蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[114] 現代日本の蔵書家12 二十万越えのひとたち

☆梅本「井上ひさしと谷沢永一です。おわり」

★関谷「終わり?」


☆梅本「ええ、嫌いなんですこの二人」

★関谷「嫌いって・・・ それだけで、」

☆梅本「特に井上ひさしは奥さんにDV男でしょう? 外面(そとづら)は誰に対しても良くてニコニコとしてるのに家庭では独裁者で、僕は歴史上で物凄くエライ人物なんだから、その創作活動の時間の邪魔をしないでくださいとか真顔で・・・  世間には腰が低くて、奥さんには独裁者。桂歌丸と同じタイプ。一番嫌いだな」


★関谷「私情を挟まずに、粛々と進めていきます。最終回なんだから。
    えーとまず、谷沢永一 (Tanizawa Eiichi 1929-2011)ですが、蔵書の数がほぼ20万冊を超えていたという・・・ もっとも13万5千とか15万とか諸説ありますがね。というのは阪神大震災の時とか、何回か本を整理していて」

☆梅本「この人も嫌いだな。何か品がなくて。人の悪口ばかりでしょう?」

★関谷「まあ権威のある本でも実は内容がスカスカのものについては割とハッキリものをいうというか・・・ 厖大な知識を持つ人間には、普通の人の見ることのできない色々な欠点を見ることが出来て、それで性格が悪いと谷沢永一みたいになってしまうんだな。でも「書誌学細見」みたいな本業のものを読めばまたイメージはかわるかもしれない。
    それより、戦後すぐの時期・・・ かなり若かった頃からデカい書庫を持ってたのは珍しいね、またその書庫の中から開高健が育ってきたり・・・ 」

 

 

☆梅本「実は井上ひさしと谷沢永一の他にもう一人いるんですよ。幸福の科学の大川隆法(Okawa Ryuho 1952-)総裁が自分のホムペで俺は20万持ってる、年に三千冊読んでる、って豪語してます」

★関谷「宗教関係は多いからなあ。所有は教団名義かもしれないけど存命中ではこの人が一番になるのかな?」

☆梅本「なんでも第一書庫、第二書庫、第三書庫と書庫を三つ持ってるって。第一書庫だけで全部見るのに600メートル歩かなきゃならないって。
    というか、実はこの人もう2千冊も本書いてるんですよね。そっちの方がすごいかも」

★関谷「一冊書くには百冊読まなければならないと言うが、それならたしかに20万・・・」

☆梅本「でもこの人の場合、講話やスピーチが文字に起こされて自動的に本になるわけでしょ?」

★関谷「それでも2000冊って半端じゃないぞ ヴォルテールの全集だって80巻ぐらいじゃないか」

☆梅本「大川隆法の周辺は息巻いてます。『ウチの総裁はギネスブックに載らないのか』って」

★関谷「幸福の科学の信者たちだな」

☆梅本「ええ、あの人たちには一世紀のアレクサンドリアのディディモスが3500冊も本書いてる事実を誰か教えてあげないと。


    まあ総裁は元商社マンですしその頃から知識は広かったんだと思いますよ。私は昔『太陽の法』を読んで挫折しましたが・・・ どうもあの何次元何次元って言うのがちょっと」

★関谷「そういえば霊言シリーズは悪質だな。死んだ人間に勝手に喋らせて。」

☆梅本「源頼朝やジョン・レノンはまだいいんです。死んでますから。
    でも最近ではまだ生きてる人間にまで生霊とか言って喋らせてます。木村拓哉とか文在寅とか」

★関谷「アインシュタイン、スターリン、橋本龍太郎、北川景子、田原総一郎、広瀬すず、ナタリーポートマン、池上彰、モーゼやゼウスまで、このシリーズもう何百冊もあるんだな・・・ 竜宮城の豊玉姫なんて完全に架空の人物だよね」

☆梅本「大川総裁のイタコ芸を楽しみにしてる人は結構いるんですよ。 生きてるとか死んでるとか架空だとか実在だとかはもうどうでもいいんです。
    水木しげるや竹村健一が死んだら数日でその霊言本出しちゃうところなんかフットワークも超軽いです。」

★関谷「シリアのアサド大統領やイスラム国のバグダディや理研の野依良治みたいな旬の人物を逃さないところが麻原正晃にどこか似てる」

☆梅本「国谷裕子、膳場貴子のような総裁お気に入りの人物も逃しません。
    本屋で『膳場さんが本書いたの?』って手に取った人は驚くでしょうね、開いて読んでみたら膳場貴子になったつもりの大川隆法が延々と喋ってるだけなんだから(笑」

★関谷「京極純一の霊言まである・・・ このシリーズよく訴えられないもんだな」

☆梅本「手塚治虫の娘は怒ってます。うちの父はあんな喋り方はしないって」

★関谷「でも面倒臭いから訴えないらしい。関わり合いになりたくない様だ。」

 

 


☆梅本「次は、井上ひさしですね・・・ できるだけ早く切り上げてくださいね」

★関谷「そんな訳には行かないだろ! トップなんだから!

    えー 昔から日本で一番本を持ってると言われていたのが、作家の井上ひさしさん (Inoue Hisashi 1934-2010)で、総数22万冊と言われていました」

☆梅本「この人同時期に所有してたのは13万ぐらいが最高でしょう? 13万の時に、故郷の東北の町に半分ぐらい寄付して、それで図書館を作らせたって」

★関谷「草森紳一も当面使う必要がない半分の本を、故郷の北海道に九メートルの塔を建ててそこに置いていた。この二人よく似てるんだけど、なにかが違う。
    井上ひさしの場合は、本は人に触ってもらって読んでもらって、それでこそ生きるんだって考え方だったから、読み切れないもはを自分が死蔵するのではなく、若い人たちのために提供しましょうっていう考え方で・・・」

☆梅本「図書館に置いても自分の物のつもりだったんでしょう。この人の事だから。
    この人、どこかの図書館に伊能忠敬関係の書物だけを引き受けたいって申し出を受けて、激怒するんです。自分の本は全部まとめて引き取れって。バラバラにするつもりはないって」

★関谷「コレクションは確かに自分の作った宇宙だから、そのままの形で置いておきたいって心理はあるかもしれないな。」

☆梅本「前に管理人が書いてたでしょう。文庫を丸ごと図書館に寄付する行為は、公共への奉仕と密かなエゴイズムの変な結合だって。この人は稀覯本専門のコレクターじゃないけど、やっぱりその典型なんですよ。
    というか、共産党支持の有名人の代表格で赤旗にはしょっちゅう顔出してたのに、その反面、家庭内では暴君で実際に暴力も振るい、俺は今の日本に一人か二人しかいないぐらい貴重な大天才なんだからって、創作活動への絶対的な奉仕を要求してたこと自体、まったくそれとおんなじ矛盾じゃないの? 」

★関谷「まあ・・・ そこは大人物にはよくある矛盾ということで・・・
    それで、その図書館にはその後も毎年5000冊ぐらい送ってたそうだ。これを20年間続けたんだと。計22万冊ってのはそういう意味らしい。」

☆梅本「一年に五千冊って、よくそんなに本を買いますね。一体いくら使ってたんだか」

★関谷「『吉里吉里人』がベストセラーになって印税が転がり込んだ時期は、出版される小説と文芸評論と漫画は全部購入しているんだが、ひと月に五、六百万かかったそうだ。年とってからは月五十万ぐらいだとさ」

☆梅本「そんな買い方でほんとにちゃんと読んでるのかしら?」

★関谷「蔵書家って、金出して買う以上、案外ちゃんと読んでるものだよ。立花隆が『本は字引みたいに引くものだ』って言ってたそうだけど、それには、あらかじめどの本のどこにどんな内容が書いてあるのかが大まかに分かってなきゃいけない。ななめ読みであれ速読であれ、それ以前に何らかの形で読んでる筈なんだ。
    井上ひさしは赤鉛筆でラインを引く癖があった。ある時古本屋で買ってきた円朝全集を読んでると自分が引きたいと思うところばかりに赤線が引いてあったので『こいつ小癪な奴だな』と思ってたら、自分が昔売った本だったことに気づいたそうだ」

☆梅本「今は国会図書館のデジタルコレクションには著作権切れの35万冊の本が公開されてるから、「ネット環境があれば誰でも35万クラスの蔵書家じゃん」と思ってたけど、そうじゃないってことね。
    でもこの人、ベストセラー作家って言われててエッセイも売れてるんだけど、本業はあくまで劇作家ですよね?」
   
★関谷「そう。上にあるように家族に絶対奉仕させてまで完全主義の姿勢で彫琢してたのは主に戯曲で、エッセイなんかはもっと楽に書いていた。しかしその戯曲は今の日本でそんなに読まれてるとはいいがたい。
    なんかの演劇雑誌で演劇人に『戦後日本でもっとも重要な劇作家は誰?』っていうアンケートを取ったんだよ、そしたら、三島由紀夫と井上ひさしが同点で一位だったの。でも同時に『戦後最高の戯曲は何ですか』ってアンケートも取ってて、そっちは三島の『サド侯爵夫人』が一位なんだけど、井上作品は十位にも入ってない。
    井上ひさしの劇作のうち、どれが名作でどれが集大成でとかの評価が、批評家レベルでは定まってても、一般にまでは浸透してなくて、どれを選んでいいのかわからない、亡くなった今でも世間からすると多分そんな状態なんじゃないかな? だいいち世の中の人に戯曲を読む習慣なんてないからな。板に乗っても今は再演もないし。」

☆梅本「売れてるように見えてても、一番精魂込めて書いてたものは世間でほとんど読まれてない。幸運なようで意外に不幸な面もあるんですね」

★関谷「万クラスの蔵書家を見ていけば、何か見えてくるかもしれないって管理人が書いてたけど、正直何も見えてこないよな。」

☆梅本「何も見えてきませんよ。みんなどこか変な人たちなんだから」

 

 

 

 

総目次
 
まずお読みください

◇主題  反町茂雄によるテーマ
反町茂雄による主題1 反町茂雄による主題2 反町茂雄による主題3 反町茂雄による主題4

◇主題補正 鏡像フーガ
鏡像フーガ 蒐集のはじめ 大名たち 江戸の蔵書家 蔵書家たちが交流を始める 明治大正期の蔵書家 外人たち 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する 昭和期の蔵書家 公家の蔵書 すべては図書館の中へ 
§川瀬一馬による主題 §国宝古典籍所蔵者変遷リスト §百姓の蔵書
 

◇第一変奏 グロリエ,ド・トゥー,マザラン,コルベール
《欧州大陸の蔵書家たち》
近世欧州の蔵書史のためのトルソhya

◇第二変奏 三代ロクスバラ公、二代スペンサー伯,ヒーバー
《英国の蔵書家たち》

◇第三変奏 ブラウンシュヴァイク, ヴィッテルスバッハ
《ドイツ領邦諸侯の宮廷図書館》

フランス イギリス ドイツ  イタリア
16世紀 16世紀 16世紀 16世紀  16世紀概観
17世紀 17世紀 17世紀 17世紀  17世紀概観
18世紀 18世紀 18世紀 18世紀  18世紀概観
19世紀 19世紀 19世紀 19世紀  19世紀概観
20世紀 20世紀 20世紀 20世紀  20世紀概観
仏概史  英概史  独概史  伊概史

◇第四変奏 瞿紹基、楊以増、丁兄弟、陸心源
《清末の四大蔵書家》
夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢 三国・晋・五胡十六国・南北朝 隋・唐・五代十国 宋・金・元   中華・中共    

◇第五変奏 モルガン,ハンチントン,フォルジャー
《20世紀アメリカの蔵書家たち》
アメリカ蔵書史のためのトルソ
 
◇第六変奏
《古代の蔵書家たち》
オリエント ギリシア ヘレニズム ローマ

◇第七変奏
《中世の蔵書家たち》
中世初期 カロリングルネサンス 中世盛期 中世末期

◇第八変奏
《イスラムの蔵書家たち》
前史ペルシア バグダッド カイロ コルドバ 十字軍以降
 
◇第九変奏 《現代日本の蔵書家たち》
本棚はいくつありますか プロローグ 一万クラスのひとたち 二万クラスのひとたち 三万クラスのひとたち 四万クラスのひとたち 五万クラスのひとたち 六万クラスのひとたち 七万クラスのひとたち 八万クラスのひとたち 九万クラスのひとたち 十万越えのひとたち 十五万越えのひとたち 二十万越えのひとたち エピローグ TBC

◇第十変奏 《現代欧米の蔵書家たち》
プロローグ 一万クラス 二万クラス 三万・四万・五万クラス 七万クラス 十万・十五万クラス 三十万クラス エピローグ1 

◇第十一変奏
《ロシアの蔵書家たち》
16世紀 17世紀 18世紀①   19世紀① ② ③ 20世紀① ② ③

 

 

Δ幕間狂言 分野別 蔵書家
Δ幕間狂言 蔵書目録(製作中)
 
◇終曲   漫画の蔵書家たち 1 
◇主題回帰 反町茂雄によるテーマ
 

§ アンコール用ピースⅠ 美術コレクターたち [絵画篇 日本]
§ アンコール用ピースⅡ 美術コレクターたち [骨董篇 日本]

§ アンコール用ピースⅢ 美術コレクターたち [絵画篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅣ 美術コレクターたち [骨董篇 欧米]
 
§ アンコール用ピースⅤ レコードコレクターたち
§ アンコール用ピースⅥ フィルムコレクターたち
 
Θ カーテンコール 
閲覧者様のご要望を 企画① 企画② 企画③ 企画④


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  1. 総目次 2019/5/9更新 – 蔵書家たちの黄昏
  2. [116] Twilight of the Book Collectors – 蔵書家たちの黄昏
  3. [213] イスラムの蔵書家たち 十字軍以降 – 蔵書家たちの黄昏
  4. [212] イスラムの蔵書家たち コルドバ – 蔵書家たちの黄昏
  5. [10] 鏡像フーガ5 明治大正期の蔵書家 – 蔵書家たちの黄昏
  6. [108] 現代日本の蔵書家6 六万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  7. [120] 現代欧米の蔵書家たち 30000クラス,40000クラス,50000クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  8. [7] 鏡像フーガ2 蒐集のはじめ – 蔵書家たちの黄昏
  9. [12] 鏡像フーガ7 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する – 蔵書家たちの黄昏
  10. [206] 中世の蔵書家たち 9, 10c – 蔵書家たちの黄昏
  11. [9] 鏡像フーガ4 江戸の蔵書家  蔵書家たちが交流をはじめる – 蔵書家たちの黄昏
  12. [13] 鏡像フーガ8 昭和期の蔵書家 (1970年頃まで) – 蔵書家たちの黄昏
  13. [204] 古代の蔵書家 ローマ – 蔵書家たちの黄昏
  14. [103] 現代日本の蔵書家たち1 一万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  15. [104] 現代日本の蔵書家たち2 二万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  16. Grolier, De Thou, Mazarin, Colbert – 蔵書家たちの黄昏
  17. [211] イスラムの蔵書家たち カイロ – 蔵書家たちの黄昏
  18. [208]中世の蔵書家たち 13,14c – 蔵書家たちの黄昏
  19. [205] 中世の蔵書家 5, 6, 7, 8c – 蔵書家たちの黄昏
  20. [207]中世の蔵書家たち 11 12c – 蔵書家たちの黄昏
  21. [118] 現代欧米の蔵書家たち 10000クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  22. [119] 現代欧米の蔵書家たち 20000クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  23. [112] 現代日本の蔵書家10 十万越えのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  24. [115] 現代日本の蔵書家∞ エピローグ – 蔵書家たちの黄昏
  25. [203] 古代の蔵書家 ヘレニズム – 蔵書家たちの黄昏
  26. 総目次 4/15更新 – 蔵書家たちの黄昏

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テーマの著者 Anders Norén

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