典も、初版以来なかなか20巻を越える規模にならなかった事実は示唆的です)
市販による社会への普及を前提にすると、分量に限界を定めないわけにはいかない。しかし世の中の知識は年と共に増えてゆく。 その結果、個々の項目がシェイプされる事になります。これは項目自体が削除されることもあるし、一項目の記述が削減される場合もあります。
人文科学の分野で、ブリタニカの現行版よりも11版の方が評価されている理由は、まさにその点にありました。
一項目内の分量削減に関しては、これはピーター・バークの挙げている例ですが、ブリタニカ11版におけるチャールズ一世(11行)、カルロス五世(11行)、キケロ(13行)、 ゲーテ(12行)、ルター(14行)、プラトン(33行)などの諸項目が、74年版になるとそれぞれ、チャールズ一世(5行)、カルロス五世(5行)、キケロ(4行)、 ゲーテ(6行)、ルター(1行)、プラトン(1行)に減っている、というものがありました。
なぜ「ブリタニカの11版が越えられないか」というと、それはこの版が出版された後に世界の知識自体が拡大したためでしょう。ブリタニカ11版が最良の百科事典であった理由は、それ自身の完成度もありますが、これが当時の世界における全知識のサイズにピッタリ合っていた事が一番大きいと思います。
以上のような成り行きから、世の中の流れは、総合的百科事典(General Encyclopedia あるいは Global Encyclopedia )に盛れなかった部分をより専門化された事典に託する、という方向へ進みました。
Ⅱ レファレンス書の専門化 Subject Encyclopedias
≪ 図書館の参考図書のコーナーから ≫
図書館へ行くと、禁退出のマークがついた事典や叢書類の置かれているコーナーがあります。それらは、概ねこれまで語ってきたレファレンス用の書物と重複していて、よくみると非常に便利な本も多くみつかります。
基礎的な辞典・百科事典だけでなしに、歴史事典、人名事典、地名辞典、古語辞典、類語辞典、県別事典などと、用途も専門化され利用者の便宜が図られています。 また、人名事典でもそこからさらに、美術家人名事典、紳士録、公務員職員録などと対象が細分化されていきます。
これらには今まで語ってきた基礎的な事典・辞書と同様に、それぞれの分野で「定番」の位置づけを得ているものもあれば、歴史的に「一里塚」であるという評価を受けたものもあります。
前述のように、18世紀後半から19世紀後半にかけての欧米では、知のインフラにあたるような基本的な大辞書・大事典が作られたわけですが、これ以後の展開としては、より専門的なテーマにおけるレファレンス書の編纂が興隆を迎えます。
英語ではこの種のものは “Specialized Encyclopedias” とか、”Subject Encyclopedias”という言い方で総称されているようです。
もっとも、専門分野を対象とした事典類には、ブリタニカ百科事典やオックスフォード英語大辞典に平行、あるいは先行していたものも少なくありません。
歴史事典では、一世を風靡したルイ・モレリ「歴史大辞典」(1674-1759)や、P・ベール「歴史事典」(1697 邦訳あり)の存在があったし、地理事典ではL・イーチャードの「新聞記者の地名解釈」(The Gazetteer’s, or, newsman’s interpreter 1692)はその世紀の人口に広く膾炙しています。
辞書は二ヶ国語辞書や専門用語集の方が先に作られていた事は前に述べましたが、それらのうちでもとりわけデュカンジュの「ラテン語辞典」(1678)は、前述のカレピーノ「博言辞典」(1502)やエティエンヌ「ラテン語辞書」(1538)の次の世紀を制したラテン語辞書として、日本でも名前ぐらいは聞いた事のある人は少なくないと思います。
技術関係では、独のアグリコラ(Georg Agricola)による『デ・レ・メタリカ』(De re metallica 1556)12巻は、金属学の金字塔的な書物であり、大部にもかかわらず以前邦訳が出ていたほどです。
そもそも自然学分野の本の場合、近代的な理論が出来る以前の博物学中心の時代には、レファレンス書風に情報を羅列する書き方が多かったので、それでいけばアヴィセンナの「医学典範」やアリストテレスの「動物誌」もサブジェクトエンサイクロペディアになるのかもしれません。
かつてディドロが「百科全書」の諸項目を執筆した時も、このような既成のサブジェクトエンサイクロペディアをフルに活用していたものです。 彼は仏王室図書館から大量の書物を借りだし、百科全書自体にも王室図書館のカペロニエやサイエへの賛辞を添えていました。現在も残る「貸し出し記録」から分かる範囲でも、
哲学項目ではヤコブ・ブルッカーの「哲学の批判的歴史」を種本にし、地理項目では『トレヴー事典』、モレリの『歴史大事典』、ラ・マルティニエールの『地理大事典』、サヴァリ・デ・ブリュロンの『商業総合辞典』などを動員し、その他、ノエル・ショメル「家政事典」、トーマ・コルネイユ「学芸・科学用語辞典」(先述)など、彼が情報を抜き出したサブジェクトエンサクロペディアを挙げていくと、ホントきりがありません。
これはディドロ一人に限った事ではありません。「百科全書」の様に細部まで研究しつくされた百科事典の場合、現在ではロバート・ジェームスの「医学総合辞典」やアグリコラの『デ・レ・メタリカ』のような主な種本はほぼ解明されており、かつて賞賛されたその精巧な機械図説も、アゴスティーノ・ラメッリ「種々の精巧な機械」(1588)や、ヤコーブ・ロイポルト「機械図説」(1724)などから取り込まれた事実が明らかにされています。
「百科全書」は多人数の執筆者を動員して近代的な百科事典の基礎を築いたとはいいながら、彼らはかならずしも自前の知識だけで執筆したのではなく、かつてのツヴィンガーのような既成の文献からの切り貼りを行っていた様子が伺えます。そのことは、専門家としての依頼を受けた項目執筆者よりも、ディドロやジョクールのような一人で数千項目も担当する文字通り百科全書全体を牽引していた執筆者において、特に強く言えます。前回この書物を解説した項では、ややステレオタイプ的な紹介のみに止めましたが、初期のブリタニカと同様、これはあくまで過渡的な書物だったかもしれません。(イエズス会の「トレヴー辞典」をはじめとする先行事典類のあらゆる落ち度を強調しながら、それらから剽窃を行うという「百科全書」の態度は当然トラブルを引き起こし、これはイエズス会との論争にも発展しました)。
「百科全書」という書物はその革新的な製作・編集のスタイルによって確かに事典の歴史を切り開いたものの、この書物自体は、「百科の」事典を作るために万巻の書(専科の)を動員するというツヴィンガーの時代を未だに引きずっていた事は明らかです。専門家を動員した、とはいいながら専門書への依存はまだ非常に大きい。
その一方で、この時代までの専門事典は優れたものも多かったけれども、上で百科全書が吸収した事典類を見てもわかる通り、個人的営為の産物が大多数を占めていた、という事が言えると思います。
しかし、19世紀後半に知の基礎的インフラが整い、またレファレンスブックを編纂する規範が確立した以降に出来た主題別百科事典は、それまでのものとは雲泥の違いがあります。
16,7世紀におけるラテン語のレファレンス書(Aブレアが論究の対象にした)で試行錯誤された本文の構成や検索ツール、18、9世紀における各国諸語のレファレンス書で確立した多人数による分担執筆や国家などによる公的なバックアップの制度、これらはどちらかというとジェネラルエンサクロペディアを刊行する上で得られた成果です(ただしアルファベット順の事典はモレリの「歴史大事典」が最初だった)。 当然、サブジェクトエンサイクロペディアを刊行する上でも有益であり、その結果、かつては専門事典に載せられた情報を百科事典が吸収していたのとは反対に、百科事典を中心に一般化していたツールや製作システムを専門事典が吸収し返す、といった事態が生じるに至りました。
また前述のように、グローバル百科事典の飽和状態によって、そこから漏れたものを補うという明確な役割分担の意識が生まれたことで、従来よくみられた自己規定の曖昧さから生じる境界を逸脱した記述の無駄も、現在の専門事典からは少なくなっています。
それらの結果として、20世紀には(正確には19世紀後半あたりから)こうした個々のテーマにおいても、量・質ともに従来なかったほどの充実したレファレンス書が次々に刊行されることになります。
そこで、今からそうした森に踏み入っていくわけですが、それぞれのジャンルで代表的なレファレンス書を並べていくとこれはもうキリがないし、その専門分野ではいくらでも詳しい人がいるので、ここはちょっと大雑把なやり方でお茶を濁して置きましょう。
≪ 辞書・事典・図鑑などレファレンス書に対する賞 ≫
アメリカにダートマスメダル(Dartmouth Medal)という賞があり、これはその年に刊行された辞書・事典・図鑑などのレファレンス書を顕彰しています。
これまでに46年の歴史があり、主催はアメリカ図書館協会です。毎年”Dartmouth Medal”としてその年でトップのレファレンスブックを選出し、その他に2、3の佳作”Honorable Mention”も選んでいます。
それでは以下にダートマスメダルの歴代受賞作を記しておきましょう。
[★ 大賞]
2019 (北極圏カナダの海産魚)Brian W. Coad and James D. Reist「Marine Fishes of Arctic Canada」University of Toronto Press
2018 (中央アジアの音楽)Theodore Levin, Saida Daukeyeva, and Elmira Köchümkulova「The Music of Central Asia」Indiana University Press
2017 (アラブ世界の刺繡事典)Gillian Vogelsang-Eastwood「Encyclopedia of Embroidery from the Arab World」Bloomsbury Academic▲
2016 (オックスフォード聖書と法の事典)Brent Strawn, editor-in-chief「Oxford Encyclopedia of the Bible and Law」Oxford University Press
2015 (プリンストン仏教辞典)Robert E. Buswell Jr. & Donald S. Lopez Jr.「Princeton Dictionary of Buddhism」Princeton University Press
2014 (アフリカの哺乳類全6巻)Jonathan Kingdon, David Happold, Thomas Butynski, Michael Hoffmann, Meredith Happold, Jan Kalina「Mammals of Africa」Bloomsbury Natural History
2013 (アメリカの地域英語辞書)Frederic G. Cassidy, and Joan Houston Hall, ed. 「Dictionary of American Regional English」Belknap Press
2012 (グリーンのスラング辞書)Jonathon Green「Green’s Dictionary of Slang」 Chambers
2011 (世界のドレスとファッションのベルグ百科事典オンライン版込全11巻)Joanne Bubolz Eicher「Encyclopedia of World Dress and Fashion and the online Berg Fashion Library」Bloomsbury Publishing
2010 (人権事典)David Forsythe「Encyclopedia of Human Rights」Oxford University Press
2009 (ポップカルチャーユニバース)「Pop Culture Universe」
2008 (オックスフォード海事史事典全4巻)John B. Hattendorf「Oxford Encyclopedia of Maritime History」Oxford University Press▲
2007 (エンサイクロペディア・ジュダイカ)全26巻Fred Skolnik「Encyclopaedia Judaica」Gale
2006 (ドキュメンタリー映画事典)Ian Aitken「Encyclopedia of the Documentary Film」Routledge / Taylor & Francis
2005 (オックスフォードイギリス国民伝記事典全62巻)H. C. G. Matthew and Brian Harrison「Oxford Dictionary of National Biography」Oxford University Press▲
2004 (食と文化の百科事典)Solomon H. Katz 「Encyclopedia of Food and Culture」Charles Scribner’s Sons
2003 (ガーランド世界音楽百科事典)Bruno Nettl and Ruth M. Stone; founding editors, James Porter and Timothy Rice「Garland Encyclopedia of World Music」Routledge
2002 (オックスフォード古代エジプト事典)Donald B. Redford「Oxford Encyclopedia of Ancient Egypt」Oxford University Press▲
2001 (世界史における女性)Anne Commire「Women in World History」Gale
2000 (ルネサンス百科事典全6巻)Paul F. Grendler「Encyclopedia of the Renaissance」Charles Scribner’s Sons
1999 (アメリカ伝記事典全24巻)John A. Garraty and Mark C. Carnes「American National Biography」Oxford University Press★
1998 (アメリカのユダヤ人女性:歴史事典)Paula E. Hyman and Deborah Dash Moore「Jewish Women in America: An Historical Encyclopedia」Routledge
1997 (アート事典全34巻)Jane Turner「Dictionary of Art」Macmillan Publishers
1996 (古代オリエントの文明全4巻)Jack M. Sasson 「Civilizations of the Ancient Near East」Macmillan Publishers / Charles Scribner’s Sons★
1995 (アメリカ大統領事典)Leonard W. Levy, Louis Fisher「Encyclopedia of the American Presidency」Simon & Schuster
1994 (アメリカの黒人女性:歴史事典)Darlene Clark Hine「Black Women in America: An Historical Encyclopedia」Carlson Publishers
1993 (社会学事典)Edgar F. Borgatta「Encyclopedia of Sociology」Macmillan Publishers
1992 (合衆国の環境問題地図)Robert J. Mason and Mark T. Mattson「Atlas of United States Environmental Issues」Macmillan Publishers
1991 (ホロコースト事典)Israel Gutman「Encyclopedia of the Holocaust」Macmillan Publishers
1990 (南部文化事典)Charles Reagan Wilson and William Ferris「Encyclopedia of Southern Culture」University North Carolina Press
1989 (私たち:アメリカの多様性地図)James Paul Allen and Eugene James Turner「We the People: An Atlas of America’s Diversity」Macmillan Publishers
1988 (エリアーデ世界宗教事典全16巻)Mircea Eliade「Encyclopedia of Religion」Macmillan Publishers
1987 (アメリカ憲法事典)Leonard W. Levy 「Encyclopedia of the American Constitution」Macmillan Publishers
1986 (国際教育事典:調査と研究)Torsten Husén and T. Neville Postlethwaite「International Encyclopedia of Education: Research and Studies」Pergamon Press
1985 (ウィルソンライン)「Wilsonline」H. W. Wilson Company
1984 (タイムズ=講談社世界海洋アトラス)Alastair Couper「Times Atlas of the Oceans」Van Nostrand Reinhold
1983 議会情報サービス 政府による現在およびこれまでの刊行物、および諸種の統計的リソースへのアクセスを提供するレファレンス活動
1982 (ニューグローヴ世界音楽大事典全21巻別巻2)Stanley Sadie「The New Grove Dictionary of Music and Musicians」Grove’s Dictionaries of Music
1981 (科学人名事典)Charles Coulston Gillispie「Dictionary of Scientific Biography」Charles Scribner’s Sons
1980 no award
1979 (生命倫理百科事典全5巻)Warren Reich「Encyclopedia of Bioethics」Free Press
1978 (精神医学,心理学,精神分析学および神経学の国際百科事典)Benjamin B. Wolman「International Encyclopedia of Psychiatry, Psychology, Psychoanalysis and Neurology」Aesculapius Publishers by Van Nostrand Reinhold
1977 (初期アメリカの歴史地図:革命的な時代1760-1790)Lester J. Cappon「Atlas of Early American History: The Revolutionary Era, 1760-1790」Princeton University Press for the Newberry Library and the Institute of Early American History and Culture
1976 no award
1975 ニューイングランド高等教育委員会 NASIC,北東学術科学情報センター,情報サービスの仲介における地域実験に対して
[▲ 佳作]
2019 カブトムシ:甲虫類の自然史と多様性 Stephen Marshall Beetles: The Natural History and Diversity of Coleoptera Firefly Books
2019 TESOL英語教育事典全8巻 John Liontas TESOL Encyclopedia of English Language Teaching Wiley-Blackwell▲
2018 地理学国際百科事典全15巻 Douglas Richardson The International Encyclopedia of Geography: People, the Earth, Environment, and Technology Wiley-Blackwell and the American Association of Geographers
2018 古代ローマのアトラス Andrea Carandini The Atlas of Ancient Rome Princeton University Press
2017 カリブ海とアフロラテンアメリカの伝記事典 Franklin W. Knight and Henry Louis Gates, Jr. Dictionary of Caribbean and Afro-Latin American Biography Oxford University Press
2016 世界的なグローバルビジネスと経済の問題 Thomas Riggs, editor Worldmark Global Business and Economy Issues Gale
2014 国際倫理百科事典 International Encyclopedia of Ethics Wiley-Blackwell
2014 カリブ海の宗教の百科事典 Encyclopedia of Caribbean Religions University of Illinois Press
2013 古代史百科事典 Roger S. Bagnall, ed. Encyclopedia of Ancient History Wiley-Blackwell
2012 政治科学の国際百科事典 Bertrand Badie, Dirk Berg-Schlosser, Leonardo Morlino International Encyclopedia of Political Science SAGE reference in association with the International Political Science Association
2012 アメリカ合衆国の統計要約 Lifetime Achievement Award Statistical Abstract of the United States U.S. Department of Commerce
2011 環大西洋奴隷貿易歴史地図 David Eltis and David Richardson Atlas of the Transatlantic Slave Trade Yale University Press★
2010 現代中国百科事典 David Pong The Encyclopedia of Modern China
2010 ジャーナリズム百科事典 Christopher Sterling The Encyclopedia of Journalism Sage Reference
2009 東ヨーロッパのユダヤ人のYIVO百科事典 Gershon David Hundert The YIVO Encyclopedia of Jews in Eastern Europe(▲)
2007 米国の歴史的統計:初期から現在まで:ミレニアル世代 Susan B. Carter, et al. Historical Statistics of the United States: Earlier Times to the Present: Millennial Edition Cambridge University Press
2006 米国のラテンとラテン系アメリカ人のオックスフォード百科事典 Suzanne Oboler and Deena J. González Oxford Encyclopedia of Latinos and Latinas in the United States Oxford University Press
2004 ホロコースト文学:作家とその作品の百科事典 S. Lillian Kremer Holocaust Literature: An Encyclopedia of Writers and Their Work Routledge
2002 音楽とミュージシャンの新しいグローブ辞書 Stanley Sadie; executive editor, John Tyrrell New Grove Dictionary of Music and Musicians Grove’s Dictionaries of Music
2001 南北戦争百科事典 David S. Heidler and Jeanne T. Heidler Encyclopedia of the American Civil War ABC-CLIO
2001 法医学百科事典 Jay A. Siegel Encyclopedia of Forensic Sciences Academic Press
2000 ワイリー電気電子工学事典 John G. Webster Wiley Encyclopedia of Electrical and Electronics Engineering John Wiley & Sons
2000 黒人作曲家の国際辞書 Samuel A. Floyd, Jr. International Dictionary of Black Composers Fitzroy Dearborn Publishers
2000 オックスフォードコンパニオントゥフード Alan Davidson Oxford Companion to Food Oxford University Press
1999 国際ダンス事典全7巻 Selma Jeanne Cohen International Encyclopedia of Dance Oxford University Press★
1999 ラウトレッジ哲学百科事典 Edward Craig Routledge Encyclopedia of Philosophy Routledge
1999 コロンビア 世界地名集 Saul B. Cohen Columbia Gazetteer of the World Columbia University Press▲
1998 アフリカ百科事典:サハラ南部 John Middleton Encyclopedia of Africa: South of the Sahara Charles Scribner’s Sons
1998 ガーランド世界音楽百科事典:アフリカ Ruth M. Stone Garland Encyclopedia of World Music: Africa Garland Publishing
1998 CD-ROMのエンサイクロペディアジュダイカ Encyclopedia Judaica on CD-ROM Judaica Multimedia
1997 アフリカ系アメリカ人の文化と歴史の百科事典 Jack Salzman, David Lionel Smith, Cornel West Encyclopedia of African-American Culture and History Macmillan Library ReferenceJack Salzman、David Lionel Smith、Cornel West▲(▲)
1997 中世:学生のための百科事典 The Middle Ages: An Encyclopedia for Students Charles Scribner’s Sons
1997 ラテンアメリカの歴史と文化の百科事典 Barbara A. Tenenbaum Encyclopedia of Latin American History and Culture Charles Scribner’s Sons
1996 生命倫理百科事典 Warren Thomas Reich Encyclopedia of Bioethics Macmillan Publishers
1996 ニューヨーク市の百科事典 Kenneth T.Jackson Encyclopedia of New York City Yale University Press
1995 ミュージカル劇場百科事典 urt Gänzl Encyclopedia of the Musical Theatre Schirmer Books
1994 アメリカ社会史百科事典 ary Kupiec Cayton, Elliott J. Gorn, Peter W. Williams Encyclopedia of American Social History Charles Scribner’s Sons
1993 オックスフォードコンパニオントゥザイングリッシュランゲージ Tom McArthur Oxford Companion to the English Language Oxford University Press
1992 アメリカの歴史への読者の仲間 Eric Foner and John A. Garraty The Reader’s Companion to American History Houghton Mifflin
1991 アメリカ全土の芸術:地域絵画の2世紀 1710-1920 William H. Gerdts Art Across America: Two Centuries of Regional Painting,1710-1920 Abbeville Press
1990 中世の辞書 Joseph R. Strayer Dictionary of the Middle Ages Charles Scribner’s Sons
現代英米における辞典や辞書に対する賞なので、全然知らないような受賞作品ばかりなのかな?と思っていたら案外そうでもありませんでした。
そもそも英米圏で一年間に刊行される辞書・事典は相当な数に上り、またこの賞は同じ事典でも版ごとに選定対象にされるそうなので、それが分野横断的に年一作という事になると、未訳であっても我が国まで名声の轟いているものの名前がいくつも上がっています。編者にも科学史のギリスピ、中世史のストレイヤー、宗教史のエリアーデなど、錚々たる名前が並びます。
まず、”Oxford Dictionary of National Biography”(全62巻)は、19世紀大英帝国における三大編纂物として先に御紹介した「イギリス国民伝記事典」の新しい版です(2005年度受賞)。これはその後版権を牛津大学が買ったので名前の上にOxfordが付いています。 1900年に完結した初版はレスリー・スティーブンやシドニー・リーの個人的業績という面が強かったのですが、百年後のこちらは英国学士院の全面的なバックアップによって編纂されています。貴族・ブルジョワ中心だった初版に比べて学者・文人・芸術家の比重が強まったという評価です。
オックスフォード大学はこのアメリカ版も刊行しており(”American National Biography” アメリカ伝記事典全24巻)、こちらは1999年度に受賞。
2007年受賞の”Encyclopaedia Judaica”(ユダイカ全26巻)も、我が国まで評判の届いたユダヤ学の世界ではバイブル的な書物です。管理人は昔これが邦訳されるのは夢のまた夢だろうと思っていたものでした。もはや完全に無理でしょう。
音楽では、旧来型の知識を代表する「ニューグローヴ世界音楽大典」が初期の頃(1982年)に受賞しているのに対して、今風の「ガーランド世界音楽百科事典 全10巻」が2003年に受賞しています。ちなみにニューグローヴはこの後に2004年に新しい版も佳作に入り、ガーランドも1999年にはアフリカの巻だけが佳作になっていました。
ちょっと妙なのは、ニューグローヴ世界音楽大典は原語版で全20巻の初版が大賞をとってるのに、拡充されて29巻に増補された第二版が佳作になったことです。一体何がいけなかったのか? この年は「オックスフォード古代エジプト事典」という強敵があったからかもしれません。とにかく日本で訳されたのは初版の方です。
服飾に関しては2011年受賞の「世界のドレスとファッションのベルク百科事典」がやはり欧米では定番ですが、これはオンライン版での受賞なのでしょうか?
辞書では、SジョンソンやJマレー以来の辞書編纂者という呼び声も高いジョナソン・グリーンによる「グリーンのスラング辞書」が2012年に受賞しています。これは邦訳のある彼の小著「現代スラング辞典」(島村宣男,村山和行訳)とは別物です。受賞した方は現代を代表する英語スラング専門家としての全三巻に及ぶ集大成で、この分野ではランダムハウスのアメリカスラング辞書と双璧の存在になっています。(ちなみに彼には「辞書の世界史」という著述もあり、これは優れた英米圏における辞書編纂史でありながら、Sジョンソン、Nウェブスター、Jマレーを巡るエピソードに満ちていて読み物としても面白かったです)
通してみるとやはり、数巻から数十巻に渡るものの受賞が多いようで単巻での受賞は少なく、仮にあったとしてもかなり巨大な事典になってしまう傾向がありますね。
出版社では、初期の頃はマクミラン社の受賞が多く、最近はオックスフォード大学出版会やプリンストン大学出版会のような大学系出版社の受賞が中心です。事典の時代が過ぎたためかマクミランはその後買収されてしまいました。
邦訳されたものとしては「ニューグローヴ世界音楽大事典 全23巻」「生命倫理百科事典 全5巻」「タイムズ=講談社世界海洋アトラス」「環大西洋奴隷貿易歴史地図」(佳作)などが挙げられます。
ニューグローヴは日本の図書館にもよく置いてある大冊のシリーズですが、あちらでも「音楽全般に関する史上最大の情報リソース」などと紹介されています。これを翻訳するなんて昔の出版界は体力があったもんです。事典の翻訳は厳密性が要求されてしかも量が桁外れなので出版社にとってまさに『翻訳事業』になります。
「タイムズ=講談社世界海洋アトラス」は、タイムズアトラスシリーズの一冊です。これ一冊だけの単巻での受賞であり、定価2万円のところネット古書店に1500円ぐらいで出てたので試しにどんなものか買ってみました。まだちょっと読んでみただけの感想ですがかなり充実した内容です。グラフィックは年代相応に古めかしいけれど、単なる海洋地形や海流・海洋資源などだけではなく貿易・国際関係・軍事まで包括しており、海に関する本でここまで詳しいのはあまり見かけません。
他にエリアーデの「世界宗教事典」にも邦訳版はあるものの700ぺージほどの単巻なので恐らく抄訳でしょう。1988年度に受賞している原著は大冊で計16巻というから、宗教だけでブリタニカ百科事典の半分に迫る勢いです。
もうひとつ事典類を多く顕彰している賞として、学術書を対象にしたアメリカ出版協会のR.R.ホーキンズ賞(R.R. HAWKINS AWARD)があります。(https://proseawards.com/winners/)
30年ほど前からは上記ダートマスメダルと時期的に並行しているので各年度の受賞作を比較してみると興味深いです。そこで歴代の受賞作品の中からレファレンス書と思ぼしきものを下に抜き出してみました。当然ダートマスメダルでも受賞しているものもいくつかあり、★印をつけて置きました(佳作は▲印)。
1991(大賞)Oxford University Press The Oxford Dictionary of Byzantium(オックスフォード ビザンツ辞書) Editor-in-Chief: Alexander P. Kazhdan
1991(ブックデザイン・装丁部門)National Gallery of Art Art for the Nation: Gifts in Honor of the 50th Anniversary of the National Gallery of Art(国家のためのアート:国立美術館50周年記念) Editor-in-Chief: Frances P. Smyth Designed by: Cynthia Hotvedt
1991(法務及び会計部門)John Wiley & Sons Handbook of International Accounting(国際会計ハンドブック) Editor: Frederick D.S. Choi
1991(生物学及び医学部門)John Wiley & Sons Microscopic Anatomy of Invertebrates(無脊椎動物のミクロ解剖学) Editor: Frederick W. Harrison
1992(工学ハンドブック部門)Van Nostrand Reinhold Membrane Handbook(メンブレンハンドブック) Editors: W.S. Winston Ho & Kamalesh K. Sirkar
1992(芸術・言語・文学部門)Oxford University Press International Encyclopedia of Linguistics(国際言語学事典) Editor: William Bright
1993(最優秀電子製品部門)The Electronic Library of Medicine, Little, Brown & Company Maxx Maximum Access to Diagnosis and Therapy(診断と治療へのMaxxマクミランアクセス) Editors: Little, Brown & Company
1993(歴史部門)Simon & Schuster Encyclopedia of the Confederacy(南軍百科事典) Editor in Chief: Richard N. Current
1993(政府及び政治部門)Charles Scribner’s Sons Encyclopedia of Arms Control and Disarmament(軍備管理と軍縮の百科事典) Editor: Richard Dean Burns
1993(芸術・言語・文学部門)Oxford University Press The Oxford Guide to Classical Mythology in the Arts: 1300–1990s 2vols.(芸術における古典神話へのオックスフォードガイド:1300–1990年代 2巻) By: Jane Davidson Reid
1994(設計と生産における卓越性部門佳作)pringer-Verlag New York, Inc. Chest Atlas: Radiographically Correlated Thin-Section Anatomy in Five Planes(胸部アトラス:5つの平面におけるX線写真で相関する薄片の解剖学) By: Jesse T. Littleton and Mary Lou Durizch
1994(最優秀電子製品部門)McGraw-Hill McGraw-Hill Multimedia Encyclopedia of Science & Technology(マグロウヒルマルチメディア科学技術百科事典) McGraw-Hill (Sybil P. Parker, Editor in Chief); Accepting Award: Ms. Sybil Parker, Publisher, Science & Engineering
1994(看護及び医療部門佳作)Appleton & Lange, Inc. Women’s Health: A Primary Care Clinical Guide(女性の健康:プライマリケア臨床ガイド) By: Ellis Quinn Youngkin, Ph.D., RNC, OGNP and Marcia Szmania Davis, MS, MSEd, RNC, WHCNP, ANP
1994(工学ハンドブック部門)McGraw-Hill Handbook of Solid Waste Management(固形廃棄物管理ハンドブック) By: Frank Kreith. Accepting Award: Mr. Larry Hager, Senior Editor, Civil Engineering
1994(数学部門)John Wiley & Sons, Inc. The Mathematical Universe: An Alphabetical Journey Through the Great Proofs, Problems, and Personalities(数学的宇宙:偉大な証明、問題および個性を巡るアルファベット順の旅) By: William Dunham. Accepting Award: Ms. Emily Loose,
1994(地理学及び地球科学部門)John Wiley & Sons, Inc. Rivers of the United States, Volume I, ESTUARIES(アメリカ合衆国の川、第1巻、河口) By: Ruth Patrick. Accepting Award: Mr. Philip Manor, Senior Editor
1994(生物学部門)Harvard University Press Identification Guide to the Ant Genera of the World(世界のアリ属識別ガイド) By: Barry Bolton
1995(大賞)Charles Scribner’s Sons Civilizations of the Ancient Near East(古代オリエントの文明) Editor: Jack K. Sasson★
1995(最優秀電子製品部門)McGraw-Hill Science Navigator(サイエンスナビゲイター) Edited by: Sybil Parker
1995(工学ハンドブック部門)CRC Press The Biomedical Engineering Handbook(医療生体工学ハンドブック) Editor: Joseph Bronzino
1995(工学ハンドブック部門佳作) HONORABLE MENTIONCRC Press The Civil Engineering Handbook(土木ハンドブック) Editor: Wai-Feh Chen
1995(化学部門)John Wiley & Sons, Inc. Encyclopedia of Energy: Technology and the Environment(エネルギー百科事典 技術と環境) By: Attilio Bisio and Sharon Boots
1995(地理学及び地球科学部門)MIT Press From Cap Cod to the Bay of Fundy: An Environmental Atlas of the Gulf of Maine(キャップコッドからファンディ湾まで:メイン湾の環境アトラス) By: Philip W. Conkling
1995(生物学部門)CRC Press Atlas of the Prenatal Rat Brain Development(出生前ラット脳発達のアトラス) By: Joseph Altman and Shirley A. Bayer
1995(生物学部門佳作)Harvard University Press A New General Catalogue of Ants of the World(新しい世界のアリの総合カタログ) By: Barry Bolton
1995(歴史部門)Charles Scribner’s Sons Encyclopedia of the United States in the Twentieth Century(20世紀アメリカ事典) Editor: Stanley I. Kutler
1996(大賞)Oxford University Press The Oxford Encyclopedia of the Reformation(オックスフォード 改革の事典) Editor: Hans J. Hillerbrand
1996(最優秀電子製品部門)Columbia University Press The Columbia World of Quotations on CD-ROM(コロンビア CD-ROMによるの引用の世界) Edited by: Robert Andrews, Mary Biggs, and Michael Seidel
1996(工学ハンドブック部門)CRC Press LLC The Control Handbook(コントロールハンドブック) Editor: William S. Levine
1996(社会学及び人類学部門)G.K. Hall and Co. Encyclopedia of World Cultures(世界文化事典) Editor-in-Chief: David Levinson
1996(地理学及び地球科学部門)Oxford University Press Encyclopedia of Climate and Weather(気候と天気の事典) Editor-in-Chief: Stephen H. Schneider
1996(臨床医学部門)Mosby-Year Book, Inc. Regional Anesthesia: An Atlas of Anatomy and Techniques(局所麻酔:解剖学と技術のアトラス) By: Marc B. Hann, D.O., Patrick M. McQuillan, M.D., George J. Sheplock, M.D.
1996(看護及び医療部門)Mosby-Year Book, Inc. Pain Management Handbook(疼痛管理ハンドブック) By: Evelyn Salerno, BS, PharmD, FASCP and Joyce S. Willens, PhD, RN
1996(歴史部門)Macmillan Reference Encyclopedia of African-American Culture and History(アフリカ系アメリカ人の文化と歴史の事典) Editors: Jack Salzman, David Lionel Smith, and Cornel West▲
1997(最優秀電子製品–ハードメディア–数学/自然科学部門)Mosby, Inc. Temporal Bone Dissector: The Interactive Otology Reference(側頭骨解剖学:インタラクティブ耳科学リファレンス) By: Nikolas H. Blerins, Robert K. Jackler and Christine Gralapp
1997(最優秀電子製品–インターネット–社会科学/人文科学部門)Johns Hopkins University Press The Johns Hopkins Guide on Literary Theory and Criticism Online(文学理論と批評に関するジョンズホプキンスオンラインガイド) By: Micahel Groden and Martin Kreiswirth
1997(工学ハンドブック部門)McGraw-Hill Steel Design Handbook: LRFD Methods(鋼設計ハンドブック:LRFDメソッド) Editor: Akbar R. Tamboli
1997(物理学及び天文学部門)John Wiley & Sons, Inc. Encyclopedia of Acoustics Edited(音響百科事典) By: Malcom J. Crocker
1997(生物学部門)John Wiley & Sons, Inc. World Weeds: Natural Histories and Distribution(世界の雑草:自然の歴史と分布) By: LeRay Holm, Jerry Doll, Eric Holm, Juan Pancho, and James Herberger
1997(医学部門)Academic Press Atlas of the Human Brain(人間の脳のアトラス) By: Jurgen K. Mai, Joseph K. Assheuer, and George Paxinos
1997(心理学部門)John Wiley & Sons, Inc. Handbook of Child and Adolescent Psychiatry(児童青年精神医学ハンドブック) Edited By: the late Joseph D. Noshpitz
1998(大賞)Oxford University Press International Encyclopedia of Dance(国際ダンス事典) Founding Editor, Selma Jeanne Cohen▲
1998(最優秀電子製品–インターネット–社会科学/人文科学部門)Columbia University Press Columbia International Affairs Online (CIAO コロンビア 国際問題オンライン)
1998(臨床医学部門)Appleton & Lange Operative Trauma Management: An Atlas(手術の外傷管理:アトラス) C. James Carrico, M.D., Erwin R. Thal, M.D., John A. Weigelt, M.D.
1998(地理学及び地球科学部門)Columbia University Press The Columbia Gazetteer of the World(コロンビア 世界地名集) Saul B. Cohen, Editor▲
1998(工学ハンドブック部門)John Wiley & Sons, Inc. Handbook of Simulation(シミュレーションハンドブック) Jerry Banks
1998(生物学部門)The New York Botanical Garden Press Illustrated Companion to Gleason & Cronquist’s Manual: Illustrations of the Vascular Plants of Northeastern United States and Adjacent Canada(グリーソン&クロンクイスト図解マニュアル案内:米国北東部と隣接するカナダの血管植物の図解) Noel H. Holmgren & collaborators
1998(数学及び科学部門)Nature America, Inc. Nature Biotechnology Web Site(ネイチャー バイオテクノロジーウェブサイト) Susan Hassler, Editor
1999(大賞)Oxford University Press American National Biography(アメリカの伝記事典)★
1999(ブックデザイン・装丁部門)The MIT Press Mapping Boston(ボストンの地図作成)
1999(電子製品–ハードメディア–社会科学/人文科学部門)Macmillan Reference Library African American History & Culture CD-ROM(アフリカ系アメリカ人の歴史と文化CD-ROM版)
1999(電子製品–インターネット–数学/自然科学部門)Columbia University Press Earthscape: The Online Resource on the Global Environment(アースケイプ:地球環境に関するオンラインリソース)
1999(芸術部門)Yale University Press A Descriptive Catalogue of the Music of Charles Ives(チャールズ・アイブスの音楽の解説的カタログ)
1999(化学部門)Academic Press The Porphyrin Handbook(ポルフィリンハンドブック)
1999(工学ハンドブック部門)Academic Press Handbook of Nanostructured Materials and Nanotechnology(ナノ構造材料とナノテクノロジーのハンドブック)
1999(工学ハンドブック部門佳作)McGraw-Hill Highway Design and Traffic Safety Engineering Handbook(高速道路の設計と交通安全工学ハンドブック)
1999(一般工学部門)McGraw-Hill Hazardous Materials Management Desk Reference(危険物管理デスクレファレンス)
1999(地理学及び地球科学部門)Academic Press Encyclopedia of Volcanoes(火山事典)
1999(心理学部門)The MIT Press The MIT Encyclopedia of the Cognitive Sciences(MIT認知科学事典)
2000(大賞)Johns Hopkins University Press The Bees of the World(世界のミツバチ)
2000(PSPインターネットベースの電子製品–数学/科学部門)John Wiley & Sons www.wileyvirtual.com(ワイリーヴァーチャルコム)
2000(臨床医学部門佳作)Academic Press Brain Mapping, The Disorders(脳機能マッピング 障害)
2000(工学ハンドブック部門)McGraw-Hill Standard Handbook of Environmental Science, Health, and Technology(環境科学、健康、技術の標準ハンドブック)
2000(工学ハンドブック部門佳作)Academic Press Handbook of Medical Imaging(医療用画像ハンドブック)
2000(医学部門佳作)Springer-Verlag Neuroimaging(ニューロイメージング)
2000(多巻レファレンス書人文科学部門)Princeton University Press Barrington Atlas of the Greek and Roman World(ギリシア・ローマ歴史地図)
2000(多巻レファレンス書人文科学部門佳作)Oxford University Press Encyclopedia of the Dead Sea Scrolls(死海文書事典)
2000(多巻レファレンス書科学部門)John Wiley & Sons WAIMH Handbook of Infant Mental Health(乳幼児のメンタルヘルスに関するWAIMHハンドブック)
2000(多巻レファレンス書科学部門佳作)Oxford University Press Encyclopedia of Psychology (心理学事典)
2000(単巻レファレンス書科学部門)Johns Hopkins University Press Synapses(シナプス)
2001(大賞)Yale University Press Lichens of North America(北アメリカの地衣類)
2001(工学部門)McGraw-Hill APA Engineered Wood Handbook(APAエンジニアードウッドハンドブック)
2001(工学部門佳作)Mcgraw-Hill Handbook of Materials for Product Design(製品設計のための材料ハンドブック)
2001(多巻レファレンス書人文科学部門)Oxford University Press The Oxford Encyclopedia of Ancient Egypt(オックスフォード古代エジプト事典)★
2001(多巻レファレンス書人文科学部門佳作)Princeton University Press The Collected Works of Samuel Coleridge Taylor(サミュエル・コールリッジ・テイラー全集)
2001(多巻レファレンス書人文科学部門佳作)Oxford University Press The Oxford Encyclopedia of Mesoamerican Cultures(オックスフォード メソアメリカ文化百科事典)
2001(多巻レファレンス書科学部門)John Wiley & Sons Wiley Encyclopedia of Molecular Medicine(ワイリー「分子生物学大百科事典」朝倉書店から抄訳あり)
2001(単巻レファレンス書人文科学部門)Oxford University Press The New Historical Atlas of Religion in America(アメリカの宗教の新しい歴史的アトラス)
2001(単巻レファレンス書人文科学部門佳作)Yale University Press The Holocaust Encyclopedia(ホロコースト大事典)
2001(単巻レファレンス書科学部門)The M.I.T. Press Handbook of Development Cognitive Neuroscience(開発認知神経科学ハンドブック)
2002(最優秀インターネットベース電子製品:社会科学/人文科学部門)Congressional Quarterly Press CQ Supreme Court Collection(CQ最高裁判所コレクション) By: CQ Press
2002(最優秀インターネットベース電子製品:数学/科学部門)American Chemical Society ACS Journal Archive(ACSジャーナルアーカイブ) By: American Chemical Society
2002(化学部門)John Wiley and Sons Handbook of Organopalladium Chemistry for Organic Synthesis(有機合成のための有機パラジウム化学ハンドブック) By: Ei-ichi Negishi
2002(情報学部門)Oxford University Press Handbook of Data Mining and Knowledge Discovery(データマイニングと知識発見のハンドブック) By: Willi Klösgen and Jan Zytkow
2002(情報学部門佳作)Oxford University Press Handbook of Applied Optimization(応用最適化ハンドブック) By: Panos M. Pardalos and Mauricio G. C. Resende
2002(工学部門佳作)McGraw-Hill Urban Water Supply Handbook(都市給水ハンドブック) By: Larry W. Mays
2002(医学部門佳作)Springer-Verlag Color Atlas of Pulmonary Cytopathology(肺細胞病理学のカラーアトラス) Sudha R. Kini, M.D.
2002(多巻レファレンス書人文科学部門)Oxford University Press A Chronology of American Musical Theater(アメリカのミュージカル劇場の年代学) By: Richard Norton
2002(多巻レファレンス書科学部門)John Wiley and Sons Encyclopedia of Imaging Science and Technology(イメージング科学技術百科事典) By: Joseph Hornak
2002(単巻レファレンス書人文科学部門)Cornell University Press Ariadne’s Thread: A Guide to International Tales Found in Classical Literature(アリアドネのスレッド:古典文学に見られる国際物語へのガイド) By: William Hansen
2002(単巻レファレンス書人文科学部門佳作)Oxford University Press Social Workers’Desk Reference(ソーシャルワーカーズデスクリファレンス) By: Albert R. Roberts and Gilbert J. Greene, Editors
2002(単巻レファレンス書科学部門)John Wiley and Sons, Inc. Human Fossil Record, Volume 1(人間の化石記録第1巻) By: Jeffrey Schwartz and Ian Tattersall
2003(建築及び都市研究部門)John Wiley and Sons, Inc. Interior Graphic Standards(インテリアグラフィックスタンダード) By: Maryrose McGowan and Kelsey Kruse
2003(情報学部門)Springer Handbook of Fingerprint Recognition(指紋認識ハンドブック) By: Davide Maltoni, Dario Maio, Anil K. Jain and Salil Prabhakar
2003(工学部門)McGraw-Hill Standard Handbook of Biomedical Engineering & Design(医療生体工学および設計の標準ハンドブック) By: Myer Kutz
2003(多巻レファレンス書人文科学部門)John Wiley and Sons, Inc. Handbook of Psychology, 12 Volume Set(心理学ハンドブック全12巻) By: Irving B. Weiner, PhD
2003(多巻レファレンス書人文科学部門佳作)Yale University Press Creeds and Confessions of Faith in the Christian Tradition(キリスト教の伝統に対する信条と信仰の告白) By: Jaroslav Pelikan and Valerie Hotchkiss
2003(多巻レファレンス書科学部門)John Wiley and Sons, Inc. Encyclopedia of Catalysis(触媒作用事典) By: István Horváth
2003(単巻レファレンス書人文科学部門)Yale University Press The Encyclopedia of Ireland(アイルランド事典) By: Brian Lalor
2003(単巻レファレンス書人文科学部門佳作)Columbia University Press The Columbia Companion to Modern East Asian Literature(現代東アジア文学へのコロンビアによる手引き) By: Joshua Mostow
2003(単巻レファレンス書科学部門)Elsevier Encyclopedia of Insects(昆虫事典) By: Vincent H. Resh and Ring T. Cardé
2003(単巻レファレンス書科学部門佳作)University of Chicago Press Wolves: Behavior, Ecology, and Conservation(オオカミ:行動、生態学、および保護) By: L. David Mech and Luigi Boitani.
2003(電子製品科学部門)John Wiley and Sons, Inc. Organic Syntheses(有機合成) Organic Syntheses, Inc.
2003(電子製品社会科学部門)CQ Press CQ Congress Collection & CQ Voting and Elections Collection(CQコングレスコレクション&CQ投票および選挙コレクション) CQ Press
2003(電子製品人文科学部門)Columbia University Digital Knowledge Ventures Columbia American History Online(コロンビアアメリカ史オンライン) By: Alan Brinkley, Eric Foner, Kenneth T. Jackson and Casey Blake
2003(電子製品人文科学部門佳作)Oxford University Press Oxford Scholarship Online(オックスフォード奨学金オンライン) By: Niko Pfund
2004(生物学部門)Johns Hopkins University Press Sea Turtles: A Complete Guide to their Biology, Behavior, and Conservation(ウミガメ:その生物学、行動、および保護への完全なガイド) By: James R. Spotila
2004(工学部門)John Wiley and Sons, Inc. Handbook of Industrial Mixing: Science and Practice(インダストリアルミキシングハンドブック:科学と実践) By: Edward L. Paul, Victor A. Atiemo-Obeng, and Suzanne M. Kresta
2004(法律部門佳作)CQ Press 100 Americans Making Constitutional History: A Biographical History(憲法の歴史を作る100人のアメリカ人:伝記による歴史) By: Melvin I. Urofsky
2004(社会学及び人類学部門)John Wiley and Sons The Human Fossil Record: Volume3 Brain Endocasts – The Paleoneurological Evidence(人間の化石記録:第3巻、脳のエンドキャスト–古神経学的証拠) By: Ralph L. Halloway, Douglas C. Broadfield, and Michael S. Yuan
2004(多巻レファレンス書人文科学部門)Oxford University Press The Oxford Dictionary of National Biography(オックスフォード英国国民伝記事典) By: H.C.G. Matthew and Brian Harrison★
2004(多巻レファレンス書科学部門)John Wiley and Sons, Inc. The Internet Encyclopedia(インターネット百科事典) By: Hossein Bidgoli
2004(単巻レファレンス書人文科学部門)University of Chicago Press The Encyclopedia of Chicago(シカゴ百科事典) By: James R. Grossman, Ann Durkin Keating, and Janice L. Reiff
2004(単巻レファレンス書科学部門)Cornell University Press The Black Flies (Simuliidae) of North America(北米のブユ(ブユ科)) Peter H. Adler, Douglas C. Currie, and D. Monty Wood
2004(単巻レファレンス書科学部門佳作)Princeton University Press Flowering Plants of the Neotropics(新熱帯の顕花植物) By: Nathan Smith, Scott A. Mori, Andrew Henderson, Dennis Wm. Stevenson, and Scott V. Heald
2004(単巻レファレンス書科学部門佳作)John Wiley and Sons, Inc. Dictionary of Engineering Materials(材料工学事典) By: Harald Keller and Uwe Erb
2005(大賞)Elsevier Atlas of Clinical Gross Anatomy(臨床総解剖学アトラス) By: Kenneth Moses, MD, John C. Banks, PhD, Pedro B. Nava, PhD, and Darrell Peterson
2005(考古学及び人類学部門佳作)John Wiley and Sons, Inc. Human Fossil Record Volume 4(人間の化石記録第4巻) By: Jeffrey H. Schwartz and Ian Tattersall
2005(建築及び都市計画部門)Springer Constructing Architecture: Materials Processes Structures. A Handbook(アーキテクチャの構築:マテリアルプロセス構造。ハンドブック) By: Andrea Deplazes
2005(化学部門佳作)John Wiley and Sons, Inc. Drug Discovery Handbook(創薬ハンドブック) By: Shayne Cox Gad
2005(コンピューターおよび情報学部門)Wiley and Sons, Inc. Databasing the Brain(脳のデータベース化) By: Stephen H. Koslow and Shankar Subramaniam
2005(工学部門)Wiley and Sons, Inc. Taguchi’s Quality Engineering Handbook(田口の品質工学ハンドブック) By: Genichi Taguchi, Subir Chowdhury, Yuin Wu
2005(工学部門佳作)McGraw-Hill Semiconductor Manufacturing Handbook(半導体製造ハンドブック) By: Hwaiyu Geng
2005(科学史部門佳作)Springer Exploring the Ancient Skies: An Encyclopedic Survey of Archeoastronomy(古代の空を探る:天文考古学の百科事典的調査) By: David H. Kelley and Eugene F. Milone.
2005(哲学部門佳作)Oxford University Press Truth: A Guide(真実:ガイド) By: Simon Blackburn
2005(多巻レファレンス書人文社会科学部門)The University of Chicago Press The Taoist Canon: A Historical Companion to the Daozang(タオイストのカノン:道蔵への案内) By: Kristofer Schipper and Franciscus Verellen
2005(多巻レファレンス書自然科学部門)John Wiley and Sons, Inc. Encyclopedia of RF and Microwave Engineering(RFおよびマイクロ波工学事典) By: Kai Chang
2005(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)John Wiley and Sons, Inc. Water Encyclopedia(水の事典) By: Jay H. Lehr and Jack Keeley
2005(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Oxford University Press Encyclopedia of Christianity(キリスト教事典) John Bowden
2005(単巻レファレンス書自然科学部門)Oxford University Press An Illustrated Chinese Materia Medica(図解中国の医薬品材料) By: Jing – Nuan Wu
2005(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Springer Encyclopedia of Coastal Science(沿岸科学事典) By: Maurice Schwartz
2006(ビジネス・管理・会計部門佳作)John Wiley & Sons, Inc. A Guide to Forensic Accounting Investigation(法廷会計調査のガイド) Thomas W. Golden, Steven L. Skalak and Mona M. Clayton
2006(臨床医学部門)Thieme Medical Publishers Inc. Atlas of Neurological Technique, 2 Volumes(神経学的手法のアトラス2巻) By: Richard G. Fessler and Laligam Sekhar
2006(工学部門)Mc Graw-Hill Foundation Engineering Handbook(基礎工学ハンドブック) By: Robert W. Day
2006(医学部門佳作)Harvard University Press Cross-Sectional Atlas(断面アトラス) By: Peter Ratiu and Ion-Florin Talos
2006(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Oxford University Press Encyclopedia of African American History(アフリカ系アメリカ人の歴史事典) By: Paul Finkelman
2006(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Princeton University Press The Novel: 2 Volumes(小説:2巻) By: Franco Moretti
2006(多巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier, Inc. Encyclopedia of Respiratory Medicine(呼吸器医学事典) By: Geoffrey Laurent and Steven Shapiro
2006(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)John Wiley & Sons, Inc. Wiley Encyclopedia of Biomedical Engineering(ワイリー医療生体工学事典) By: Metin Akay
2006(単巻レファレンス書人文社会科学部門)CQ Press Historical Atlas of U.S Presidential Elections 1788-2004(米国大統領選挙の歴史的アトラス1788-2004) By: J.Clark Archer, Stephen J. Lavin, Kenneth C. Martis and Fred M. Shelley
2006(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Yale University Press The Yale Book of Quotations(エール 質問の本) By: Fred R. Shapiro
2006(単巻レファレンス書自然科学部門)Johns Hopkins University Press Dragonfly Genera of the New World: An Illustrated and Annotated Key to the Anisoptera(新世界のトンボ属:アニソプテラへの図解および注釈付きの鍵) By: Dr. Rosser W. Garrison, Natalia von Ellenrieder and Jerry A. Louton
2006(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier, Inc. The Immune Response(免疫応答) By: Tak Mak and Mary Saunders
2007(ベストレファレンス部門)Columbia University Press The Columbia Encyclopedia of Modern Drama(コロンビア現代演劇辞典) By: Gabrielle H. Cody and Evert Sprinchorn
2007(最優秀電子製品部門)McGraw-Hill Inc McGraw-Hill’s AccessPharmacy(マグロウヒルプライマリーアクセス)
2007(芸術及び美術史部門佳作)Yale University Press Stuart Davis: A Catalogue Raisonne(スチュアート・デイビス:カタログレゾネ) By: Ani Boyajian and Mark Rutkoski
2007(工学及びテクノロジー部門佳作)John Wiley & Sons Handbook of Noise and Vibration Control(騒音と振動の制御のハンドブック) Malcom Crocker
2007(生物学部門佳作)Princeton University Press A Biologist’s Guide to Mathematical Modeling in Ecology and Evolution(生物学者のための生態学と進化における数学的モデリングへのガイド) By: Sara P. Otto and Troy Day
2007(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Columbia University Press The Columbia Encyclopedia of Modern Drama(コロンビア現代演劇辞典) By: Gabrielle H. Cody and Evert Sprinchorn
2007(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Oxford University Press The Oxford Encyclopedia of Maritime History(オックスフォード 海事史事典) John B. Hattendorf★
2007(多巻レファレンス書自然科学部門)John Wiley & Sons Wiley Series in Environmentally Conscious Engineering(環境に配慮した工学のWileyシリーズ) By: Myer Kutz
2007(単巻レファレンス書自然科学部門)The University of Chicago Press The Ecology and Behavior of Amphibians(両生類の生態と行動) By: Kentwood D. Wells
2008(最優秀物理科学および数学部門)Springer Science+Business Media Springer Handbook of Robotics(シュプリンガー ロボット工学ハンドブック) Professors Bruno Siciliano & Oussama Khatib
2008(最優秀レファレンス書部門)The Johns Hopkins University Press French Women Poets of Nine Centuries: The Distaff & the Pen(9世紀のフランスの女性詩人:糸巻き棒とペン) Norman R. Shapiro
2008(プリンストン大学出版局部門佳作)Oxford University Press A Guide to the Good Life: The Ancient Art of Stoic Joy(グッドライフへのガイド:ストイックジョイの古代芸術) William B. Irvine
2008(工学及びテクノロジー部門)Springer Science+Business Media Springer Handbook of Robotics(シュプリンガー ロボット工学ハンドブック) Professors Bruno Siciliano & Oussama Khatib
2008(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Palgrave MacMillan The New Palgrave Dictionary of Economics(経済学の新しいパルグレイブ事典) Steven N. Durkauf & Lawrence E. Blume
2008(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley-Blackwell The International Encyclopedia of Communication(コミュニケーションの国際百科事典) Professor Dr. Wolfgang Donsbach
2008(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Yale University Press The YIVO Encyclopedia of Jews in Eastern Europe: 2 Volumes(東ヨーロッパのユダヤ人のYIVO百科事典:2巻) Gershon David Hundert
2008(単巻レファレンス書人文社会科学部門)The Johns Hopkins University Press French Women Poets of Nine Centuries: The Distaff & the Pen(世紀のフランスの女性詩人:糸巻き棒とペン) Selected & Translated by: Norman R. Shapiro
2008(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)CQ Press Social Security: A Documentary History(社会保障:事実の歴史) Edward D. Berkowitz, Larry W. DeWitt & Daniel Beland
2008(単巻レファレンス書自然科学部門)Thieme Medical Publishers Atlas of Anatomy & Anatomy Flash Cards(解剖学&解剖学フラッシュカードのアトラス) Anne M. Gilroy, Brian R. MacPherson & Lawrence M. Ross
2008(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Princeton University Press The Princeton Companion to Mathematics(プリンストン 数学大全) Editor: Timothy Gowers
2009(最優秀レファレンス書部門)John Wiley&Sons、Inc。 Wiley Interdisciplinary Reviews(WIREs ワイリー 学際的レヴュー)
2009(文学・言語・言語学部門佳作)The University of Chicago Press Petrarch: A Critical Guide to the Complete Works(ペトラルカ:全作品への重要なガイド)
2009(教育部門佳作)SAGE Publications, Inc. The SAGE Handbook of African American Education(SAGEアフリカ系アメリカ人教育のハンドブック)
2009(看護と医療部門)Thieme Medical Publishers, Inc. Pocket Atlas of Chinese Medicine(漢方薬のポケットアトラス)
2009(看護と医療部門佳作)Elsevier, Inc. The Muscle and Bone Palpation Manual(筋肉と骨の触診マニュアル)
2009(数学部門)Academic Press/Elsevier, Inc. Handbook of Statistical Analysis and Data Mining Applications(統計分析およびデータマイニングアプリケーションのハンドブック)
2009(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press Dictionary of Irish Biography(アイルランド伝記事典)
2009(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)CQ Press Encyclopedia of the First Amendment(憲法修正第1条の百科事典)
2009(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley-Blackwell The International Encyclopedia of Revolution and Protest: 1500 to the Present(革命と抗議の国際百科事典:1500年から現在まで)
2009(多巻レファレンス書自然科学部門)John Wiley & Sons, Inc. Wiley Encyclopedia of Chemical Biology(ワイリーケミカルバイオロジー事典)
2009(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Academic Press/Elsevier, Inc. Encyclopedia of Inland Waters(内陸水域事典)
2009(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Wiley-Blackwell A Companion to Late Antiquity(古代末期への案内)
2009(単巻レファレンス書自然科学部門)Springer Publishing Company The Penn Center Guide to Bioethics(ペンセンター生命倫理ガイド)
2009(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)University of California Press Encyclopedia of Islands(島の事典)
2010(大賞)Yale University Press Atlas of the Transatlantic Slave Trade(環大西洋奴隷貿易歴史地図)▲
2010(最優秀レファレンス部門)Yale University Press Atlas of the Transatlantic Slave Trade(環大西洋奴隷貿易歴史地図)▲
2010(アートテクニック部門)Focal Press The VES Handbook of Visual Effects(視覚効果のVESハンドブック)
2010(文学・言語・言語学部門佳作)Wiley-Blackwell A Guide to Early Printed Books and Manuscripts(初期印刷本と写本へのガイド)
2010(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The New Cambridge History of Islam(ケンブリッジ新イスラム史)
2010(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Cambridge University Press The Cambridge History of the Cold War(ケンブリッジ冷戦史)
2010(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)John Wiley & Sons, Inc. The Handbook of Life-Span Development(ライフスパン開発ハンドブック)
2010(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)The University of Chicago Press The History of Continental Philosophy(大陸哲学の歴史)
2010(多巻レファレンス書自然科学部門)Academic Press Encyclopedia of Animal Behavior(動物行動百科事典)
2010(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Sage Publications, Inc. Encyclopedia of Geography(地理百科事典)
2010(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Yale University Press Atlas of the Transatlantic Slave Trade(環大西洋奴隷貿易歴史地図)▲
2010(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)CQ Press America’s Struggle with Empire: A Documentary History(アメリカの帝国との闘い:事実の歴史)
2010(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)CQ Press Resort to War(戦争への道)
2010(単巻レファレンス書自然科学部門)University of California Press Cenezoic Mammals of Africa(アフリカの新生代哺乳類)
2010(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)The MIT Press Atlas of Science(科学アトラス)
2010(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Princeton University Press The Princeton Field Guide to Dinosaurs(プリンストン 恐竜生態ガイド)
2011(大賞)McGraw-Hill Professional The Diffusion Handbook: Applied Solutions for Engineers(拡散ハンドブック:エンジニア向けの応用ソリューション)
2011(物理科学および数学部門)McGraw-Hill Professional The Diffusion Handbook: Applied Solutions for Engineers(拡散ハンドブック:エンジニア向けの応用ソリューション)
2011(最優秀レファレンス部門)Princeton University Press The Crossley ID Guide: Eastern Birds(クロスリーIDガイド 東方の鳥類)
2011(アートテクニック部門)Tradigital Blender: A CG Animator’s Guide to Applying the Classic Principles of Animation(トラデジタルブレンダー:アニメーションの古典的な原則を適用するためのCGアニメーターのガイド)
2011(生物学部門佳作)Yale University Press New England Wild Flower Society’s Flora Novae Angliae: A Manual for the Identification of Native and Naturalized Higher Vascular Plants of New England(ニューイングランド野生花協会のFloraNovae Angliae:ニューイングランドの在来および帰化した高等維管束植物の同定のためのマニュアル)
2011(臨床医学部門佳作)Thieme Medical Publishers Encyclopedia of Body Sculpting After Massive Weight Loss(大幅な減量後のボディスカルプティング百科事典)
2011(宇宙論及び天文学部門佳作)Cambridge University Press The Exoplanet Handbook(太陽系外惑星ハンドブック)
2011(経済学部門佳作)Elsevier Science and Technology Handbook of the Economics of Education, Volume 4(教育経済学ハンドブック、第4巻)
2011(工学及びテクノロジー部門)McGraw-Hill Professional The Diffusion Handbook: Applied Solutions for Engineers(拡散ハンドブック:エンジニア向けの応用ソリューション)
2011(電子製品生物学及び生命科学部門)McGraw-Hill Professional AccessPediatrics(小児科学アクセス)
2011(電子製品科学及び数学部門)American Chemical Society C&EN Mobile(C&ENモバイル)
2011(電子製品社会科学部門)Gale/Cengage Learning Gale World Scholar: Latin America and the Caribbean(ゲイルワールドスカラーズ:ラテンアメリカとカリブ海)
2011(電子製品マルチディシプリンプラットフォーム部門)Elsevier SciVerse Hub with SciVerse Applications Platform(SciVerseアプリケーションプラットフォームを備えたSciVerseハブ)
2011(Eパブリッシングにおける電子製品イノベーション部門)Elsevier SciVerse Hub with SciVerse Applications Platform(SciVerseアプリケーションプラットフォームを備えたSciVerseハブ)
2011(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Academic Press/Elsevier Encyclopedia of Adolescence(青年期百科事典)
2011(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley-Blackwell The Encyclopedia of Eastern Orthodox Christianity(東方正教会事典)
2011(多巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier Science and Technology Encyclopedia of Fish Physiology(魚類生理学事典)
2011(単巻レファレンス書人文社会科学部門)CQ Press Cities in American Political History(アメリカ政治史における都市)
2011(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Wiley-Blackwell A Companion to Families in the Greek and Roman Worlds(ギリシャ・ローマ世界における家族への案内)
2011(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Oxford University Press The Oxford Companion to Beer(オックスフォードコンパニオン・トゥ・ビール)
2011(単巻レファレンス書自然科学部門)Princeton University Press The Crossley ID Guide: Eastern Birds(クロスリーIDガイド 東方の鳥類)
2011(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)University of California Press Encyclopedia of Biological Invasions(生物学的侵略の事典)
2012(最優秀物理科学及び数学部門)University of California Press Atlas of Yellowstone(イエローストーンのアトラス) By W. Andrew Marcus, James E. Meacham, Ann W. Rodman, and Alethea Y. Steingisser
2012(最優秀レファレンス書部門)Cambridge University Press The Cambridge History of Religions in America(ケンブリッジ アメリカ宗教史) Edited by Stephen J. Stein
2012(生物学部門佳作)The Johns Hopkins University Press Trees of Life: A Visual History of Evolution(Trees of Life:進化の視覚的歴史) By Theodore W. Pietsch
2012(地球科学部門)University of California Press Atlas of Yellowstone(イエローストーンのアトラス) By W. Andrew Marcus, James E. Meacham, Ann W. Rodman, and Alethea Y. Steingisser
2012(看護及び医療部門佳作)Springer Publishing Company Religion: A Clinical Guide for Nurses(宗教:看護師のための臨床ガイド) By Elizabeth Johnston Taylor, PhD, RNBy Demetra Daskalos Logothetis, RDH, MS
2012(電子製品科学及び数学部門)McGraw-Hill Professional AccessEngineering(エンジニアリングアクセス)
2012(電子製品人文部門)Getty Publications The Visions of Tondal(トンダルのビジョン)
2012(電子製品生物学及び生命科学部門)Elsevier SimChart(SimChart)
2012(電子製品マルチディシプリンプラットフォーム部門)Oxford University Press Oxford Bibliographies Online(オックスフォード オンライン書誌)
2012(言語及び言語学部門佳作)Wiley-Blackwell The Handbook of Hispanic Linguistics(ヒスパニック言語学ハンドブック) Edited by Jose Ignacio Hualde, Antxon Olarrea, and Erin O’Rourke
2012(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The Cambridge History of Religions in America(ケンブリッジ アメリカ宗教史) Edited by Stephen J. Stein
2012(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley-Blackwell The Encyclopedia of War(戦争事典) By Gordon Martel
2012(多巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier Science & Technology Comprehensive Renewable Energy(包括的な再生可能エネルギー) Edited by Ali Sayigh
2012(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)The Geologic Time Scale 2012(地質時代のスケール2012) By Felix M. Gradstein, James G. Ogg, Mark D. Schmitz, and Gabi M. Ogg
2012(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Oxford University Press The Oxford Handbook of African American Citizenship, 1865-Present(オックスフォードアフリカ系アメリカ人市民権ハンドブック、1865年-現在) Edited by Henry Louis Gates, Jr., Claude Steele, Lawrence D. Bobo, Gerald Jaynes, Lisa Crooms-Robinson, Michael Dawson, and Linda Darling-Hammond
2012(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley-Blackwell A Companion to Women in the Ancient World(古代世界の女性への案内) By Sharon L. James and Sheila Dillon
2012(単巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier Science & Technology/Academic Press The Laboratory Rabbit, Guinea Pig, Hamster, and Other Rodents (実験用ウサギ、モルモット、ハムスター、その他の齧歯動物)Edited by Mark Suckow, Karla A. Stevens, and Ronald P. Wilson
2012(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)University of Toronto Press The Natural History of Canadian Mammals(カナダの哺乳類の自然史) By Donna Naughton
2013(最優秀レファレンス書部門)Elsevier/Academic Press Epigenetic Regulation in the Nervous System: Basic Mechanisms and Clinical Impact(神経系におけるエピジェネティックな調節:基本的なメカニズムと臨床的影響) Edited by J. David Sweatt, Michael J. Meaney, Eric J. Nestler, and Schahram Akbarian
2013(電子製品社会科学部門)Oxford University Press Encyclopedia of Social Work Online(オンラインソーシャルワーク百科事典) Editor in Chief Cynthia Franklin
2013(電子製品マルチディシプリンプラットフォーム部門)McGraw-Hill Education AccessScience(サイエンスアクセス) By John Rennie and the AccessScience Team
2013(化学及び物理学部門佳作)Elsevier Encyclopedia of the Alkaline Earth Compounds(アルカリ土類化合物の百科事典) By R.C. Ropp
2013(臨床医学部門佳作)Thieme Publishers Color Atlas of Cerebral Revascularization: Anatomy, Techniques, Clinical Cases(脳血行再建術のカラーアトラス:解剖学、技術、臨床例) By Robert F. Spetzler, Albert L. Rhoton Jr., Peter Nakaji, and Masatou Kawashima
2013(工学及びテクノロジー部門)Wiley Guide to State-of-the-Art Electron Devices(最先端の電子デバイスのガイド) Edited by Joachim N. Burghartz
2013(音楽及び舞台芸術部門)The University of Chicago Press From the Score to the Stage: An Illustrated History of Continental Opera Production and Staging(スコアからステージへ:図解コンチネンタルオペラの制作とステージングの歴史) By Evan Baker
2013(看護及び医療部門佳作)Springer Publishing Company A Man’s Guide to a Nursing Career(男性のための看護キャリアへのガイド) By Chad E. O’Lynn, RN, PhD, RA
2013(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Oxford University Press The Grove Dictionary of American Music(グローブアメリカ音楽事典) Editor in Chief Charles Hiroshi Garrett
2013(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Oxford University Press The Oxford Encyclopedia of Islam and Women(オックスフォード イスラムと女性の事典) Editor in Chief Natana J. DeLong-Bas
2013(多巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier/Academic Press Encyclopedia of Sleep(睡眠事典) By Clete Kushida
2013(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Gale, Cengage Learning Grzimek’s Animal Life Encyclopedia: Extinction(Grzimekの動物生活事典:絶滅種) Editor in Chief Norman MacLeod Advisory Editors J. David Archibald and Phillip Levin
2013(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The Cambridge History of Darwin and Evolutionary Thought(ケンブリッジの歴史 ダーウィンと進化論) Edited by Michael Ruse
2013(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley Blackwell A Companion to the Archeology of the Roman Republic(共和政ローマの考古学への案内) Edited by Jane DeRose Evans
2013(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Lousiana State University Press Concert Life in Nineteenth-Century New Orleans(19世紀のニューオーリンズでのコンサートライフ) By John H. Baron
2013(単巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier/Academic Press Epigenetic Regulation in the Nervous System: Basic Mechanisms and Clinical Impact(神経系におけるエピジェネティックな調節:基本的なメカニズムと臨床的影響) Edited by J. David Sweatt, Michael J. Meaney, Eric J. Nestler, and Schahram Akbarian
2013(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier/Academic Press Handbook of Systems Biology: Concepts and Insights(システム生物学ハンドブック:概念と洞察) Edited by Marian Walhout, Marc Vidal, and Job Dekker
2013(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Princeton University Press The Warbler Guide(ウグイスガイド) By Tom Stephenson and Scott Whittle with Drawings by Catherine Hamilton
2015(最優秀生物学及び生命科学部門)John Wiley and Sons Ultrastructure Atlas of Human Tissues(人類の組織の超微細構造アトラス) By Fred E. Hossler
2015(最優秀物理科学および数学部門)Cambridge University Press Atlas of Meteorites(隕石アトラス) By Monica Grady, Giovanni Pratesi and Vanni Moggi Cecchi
2015(最優秀レファレンス書部門)Cambridge University Press The Cambridge History of the First World War(ケンブリッジ第一次世界大戦史) Edited by Jay Winter
2015(生物学部門)John Wiley and Sons Ultrastructure Atlas of Human Tissues(人類の組織の超微細構造アトラス) By Fred E. Hossler
2015(臨床医学実践部門)Oxford University Press A Video Atlas of Neuromuscular Disorders(神経筋障害のビデオアトラス) By Aziz Shaibani
2015(宇宙論及び天文学部門)Elsevier Encyclopedia of the Solar System(ソーラーシステム百科事典) Edited by Tilman Spohn, Doris Breuer and Torrence Johnson
2015(地球科学部門)Cambridge University Press Atlas of Meteorites(隕石アトラス) By Monica Grady, Giovanni Pratesi and Vanni Moggi Cecchi
2015(工学及びテクノロジー部門佳作)McGraw-Hill Professional Global Innovation Science Handbook(グローバルイノベーションサイエンスハンドブック) Edited by Praveen Gupta and Brett E. Trusko
2015(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The Cambridge History of the First World War(ケンブリッジ第一次世界大戦史) Edited by Jay Winter
2015(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Getty Publications ThesCRA(シソーラス 古い崇拝と儀式)
2015(多巻レファレンス書自然科学部門)ElsevierElsevier Elsevier(エルゼビア) Editors-in-Chief Paul Knochel and Gary Molander
2015(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Johns Hopkins University Press Ducks, Geese, and Swans of North America(北アメリカのアヒル、ガチョウ、白鳥) By Guy Baldassarre
2015(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)John Wiley and Sons The Handbook of Liquid Crystals(液晶ハンドブック8巻) Edited by J.W. Goodby, P.J. Collings, T. Kato, C. Tschierske, H.F. Gleeson and P. Raynes
2015(単巻レファレンス書人文社会科学部門)The Kent State University Press Wearable Prints, 1760-1860: History, Materials, and Mechanics(ウェアラブルプリント、1760-1860:歴史、材料、および力学) By Susan W. Greene
2015(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Wiley-Blackwell A Companion to Ethnicity in the Ancient Mediterranean(古代地中海の民族性の案内) Edited by Jeremy McInerney
2015(単巻レファレンス書自然科学部門)Cambridge University Press Biomaterials and Regenerative Medicine(生体材料と再生医療) Edited by Peter Ma
2015(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier/Academic Press Food Safety Management: A Practical Guide for the Food Industry(食品安全管理:食品産業のための実用ガイド) Edited by Yasmine Motarjemi and Huub Lelieveld
2016(最優秀人文科学部門)Cambridge University Press The Roman Forum: A Reconstruction and Architectural Guide(フォロロマーノ:再建と建築ガイド) By Gilbert J. Gorski and James E. Packer
2016(最優秀レファレンス書部門)Elsevier/Academic Press International Encyclopedia of the Social and Behavioral Sciences(国際社会行動科学事典) Edited by James D. Wright
2016(考古学及び歴史部門)Cambridge University Press The Roman Forum: A Reconstruction and Architectural Guide(フォロロマーノ:再建と建築ガイド) By Gilbert J. Gorski and James E. Packer
2016(臨床医学部門佳作)Thieme Publishers Atlas of the Facial Nerve and Related Structures(顔面神経および関連構造のアトラス) By Nobutaka Yoshioka and Albert L. Rhoton, Jr.
2016(地球科学部門)Cambridge University Press Discovering the Deep: A Photographic Atlas of the Seafloor and Ocean Crust(深海の発見:海底と海洋地殻の写真アトラス) By Jeffrey A. Karson, Deborah S. Kelley, Daniel J. Fornari, Michael R. Perfit and Timothy M. Shank
2016(地球科学部門佳作)Elsevier Atlas of Structural Geology(構造地質学のアトラス) By Soumyajit Mukherjee
2016(地球科学部門佳作)Elsevier/Academic Press The Encyclopedia of Volcanoes(火山事典) Editor-in-Chief Haraldur Sigurdsson
2016(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Elsevier/Academic Press International Encyclopedia of the Social and Behavioral Sciences(国際社会行動科学事典) Edited by James D. Wright
2016(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Cambridge University Press The Cambridge History of the Second World War(ケンブリッジ第二次世界大戦史) General Editor Evan Mawdsley
2016(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Cambridge University Press The Cambridge World History(ケンブリッジ世界史) Edited by David Christian
2016(多巻レファレンス書自然科学部門)Elsevier Treatise on Geophysics(論説 地球物理学) Editor-in-Chief Gerald Schubert
2016(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier/Academic Press Brain Mapping: An Encyclopedic Reference(脳機能マッピング 事典的レファレンス) Editor Arthur Toga
2016(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Wiley Blackwell A Companion to Ancient Egyptian Art(古代エジプト美術の案内) Edited by Melinda K. Hartwig
2016(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Cambridge University Press The Cambridge Prehistory of the Bronze and Iron Age Mediterranean(ケンブリッジ 銅器及び鉄器時代の地中海の先史時代) Edited by A. Bernard Knapp and Peter van Dommelen
2016(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Oxford University Press The Oxford Companion to Sugar and Sweets(オックスフォードコンパニオン 砂糖とお菓子) Edited by Darra Goldstein
2016(単巻レファレンス書自然科学部門)University of California Press The Biology and Ecology of Giant Kelp Forests(巨大藻場の生物学と生態学) By David R. Schiel and Michael S. Foster
2016(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier/Academic Press Genomic Control Process: Development and Evolution(ゲノム制御プロセス:開発と進化) By Isabelle S. Peter and Eric H. Davidson
2016(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)ohns Hopkins University Press Marsupial Frogs: Gastrotheca and Allied Genera(有袋ガエル フクロアマガエルとその属) By William E. Duellman
2016(単巻レファレンス書自然科学部門佳作)Oxford University Press Neuroanatomical Terminology: A Lexicon of Classical Origins and Historial Foundations(神経解剖学的用語集:古典起源と歴史的基盤の語彙) By Larry W. Swanson
2017(最優秀レファレンス書部門)Cambridge University Press The Cambridge Guide to the Worlds of Shakespeare(シェイクスピアの世界へのケンブリッジガイド) Edited by Bruce R. Smith
2017(言語及び言語学部門佳作)Oxford University Press Linguistic Diversity and Social Justice: An Introduction to Applied Sociolinguistics(ロマンス諸語へのオックスフォードガイド) By Ingrid Piller
2017(教科書臨床医学部門佳作)Demos Medical Imaging Anatomy of the Human Brain(人類の脳の画像解剖学) By Neil M. Borden, Scott E. Forseen and Christian Stefa
2017(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The Cambridge Guide to the Worlds of Shakespeare(シェイクスピアの世界へのケンブリッジガイド) Edited by Bruce R. Smith
2017(多巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)The MIT Press Open MIND: Philosophy and the Mind Sciences in the 21st Century(オープンマインド:21世紀の哲学とマインドサイエンス) Edited by Thomas Metzinger and Jennifer M. Windt
2017(多巻レファレンス書自然科学部門)John Wiley & Sons, Inc. Rook’s Textbook of Dermatology, Ninth Edition(ルークの皮膚科学、第9版) Edited by Christopher Griffiths, Jonathan Barker, Tanya Bleiker, Robert Chalmers and Daniel Creamer
2017(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier/Academic Press Encyclopedia of Evolutionary Biology(進化生物学事典) Edited by Richard M. Kliman
2017(多巻レファレンス書自然科学部門佳作)Elsevier/Academic Press Encyclopedia of Immunobiology(免疫生物学事典) Editor-in-Chief Michael J.H. Ratcliffe
2017(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Bloomsbury Encyclopedia of Embroidery from the Arab World(アラブ世界の刺繡事典) Edited by Gillian Vogelsang-Eastwood★
2017(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Cambridge University Press The Cambridge History of Japanese Literature(ケンブリッジ日本文学史) Edited by Haruo Shirane, Tomi Suzuki and David Lurie
2017(単巻レファレンス書人文社会科学部門佳作)Princeton University Press The Princeton History of Modern Ireland(プリンストン アイルランド現代史) Edited by Richard Bourke and Ian McBride
2017(単巻レファレンス書自然科学部門)Princeton University Press The Bees in Your Backyard: A Guide to North America’s Bees(あなたの裏庭のミツバチ:北アメリカのミツバチへのガイド) By Joseph S. Wilson and Olivia J. Messinger Carril
2018(多巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The Cambridge History of Communism(ケンブリッジ共産主義の歴史) By Silvio Pons
2018(多巻レファレンス書自然科学部門)John Wiley & Sons Encyclopedia of Physical Organic Chemistry(有機物理化学百科事典) Edited by Zerong Wang, Uta Wille, and Eusebio Juaristi
2018(単巻レファレンス書人文社会科学部門)Cambridge University Press The Cambridge Intellectual History of Byzantium(ケンブリッジ ビザンティウム精神史) By Anthony Kaldellis and Niketas Siniossoglou
2018(単巻レファレンス書自然科学部門)Oxford University Press The Oxford Compendium of Visual Illusions(オックスフォード視覚幻覚大要) By Arthur G. Shapiro and Dejan Todorovic
2019(臨床医学部門)Demos Medical, an Imprint of Springer Publishing Musculoskeletal Ultrasound Cross-Sectional Anatomy(筋骨格超音波断面解剖学) John C. Cianca MD, Shounuck I. Patel DO
2019(看護および医療部門)Springer Publishing Company Clinical Leadership for Physician Assistants and Nurse Practitioners(医師助手とナースプラクティショナーのための臨床リーダーシップ) By Michael Huckabee PhD, PA-C
2019(多巻レファレンス書人文科学部門)Wiley The TESOL Encyclopedia of English Language Teaching(TESOL英語教育百科事典) Editor in Chief: John I. Liontas▲
2019(多巻レファレンス書自然科学部門)Springer Encyclopedia of Geochemistry(地球化学事典) William M. White
2019(多巻レファレンス書社会科学部門)American Psychological Association APA Handbook of the Psychology of Women; Vol. 1: History, Theory, and Battlegrounds; and Vol 2: Perspectives on Women’s Private and Public Lives(女性の心理学のAPAハンドブック; 1巻:歴史、理論、および戦場; 2巻:女性の私生活と公的生活の展望) By Cheryl B. Travis and Jacquelyn W. White
2019(単巻レファレンス書人文科学部門)Cambridge University Press Gardens of the Roman Empire(ローマ帝国の庭園) Edited by Wilhelmina F. Jashemski, Kathryn L. Gleason, Kim J. Hartswick and Amina-Aïcha Malek
2019(単巻レファレンス書自然科学部門)Springer Encyclopedia of Engineering Geology(土木地質学事典) By Peter Bobrowsky and Brian Marker
2020(工学ハンドブック部門)Van Nostrand Reinhold Membrane Handbook(メンブレンハンドブック) Editors: W.S. Winston Ho & Kamalesh K. Sirkar
2020(芸術・文学・言語部門)Oxford University Press international Encyclopedia of Linguistics(国際言語学事典) Editor: William Bright
2021(最優秀レファレンス書PROSE部門)Johns Hopkins University Press Frogfishes: Biodiversity, Zoogeography, and Behavioral Ecology(カエルアンコウ:生物多様性、動物地理学、行動生態学) By Theodore W. Pietsch and Rachel J. Arnold
2021(言語及び言語学部門)Wiley Blackwell The Handbook of Asian Englishes(アジア英語ハンドブック) By Kingsley Bolton, Werner Botha, and Andy Kirkpatrick
2021(生物学及び生命科学のレファレンス書及び教科書部門)Johns Hopkins University Press Frogfishes: Biodiversity, Zoogeography, and Behavioral Ecology(カエルアンコウ:生物多様性、動物地理学、行動生態学) By Theodore W. Pietsch and Rachel J. Arnold
R.R.ホーキンス賞は学術出版賞なので各分野への目配りが効いています。その分部門が多くて、受賞数もかなりの数に上ります。 管理人ですら知ってるようなレファレンス書となると、正直なところかなり少なかったです。一応レファレンス用書籍とは言いながら、文系が興味を持たないような工学ハンドブックや医学アトラスが多い印象です。
邦訳されているものとしては「MIT認知科学事典」、「環大西洋奴隷貿易歴史地図」、「ギリシア・ローマ歴史地図」、「ホロコースト大事典」、「プリンストン 数学大全」、「世界科学大辞典」などがありました。
その他にワイリー「分子生物学大百科事典」が朝倉書店より抄訳で出ています。(全4巻,3000ページの大著を3分の1に圧縮し、全1巻,1200ページにしています。しかし価格はそれでも44000円もします)
このうち、「MIT認知科学事典」と「ギリシア・ローマ歴史地図」を、図書館で斜め読みして大まかな内容を確認してみました。
前者は項目数があまり多くなく、読み物風な書物でした。(しかしアルファベット順配列です)。読む事典という感じでしょうか? ただ少々古いので最近の主要なトピックには見当たらないものが随分あります
後者はヴィジュアル的には地味ながら、地名等が詳細に記載されています(その意味で、古代史研究者が同定作業をやるには助かるのかもしれません)。歴史地図なのに国土の領域をあまり明示しないのも学問的に精確を期したためでしょう。つまり一般向きのように見えながら、実はあまり一般向きではありません。しかし水準の高い書物だと思います。
邦訳された六点の中で一番有名なのはおそらく「講談社 世界科学事典」19巻でしょう。これはCD-R版で受賞したマグロウヒル科学技術大事典の古いバージョン(第三版)の翻訳が基礎になっています。また生態学分野の記事を日本に適合するように差し替えています。
ほかに「プリンストン 数学大全」も個人的には前から欲しかった本でした。ただかなり値が張るので古本で買おうと思ってて、中々価格が下がらないのでずっとそのままになってます。
他にコロラド州立大学の図書館が所蔵する”Subject Encyclopedias”の中から特に重要な20点をリストアップしていたので貼っておきます。
みていくと、「ニューグローヴ世界音楽大事典」、「社会学事典」、「エリアーデの宗教事典」、「生命倫理事典」、「アフリカ系アメリカ人の文化と歴史の事典」(佳作)、「ストレイヤーの中世辞書」(佳作)など、上記のダートマスメダルで受賞しているものがいくつもあります 。R.R.ホーキンス賞で受賞している「世界文化事典」、「コミュニケーションの国際百科事典」、「エネルギー百科事典」、「マグロウヒル科学技術百科事典」(CD-R版で受賞)を加えると、リストの半数がどちらかの賞を取っていることになります。
現代の英米圏における分野別事典で定番のものと言えば、おそらくこんなところになるのではないでしょうか。
The Complete Encyclopedia of Arms and Weapons U 815 .E 5313 1982
(武装と武具の完全な事典)
Contemporary Artists N 6490 .C6567 1996
(現代アーティスト)
The Cowboy Encyclopedia E 20 .S56 1994
(カウボーイ事典)
Dictionary of American History 7+1巻 E 174 .A43 1976
(アメリカ史辞典)
Dictionary of the Middle Ages D 114 .D5 1982
(ストレイヤー中世の辞書)13巻 ▲
Encyclopedia of African-American Culture and History 5巻 E 185 .E54 1996
(アフリカ系アメリカ人の文化と歴史の事典)▲△
Encyclopedia of Bioethics 5巻 QH 332 .E52
(生命倫理事典)★
Encyclopedia of Chemical Technology 24+ 巻 TP 9 .E685
(化学技術事典)
Encyclopedia of Energy, Technology, and the Environment 4巻 TJ 163.235 .E53 1995
(エネルギー百科事典 技術と環境)△
Encyclopedia of Food Sciences and Technology 4巻 TP 368.2 .E62 1992
(食品科学技術事典4巻)
Encyclopedia of Photography TR 9 .I24 1984
(写真事典)
Encyclopedia of Religion 16巻 BL 31 .E46 1987
(エリアーデ宗教事典)★
Encyclopedia of Sociology 4巻 HM 17 .E5 1992
(社会学事典)★
Encyclopedia of World Cultures 10巻 GN 307 .E53 1991
(世界文化事典)△
Historic World Leaders 5巻 D 412 .H57
(世界の歴史的指導者)
International Encyclopedia of Communications 4巻 P 87.5 .I5 1989
(コミュニケーションの国際百科事典)△
The International Encyclopedia of Higher Education 4巻 LB 15 .E 49 1992
(高等教育の国際百科事典)
Macmillan Encyclopedia of Architects 4巻 NA 40 .M25 1982
(建築家のマクミラン百科事典)
McGraw-Hill Encyclopedia of Science and Technology 20巻 Q 121 .M 3 1992
(マグロウヒル科学技術百科事典)△
New Grove Dictionary of Music and Musicians 20巻 ML 100 .N48
(ニューグローヴ世界音楽大典)★
日本でこの種の賞はないのかなと思っていたら、毎日出版文化賞が、企画部門や特別部門で辞書,辞典,事典,年表,図鑑,図説,図録,図譜などを対象にしていました。
この賞は日本の出版界を代表する賞であり、しかも70年以上の歴史を持っています。なので、賞を受けたレファレンスブックには、当然当該分野でかつて高い権威を認められた定番の書物が並んでいます。
こちらも以下に、辞書,辞典,事典,年表,図鑑などに限って抜き出して置いたのでご覧ください。 尚、史料集や叢書は除外しました。美術全集の類も実質的には美術「図鑑」なんでしょうが今回は省いておきます。
≪百科事典≫
平凡社 『児童百科事典』(全24巻)斎藤道太郎編 1956企画部門
平凡社 『世界大百科事典』(全32巻)下中弥三郎編 1959特別賞
誠文堂新光社 『玉川百科大辞典』(全31巻)小原國芳監修 1963特別賞
TBSブリタニカ 『ブリタニカ国際大百科事典』(全28巻)フランク・B・ギブニー編 1976特別賞
≪辞書≫
学研 『新世紀大辞典』新世紀辞典編集部編 1968特別賞
小学館 『日本国語大辞典』(全20巻)日本大辞典刊行会編 1976特別賞
≪分野別事典≫
岩波書店 『科学の事典』岩波書店編集部 1950自然科学部門
小山書店 『私たちの生活百科事典』(全20巻)城戸幡太郎編 第1巻『家』 1951企画部門
東京堂出版 『民俗学辞典』柳田國男監修/著 1951企画部門
中教出版 『学生の理科辞典』中教出版社 1951企画部門
平凡社 『世界歴史事典』(全25巻)平凡社世界歴史事典編集部 1951企画部門
修道社 『現代演奏家事典』(全2巻)渡辺護 1956企画部門
平凡社 『綜合日本民俗語彙』柳田國男 1957人文社会部門
平凡社 『教育学事典』(全6巻)宮原誠一 1957企画部門
平凡社 『心理学事典』梅津八三監修 1958企画部門
河出書房 『日本歴史大辞典』(全20巻)河出書房新社編 1960特別賞
学習研究社 『原色現代科学大事典』(全10巻)久米又三・他編 1969特別賞
鹿島研究出版会 『社会科学大事典』(全20巻)社会科学大事典編集委員会編 1971特別賞
東京書籍 『仏教語大辞典』中村元 1975特別賞
沖縄タイムス社 『沖縄大百科事典』(全3巻・別巻1)沖縄大百科事典刊行事務局編 1983特別賞
毎日コミュニケーションズ 『明治ニュース事典』(全8巻・索引)枝松茂之・他編 1986特別賞
淡交社 『原色茶花大事典』塚本洋太郎監修 1988特別賞
東京書籍 『児童文学事典』日本児童文学学会編 1988特別賞
小学館 『園芸植物大事典』(全6巻)塚本洋太郎監修 1990特別賞
角川書店 『角川日本地名大辞典』(全47巻・別巻2)竹内理三・他編 1991特別賞
三省堂 『言語学大辞典世界言語編』(全4巻)亀井孝、河野六郎、千野栄一編 1992特別賞
柏書房 『図説江戸考古学研究事典』江戸遺跡研究会編 2001企画部門
岩波書店 『岩波イスラーム辞典』大塚和夫他編 2002企画部門
朝倉書店 『形の科学百科事典』形の科学会編 2005自然科学部門
八坂書房 『昆虫食文化事典』三橋淳 2012自然科学部門
朝倉書店 『仏教の事典』末木文美士他編 朝倉書店 2014企画部門
≪二か国語辞書≫
白水社 『新伊和辞典』野上素一編 1964企画部門
養徳社 『現代朝鮮語辞典』天理大学朝鮮学科研究室編 1967特別賞
大修館書店 『スタンダード和仏辞典』鈴木信太郎他編 1969特別賞
三省堂 『クラウン仏和辞典』多田道太郎ほか編 1978企画部門
金鶏社 『図説琉球語辞典』中本正智 1982特別賞
平凡社 『字統』白川静著 1984特別賞
三省堂 『熊野 中國語大辞典』新装版 熊野正平編 1985特別賞
明治書院 『現代日本語方言大辞典』(全8巻・補巻)平山輝男編著 1994特別賞
角川学芸出版 『江戸時代語辞典』潁原退蔵著、尾形仂編 2009企画部門
≪図鑑≫
北隆館 『原色動物大図鑑シリーズ』(全4巻)岡田要・滝庸他 1961企画部門
内田老鶴圃 『日本水産魚譜』檜山義夫、安田富士郎編 1961特別賞
北隆館 『原色昆虫大図鑑』(全3巻)安松京三・他編 1965特別賞
小学館 『小学館の学習百科図鑑8―人間 心とからだ』小泉明 1975企画部門
中山書店『動物系統分類学』(全10巻)山田真弓他監 1999自然科学部門
≪年表≫
中央公論社『解説科学文化史年表』湯浅光朝 1950企画部門
岩波書店『日本史年表』歴史学研究会 1966人文社会部門
岩波書店『近代日本綜合年表』岩波書店編集部 1969人文社会部門
明治書院『日本児童文学史年表』(全2巻) 鳥越信(編)1977特別部門
国書刊行会『新聞小説史年表』 高木健夫(編)1987特別部門
八木書店『義太夫年表 近世篇』(全5巻・別巻1) 義太夫年表近世篇刊行会(編)1991特別部門
八木書店『近代歌舞伎年表 大阪篇』(全9巻) 国立劇場近代歌舞伎年表編纂室(編)1995特別部門
国書刊行会『新・国史大年表』(全11冊)日置英剛編 2015企画部門
いちばん基礎的な百科事典・国語辞書からみていきます。
まず、日本の数ある百科事典の中でも最もスタンダードな存在と言える平凡社『世界大百科事典』(1959年)と、『ブリタニカ国際大百科事典』(1976年)の二つが受賞しています。
他に百科事典の受賞では、児童向けのものとして『玉川百科大辞典』と平凡社 『児童百科事典』の受賞があり、この二つも児童向けではとくに評価の高い百科辞典でした。
また、我が国最大の国語辞書と言ってよい小学館の『日本国語大辞典』も1976年に受賞。これはほとんど学界総がかりで編纂された半国家事業のような辞典です。イギリスのオックスフォード英語大辞典のような「大型辞書」のカテゴリーにはいる辞書は日本ではこれと、戦前の平凡社『大辞典』の二つしかありません。
ただ、その下のクラスの「中型辞書」になると、岩波書店『広辞苑』、三省堂『大辞林』、小学館『大辞泉』の御三家は全滅です。
この広辞苑クラスの大きさの辞書は、字引でありながら多少の百科事典機能も備え、ネット時代以前には一家に一冊的な存在として頼られる存在でした。(小学館の『日本国語大辞典』全12巻を自宅に揃えてるのはよっぽどの人だろうし百科事典もある家とない家があります) いきおい出版社サイドも力を入れ、三つの他にも、三省堂『新辞林』、小学館『国語大辞典 言泉』、講談社『カラー版日本語大辞典』、角川書店『角川国語中辞典』、集英社『集英社国語辞典』、学研『国語大辞典』、学研『新世紀大辞典』と、かつては多くの商品が競合していたものです。(管理人が高校時代持っていたのはマイナーな角川国語中辞典です)
面白いのは、このクラスから唯一受賞しているのが学研の『新世紀大辞典』だという点です。これは百科事典機能をかなり強化し、写真や図なども多く掲載する方針をとっており、管理人は存在自体全く知らなかったのですが、調べてみると結構根強いファンのいる辞典のようです。(後継が『新世紀ビジュアル大辞典』) 『広辞苑』ではなくてこのような辞書が受賞しているところが、この賞の出版人目線を伺わせるところだと思います。
なお、新明解のような「小型辞書」からの受賞はありません。
いよいよ Specialized Encyclopedias の方へ目を移すと、
中村元が一人で執筆したという伝説的な『仏教語大辞典』や、柳田國男らによる『綜合日本民俗語彙』など著名なレファレンスブックが並んでいます。殊に1991年受賞の厖大な『角川日本地名大辞典』は名実ともにこの分野の最高峰でしょう。
リストを見ていると大体において、平凡社の「心理学事典」のような長く定番の地位にあるものが確実に受賞している、といった堅実さがみえます。例えば図鑑でも、北隆館『原色動物大図鑑』シリーズ、『原色昆虫大図鑑』シリーズはそのような位置づけにあります。
しかし歴史事典では、日本史の基本文献と言える吉川弘文館の「国史大辞典」(全15巻)ではなくて、 河出書房『日本歴史大辞典』(全20巻)が受賞しているのが興味深いです。河出書房のこの歴史事典は少し古いため、図書館などで手に取った記憶もありません。
平凡社の『世界歴史事典』(1959特別賞)の様に数十巻に及ぶ大冊で古いものは図書館で見かけることすらありません。これらは一応の使命を終えたという事なのでしょうか。
都道府県別の百科事典では唯一「沖縄大百科事典」のみがこの賞を受賞しています。都道府県別の百科事典は通常一巻か二巻が大勢なのに、この事典は四巻構成と、埼玉(全五巻)に次ぐ規模である事 、そして沖縄という地域の特殊性が勘案されたものと思われます。
二か国語辞書では、英和辞典での受賞はなく、フランス語で三省堂『クラウン仏和辞典』と大修館書店『スタンダード和仏辞典』が、イタリア語で白水社『新伊和辞典』、中国語で三省堂『熊野 中國語大辞典』が、朝鮮語で養徳社『現代朝鮮語辞典』が受賞しています。後述の翻訳出版文化賞では二か国語辞書の場合、小学館のフラグシップ商品が多く受賞していますが、こちらは一点もありません。
年表では、岩波書店による二冊、『日本史年表』(1966年人文社会部門で受賞)と『近代日本綜合年表』(1969年人文社会部門で受賞)が今ちょうど手元にあるのでこれから語りましょう。共に古い年度の受賞ながらも2000年代まで版を重ねたスタンダード的書物なのですが、前者は学生の副読本的なハンディな書物、後者は近代以後に限定して政治・経済・社会・芸術まで総合的に俯瞰した本格的内容です。ただ、前者は勿論の事、後者ですらネット時代の現在からみると簡素過ぎる印象です。個別分野に特化した年表ならともかく、総合的な内容のものには書物としての限界が来た感は否めません。
例外があるとすれば、2015年に企画部門で受賞した『新・国史大年表』(全11冊)でしょうか。これは前身の「国史大年表」(日置昌一編)が典拠文献を示さないなど諸種の批判を受けた事に鑑み、御子息が欠点を補正した上で2013年まで記述を進めた圧倒的な情報量をもつ年表となっています。
出版不況の時代に入ってからようやく出た『岩波イスラーム事典』も、この分野の知識の乏しい我が国において待望された書物なのでしょう。が、ブリル社など欧米で出ているものに比べると、プロが使うには簡略すぎ、一般の人が求めるには不要な知識が多すぎる、といった居心地の悪さは否めません。
そんな中にあって、ニッスイによる記念碑的な漁譜(一種の魚類事典)『日本水産魚譜』が受賞しているのは、玄人目線というか、さすがだと思います。管理人は魚類の産地別に構成されたオリジナル版ではなく、種目別に再構成された後の改版を持っていますが、その精細な図版は後々語り継がれるだけのことはあります。
誰でも知ってるような戦後日本の出版史を語る上で欠かせない偉大なレファレンス本で、この賞を受賞していないものといえば(上に挙げた「国史大辞典」もまあそうなのですが)、やはり「国書総目録」と「大漢和辞典」の二つが真っ先に思い浮かびます。
岩波書店「国書総目録」の場合、毎日出版文化賞に目録での受賞が他に見当たらない事から、目録類は対象としていないのかもしれません。(目録を対象にしている賞ではゲスナー賞があります)
諸橋徹次の「大漢和辞典」は昭和出版史における偉業であり、当時これほどの規模の漢字辞典は本場中国にすら存在しませんでした(今はあります)。まあ、持ってない人間が言ってもあれですけど、いやしくも事典を対象にする賞でこれを受賞させていないのは謎です。(しかしこの辞典は朝日賞を受賞しています)
Dartmouth Medalの初期の受賞にマクミラン出版社が多かったように、こちらでも初めの頃は平凡社の受賞が多いです。さすが日米を代表する辞書・事典の名門ですね。その反面で岩波には少し厳しい感じがします。(もっともどのジャンルでも岩波書店のものを定番にしてしまう風潮には管理人も疑義があるのですが)
日本で辞書,辞典,事典,図鑑などのレファレンスブックを多く対象としている賞はもう一つあります。翻訳出版文化賞です。
毎日出版文化賞と同じく出版の賞ですが、こちらは翻訳された外国の書籍が対象です(逆のパターンもあり)。しかし二か国語辞書などは(翻訳への貢献により)日本の書籍でも受賞対象になっています。
下記にレファレンスブックの受賞を付しますが、医学アトラス、写真年鑑、美術写真集、アンソロジー、史料集などは除きました。
翻訳出版文化賞A
71TBSブリタニカ『世界子ども百科』(全16巻)
72朝日新聞社事典編集室『週刊世界動物百科』(全192巻)
73主婦と生活社『少年少女世界の美術館』(全12巻)E・ラボフ編、薩摩忠(訳)
74TBS出版『ラルース世界ワンダー百科』(全12巻)
74小学館『小学館ランダムハウス英和大辞典』(全4巻)稲村松雄・他(訳)
75ティビーエス・ブリタニカ『ブリタニカ国際大百科事典』(全28巻)
75インターナショナル・タイムズ社『女性生活百科』(全18巻)石田アヤ監修
76講談社インターナショナル『BIOGRAPHICAL DICTIONARY OF JAPANESE LITERATURE(日本文学作品人名辞典)』久松潜一著、国際教育センター編
81旺文社『オーデュボンソサイエティブック』藤川正信、中村凪子、谷地令子(訳)
81白水社『仏和大辞典』伊吹武彦、渡辺明正・他編
83インタープレス『インタープレス科学技術25万語大辞典』(全2巻)
83福武書店『オックスフォード・カラー英和大辞典』(全8巻) [The New Oxford Illustrated Dictionary 全7巻]
83小学館『伊和中辞典』池田廉・他編
84大修館書店『イメージ・シンボル事典』アト・ド・フリース著、山下主一郎・他(訳)
84研究社『リーダーズ英和辞典』松田徳一郎・監修
85小学館『独和大辞典』国松孝二・他編集委員
86雄山閣出版『プリニウスの博物誌』(全3巻)プリニウス著、中野定雄、中野里美、中野美代(訳)
87言叢社『インド=ヨーロッパ諸制度語彙集』(全2巻)エミール・バンヴェニスト著、蔵持不三也、田口良司・他(訳)
88小学館『ロベール仏和大辞典』
88アスキー『MS-DOSエンサイクロペディア』(全2巻)
90毎日コミュニケーションズ『外国新聞に見る日本』国際ニュース事典第1巻 内川芳美、宮地正人(監修)
90小学館『西和中辞典』
92岩波書店『岩波ロシア語辞典』和久利誓一、飯田規和、新田実・編
92商務印書館(北京)、小学館『中日辞典』共同編集
93韓国・金星出版社、小学館『朝鮮語辞典』共編
94大修館書店『ブルーワー英語故事成語大辞典』E.C.ブルーワー著
96青土社『元型と象徴の事典』アーキタイプ・シンボル研究文庫、ベヴァリー・ムーン編、橋本槇矩,他(訳)
96みすず書房『フランス革命事典』(I)(II)フランソワ・フュレ,モナ・オズーフ著、河野健二,阪上孝,富永茂樹(監訳)
97大修館書店『世界シンボル大事典』ジャン・シュヴァリエ,アラン・ゲールブラン著、金光仁三郎,他(訳)
01大修館書店『世界神話大事典』イヴ・ボンヌフォワ編、金光仁三郎(主幹)
04柏書房『ホロコースト大事典』ウォルター・ラカー編、井上茂子,他(訳)
10春秋社『パーリ仏教辞典』村上真完,及川真介(著)
13水声社『ユダヤ小百科』ユーリウス・H・シェプス編、石田基広,唐沢徹,北彰,鈴木隆雄,関口宏道,土屋勝彦,西村雅樹,野村真理,原研二,松村國隆(訳)
18原書房『アーサー王神話大事典』フィリップ・ヴァルテール著、渡邉浩司,渡邉裕美子(訳)
20大修館書店『ラルース ギリシア・ローマ神話大事典』金光仁三郎(主幹),小井戸光彦,本田貴久,大木勲,内藤真奈(訳)
翻訳出版文化賞B
74小学館『小学館ランダムハウス英和大辞典』(全4巻)小学館ランダムハウス英和大辞典編集委員会(編)
80中東調査会(代表・田村秀治)『詳解アラビア語―日本語辞典』J.G.ハバー著『アラビア英語辞典』
81学習研究社『ミリオーネ全世界事典』(全14巻)奥野拓哉(翻訳監修)、前嶋信次(内容校閲)
83日本ライトハウス『点字版 フランス基本語5000辞典』(全14巻)京大点字サークル(訳)
85旺文社『宇宙天文大事典』ジャン=オドゥーズ、ギー=イスラエル監修、堀源一郎、磯部琇三(日本版監修)
89『カンボジア語辞典』坂本恭章(編訳)
90平凡社『西洋思想大事典』(全5巻)フィリップ・P.ウィーナー編
翻訳文化出版協会はかつて会が分裂して、両方の会が同じ名前で賞を出し続けていた時期があるのでリストを二つ挙げました。1974年にはどちらの会でも『小学館ランダムハウス英和大辞典』(全4巻)を受賞させているのが面白いです。
この辞書はアメリカにおける定番であるランダムハウス英語辞典の翻訳を主体に修正を行って英和辞書として使えるようにしたもので、携帯はできない大きさですが英和辞典としては我が国最大級の規模です。
あちらのレファレンス書の翻訳では、古くは『プリニウスの博物誌』から最近の『ホロコースト大事典』までバラエティに富んでいます。なかでも『ブルーワー英語故事成語大辞典』は先述の英国の三大レファレンス書と並んで19世紀における英語文化の醸成に資した名辞典として、この時期になってこれが翻訳された意味は大きいです。
同様に高名なものとして『西洋思想大事典』があり(90年に受賞)、こちらは最近になってその新版(2005)も邦訳されました。
他に目を引くのが、大修館書店の『イメージ・シンボル事典』と『世界シンボル大事典』、青土社『元型と象徴の事典』で、この種のものが三点も受賞している点です。確かに西洋文化を考究するうえでシンボル関係の基礎知識は必要なのかもしれません。
リストをみてゆくと、パンヴェニストの『インド=ヨーロッパ諸制度語彙集』のように「あ、これ訳されてたんだ」と気づいたのもありました。
個人的には、あの『ユダイカ』が量的に翻訳不可能らしいので、ここで受賞している『ユダヤ小百科』という本にかなり興味があったのですが、図書館でしばらく読んでみた限りでは、現代的な事項に多くのスペースが割かれており、古代、中世、近世が少しあっさりし過ぎに感じました。ドイツにおける久々の本格的なユダヤ事典という触れ込みであったものの、一巻ものの限界でしょうか。
百科事典では、毎日出版文化賞を受賞していた『ブリタニカ国際大百科事典』がこちらでも受賞しています。この初版は、ブリタニカ百科事典15版からの翻訳が三分の一、日本オリジナルの記事が三分の二という商品でした。しかし後者も外国人による執筆が七割を占め、このような翻訳部分が受賞対象となったのでしょう。
二か国後辞書では、英和辞典では前述の小学館『小学館ランダムハウス英和大辞典』と研究社『リーダーズ英和辞典』、仏和辞典では白水社『仏和大辞典』と小学館『ロベール仏和大辞典』とそれぞれ二件の受賞。独和では小学館『独和大辞典』、伊和では小学館『伊和中辞典』、西和では小学館『西和中辞典』、ロシア語では岩波書店『岩波ロシア語辞典』、中国語では小学館『中日辞典』、朝鮮語では小学館『朝鮮語辞典』などが受賞しています。
その他、福武書店の『オックスフォードカラー英和大辞典』はやはりあちらの英語辞書を翻訳して英和辞書として使えるように配慮した一品。また、中東調査会『詳解アラビア語―日本語辞典』はJ.G.ハバーの『アラビア語英語辞典』の英語部分を翻訳してアラビア語日本語辞書として使えるようにしています。京大点字サークルが訳した『点字版 フランス基本語5000辞典』はわずか5000語でも点字本なので全14巻という量になるそうです。
では現在の日本の図書館のレファレンスの現場では実際にどのようなものが使われているのか、次にはそれをみることにします。
ちょうど、2015年に日本の図書館司書に対して、利用者の質問に応じる際に重宝しているレファレンス用書籍を尋ねたアンケートがありました。上位12位までの結果は以下の通りです。
1位 国史大辞典 (吉川弘文館) 57票
2位 角川日本地名大辞典 (角川書店) 41票
3位 日本国語大辞典 (小学館) 39票
4位 理科年表 (丸善出版) 29票
5位 世界大百科事典 (平凡社) 25票
5位 大漢和辞典 (大修館書店) 25票
7位 日本大百科全書 (小学館) 24票
8位 国書総目録 (岩波書店) 21票
9位 現代用語の基礎知識 (自由国民社) 15票
9位 広辞苑 (岩波書店) 15票
11位 総合百科事典ポプラディア (ポプラ社) 14票
11位 日本統計年鑑 (日本統計協会) 14票
一位が吉川弘文館の「国史大辞典」で、二位が「角川日本地名大辞典」なので、これをみると一般の方々からの歴史や古い地理に関する質問が多い様子が伺えます。図書館のレファレンスサービスというと、まずビジネス目的のものを連想してしまいがちですが、数としては一般の方による質問が圧倒的に多いようです。
「国史大辞典」についてはあまり解説してなかったと思います。これは戦後、坂本太郎を中心に編纂された同種事典の中でも最も権威ある書物ですね。(全十五巻)
小学館の「日本国語大辞典」、大修館書店の「大漢和辞典」と、我が国最大級の国語辞書や漢和辞典が並んでるのも分かるような気がします。この二つはなんでも載っていて、しかも量的に普通の人が自宅には置きにくい書物だからです。(ウィスキーにミニチュアボトルがあるようにこの2点にも『国語大辞典 言泉』『広漢和辞典』という簡略版があり、こっちは広辞苑クラスの大きさなのでまだ机に載ります)
だいたい予想通りの顔ぶれでしたが、ひとつ意外だったのは「理科年表」です。 多分、数値を伴う物理や化学に関する質問がこれ一冊でフォローできるという事なんでしょう。ここは盲点でした。
ことわざ・故事成語系統や、類語・シソーラス系統の辞書が上位に見当たらないことも、このリストがレファレンスという場で使用される点に原因があるんだと思います。これらは非常に便利なのものですが、「あれ何だったかな」と思う事があってもわざわざ司書にまで尋ねるような事は少ないですね。
同様の理由で二か国語辞書もありません。
2008年にも同じ試みがあり、その結果を貼っておきます。一点を除き、同じ顔ぶれです。
1位 国史大辞典 吉川弘文館 52
2位 日本国語大辞典 小学館 46
3位 大漢和辞典 大修館書店 43
4位 日本大百科全書 小学館 42
5位 理科年表 丸善 40
6位 角川日本地名大辞典 角川書店 35
6位 国書総目録 岩波書店 35
8位 広辞苑 岩波書店 34
8位 世界大百科事典 平凡社 34
10位 人物レファレンス事典 日外アソシエーツ 30
10位 日本統計年鑑 日本統計協会 26
12位 現代用語の基礎知識 自由国民社 24
次に、2003年の結果もまた貼っておきます。顔ぶれはまた似たり寄ったりです。
1位. 日本大百科全書
2位. 世界大百科事典
3位. 日本国語大辞典
4位. 理科年表
5位. 現代用語の基礎知識
6位. 広辞苑
7位. 国史大辞典
8位. 現代日本人名録
9位. イミダス
10位. 大漢和辞典
11位. 国書総目録
12位. 日本書籍総目録
ただ、この2003年の結果をみると、興味深い点が浮かび上ります。
登場する顔ぶれはやはり似たようなものですが、一位と二位に百科事典が来ています。この時期にはネットをしてない人がかなり多く、Wikiも当時は酷いものでした。だから百科事典に書いてあるような内容でも図書館の司書に尋ねることが多かったんだと思われます。日本におけるネットユーザーが増加するのは95年のWindows95の発売以降ですが、これ以前の時期になるとさらに百科事典の比重は大きかった筈です。
ネットが普及して以降は いくら内容の優れたものとはいえ総合的な事典・辞書でフォローできる質問には限界がみえてきた感があります。
もう一つ気が付くのは、三つの結果を通してみると平凡社の「世界大百科事典」より小学館の「日本大百科全書」の方がやや優勢な事です。
日本の百科事典の御三家、「世界大百科事典」「ブリタニカ国際大百科事典」「日本大百科全書」のうち、ブリタニカはあちらの15版に日本オリジナル記事(しかし外人による執筆が過半)を追加したアングロサクソン目線の事典です。その意味で世界スタンダードには近いものの、日本に関する質問が中心のこういう現場には不向きなためか2018年の時は20位にとどまっています。また、いま一つの「世界大百科事典」は記事の量や視点の面で「日本と世界のバランスを配慮している」そうです。
これに対して小学館の日本大百科全書の場合、ニッポニカという副題にも表れているように日本に関する知識にこだわった編集方針がとられており、これが利用しやすい事の一因でなないでしょうか。
それに加えて、小項目主義が徹底されてるから、という理由も考えられます。
ニッポニカは世界大百科事典よりも冊数が10冊も少ないのに、項目数が13万・索引数が50万と、世界大百科事典の項目数9万、索引数49万を上回っています。そして、残るブリタニカ国際はご存知のように大項目と小項目の並立主義であり、大項目の長大な記事を読むことを主眼に作られた事典でありました。
つまり手っ取り早くものを調べるのに「日本大百科全書」という百科事典は非常に効率的なのかもしれない。(他に参考文献が付されているという長所もあります) こういうのは普段からレファレンス書を使用している人じゃないと分からないものです。
ところで、文明開化以降の日本にはこれら御三家以外に、もう一つ大きな百科事典があります。事典というより類書といった方が適切かも知れませんが、明治政府が編纂した「古事類苑」がそれであり、これこそ御三家をも上回る近代日本における最重要のレファレンス書なのかもしれません。
かつて川瀬一馬も、この本は非常によくできてるので学のない人でもこれ一つ持っていると結構押しが効く、みたいなことを書いていました。
しかし、2015年の結果をみると、わずか一票しか獲得できておらず、全体では69位という始末です。
古すぎるからかな? と一瞬思いましたが、このアンケートでは一位、二位を「国史大辞典」と「角川日本地名大辞典」が占めているわけで、今の質問者たちも日本古来の古い情報を求めているふしがあります。
そうすると、「古事類苑」に書かれていた情報のほとんどは、より新しいレファレンス書にアップトゥデイトされた上で載せられてるのかな? とも思いました。しかし、あそこ以外のレファレンス書に載っていない知識はいまだかなり多いはずです。
おそらく一番の理由は、現在の専門的訓練を受けた司書さんにとってはこれが非常に使いづらい書物だから、だと思われます。 ある程度はどこに何が書かれてあるのかを前もって知っておく必要があるので、洋装本で50巻に及ぶ巨大な書物の隅々に通暁してなくては使いこなせないからでしょう。
もう一つの理由として、漢文読解力の問題もあるかもしれません。望月に一票も入っていないのがそれを示唆しています。
アメリカ、日本の次は、現代中国にも目を移してみましょう。
現在の中国の出版界において最も権威がある賞は「国家图书奖」及びその後継の「中国出版政府奖」です。国家图书奖は1993年に始まり、2年毎の開催でした。2005年からは中国出版政府奖と名前が変わって3年毎の開催になりました。(ちなみにこの賞の事は大阪府立図書館のレファレンスで教えてもらいました)
やはりここでも多くの辞書・事典などが顕彰されています。とりあえず、国家図書賞と中国出版文化賞の受賞作から辞書・辞典・目録類を抜き出してみました。(2005年と2011年には抜けがあります)
第一回国家賞 1993
汉语大词典 汉语大词典出版社 罗竹风 主编 ②
汉语大字典 四川辞书出版社 徐中舒 主编 ⑤
现代汉语词典 商务印书馆 中国社会科学院语言研究所词典编辑室 ③
英汉大词典 上海译文出版社 陆谷孙主编 ⑥
永乐大典(影印汇辑本) 中华书局 (明)姚广孝等著;中华书局编辑部
第一回名誉賞
辞海(1989年版)上海辞书出版社 夏征农主编 ④
中国大百科全书 中国大百科全书出版社 《中国大百科全书》编辑委员会编 ①
中国历史地图集 中国地图出版社 谭其骧主编 ⑦
第二回国家賞 1995
朝鲜语词典(共3卷) 延边人民出版社 金琪钟
中国文物精华大全(共4卷) 上海辞书出版社 彭卿云等
中国伊斯兰百科全书 四川辞书出版社 宛耀宾等
中国婴幼儿百科(共100册) 海燕出版社 茅于燕、郑延慧
第二回名誉賞
中国军事百科全书(共58卷) 军事科学出版社 军事科学院军事百科研究部 ⑨
第三回国家賞 1997
中国戏曲剧种大辞典 上海辞书出版社 中国戏曲剧种大辞典编委会
第三回名誉賞
中国大百科全书(简明版) 中国大百科全书出版社 中国大百科全书出版社编辑部
中国农业百科全书 中国农业出版社 本书编委会 ⑩
第四回国家賞 1999
敦煌学大辞典 上海辞书出版社 季羡林 主编
俄汉详解大词典(4卷) 黑龙江人民出版社 黑龙江大学辞书研究所 编纂
农业大词典 中国农业出版社 本书编委会 编
现代蒙古语频率词典 内蒙古教育出版社 达·巴特尔 等主编
彝文经籍文化辞典 京华出版社 马学良 主编 国家奖
中国军事史图集(2卷) 湖南人民出版社 中国军事博物馆 编纂
第四回栄誉賞
化工百科全书(20卷) 化学工业出版社 本书编委会编
现代汉语方言大词典 江苏教育出版社 李荣主编
新华字典(1998年修订本)商务印书馆中国社会科学院语言研究所词典编辑室 编
第五回国家賞 2001
王力古汉语字典 中华书局 王力 主编
中国历史大辞典 上海辞书出版社 郑天挺 等主编
第五回栄誉賞
不列颠百科全书 (国际中文版)中国大百科全书出版社 徐慰曾 主编 ⑬
中华本草 上海科学技术出版社 《中华本草》编委会 编
第六回国家賞 2003
现代汉语方言大词典 江苏教育出版社
中国儿童百科全书 中国大百科全书出版社
突厥语大词典 民族出版社
第六回栄誉賞
中国文物定级图典(一、二、三级品) 上海辞书出版社
日本宫内厅书陵部藏宋元版汉籍影印丛书(第一辑) 线装书局
第一回国家図書賞 2005
第二回国家図書賞 2008
中朝大词典 崔奉焕主编 民族出版社
汉维大词典(第三版)阿布来提•伊明、安尼瓦尔•加帕尔、玉山江•艾斯卡尔编 新疆人民出版社
中国大百科全书(第二版)中国大百科全书出版社
汉俄大词典 顾柏林主编 上海外语教育出版社
中药大辞典(第二版)南京中医药大学编著;赵国平等主编 上海科学技术出版社 ⑫
第三回国家図書賞 2011
汉语大字典
第四回国家図書賞 2014
制御工学ハンドブック(控制工程手册化学 工业出版社)
辞源 第三版(商务印书馆)
大辞海 全38卷(上海辞书出版社)
中仏大辞典(汉法大词典 外语教学与研究出版社)
第五回国家図書賞 2017
マルクス主義大辞典
殷墟文化大典
漢語方言学大辞典
第一次全国地理国情普査地図集
朝鮮語方言辞典
漢蒙辞典
先史時代動物図鑑(史前动物百科图谱)
第五回栄誉賞
辞海(第七版) ⑧
清朝以前の歴史的編纂物を除いた、現代中国における事典類となると、管理人の知っているのは正直10点に満たないほどでしょうか。それも手に取ってみた事すらありません。
しかもそれらはいすれも、ゼネラルエンサイクロペディアや国語辞書、漢字辞典の類であって、今ここで語るべきサブジェクトエンサイクロペディアではありません。漢籍文化が日本人の血肉になっている清朝以前のものならともかく、現代中国になってからのサブジェクトエンサイクロペディアとなると、管理人の知識は乏しいかぎりです。
とりあえず、わずかながらその名声に接したことのある辞書や百科事典からみていく事にします。
①「中国大百科全書」は74巻に上る現代中国の知を集めた大百科事典で、現行の百科事典としてもスペインのエスパサに次ぐ規模です。これは第一回の名誉賞を受賞しました。
②「漢語大詞典」は最大の中国語辞書であり、日本で言えばさだめし「小学館国語大辞典」にあたるような存在です。というか第二版では全25巻に増補されてるので量的にはもうオックスフォード英語大辞典を越えちゃってます。
③「現代漢語詞典」も同じく国語辞書ですが、こちらは一巻本の中型辞書におけるスタンダード的存在なので、やはり日本で例えるとさだめし「広辞苑」でしょうか。
④「辞海」という書物も上の「現代漢語詞典」に並ぶ中型辞書の定番です。これは日本で例えると「広辞苑」のライバルである三省堂の「大辞林」といったところでしょうか。
⑤「漢語大字典」というのは中国における最大の漢字辞典です。また日本に例えてみると(こういう言い方はわかりやすいけれど色々と語弊のある事は承知してます)諸橋徹次の「大漢和辞典」になるんでしょうねおそらく。
一方、⑥「英漢大詞典」というのは中国を代表する最大規模の英漢の二か国語辞書らしく、これは日本で言えば小学館のランダムハウス・・・ こういうのはもうやめましょう。
他に、⑦「中国历史地图集」という歴史地図は前にアマゾンで観た事があります。歴史地図というのはそもそもかなり値が張りますが、それでも全八巻で五、六万もする規模のものを刊行するのはさすが中国だなとその時感心したものです。
第一回の授賞式で、管理人が自前の知識で語れる領域の大半が終了しまいました・・・ しかし逆に言えば、この賞はこういう定番中の定番のレファレンス書を逃さず、的確に受賞させている事がよく分かります。
この第一回で受賞した事典類は、後の版が再度受賞することも珍しくなく、「中国大百科全書」は第二版が2008年に、「辞海」は第七版が2017年に、「汉语大字典」は後の版が2011に再度受賞しています。「中国大百科全書」はその簡略版も別の年度に受賞しているし、中型辞書の「辞海」にはこれを基に百科事典へ拡張した「大辞海」という全38巻の書物があって、このスピンオフ版も賞を受けています。
逆にいうと、結局、国が主導する賞なので、定番のものが上からこれだと決められてしまうような印象です。日本だったら、地名辞典で角川と平凡社のものが競合したり、百科事典で平凡社と小学館のものが人気を分け合ったりするケースは結構他にもよく見られるのですが、中国ではお国を代表する事典に全部のエネルギーが集中されているのかもしれませんね。
例外的に中型辞書で「現代漢語詞典」「辞海」「辞源」(⑧ 第三版が2017年に受賞)の三点が御三家的に並んでるのは、後の二つが民国期から続く伝統ある書物だからでしょう。
それでは中国で評価を受けているサブジェクトエンサイクロペディアにはどのようなものがあるのか。
百度のこの賞の項目をみると、代表的な受賞作品として「中国大百科全書」「辞源」「辞海」「中国美術全集」「中国軍事百科全書」「中国農業百科全書」「現代中国叢書」など七点が挙げられていて、このうちサブジェクトエンサイクロペディアにあたるのは⑨「中国軍事百科全書」(全58巻)と➉「中国農業百科全書」(全30巻)の二点です。 どちらも管理人の全く知らない書物で、もし今「中国軍事百科全書」や「中国農業百科全書」を揃えてる日本人がいたとしたら、相当のマニアでしょう。
二つの版で受賞したものには⑪「现代汉语方言大词典」というものがありました。
我が国へも翻訳されたものは、今のところ⑫「中薬大辞典」(中药大辞典)しか知りません。これは小学館から上下巻で出ていますが、。
でもさほど遠くない将来、数学事典や技術事典でも、中国語版(オンラインやDVD)がオリジナルである世界スタンダードの書物が出てくるような予感がします。
あと面白いのは、日本でブリタニカ百科事典の日本語版が毎日出版文化賞と翻訳出版文化賞をダブル受賞していたように、中国語版ブリタニカもやはりこの国家图书奖を受けていることです。⑬
このような欧米の事典類の翻訳は中国でもやはり行われてたようです。それどころか、ある意味もう日本の先を行っているのでは?とすら感じます。というのは、この賞の候補作まで目を通している時、ダートマスメダルのくだりで触れた「ユダイカ」という事典が中国語に翻訳されているのを知って驚いたからです(犹太百科全书 徐新 凌继尧主编 上海人民出版社)。ユダヤ学では金字塔的な書物ですが、この狭い分野だけで30巻近い量の事典を翻訳することは、日本の出版界には結局無理でした。これは日本の十倍研究者がいて十倍読む人がいる国ならではの偉業なのだろうと思います。
大陸中国以外に、台湾のレファレンスブックにも多少目配りをする必要がありそうです。人民共和国の成立後、中国のアカデミズムは丸ごと台湾に亡命したような状態なので、80年代ぐらいまでは人文・社会科学共に台湾の方が本来の中国文化を継承しているからです。
なかでも「中文大辞典」40巻は、中国語最大の辞書としていまだに人民中国でもこれを越える規模のものは刊行されていません。
以上、20世紀以降の米国、日本、中国の主題別事典類をさらっとみてきましたが、まあ賞などをとっかかりに追っていっただけですから、これら以外にも名高いサブジェクトエンサイクロペディアは星の数ほど存在します。
しかしこのページはあくまで近代西欧の個人蔵書を語るための序説にすぎないのであまり膠着しているわけにもいきません。面白くて奥の深いテーマでもあり誰か本腰を入れてやってくれる人が出てきたらありがたいです。
ところで、西欧篇の序説なのに、肝心の欧州の主題別事典が出てこないのはどう考えても変です。
実は欧州における種の賞はあまりよく知りません(あるいは総合的なものは無いのかもしれない)。
パリの碑文アカデミーによるブリュネ賞やAlfred Dutens賞は、学者の専門的ツールという要素がやや強い印象です。
イギリスにはアトラスに限定した王立地理学会のサージョージフォーダム賞などがあり、その他にも、音楽関係の学術書を対象としたオールドマンアワードは受賞作のおよそ半数がレファレンス書になっています。受賞作をみるとイギリス音楽に関係するもの中心ですが、それでも最高のオペラ事典とされる「ニューグローヴオペラ事典」全4巻(日本の「新グローヴオペラ事典」は264の演目だけ取り出した抄訳版)やボブ・ディラン事典(未訳)のような受賞作もありました。ボブ・ディラン事典なんか訳したらそこそこ売れそうですね。
ただ、これらはいずれも総合的なレファレンス書への賞とは言えません。アメリカ、日本、中国におけるレファレンスブックに対する賞の場合、幸い主要な定番書籍が網羅されていたのでああいうやり方でも良かったのですが、欧州の場合、どうもそういう適当なものが見当たりません。
そこで、もう賞とか関係なしに大陸系からも飛びぬけた名声を誇る Subject Encyclopedias 10点を挙げてこの項を閉じることにしました。
☆ まず「音楽の歴史と現在」(Die Musik in Geschichte und Gegenwart MGG 1949-1968)。
これは音楽の国ドイツにおける最大の音楽事典です。世界でも質・量ともにこれに匹敵するのは前述のニューグローヴぐらいでしょう。初版は全17巻で、第二版(1994-2007)が全27巻。第二版の編者は戦後ドイツを代表する音楽学者のルートヴィヒ・フィンシャーでした。
☆ 一方、料理の国フランスからはやはり「ラルース料理百科事典」(Nouveau Larousse Gastronomique 1938 全6巻)の存在がピックアップされます。おそらく何人かの執筆協力者がいるのでしょうが初版は伝説的な大料理人プロスペル・モンタニェの単著という事になっており、彼の死後も改訂され続けました。料理本の世界ではエスコフィエの「フランス料理」に並ぶ大古典であり、古い邦訳版なら管理人も去年手に入れてます。最近の版は世界全体の料理を対象にしてるそうですが、この版ではほとんどフランス料理一本で「フランス料理以外は料理にあらず」みたいな態度が透けて見えるところがなかなかです。
☆ 歴史事典ではドイツの「フィッシャーの世界史」(Fischer Weltgeschichte 1965-1983 全36巻) が各国から参加した執筆者の豪華さで際立っています。
時代・地域ごとに巻を区分していて、先史時代ならギンブタス、アッシリア学ならファルケンシュタインやボテロ、ギリシア史ならMフィンレイ、ローマ史ならファーガス・ミラー、中世盛期はルゴフと、20世紀における各分野の最高権威の名前がザクザク出てきます(ちなみに日本の担当はジョン・ホイットニー・ホールでした)。これは21世紀になって新版も出てますが旧版ほどの顔ぶれではないようです。こんなのが日本で翻訳されるとよかったのに、とつくづく思います。
(個別の国の歴史に関する事典は省きました。ロタール・ガルらによる100巻越えの「ドイツ史事典」のように、この分野で大きな存在をみていくともうキリが無いからです。)
☆ ところで、戦前のドイツは歴史学のみならず西洋古典学に関しても指導的立場にありました。ギリシア・ローマ古典に関する事典の場合、英米圏では「オックスフォード古典学事典」、我が国では京都大学学術出版会の「西洋古典学事典」あたりが今スタンダードな地位にありますが、こと量という面に限ってはドイツの「ポーリーの古典古代の真の百科事典」(Paulys Realencyclopädie der classischen Altertumswissenschaft,1893-1978)が昔から圧倒的な存在です。壁を埋め尽くすことで知られているこのセットは、編者の生前には完結せず、結局ドイツの学界総がかりのような陣容で完成されました。
☆ 西洋古典学やイスラム学のような分野では、日本ではなかなか専門的な情報を潤沢に得にくい感無きにしも非ずです。
オランダのブリル出版社の「イスラーム百科事典」(The Encyclopædia of Islām 1913)全12巻は、現在の西欧諸国のイスラムに関する標準的な知識を確立したという意味でこの世界では知らぬ者のない事典です。初版は1913年から1938年にかけて英、独、仏の各版が刊行され、第二版が1954年から2005年にかけておよそ半世紀をかけて完成しました(英語、仏語の二版)。 上に毎日出版賞を受賞した事典類を語った箇所では、「岩波イスラーム事典」の刊行によりやっと日本におけるこの方面の知識が拡充できたみたいな事を申しましたが、ブリル社の「イスラーム百科事典」に比べると少々お寒い感はぬぐえません。
これは2007年からまた第三版の刊行が始まりました。五人の編集長には欧米各国からの人材が充てられ、まさに国際的なレファレンス書といった趣きです。「フィッシャーの世界史」もそうですが、あちらの大規模な編纂物には欧米各国から権威がわっと集まって、という書物が少なくありません。これはブリタニカ以来の伝統なのでしょう。
ただ、この辞典はその意味で、欧米によるイスラム文明の解釈を表した書物に過ぎないのかもしれません。 ちなみに、イスラム自らが編纂したイスラム文化のエンサイクロペディアとしては「イスラミカ百科事典」(Encyclopaedia Islamica)24巻があります。
☆ 「法学・政治学の百科事典」(Enzyklopädie der Rechts- und Staatswissenschaft 1922-)は1950年以降途絶していますが、のべ50巻に及ぶ、名実ともにドイツを代表する法律事典です。
執筆者の顔ぶれをみると、私法にギールケやミッタイス、公法にケルゼン、フェルドロス、経済学にはゾンバルトといった名があり、19世紀から20世紀初頭にかけてのドイツの国家学・法律学の層の厚さを感じさせます。これは「法律百科事典」(Encyklopädie der Rechtswissenschaft in systematischer und alphabetischer Bearbeitung 1870)の後継書らしいです。
☆ 「クラインの数理科学百科事典」(Encyklopädie der mathematischen Wissenschaften mit Einschluß ihrer Anwendungen 1898-1933)は全6巻22冊の最大規模の数学辞典です。現在を代表するシュプリンガーの数学百科事典も量的には及ばないでしょう。
やはりこれもドイツが数学王国であった時代を象徴する書籍で、20世紀の前夜から、ヒトラーが政権をとった1933年の間の時期に編纂されています。編者のフェリックス・クラインは、ご存知のようにドイツにおける数学のメッカであったゲッチンゲン大学のガウス、ディリクレ、リーマンの伝統を引き継ぎ、弟子のヒルベルトにつなげた末期ゲッチンゲンを代表する存在です。
そのせいか、ライバルのベルリン大学の学者は執筆には参加せずこれを白眼視していたと言われます。ちなみにこの事典は数学以外にも物理学なども含んでおり、そちらの執筆にはゾンマーフェルトやH・ローレンツも参加していました。 ゲッチンゲン大学というところは19世紀の数学の三分の一を作ったんじゃないか、と思われるくらい有力なところなので、この大きな事典を紐解く事は往時の隆盛を偲ぶよすがになるかもしれません。
☆ 「ウルマン産業化学辞典」(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry 1914)も20世紀初めにドイツ化学の偉大な伝統の下に生まれ、現在まで版を重ねている事典ですが、これには英語版もあり世界的にはむしろそちらの方が普及してるかもしれません。ブリタニカばりにアルファベット順小項目と分野別の並立主義で、後者では基礎理論から製造技術までをフォローしています。ドイツのノーベル賞受賞者数は戦前には世界一位だったのですが、とりわけ化学分野ではアメリカ、イギリス、フランスの受賞者数を合計してもドイツ一国に及びませんでした。
☆ 通称「ティーメ=ベッカー」(Thieme-Becker)で通っているドイツの「古代から現在までの美術作家の普遍的事典」(Allgemeines Lexikon der bildenden Künstler von der Antike bis zur Gegenwart.1907-1950)も世界で最も包括的な美術家人名事典として我が国でも有名です。400名の執筆者を動員し43年間をかけて完成した37巻に及ぶ大著であり、その名の通り古代から現代までの絵画・彫刻・諸工芸・建築などの美術家を収録しています。ちなみにこれにはフォーマーによるそれ以降の人物を収録した追加の補巻があり(1953-1962で6巻)、そっちは通称「フォーマー」(Vollmers)と呼ばれています。
☆ 最後に紹介する通称”Nationalnyckeln”(国家的鍵? “Nationalnyckeln till Sveriges flora och fauna”)は、いままでの事典類が20世紀前半中心だったのに対してこれだけ新しく、出版の時代も終わりに差しかかった2005年から刊行され始めたシリーズです。スウェーデンの動植物の美麗なイラストがふんだんに載せられた豪華な図鑑であり、計100巻に及ぶ同国史上最大の出版物だそうです。
今の時期に「なして?」と思ってしまいますが、これは国家事業であり予算も政府から支出されています。(その割にアマゾンでみると一冊一冊が高いです)
大陸系とは言いながら、10点のうち7点をドイツの事典が占めることになってしまいました。歴史でも美術でも情報量では結局ドイツの事典類が圧倒的なわけです。
ここでは個別の国における歴史や人名に関するものは省きましたが(なぜならその国自ら編纂するものが一番に決まってるから)、実はそうしたものにおいてもドイツが量・質ともに頭一つ抜いています。 例えば、国内人名事典を例にとっても、「アルゲマイネ・ドイチェ・バイオグラフィ」(独)や「オーストリア帝国伝記事典」(墺)は、19世紀後半このかた「イギリス国民伝記事典」に量・質共に匹敵する存在でした。(但し20世紀に編纂されたイタリア人人名事典は規模の面ではさらに大きい)
こういうのは国民性によるところもあるのでしょうが、19世紀後半から20世紀半ばにかけてのドイツアカデミズムの興隆期にサブジェクトエンサイクロペディアの編纂期が重なった事が大きいと思います。
レファレンス書に関する国民性では、おおよそ次の事が言えるかもしれません。
まず英国人の事典作りの上手さ、次にドイツ人の情報集積、そして「アカデミーフランセーズ辞典」や「百科全書」のように時代を切り開く書物を編纂しながらも結局両者の間で埋没してしまうフランス人。(フランスの場合、19世紀以来ラルースという事典専門出版社がずっと幅を利かせていて、ここが何というか、あっさりした人気商品ばかり乱発する傾向なのが原因ではないでしょうか。)
経済史の文脈では19世紀後半というのはドイツの経済的興隆が甚だしい時代です。こうした国力の増大はやがて第一次大戦で英仏とぶつかる伏線となっているのですが、学術の分野でもこの頃は英仏を追い上げ、追い越そうとする時期でした。
ちなみにサブジェクトエンサクロペディアで最大のものは、アメリカのでもなければヨーロッパのでもなく、「アラビア法律百科事典」(”Arabic Legislations Encyclopedia” Mohamed Abou Baker Ben Younis編)です。 およそ200巻で計164000ページ。索引だけで6巻もあり、現行のものでは総合的百科事典を含めてもこれを越える規模の事典はなく、明清期の大編纂物を別にすれば「最大の事典」という事になっています(少なくともギネスブックでは)。
ただ、この書物は「全アラブ諸国の法律全部を載せている」という事らしいので、法律用語の語釈等があるにしても、日本で言えば「現行法規総覧」にあたるような本なのかもしれません。「現行法規総覧」も100巻ぐらいあるので、そのアラブ・グローバル版となればそれぐらいの量があるのは当然だと思います。要はネーミングというか、事典の定義の問題でしょう。
レファレンス書の歴史で奇妙なのは、一番信頼できない類の本が一番信用できるものになってしまった、という事に尽きるのではないでしょうか。
ご存知のように、文献資料における「信頼性」「情報の集積度」と、「速報性」には反比例の関係があります。
「信頼性」や「情報の集積度」に関してはおおむね、図書 > 雑誌 > 灰色文献という関係が成立していますが、「速報性」の点では、図書 < 雑誌 < 灰色文献と、これが全く逆になっています。
このうち最初の図書に限って、もう少し詳しくみてゆくと、「信頼性」や「情報の集積度」では、
統計・数表・辞書・事典 > 大系・講座・全集 > 教科書 > 単行書、という順になり、「速報性」ではこの関係が逆になります。
次の雑誌についてみると、「信頼性」「情報の集積度」で、
索引誌 > 目次誌・レビュー誌 > 学術雑誌(原著論文)> レター誌という順になっていて、やはり「速報性」ではこれがほぼ逆です。
最後の灰色文献では、「信頼性」「情報の集積度」で、
会議録・学会発表 > 非公式のメモ・私信 > 口頭の記録、という順序が成立し、一方「速報性」ではまたこれが逆になる。
以上整理しますと「信頼性」「情報の集積度」の面で、統計・数表・辞書・事典 > 大系・講座・全集 > 教科書 > 単行書 > 索引誌 > 目次誌・レビュー誌 > 学術雑誌(原著論文)> レター誌 > 会議録・学会発表 > 非公式のメモ・私信 > 口頭の記録、という順序が成立し、「速報性」ではこれが真逆になっている、という事らしいです。
こうしてみると、現在の辞書・事典類は「信頼性」や「情報の集積度」でおよそ文献資料の頂点に君臨するものであり、その次に位置するのが体系書や教科書になります。
Ⅲ レファレンス書のさらなる広がり(面白い辞典,変わった事典 Unusual Reference Books)
ものを調べるのにネット検索が主流となってしまった現在、事典や辞書は出版点数・発行部数共に減少しています。
しかし正規のカテゴリ分けにおいて「事典・辞書」には区分されない書籍なのに、タイトルに事典や辞典がつく新刊本が増えている現状は注目に値します。今の日本でこうした本の発行部数は本来の事典・辞書をすでに上回っているからです。
これらは、図書館や書店では事典・辞書のコーナーではなく、それぞれのテーマに応じた場所に置かれており、いずれもネットではまとまった情報を得にくい知識をフォローしているため、それなりに重宝されているようです。
たしかに現在の Wikipedia は、量的にはⅠで語った往年のジェネラル百科事典を遥かに上回る規模です。しかし、Ⅱで語ったサブジェクト百科事典の内容までフォローしているとは言えません。
もちろん、ネットを広く検索すればⅡをもフォローするのは可能だろうと思います。ただそれでも、このⅢで語る Unusual Reference Books の内容には、ネット空間上に出てない情報がまだまだ多いのではないでしょうか。こうしたものが今の時期に少なからぬ数が刊行されているのにはそういう背景があるのかもしれません。
もう一つ、この種のものの魅力は、上記のように「諸文献中、信頼性の面で頂点にある」事典というジャンルの特質を良い意味で滅却しているところにあるのではないでしょうか。
現代においても中村元や諸橋徹次のような超人的営為はないわけではありません。しかし基本的に事典類は多人数による分担執筆が通常のスタイルになっています。ところがこのタイプの面白レファレンス書の場合、まだまだ個人的営為が中心です。その意味で往年のツヴィンガーやサミュエル・ジョンソンの時代のレファレンス書の息吹を感じさせ、読む事典としての面白さを堪能できるものが多いんです。
そこで、我が国の変わり種の事典・辞書のリストアップの例を三つほど紹介しておきましょう。
まず最初に、日経新聞が国会図書館館員の協力のもとに23人の識者による投票で選出した10冊を。
1位 「文房具語辞典」 630ポイント
2位 「絵引 民具の事典 普及版」 610ポイント
3位 「図説 日本戦陣作法事典」 510ポイント
4位 「世界の文字の図典 普及版」 480ポイント
5位 「図説 日本未確認生物事典」 460ポイント
6位 「どんぐりの呼び名事典」 420ポイント
7位 「身の回りを数学で説明する事典」 400ポイント
8位 「日本全国 境界未定地の事典」 390ポイント
9位 「日本の星名事典」 380ポイント
10位「日本の色辞典」 370ポイント
次は、この種のレファレンス書のコレクターでもある蔵書家の成毛眞氏が自著「教養は『事典』で磨け ネットではできない『知の技法』」(光文社新書768)で紹介している56冊を。 変わり種レファレンス書以外に、オーソドックスなタイプのものも混じっています。
「世界民族百科事典」
「暦の大事典」
「現代科学史大百科事典」
「世界毒舌大辞典」
「ヨーロッパ人名語源事典」
「現代語裏辞典」
「織田信長家臣人名辞典」
「分類 たとえことば表現辞典」
「勘違いことばの辞典」
「水滸伝人物事典」
「中国歴代皇帝人物事典」
「こんなにちがう 中国各省気質」
「英語便利辞典」
「葬送習俗事典 葬儀の民俗学手帳」
「哲学用語図鑑」
「現代語から古語を引く 現古辞典」
「パッとひける 医学略語・看護略語」
「これで読める 茶席の禅語くずし字辞典」
「和製英語事典」
「敬語のお辞典」
「ゲームシナリオのためのSF事典」
「てにおは辞典」
「句読点、記号・符号活用辞典」
「官能小説用語表現辞典」
「世界名言大辞典」
「隠語大辞典」
「集団語辞典」
「暗号解読事典」
「祝詞用語用例辞典」
「城のつくり方図典」
「探検と冒険の歴史大図鑑」
「理科年表(ポケット版)」
「サイエンス図鑑(コンパクト版)」
「鑑賞のためのキリスト教美術事典」
「江戸衣装図鑑」
「世界の文字の図典(普及版)」
「カリカチュアで読む 19世紀末フランス人物事典」
「世界の名建築解剖図鑑」
「地球博物学大図鑑」
「ビジュアルディクショナリー英和大辞典」
「常用字解」
「ヴィジュアル版 植物ラテン語事典」
「南方熊楠菌類図譜」
「Encyclopedia of flowers 植物図鑑」
「回天 ことば遊び辞典」
「スター・ウォーズ英和辞典 ジェダイ入門者編」
「5秒でわかる!!! よのなか小事典」
「県別罵詈雑言事典」
「辞書には載らなかった 不採用語辞典」
「【難解】死語辞典」
「日本史有名人の臨終図鑑」
「バンド臨終図巻」
「かんさい絵ことば辞典」
「たべもの起源事典 日本編」
「食材図典」
「世界チーズ大図鑑」
最後は、ブックオフオンラインが「変わった事典特集」と題して82冊を挙げているのでそれを。
【映画】
ウルトラシリーズ・サブキャラ大事典 小河原一博
ゾンビ映画大事典 伊東美和
映画狂人シネマ事典 蓮實重彦
韓国映画俳優事典 韓国「スクリーン」編集部
衝撃の「実録映画」大全 映画秘宝編集部
恐怖映画大全怪奇映画史大研究 芸術・芸能・エンタメ・アート
Disney A to Z:The Official Encyclopedia デイヴ・スミス
【グルメ】
珈琲のすべてがわかる事典 堀口俊英
紅茶のすべてがわかる事典 Cha Tea紅茶教室
イギリス紅茶事典 三谷康之
香りを楽しむ中国茶の事典 成美堂出版編集部
新訂緑茶の事典 高野実
本格焼酎の事典 山同敦子
【趣味】
相撲大事典 金指基
原色茶花大事典 塚本洋太郎
江戸川乱歩日本探偵小説事典 江戸川乱歩
名探偵シャーロック・ホームズ事典 日本シャーロック・ホームズ・クラブ
宇宙刑事大全 安藤幹夫
機動戦士ガンダム艦船&航空機大全集 著者表示なし
アール・ヌーヴォー文様事典 いとう喜一
子どもの昭和史 手塚治虫マンガ大全 芸術・芸能・エンタメ・アート
封印漫画大全 坂茂樹
マンガ「名ゼリフ」大全 漫画・アニメイラスト集
上方演芸大全 大阪府立上方演芸資料館(ワッハ上方)
花の名前と育て方大事典 福島誠一
エヴァンゲリオン用語事典 エヴァ用語事典編纂局
ハリー・ポッター大事典 寺島久美子
歌舞伎キャラクター事典 荒俣宏【著】,いまいかおる【絵】
ディズニー全キャラクター大事典250 M.L.ダンハム,ララバーゲン【文】,上杉隼人【訳】
現代アート事典 美術手帖
あやとり事典 中野独王亭
食べられる野生植物大事典 橋本郁三
カードマジック入門事典 高木重朗,麦谷真里
星座大全夏の星座 藤井旭
Nゲージ鉄道模型大事典 成美堂出版編集部
JR語の事典 舛本哲郎,小須田英章
昭和プロ野球「球場」大全 洋泉社編集部
アウトドア&キャンプ大事典 太田潤
【雑学】
アラマタ大事典 荒俣宏
悪魔事典 山北篤
世界神話事典 大林太良
図解世界の「三大」なんでも事典 世界の「ふしぎ雑学」研究会
世界のジョーク事典 松田道弘
女海賊大全 ジョースタンリー
音楽家人名事典 音楽事典・書誌
シェイクスピア人名事典 ピーターケネル,ハミシュジョンソン
聖書思想事典 X.レオン・デュフール
人間国宝事典(工芸技術編) 事典
仏教名言・名句事典 須藤隆仙
傑作眼鏡大全 世界文化社
図説世界の「最悪」発明大全 ジャックワトキンズ
イラスト事典 処刑・拷問具大全 村野薫
出版社大全 塩沢実信
【歴史】
三国志演義大事典 沈伯俊
ギリシアを知る事典 周藤芳幸
歴代内閣・首相事典 鳥海靖
織田信長総合事典 岡田正人
解明!由来がわかる姓氏苗字事典 丸山浩一
戦国武将合戦事典 峰岸純夫
日本史「はじめて」事典 泉秀樹
第二次世界大戦人名事典 ジョン・キーガン,永沢道雄
ピラミッド事典 ジェームズ・パトナム
戦国時代大全 稲垣史生
新選組大事典 新人物往来社
【研究】
明治・大正・昭和事件・犯罪大事典 事件・犯罪研究会
ざんねんないきもの事典おもしろい!進化のふしぎ 今泉忠明
聖人事典 ドナルドアットウォーター
中国妖怪人物事典 実吉達郎
日本妖怪大事典 村上健司
本の情報事典新版 紀田順一郎
日本全国お魚事典 山田吉彦
三省堂 世界鳥名事典 三省堂編修所
日本の神様読み解き事典 川口謙二
宇宙の事典 沼沢茂美
天文学大事典 天文学大事典編集委員会
でぶ大全 ロミ
日本仏像事典 真鍋俊照
アラマタ生物事典 荒俣宏
おなら大全 ジャン・フェクサス
肉体美大全 ジュリアンロビンソン
日本歴史地名事典 吉田茂樹
深海生物大事典 佐藤孝子
絶滅危惧の動物事典 川上洋一
この項目のみ日本篇から話を始めてしまいましたが、世界へも目を移してみましょう。
”interesting reference books” ”unusual reference books”という言葉を手掛かりにみてゆくと色々と引っ掛かります。ただこの言葉にはハウツー本と明確な区別がないので少々注意が必要です。 確かにレファレンスブックの歴史を辿っていくとハウツー本に近い面がある事は事実ですが、一応ここでは「情報の集積」という事を条件に見て行く事にします。
10年以上前の librarything にこの種のレファレンス書を扱ったトピックが立っていました。(https://www.librarything.com/topic/37722)
ProZ.com というフォーラムでも似たような話題のトピがあり(https://www.proz.com/forum/poll_discussion/75250-poll_do_you_collect_unusual_dictionaries_and_reference_books.html)、あちらでも関心のある人はそれなりにいたようです。
ただ、この話題で一番盛り上がってるのがテリー・プラチェットのサイトのフォーラムなのは何かわかるような気もしますね(https://www.terrypratchettforums.com/threads/strange-weird-wonderful-and-unusual-reference-books.7448/)
bookriotというサイトで、アンナ・グッディングというライターがこの種のものを九冊ほど選んでいたので、取り合えずそれを以下に挙げることにしました。(https://bookriot.com/reference-books-to-read/)
これらのうちで日本語に訳されてるのは、マングエルの「完訳 世界文学にみる架空地名大事典」と「吸血鬼の英文法」と「グレイの解剖学」の三冊です。ただグレイの解剖学の場合、ここで挙げられているのは2004年の第39版であり、日本で訳されてるのはこれより後の版なので、選定者がわざわざこの版にこだわっている理由を配慮すべきかもしれません。
あと、未訳ですが「コデックス・セラフィニアヌス」は、奇書の世界では昔からかなり有名な本です。
ATLAS OF REMOTE ISLANDS: FIFTY ISLANDS I HAVE NEVER SET FOOT ON AND NEVER WILL BY JUDITH SCHALANSKY
「離島のアトラス:私が足を踏み入れたことがなく訪れることもない50の島々」 ジュディス・シャランスキー、
BLACK GENEALOGY BY CHARLES L. BLOCKSON
「黒の系譜」 チャールズL.ブロックソン
CODEX SERAPHINIANUS BY LUIGI SERAFINI
「コーデックス・セラフィニアヌス」 ルイジ・セラフィーニ
DELUXE TRANSITIVE VAMPIRE:THE ULTIMATE HANDBOOK OF GRAMMAR FOR THE INNOCENT、EAGER、AND THE DOOMED BY KAREN ELIZABETH GORDON
「吸血鬼の英文法」 カレン・エリザベス・ゴードン
THE DICTIONARY OF IMAGINARY PLACES, EDITED BY ALBERTO MANGUEL アルベルト・マングエルが編集した架空の場所の辞書
「世界文学にみる架空地名大事典」 アルベルト・マングエル
GRAY’S ANATOMY: THE ANATOMICAL BASIS OF CLINICAL PRACTICE, EDITED BY SUSAN STANDRING
「グレイの解剖学:臨床実践の解剖学的基礎」 スーザン・スタンドリング編
INDIAN TREATIES IN THE UNITED STATES: AN ENCYCLOPEDIA AND DOCUMENTS COLLECTION BY DONALD FIXICO
「米国におけるインディアンの条約: ドナルド・フィキシコによる百科事典と文書コレクション」
KISS, BOW, OR SHAKE HANDS: THE BESTSELLING GUIDE TO DOING BUSINESS IN MORE THAN 60 COUNTRIES BY TERRI MORRISON AND WAYNE A. CONAWAY
「キス、お辞儀、握手:60以上の国でビジネスを行うためのガイド」
UNITED STATES AIR FORCE SEARCH AND RESCUE SURVIVAL TRAINING (AF REGULATION 64-4) BY THE U.S. DEPARTMENT OF THE AIR FORCE
「米国空軍捜索救助生存訓練(AF規則64-4)」
上に挙げられたアルベルト・マングエルの例に限らず、こういった面白レファレンス書はじつは著名人だって結構書いています。邦訳のあるものに限っても、
弟子のマングエルが「世界文学にみる架空地名大事典」(上記参照)を書けば、師のボルヘスも「幻獣辞典」を書く、といった具合で、よく似たコンセプトのこの二冊はこういう面白事典が話題になる場合には決まって例に挙げられる本ですね。
ドイツ最大の音楽批評家ヨアヒム・カイザーの手になる「モーツァルトオペラ人物事典」はどこまで真面目な意図で書かれたのか分からないけれど、例えばスザンナ、ツェルリーナ、デズピーナ、パパゲーナなどの一連のスーブレット役の流れからもわかる通り、モーツァルトが音で描く人物造型の独特のトーンは広く周知のところでしょう。その意味からこうした本にも存在意義があるのかもしれません。
脚本家のJ.C.カリエールには「珍節愚説辞典」という著作があり、これは古今の文献に現れた珍節や愚説を1500項目にまとめた、という一種の奇書です。
他に、上記「グリーンのスラング辞典」でダートマスメダルを受賞したジョナサン・グリーンにも、「最期のことば―聖者から死刑囚まで」「冷笑家辞典」のようなこっちの系統に入る編著がありました。
ただ、著名人の書いたものには、”Subject Encyclopedias”なのか”interesting reference books”なのか、分類に迷うものがあります。
ジョン・カーターの「西洋書誌学入門」は、この邦題に反して入門用概説ではなく、アルファベット順に書誌学用語の項目を配列した文字通り「事典」以外の何物でもない著述です。にもかかわらず御本人は「これは事典ではない」と前書きで断っていて、あくまでこれから書籍蒐集の世界に入ろうとする人のために入門用に初歩的な用語だけを解説したと述べています。 確かに小著なので、これを事典とする事には面映ゆい気持ちがあったのかもしれませんが、20世紀で最も優れた書誌学者の一人とされる著者の手にある語釈は多少くだけた語り口ながら、学問的に隙がないんです。
ウィラード・クワインが書いた「哲学事典―AからZの定義集」も(管理人が立ち読みした限りでは)、これはマクミラン社やラウトレッジ社による正統的・包括的な哲学事典とは異なり、彼の立場からユーモラスに語釈を施した本なので、むしろ”interesting reference books”のカテに入ると思われます。 クワインというのは戦後アメリカ哲学界の総帥のような人だったので正統的な哲学事典の編者になってても全くおかしくないため、こういうのは紛らわしいですね。
欧米に多いのは、こうした編纂者(著者)がウィットにとんだ定義を与えるタイプの辞書です。これは相当昔からあります。
まず思い浮かぶ古典的作品としては、アンブローズ・ビアスの「悪魔の辞典」やフローベルの「紋切型事典」あたりでしょうか。しかしそのもっと前には、ヴォルテールの「哲学事典」があったし、それ以前にそもそも近代辞書の出発点になった「ジョンソン博士の英語辞書」こそが、まさにこのタイプの典型だったわけです。従来、ジョンソン博士の英語辞書が愛着を込めて語られてきたのは、英語辞書の編纂史において金字塔的位置を占めるものでありながら、定義や例文がこの文人ならではのウィットに富んでいて、至る所で俺様辞書の色彩を残してるためであり、現役の辞書としての寿命が終わった後も現在まで愛読者は尽きません。
この手の「俺様辞書」の我が国における名作としては、筒井康隆「乱調文学事典」、荒俣宏「アラマタ事典」などがありました。
また、こうした本はジョーク的に一度出版されて終わり、というものでもありません。中には何十年にもわたって版を重ね、そのテーマにおける立派な権威と見なされてるものもあります。
例えば、”Ashley Book of Knots”(結び目の百科事典)は、ひもの結び方だけを7000に及ぶイラストと共に3854項目に渡って紹介した本ですが、この分野に関する最も重要で包括的な文献とされ、1944年の初版以来1991年まで何度か版を重ねています。
特定の小説や映画、テレビなどを対象にしたファン向け事典ですら、とりわけコアなファンが多いことで知られているスタートレックシリーズの「スタートレック エンサイクロペディア」(Star Trek Encyclopedia 1994)はこれまで4度も版を重ねており、最新の2016年版では1000ページに膨れ上がりました。ここまでくると大したもんですね。日本でも初版と第三版が、別々の出版社から出ています。
そういうメジャー化した” interesting reference books”の代表格としては、現在では誰でも知っている「ギネスブック」があります。 これもイギリスの本なので、やっぱりイギリス人は辞書作りがうまいと思いました。
最後に
≪ The King of the interesting reference books ≫
このタイプの面白レファレンス書の中で、これまでで最もヒットしたものはおそらくイギリスのギネス社が出している「ギネスブック」”The Guinness Book of Records 1954-” でしょう。毎年改訂され続ける稀有な書物でもあり、その意味で一種の年鑑といえるかもしれません。 ただし2000年にギネス社から独立し、2004年には名称も「ギネス世界記録」 “Guinness World Records”へ改称しています。
面白いのは、この書物自体が(著作権制度が出来た以降に)世界で最も売れた本として同書に記載されている点です。1955年の初版以来、これまで約100ヶ国、23の言語で発行され、社のデータベースには53000以上のレコードが保存されているとのこと。
そもそもは、調査業者だった双子の兄弟ノリス&ロス・マクワーターがギネス社の重役からの依頼を受けて発刊したという経緯を持つこの本は、スタイルの点からはどうみても”interesting reference books”や”unusual reference books”のカテゴリに入るようなレファレンス書なんですが、以後60年以上も続いているので、これ自体がもう国際的な権威を持った書物になっちゃってます。 自然から人類・社会に至る膨大な世界記録の検証・認定を行うための少なからぬ専門家も抱え、本に載っている記録は認定した記録の一部分に過ぎないそうです。 編集部というより、すでに認定機関に近いですねここは。
interesting reference books はまだまだ個人的営為の産物である、と上で述べましたが、このようなジャンルからも多人数が関わる権威的出版物と化した書物は少ないながらも存在しており、ギネスブックはまさにその極致と言えるでしょう。
我が国では1966年以来、邦訳版が出版社をいくつか変えて刊行されています。1975年以降はほぼ毎年出版されていますが、四度ほど出なかった年がありました。とにかく竹内書店、講談社、エトナ出版、騎虎書房、ポプラ社、ゴマブックス、角川と、海外の翻訳本でここまで出版社を転々としたケースは珍しいと思います。
1966 竹内書店「これが世界一 記録がなんでもわかる本」ノリス&ロス・マクワーター
1971 竹内書店「記録の百科事典〈世界一編〉」ノリス&ロス・マクワーター
1975〜1976 講談社「世界一の世界」ノリス・マクワーター
1977〜1988 講談社「ギネスブック―世界記録事典」ノリス・マクワーター(88年版はアラン・ラッセル)
1989 エトナ出版「ギネスブックオブレコーズ」ドナルド・マクファーレン
1990〜1992 発行されず
1993〜2001 騎虎書房「ギネスブック―世界記録事典」ピーター・マシューズ
2002 騎虎書房「ギネスワールドレコーズ」
2003 発行されず
2004〜2008 ポプラ社「ギネス世界記録」
2009〜2010 ゴマブックス「ギネス世界記録」
2011〜2021 角川マーケティング「ギネス世界記録」
角川マガジンズ「ギネス世界記録」
角川アスキー総合研究所「ギネス世界記録」
管理人が子供の頃持ってたのはたしか82年版で、その後に買った95年版が今でも手元にあります。
世のサブジェクトエンサイクロペディアは、完成度を高めていくのに比例して規模も大きくなり、近年では公共出版物のような書物になってしまいました。これに対して、まだ interesting reference books は個人的な創意や文体の楽しさを味わえるジャンルの筈だったのですが、ギネスブックのように65年も続く老舗となれば、そういう面も希薄になってきます。
そこで1966年に発行された竹内書店の日本初版(原著65年版の翻訳)をこないだネット古書店で注文し、今さっき届きました。 読んでみると、創刊してまだ10年程の頃なのでサブカル本の雰囲気を随所に残しています。半世紀以上前なので、記録自体はもう全然古いんですが、読んでて今よりずっといい感じです。(これに反して2018年版などは写真が多い反面、掲載する記録の選択が恣意的で情報量も少ないです)。 例の「ワドロー氏」のように未だ健在な記録もないではありません。
Ⅳ レファレンス書のレファレンス書
かの碩学メネンデス・ベラーヨが「文献目録を次々に作り、さらには文献目録の目録まで作っている」とウナムノに揶揄されたのはもう遠い昔の話になってしまいましたが、現在の日本では「レファレンス書のレファレンス書」が多く出版されているような状況にあります。
そうした中で代表的と言えるのが「日本の参考書図書」です。60年代初頭に出た時は350ページぐらいでしたが、最新のものは1000ページに膨らんでいます。10年以上前にオンライン化され、その事によりもっと調べやすくなったそうです。
同種の書物として「参考図書解説目録」や「辞書・事典全情報」などがあります。既刊の書籍を使用してものを調べようとする場合、これらのレファレンス書は非常に便利です。
日本の参考図書 初版 1962
日本の参考図書 二版 1965
日本の参考図書 三版 1980
日本の参考図書 四版 2002
参考図書解説目録 日外アソシエーツ
辞書・事典全情報 日外アソシエーツ
便覧 図鑑 年表 全情報 日外アソシエーツ
こうしたものを使用しても思わしい結果が出ないのであれば、もう専門の調査機関に照会するしかありません(その場合にも「専門情報機関総覧」など手引きとなるレファレンス書があります)。
ただ、このような司書向けツールは、個人を対象にした本というより、図書館などに置かれる事を想定した価格設定なので、一冊数万~十数万円もします。しかし個人が購入できるような手頃な価格帯のものも近年増えています。以下に並べてみました。
[1970年代]
●百科事典の整理学 (1972年)弥吉光長
●レファレンス・ブック―なにを・どうして求めるか (1974年)長沢雅男
●辞典の辞典 佃実夫,稲村徹元編 1975/1/1
辞書解題辞典 惣郷正明編 東京堂出版1977/3
[1980年代]
●参考図書―その原理から利用まで (1982年)弥吉光長
●情報と文献の探索 参考図書の解題 丸善 長沢雅男 1982
●辞典活用ハンドブック (1984年)弥吉光長
事典の小百科 紀田順一郎,千野栄一編 大修館書店1988/12★
●情報源としてのレファレンス・ブックス 長沢雅男 1989/8/1★
[1990年代]
●問題解決のためのレファレンス・サービス 長沢雅男 1991
私が愛用する辞書・事典・図鑑(夢本シリーズ)中沢新一監修 一季出版1992/1★
日本辞書辞典 沖森卓也他編 おうふう1996/5
あなたの知らぬ辞書がある 辞書・事典発掘探検隊編 実務教育出版1999/4
この辞書・事典が面白い!(「辞書」「事典」「図鑑」ベストランキング発表)室伏哲郎監修 トラベルジャーナル1999/6★
[2000年代]
辞書の図書館 清久尚美編 駿河台出版社2002/8
使えるレファ本150選(ちくま新書575)日垣隆著 筑摩書房2006/1★
●「人名辞典」大事典〈全2巻〉 人名情報研究会著 日本図書センター2007/6/1
辞典資料がよくわかる事典(読んでおもしろい もっと楽しくなる調べ方のコツ)深谷圭助監修 PHP研究所2007/10
●世界のことば・辞書の辞典 アジア編 石井米雄編2008/8/1
●世界のことば・辞書の辞典 ヨーロッパ編 石井米雄編2008/8/1
[2010年代]
●レファレンスブックス-選びかた・使いかた 長澤雅男,石黒祐子著 日本図書館協会2013/2/1
●図鑑大好き! あなたの散歩を10倍楽しくする図鑑の話 斎木健一・土屋健編著 彩流社2014/6
教養は「事典」で磨け ネットではできない「知の技法」(光文社新書768)成毛眞著 光文社2015/8★
辞書・事典のすべてがわかる本 全4巻 倉島節尚監修 あすなろ書房2015/10-2016/2
スタンダードなものとしては長沢雅男氏による一連の著作が模範的な内容で推奨できます(この人の本はタイトルは変えていても事実上同じ著作のアップデート版である場合が多いです)。第一人者によるものだけに、各分野でのレファレンス書の選択が通説的で、全体的に隙がない印象です。
その反面、紹介点数を絞りすぎの傾向は否めません。最近流行の面白事典の類もほとんど載せておらず、この部分に関しては氏(2002)は「事典の小百科」(紀田順一郎,千野栄一編)を推薦していました。
この「事典の小百科」も好著ではありますが何分かなり古い本なので、もっと新しいものでは、「使えるレファ本150選」(日垣隆著)あたりがバランスの良さでお勧めです。グローバルエンサイクロペディアや基本的なサブジェクトエンサクロペディアは数点で済ませ、主として特殊性の強いサブジェクトエンサクロペディアや interesting reference books を中心に紹介しています。「こんな本あったの?」という発見を期待する人のニーズには充分答える内容だと感じました。(ただ15年前の本なのでこれも少し古いかもしれない)
手元にあるうちから三点のみに言及しましたが、この手の「レファレンス書のレファレンス書」はどれを読んでも有益だと思います。
「レファレンス書自体が増えすぎてそれらに関するレファレンス書がまた必要になってくる」という状況はおそらく1970年代あたりからだと思いますが、当時はまだオーソドックスなタイプを紹介するものが中心でした。
それが90年代頃を境に、上記のような「変わった辞書・面白い辞書」を対象にしたものも目立ち始めました。管理人が把握してる限りでは、上記のように出版全盛期とネット時代の黎明期が交錯する90年代以降にこのタイプが多く出版されているようにみえます。
さて、このような書籍は当然英米でも出版されており、とりあえず以下に11点挙げてみました。
最初の二点は世界のレファレンス書を対象にしたもの、次の三点はアメリカのレファレンス書を対象にしたものです。その次が分野別百科事典を対象にしています。
≪世界が対象≫
Guide to Reference Books by American Library Association 米
Walford’s Guide to Reference Material by Library Association 英
≪アメリカが対象≫
American Reference Books Annual
Subscription Books Bulletin(下記の前身)
Reference and Subscription Books Reviews(下記の前身)
Reference Books Bulletin
Reference Book Review Index(下記の前身)
Reference Sources
≪分野別百科事典が対象≫
Subject Encyclopedias: User Guide, Review Citations, and Keyword Index – May 20, 1999 English Edition by Allan Mirwis (著)
Arba Guide to Subject Encyclopedias and Dictionaries – April 15, 1997 English Edition by Susan C. Awe (編)
以上の七点は”interesting” “unusual”系というよりも、”General”系や”Subject”系を対象にしており、、どちらかというと本格的な司書向けツールになるかもしれません。
しかし、下記に挙げた四点は、一般人を対象にした購入ガイドであり、いずれも図書館学者のケネス・キスター(Kenneth F. Kister 1935–)の編著です。これら「百科事典購入ガイド」(1981)、「キスターのアトラス購入ガイド」(1984)、「キスターの最高の辞書」(1992)、「キスターの最高の百科事典」(1994)のうち、ことに最後のもの(https://archive.org/details/kistersbestencyc00kist/page/n527/mode/2up)は77の総合的百科事典、800の分野別事典に対して評価を行った相当な労作です。
キスターはこの著書の中で、英語による三大百科事典(ブリタニカ百科事典、アメリカーナ百科事典、コリアーズ百科事典)を定量的観点から網羅性、正確性、明快さ、情報の新しさの四点で比較検討し、その結果コリアーズ百科事典を推奨しています。
わが国の百科事典に関する記述もあり、そこでは平凡社世界大百科事典、小学館日本大百科全書、ブリタニカ国際大百科事典という御三家の他に、一巻本の講談社「大事典desk」(1983)が対象にされていました。
≪個人向け購入ガイド≫
Encyclopaedia Buying Guide – 1 Sept. 1981 English edition by Kenneth F. Kister (編)
Kister’s Atlas Buying Guide: General English-Language World Atlases Available in North America. Phoenix: The Oryx Press, 1984.
Kister’s Best Dictionaries for Adults & Young People: A Comparative Guide. Phoenix: The Oryx Press, 1992.
Kister’s Best Encyclopedias: A Comparative Guide to General and Specialized Encyclopedias, Second Edition. Phoenix: The Oryx Press, 1994.
中国ではかなり古い本ですが下記のようなものが代表的でした
「文史哲工具書簡介」(文史哲工具书简介 南京大学图书馆 1980)
Ⅴ 叢書(新書という大項目の百科事典)
「文庫クセジュ」(Collection Que sais-je 1941~)4000
「岩波新書」(Iwanami Shinsho 1938~) 3400
ここまで、レファレンス書の最後の類型である所謂「叢書」には触れませんでした。
叢書には、「四庫全書」や「群書類従」のように既成の名著を集めたタイプと、テーマごとに新たに書き下ろすタイプがあり、我が国で廉価で市販されてきたものとしては、前者の「岩波文庫」と後者の「岩波新書」はこの双方において代表的な企画です。
ひとまず前者は置いといて、後者に目を移してみると、このタイプには百科事典の延長的な側面がある事に気づきます。
前述のように、ブリタニカ百科事典の特徴としてまずあげられるのは、大項目の記事が異常に長く、単発の論文のような完備した体裁を持っている点でした。岩波新書はすでに3400点も出ていますし、フランスで同様の企画として名高い「文庫クセジュ」(Collection Que sais-je 1941~)も4000点も出ているので、これらはともに「大項目ごとに分売された百科事典」だとみなしてもおかしくありません。(小学館「大日本百科全書」の定義によると、百科事典における大項目主義とは数千から数万の項目数のものであり、小項目主義が十数万項目という事らしいです)
特に「文庫クセジュ」の方は、じっさいに現代版「百科全書」を目指して創刊されたという経緯がありました。この叢書の執筆者にはフランス国内の碩学泰斗の名が多くみられます。すでに世界40か国で翻訳されてるといいますから、この分野ではブリタニカ百科事典のような世界のスタンダードになっているのかもしれませんね。日本で訳されてるのは全体の四分の一程度です。
レファレンスブック史上、最も画期的な存在である「百科全書」を生み出したフランスは、それ以降、極端に大部ではあるが社会にはほとんど普及しなかった事典や、ユースフルかつリーズナブルではあるものの簡略化された世界像しか示さない事典など、まさに「百科事典の実験場」の観を呈しました。「百科全書」の真の後継者は、案外「文庫クセジュ」あたりだったのかもしれません。
管理人は、岩波文庫がドイツの「レクラム文庫」を範として創刊されたので、岩波新書も「文庫クセジュ」あたりをお手本に創刊されたんじゃないか?と考えていましたが、実際には岩波新書の方が三年ほど早いようです。
むしろクセジュに先立つのは、オックスフォード大学出版局の「現代知識の家庭大学図書館」(Home University Library of Modern Knowledge 1911~)というハンディな叢書の方ではないかと思います。総編集がH.A.L.フィッシャーとギルバート・マレー、執筆者にはGKチェスタトン、Mバウラ、Hラスキ、Bラッセルというから、クセジュに勝るとも劣らない陣容です。例えば「フランス革命」をヒレア・ベロックが担当し、「マルクス」をイザイア・バーリンが書いているとなれば、興味を憑かれる方も多いと思います。但し、これは結局戦前に200点ほどしか出なかったので、百科事典というには少々無理があります。(邦訳もなし)
日本の新書だと岩波に次ぐ点数といえば、中公新書の2500点以上、カッパブックスの2400点あたりでしょうか。
百科事典における項目数の相場が分かってる目からすると、吉川弘文館「人物叢書」は300点ぐらいなので伝記事典には少しキツイかなとか、ブルーバックスは2000点も出てるので十分科学事典と言えるのでは?とか、叢書をそういう視点から見れるので面白いです。
下に欧州の主要な新書タイプの叢書をならべてみましたが、クセジュを別格とすると出版点数が1000のオーダーに乗るのはなかなか見つかりませんね。
4000点 「文庫クセジュ」フランス大学出版(Collection Que sais-je 1941~)
750点 「レペール」ラ・デクーヴェルテ社(Repères, chez La Découverte 1983~)750
122点 「コレクション128」アーマンド・コリン社(Collection 128, chez Armand Colin)
40点 「クレフス」モントクレステン社(Clefs, chez Montchrestien)
900点 「発見叢書」ガリマール社(Découvertes, chez Gallimard) 900
88点 「スイスの知識」EPFL出版(Le savoir suisse, aux Presses polytechniques et universitaires romandes 2002~2012)
700点 「非常に短い紹介」オックスフォード大学出版局(Very Short Introductions, chez Oxford University Press)
650点 「ウィッセン」C.H.ベック社(Wissen, chez C.H. Beck)
フランスの「レペール」は経済・社会科学分野のレファレンスコレクションと言われ、査読者が複数付くのが特徴です。
スイスの「スイスの知識」はフランス語圏の叢書であり、言語もフランス語です。
イギリスの「非常に短い紹介」はオックスフォード大学出版局による叢書。同出版局が戦前に出していた「現代知識の家庭大学図書館」にも似て、執筆者には世界的権威の名が多くみえ、二十数か国へ翻訳されています。我が国へは叢書としての邦訳はされてませんが、シリーズの中から、マイケル・ハワードの「第一次世界大戦」、Q・スキナー「マキアヴェリ」、マイケル・クック「コーラン」などが単行書として翻訳されていました(他にもあるかもしれません)。
ドイツの「ウィッセン」も1995年発刊とわりと新しめの叢書ですね。
クセジュと同じフランスの、ガリマール社「発見叢書」(Découvertes Gallimard 1986-)の場合は、執筆者が若手研究者中心なためか記述内容はいささか薄味な印象ですが、図版が豊富で編集もカラフルなので読みやすいです。邦訳版(創元社「知の再発見双書」)はわずか160タイトルですが、元版は900点も出ていてこれも将来四ケタのオーダーに乗れば、分売の図鑑と言えない事もありません。こちらも30か国へ翻訳されています。
次は中国へ目を移してみます。
中国ではすでに民国期から「万有文庫」(商務印書館)という4000点に上る大規模な叢書がありました。これは孫文の秘書をやったり後には行政院の副院長なども歴任した王雲五という有力な出版人によるものです。王雲五はブリタニカ百科事典を読破した一人でもあって、どうも本来はこのような大百科事典が作りたかったような節があります。商務印書館でまず「百科小叢書」400点を刊行し、次に「万有文庫」を創刊しました。 当時一世を風靡したといえるシリーズで昔の中国人ならみんな知っています。 ただ、カタログ(https://web.archive.org/web/20080430175642/http://www.sanqinji.com/mulu/wywk.html)をみるかぎり、この叢書は日本でいえば岩波新書と岩波文庫を併せたような内容で、中国古典の紹介や西洋古典の翻訳などがかなりの部分を占めます。
一方、現代中国を代表する叢書としては、先述の国家图书奖を受賞した「当代中国丛书」が挙げられます。これは人民共和国が成立して以来の国土・組織・制度の発展・建設をテーマにした叢書です。出版点数は200点ほどです。
(4000点)「万有文庫」商務印書館(万有文库)
400点 「百科小叢書」商務印書館(百科小丛书)
200点 「現代中国叢書」中国社会科学出版社(当代中国丛书)
ところで日本の代表的な新書の出版点数を並べてみると欧州との差は歴然です。文春新書は1998年の発刊なのにもう四桁いってます。(但しカッパブックスには小説も含まれます。)
岩波新書 3400点
中公新書 2500点
カッパブックス 2400点
講談社現代新書 2000点
ブルーバックス 2000点
NHKブックス 1200点
文春新書 1000点
光文社新書 1000点
(別冊宝島 2600点)
岩波と中公が権威的な面で日本の新書のツートップであるのに対し、
、カッパブックスは往年の新書ブームに火をつけた存在です。一時はかなり売れ、ベストセラーの上位をカッパブックスが独占するなんてこともありました。
日本の新書市場(ムック市場も)がなぜこれだけ活況なのかというと、日本人はこういう本が好きなんじゃないの?とも思いましたが、これはむしろ書き手側の事情なのかもしれません。
歴史的に見て、欧州で物書きという職業の人種が大量に増えたのは、定期刊行物と百科事典の誕生した17,8世紀以降です。これらは共に多人数の分担執筆による書物です。 定期刊行物(ジャーナル)に執筆する著述家たちがジャーナリストと呼ばれるようになる一方で、百科事典の項目執筆は初期の著述家たちにとって重要な収入源でした。
百科事典が下火になった20世紀の終わり以降は、無数の著述家に与える仕事として一番適切だったのが(日本の場合)、このような新書の執筆だったのではないでしょうか。
百科事典の最大の弱点は、情報を更新する「改訂」という大作業でした。単買の新書の場合、更新が簡単なので、この点ネット百科事典にやや近い側面があります。
最近岩波書店が「岩波新書」の解説総目録を出しました。これまで刊行した新書をすべて年代順に配列しているのはそれでいいと思いますし、巻末にアイウエオ順の索引をつける事も当然とは言え、一応ちゃんとやっていました。
しかし、これには分野別の索引がありません。
これではレファレンス用途には使えないわけで、この目録自体そうした機能性よりも、長い歴史を持つ叢書の顕彰を目的に刊行されているような趣でした。(つまり社史のような記念出版物であって、にも拘らず、定価をつけて販売しておられます)。
国会図書館の「日本十進分類」でもいいし、Mデューイの「十進分類法」でもいいので、もし新書をテーマごとに分類する索引を作ってくれていたら、(3400項目もあるんだから)それで大項目の百科事典としても使えたわけです。(まあ岩波新書の性格からいって特に最近のは「現代用語の基礎知識」とか、下手をすると「日本の論点」に近いものになったかもしれませんが)
と思ったら、「新書マップ」というレファレンスブックが刊行されていた事に今日気づきました。この本は日本の新書を各社横断的に分野ごとに配列しています。
問題点は、紹介点数が7000冊とかなりセレクトされおり、昔のものなどは省かれている事です。逆に、2004年発行と少し古いため最近の新書もありません。それでも広大な新書の世界を百科事典的に使おうとする場合の索引としては十分便利だとは思います。
「文庫クセジュ」や「知の発見叢書」を百科事典になぞらえると、盛り過ぎだろうと思われる方もいるかもしれません。ただオックスフォードコンパニオンシリーズ(Oxford Companions 1933~)ぐらいになると、現在の英米圏ではそれなりに権威を確立しています。すべて未訳なので日本では「ワイン篇」ぐらいしか知られてないものの、各巻は情報量と質の高さで定評があり、ことに食関係は前述のダートマスメダルやホーキンズ賞で賞を取っていました。
標準的知識を得るための「広辞苑」や「平凡社世界大百科事典」に対して、最新知識やマスメディアの話題についてゆくためのレファレンス書として「現代用語の基礎知識」「イミダス」「知恵蔵」などが存在するように、こうした単一項目を解説した叢書においても、標準的な知識に対応した「文庫クセジュ」や「岩波新書」以外に、サブカルチャー分野での知識を対象にしたタイプがあります。
日本の「別冊宝島」などがその好例であり、このシリーズは今の時点ですでに2600点も出ているそうです。これはもともとアメリカの「ホール・アース・カタログ」(Whole Earth Catalog 1966~1974)の日本語版を目指して創刊されたそうですが、同カタログは1960年代の後半に当時定番の商品カタログだった「シアーズカタログ」に対してサブカル的視点(生活スタイルから生き方、世界観まで)を示して、現在ではヒッピー文化のバイブルという評価を得ています。
こういうのは用途に応じた使い分けが大事で、ネット時代以前(Windows95が登場する前)にはずいぶん重宝されていました。
(江戸末期以降に我が国で出版された偉大な叢書を語ればキリがありません。群書類従、大正大蔵経、国訳一切経、明治文学全集、新釈漢文大系、岩波講座、有斐閣法律全集、中公日本の歴史などなど。日本独自企画の翻訳ものでは「幻想文学大系」「大航海叢書」「中世原典集成」あたりは後々大きな影響を与えました。しかしここの管理人に、自身では数冊しか所有していないそういう偉大なシリーズを語る能力はなく、ここでは百科事典の延長的な企画のみを取り上げました)
■■■ 情報爆発Ⅱ 21世紀 レファレンス書の終焉
かつてブリタニカ百科事典の紙版終了のニュースが流れた時、世間的には「ブリタニカに対するWikipediaの勝利」とみなされました。それはまたこの百科事典がタイム紙から「本の王様」と讃えられていただけに、ひいては「書籍全体に対するWEBの勝利」の象徴的出来事とも受け取られていたのかもしれません。
ブリタニカは1990年ごろが売り上げの頂点で、当時のアメリカでは総勢2300人に上るセールスマン部隊が売りまくったという伝説が残っています。
しかし、1993年にマイクロソフトがCD版百科事典の「エンカルタ」を発売するやいなや、売り上げは一気に五分の一に落ちました(すごい凋落の仕方です)。エンカルタ自体はそもそもスーパーで販促用に配られるような安物の百科事典に過ぎません。それをマイクロソフトが版権を買ってCDにしたわけです。
当然、記事内容に自信のあったブリタニカはこれに対抗して翌年にはCD版を発売、99年にはネットでの無料公開といった様々な手を打ちます。しかし、結果はいずれも空回りに終わりました。
その後、2001年にwikipediaが誕生して、これ以降20年の間に百科事典の世界は次第にその天下になってゆく、その経過はご存じだと思います。
Web版百科事典の勝利の原因はいくつもあります。
まず、「改訂」という百科事典にとって体力を消耗する大作業なしに記事が持続的に増殖してゆく点はやはり重いです。すでにブリタニカも1933年からは継続的な改訂を行ってますが(毎年10パーセントが改訂)やはりこれには到底及びませんね。 試行錯誤の例としては、ルーズリーフ方式の百科事典まで登場したという話があり(by 樺山紘一氏)、それ以外にも上述のような叢書形式も同種の試みだったといえるでしょう。決して出版サイドも無為無策のまま過ごしてきたわけでないようです。
にもかかわらず、情報の新しさの面では、①数十年に一度、版を改める < ②新版を出すまでの期間も持続的に改訂 < ③ルーズリーフ式百科事典、もしくは叢書形式 < ④Webにおける暫時の改訂 という序列が成立する事は否めません。言うまでもなく情報の新しさは即情報の正確さにつながります。
購入者の視点からは、「場所をとらない」というのが何より重要でしょう。日本版wikiは、項目数では平凡社世界大百科事典全35巻の14,5倍もあるのに、一項目当たりの記述は遥かに長大です。これを洋装本で部屋に置こうとすれば1000巻越えるかもしれません。
それと、クロスレファレンスがワンクリックですぐそのページに移れる機動性があります。新たにまた重い巻を取り出してページを繰る必要もありません。 まあこういうのはwikiのみならずWeb全体を通じての僥倖であり、かつて日本の蔵書家としては最大級の20万冊もの蔵書を誇っていた大宅壮一の晩年は、広い書庫の中をこっちで調べてあっちに移り、あっちで調べてそっちに移るという日常だったと伝えられますが、それを思うと今は便利になったものだとつくづく感じ入ります。
ブリタニカに最後に残ったものと言えば記事の信用性に尽きますが、これも内容のコピーが無慈悲に行われて、wikiが正確性の面でも年々精度高めてきたのはご存知のところでしょう。すでに2005年12月の段階で、ネイチャー誌がブリタニカとwkipediaの記事にみられる一項目あたりの誤りの確率を、平均3、7と2,9と試算して「大した違いはない」と結論付けていました。(Wikipediaの162個の間違いに対してブリタニカには126個の間違いがあったわけですが、Wikiの方は二、三日でこの間違いをすぐ訂正しています。)
これらに加えて、wikiの場合には無料という長所が加わります。
そもそもこうしたレファレンス書の興隆は、近世の個人蔵書の増大・充実とちょうど軌を一にして始まったわけですが、それが終わるときもまたこのようにほぼ「同時」でした。 近世篇の序説にこのテーマを選んだのは、正にそのためだったわけです。
重要な個人蔵書が少なくなった理由も、レファレンス書が廃った理由も、ひとえにインターネットのおかげ、と言い切っても異論は出ないでしょう。 この新メディアの影響は他にも、雑誌が売れない、漫画が売れない、CDが売れない、など数え上げたらきりがありません。
この序説もどきの最初のところで述べたように、多くの書物からの抜き書きで構成されるレファレンス書は、そもそも大きな蔵書を持つ事ができなかった人たちのために、要点だけ抜き出した調べもの用のツールでした。この点はレファレンス書が権威ある執筆者たちの共同作業による百科事典へと変わってからも同じです。
かつてポール・アザールは「十八世紀ヨーロッパ思想」の中で、百科全書に関して「Libraryの代わりとなる本をすべての分野にわたって社交界の人々に提供し、専門の学者に対しては彼らの専門外のあらゆる分野にわたってそれを提供する」と述べています。
またガブリエル・ノーデも、このような書物も図書室に備えて置く理由として、高額の費用を費やして多くの本を揃えなくても、それらからの抜き書きによりそのエッセンスが入っていて有益である点を強調していました。
個人蔵書をテーマにしたサイトでなぜレファレンス書についてここまで長々と語ったのかというと、じつはこれらが潜在的な個人蔵書にあたり、多くの人にとって蔵書の代用として機能し、大きな蔵書に憧れをもつ人たちにそれと同等とまでは言えないものの必要最低限の知識を与えてきたからです。
西欧近代という人類史における個人蔵書のピークを語るに先立って、それと双子の存在であるレファレンス書の近世以降の推移をみてきたのはまさにそのためです。双子なんだから、片方の寿命が尽きる時、もう一方の寿命が尽きるのも当然の事でしょう。