★関谷「ご機嫌いかがですか? 昼下がりの奥様の心にさりげなく忍び込む、大和小の人気者、漂流教室関谷です。」
☆梅本「純クレ梅本です。今日は蔵書数十五万越えの方のご紹介です。」
はっきりした数は不明ですが、ご本人の言葉によると立花隆さん (Tachibana Takashi 1940-)も、このクラスだったらしいんです。」
★関谷「どういうこと?」
☆梅本「立花さんは以前は8万クラスに置いてました。『ぼくはこんな本を読んできた』(1995刊)の頃は3万5千冊ぐらい、その後のご本人の言葉によると7~8万だって。
ところが『立花隆の書棚』(2013刊)の前書きでは、ネコビル内の本棚をカメラマンが棚単位で撮影してゆくと全体で1万枚ぐらいになったって。棚には10冊から20冊収納されてるので、それから計算すると10万冊から20万冊の間だって。」
★関谷「管理人はこの本持ってたんじゃなかったっけ」
☆梅本「持ってたけど、前書きのところはよく読んでなかったみたいです。最近読んでて気づいたそうです。ネコビルには他にも平積みになってるのがあるからもっとかもしれないけど、取り合えず間をとって15万クラスのコーナーに置いておきます。
立花さんにはご迷惑をおかけしました。お気を悪くされてないといいのですが・・・」
★関谷「立花さんといえば、やはりあのネコビル・・・ 『立花隆の書棚』は楽しい本だよ。ネコビル内部の写真がふんだんにある」
☆梅本「ただ、この人の本質はジャーナリストなんですね。だから本以外に情報源が多彩すぎて、本はその情報源の一つに過ぎない様な気がします。それも主要なものではなくバックグラウンドを豊穣にするためのものというか・・・」
★関谷「書くものも、本の世界にどっぷりつかってあちこち漁りつくした末にたどり着いたテーマというより、脳死とかサル学とか、メディアの要請に応えて取材してみたという印象が強いね」
☆梅本「さらにご本人は書評家でもあるので、『本について書いた本』では常にその時々のベストセラーを中心に紹介してるというか、『本当の好み』ないしは『執着する対象』が今一つ見えてきません」
★関谷「でも蔵書家って、『本を読んだ人』ではなく『本に読まれた人』って感じの人多いじゃない?。
例えば、岡田斗司夫が3万7千冊の本を処分して、千冊だけにした理由は、「本の奴隷になりたくない」という恐怖感でしょ? それを捨てずに、最後まで行っちゃったのが草森紳一さんだと思うんだよ。それに比べると立花さんは、」
☆梅本「立花さんが巨大な蔵書を保持しながら、その奴隷にならず、自分をコントロールできているのは、多分いろいろなコツを持ってるためだと思います。例えば立花さんは「本は、読むものではなく(辞書みたいに)引くものだ」と言ってます。ジャーナリスト出身で大量の情報を処理するすべを学んでる立花さんはそういうコツを他にもたくさん持っているに違いない。
だからそういう人の情報整理は明晰で的確で、お書きになるものもやはりそういう風になってる。でもそういう人の書くものってなんか整理されすぎちゃって・・・」
★関谷「情報ツールとして本を自在に使いこなした立花さんは『本を読んだ人』であり『本に読まれた人』ではない、という事だな。でも、このタイプは今の時代に生まれていれば蔵書家になってたのかな?
次も皆さんご存知の評論家の渡辺昇一さん (Watanabe Shoichi 1930-2017)です。所蔵されていたのはおよそ15万冊ほどでした。最近お亡くなりになっています。
しかし・・・ 冊数だけでいえば、リチャード・ヒーバーとか陸心源クラスだもんなあ。とても昔貧乏してた人とは思えない。」
☆梅本「愛書家の団体であるビブリオフィル協会の会長もされてましたよね。愛書家団体って、もう一つ日本グロリエクラブがあるんですけど、あっちは雄松堂の新田満夫が会長になっちゃって・・・ いくら本持ってても古本屋が自分で会長になっちゃダメでしょ
ちなみに渡辺さんは、愛書家団体の会長になるだけあって、一千万もしたシェイクスピア初版本も持ってたそうです。」
★関谷「この人の場合、稀覯本収集家としての顔と、メガ級蔵書家としての顔があって、前の部分を重視して「鏡像フーガ」の洋書の稀覯本蒐集家の項に児玉親子や東畑謙三と一緒に置くことも考えたけど、ここまで量持ってる人は少ないので「現代の蔵書家」のコーナーに置くことにしました。」
☆梅本「全体のうちで貴重なものってどのぐらいなんですか?」
★関谷「確か英語学英文学関係のみの目録が出てるんだけどそれが8900冊分ぐらいだっけ?」
☆梅本「鹿島さんや荒俣さんも結局こっちに置いちゃったしね。でも渡辺さん、ケンブリッジ大学図書館の人に英語文献の蒐集では世界最高って褒められたんですって。」
★関谷「本職は英語学者なんだよなこの人。全然知らなかった。それだけ保守系論客のイメージが強くて、その関係の一般向け著作が多い。同じ上智出身で、昔貧乏してて、晩年は日本で五本の指に入る巨大蔵書家って点では、井上ひさしと共通してるんだけど、思想的には全く正反対なんだよなこの二人。渡辺さんは歴史の通説を修正する側だから、たくさんの資料を必要としたんじゃないの?」
☆梅本「晩年ゴージャスな書庫を新築されたそうです。あの年でローンが組めたのは尋常ではないですね。さすが常時本を出してて売れてる人だけのことはありますね」
★関谷「このところ冊数が巨大になってから誰に対してもダメ出し気味だったんだけど、今日は扱いが柔らかいね。なぜだろう? いやむしろこれが本来あるべき姿なんだが」
☆梅本「それは管理人が渡辺さんの本を参考にさせて貰おうと考えてるからですよ。『イギリス国学史』という大著をお書きになっていて、マシュー・パーカーとかルネサンス期イギリスの蔵書家に関してあれより詳しい文献は日本にないんです。
ところで、十五万越えの蔵書家はもう一人いるんです。細谷正充(Hosoya Masamitsu 1963-)さん。やはり評論家でこちらは存命中です」
★関谷「これは知らない」
☆梅本「実は私も名前をチラッと聞いた事があるぐらいで全くノーマークでした。
2017年には15万冊ぐらいあったそうです。そのうち漫画が3万冊。2019年のインタビューでは『17万から18万ぐらいだろう』とおっしゃってます。」
★関谷「思い出したっ! 一人で文学賞を主宰してる奴だ!」
☆梅本「ええ、『細谷正充賞』を主催されています。ちゃんと授賞式もやってるそうですよ」
★関谷「こういうのは明らかに俺様賞の部類に属するのだが・・・」
☆梅本「これぐらいの本を持ってる人なら別におかしなことはないですよ。文学賞の選考委員って大体五、六人でしょ。評論家五、六人の蔵書併せても普通17万までは届きません。持ってる本の多くは重複してるだろうから、細田さんのフィールドの広さに抗しうるには評論家2、30人は連れてこないと」
★関谷「しかし、変じゃないか?」
☆梅本「変って言ったら、次回紹介する人はイタコ芸で有名人著作を量産してる人なので、もっと変です。
細谷さんは批評家としては大衆文学(エンターティメント)全般を対象にしていて、メインは時代物なんだろうけどミステリ、ライトノベルから漫画に至るまでフィールドが広いです。文庫本の巻末解説を日本で一番たくさん書いてる人だから、皆さん一度は文章を読んだ事があるかもしれません。」
★関谷「書庫も巨大なんだろうね」
☆梅本「ええ、かなりぶっ飛んでます。youtubeに動画があります。
★関谷「確かに、ぶっ飛んでるな」
☆梅本「ぶっ飛んだ書斎でしょう?
一年に一回、編集者や友人を招いて書庫でパーティーしてるんだって。」
★関谷「本好きを大勢、見通しの悪い巨大な書庫に放って大丈夫なんだろうか」
☆梅本「盗られても、すぐはわかりませんもんね」
とにかく蔵書は2年で1万冊も増えてるって。もと書店員だけに本がお好きなんでしょう」
★関谷「次回は最終回です。20万越えの蔵書家たち、お二人を紹介します」
☆梅本「もうみなさん誰だかおわかりでしょうけどね」
総目次
◇まずお読みください
◇主題 反町茂雄によるテーマ
反町茂雄による主題1 反町茂雄による主題2 反町茂雄による主題3 反町茂雄による主題4
◇主題補正 鏡像フーガ
鏡像フーガ 蒐集のはじめ 大名たち 江戸の蔵書家 蔵書家たちが交流を始める 明治大正期の蔵書家 外人たち 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する 昭和期の蔵書家 公家の蔵書 すべては図書館の中へ
§川瀬一馬による主題 §国宝古典籍所蔵者変遷リスト §百姓の蔵書
◇第一変奏 グロリエ,ド・トゥー,マザラン,コルベール
《欧州大陸の蔵書家たち》
近世欧州の蔵書史のためのトルソhya
◇第二変奏 三代ロクスバラ公、二代スペンサー伯,ヒーバー
《英国の蔵書家たち》
◇第三変奏 ブラウンシュヴァイク, ヴィッテルスバッハ
《ドイツ領邦諸侯の宮廷図書館》
フランス イギリス ドイツ イタリア
16世紀 16世紀 16世紀 16世紀 16世紀概観
17世紀 17世紀 17世紀 17世紀 17世紀概観
18世紀 18世紀 18世紀 18世紀 18世紀概観
19世紀 19世紀 19世紀 19世紀 19世紀概観
20世紀 20世紀 20世紀 20世紀 20世紀概観
仏概史 英概史 独概史 伊概史
◇第四変奏 瞿紹基、楊以増、丁兄弟、陸心源
《清末の四大蔵書家》
夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢 三国・晋・五胡十六国・南北朝 隋・唐・五代十国 宋・金・元 明 清 中華・中共 附
◇第五変奏 モルガン,ハンチントン,フォルジャー
《20世紀アメリカの蔵書家たち》
アメリカ蔵書史のためのトルソ
◇第六変奏
《古代の蔵書家たち》
オリエント ギリシア ヘレニズム ローマ
◇第七変奏
《中世の蔵書家たち》
中世初期 カロリングルネサンス 中世盛期 中世末期
◇第八変奏
《イスラムの蔵書家たち》
前史ペルシア バグダッド カイロ コルドバ 十字軍以降
◇第九変奏 《現代日本の蔵書家たち》
本棚はいくつありますか プロローグ 一万クラスのひとたち 二万クラスのひとたち 三万クラスのひとたち 四万クラスのひとたち 五万クラスのひとたち 六万クラスのひとたち 七万クラスのひとたち 八万クラスのひとたち 九万クラスのひとたち 十万越えのひとたち 十五万越えのひとたち 二十万越えのひとたち エピローグ TBC
◇第十変奏 《現代欧米の蔵書家たち》
プロローグ 一万クラス 二万クラス 三万・四万・五万クラス 七万クラス 十万・十五万クラス 三十万クラス エピローグ1 2
◇第十一変奏
《ロシアの蔵書家たち》
16世紀 17世紀 18世紀① ② ③ 19世紀① ② ③ 20世紀① ② ③
Δ幕間狂言 分野別 蔵書家
Δ幕間狂言 蔵書目録(製作中)
◇終曲 漫画の蔵書家たち 1 2
◇主題回帰 反町茂雄によるテーマ
§ アンコール用ピースⅠ 美術コレクターたち [絵画篇 日本]
§ アンコール用ピースⅡ 美術コレクターたち [骨董篇 日本]
§ アンコール用ピースⅢ 美術コレクターたち [絵画篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅣ 美術コレクターたち [骨董篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅤ レコードコレクターたち
§ アンコール用ピースⅥ フィルムコレクターたち
Θ カーテンコール
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