蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[124]  現代欧米の蔵書家たち エピローグ1

☆梅本「しかし30万冊とは、ラガーフェルトもよく集めたもんです」
★関谷「日本の現代蔵書家でトップだった井上ひさしは22万だけど、やっぱり広い世界には上には上がいるんだな・・・」

☆梅本「日本では個人蔵書は20万ぐらいが限度なんですね。谷沢永一や大宅壮一もこのくらいでした」
★関谷「反町さんがあげた二代目安田善次郎や和田維四郎はいかに価値ある稀覯本集めたかって基準で選んでるから、総数はこんなにない」
☆梅本「ええ 岩崎家の二人も稀覯本蒐集家だったけど、財団法人化の直前で大体10万ぐらいでした」
★関谷「狩野亨吉は、のべでは20万ぐらい買ったという見方があるけれど・・・」
☆梅本「それで質も高いんですよね。今東北大学にある国宝の典籍は二点とも狩野文庫です」
★関谷「中山正善の場合は、天理図書館のどこまでが中山の蒐集だったのかがはっきりしないしね。あそこは今特別書だけで40万っていうけど・・・」
☆梅本「多分綿屋文庫だけが中山蒐集分ではないと思いますよ。あと、前田綱紀公もやっぱり巻数ははっきりしません」
★関谷「今現在ではラガーフェルドが世界一だとして、過去を含めると誰が一番たくさん本を持ってたんだろうか?」


≪起≫

☆梅本「このブログは、とりあえず基本的な見取り図を描いた後で、それ以降は普通のブログみたいにその時々の気分次第で進めていくつもりらしいんだけど、実はその見取り図がまだ四割ぐらいしかできてないんです。だからあくまでこれは現時点での結論なんですが・・・ 後でまた変更するかもしれませんが・・・」
★関谷「いいから、いったい誰なの?」
☆梅本「王室蔵書とか、そういう国家の蔵書に近いものを除外してあくまで普通の個人に限定すると、フランスのブーアール(Antoine Marie Henri Boulard 1754~1825)って人じゃないかと思います。法曹で公証人を長く勤め、パリ市の行政にも携わりました。
    辰野隆のエッセイには60万冊って書いてありましたけど、蔵書目録には50万冊分載せられてますね。これに次ぐ規模としては、18世紀ポーランドのザウスキ兄弟の私設図書館の40万冊あたりでしょうか? ちなみにブーアールは時期的にフランス革命の後ぐらいの人なので、ちょうどフランス貴族の蔵書が崩壊した頃なんです。多分それを攫って行ったんじゃないのかしら?」
★関谷「なんかものすごい数だな・・・」
☆梅本「数だけだったら、中国でもう少し上がありますよ。
    劉承干の『嘉業堂』っていう末期の蔵書楼には60万巻と16万冊、合計して76万あったんです」
★関谷「・・・・・・ 」
☆梅本「ただし巻物は洋装本に比べてキャパシティが小さいので、情報量ではずっと少ない事をお忘れなく。それにこの人に関しては色々とややこしい問題もあるんで詳しくは 中国篇 を見てください。
    まあ中国の大河には2mの鯉がいるって話だけど、蔵書家のスケールも日本とは段違いです。特に清の時代は30万巻とか40万巻がゴロゴロいます。他に莫伯驥の五十万巻楼なんてのもありましたっけ。40万だったら葛金烺に楊守敬に袁枚に・・・」
★関谷「他では、これより上のはない?」
☆梅本「これを越えるとしたら、ポール・ゲッティやハンチントンの図書館が現時点では物凄い量だけど、それらが個人所有だった時にどのぐらいあったか、だと思います。」


≪承≫

★関谷「うーん。王侯貴族というか、王様や皇帝のものを含めたら、どうなるんだろう?」
☆梅本「イスラム全盛期のファーティマ朝に『知恵の館』っていう王室図書館があったんですが、ここが100万から200万と言われてました。200万は誇張だと思うけど100万以上なのは確かですね。
    個人蔵書としてではなく図書館としてみても、これを超えるのは19世紀の大英図書館やビブリオテークナショナルまでは存在しなかったんじゃないかと思います。」
★関谷「でも、清朝の皇帝とかはどうなんだろ?」
☆梅本「それなんです。清朝の厖大な書の場合、どこまでを皇帝の蔵書と定義していいのかわからないので、今調べ中です。だからこの結論はまた変わるかもしれません」


≪転≫

★関谷「では、今度はほら、稀覯本とか珍本とかあるだろ? ああいうオークションとかで物凄い値段が付くような貴重な本をコレクションしてる奴で一番すげえのは誰よ? どうせそういう奴らは普通の本何万冊も集めてる人を内心馬鹿にしてるんだろうが?」
☆梅本「貴重っていっても、和書や漢籍で定まってるランクと、洋書のそれを比較する事は難しいし・・・」
★関谷「とにかく高けえやつ、高けえやつで!」
☆梅本「個人が寄付した蔵書の評価額のギネス記録はウィリアムHシャッドって人らしいけど・・・
    一般的に史上最大の稀書のコレクターだとみなされているのは、おそらくアメリカの J・P・モルガンでしょう。」
★関谷「そのモルガンってやつが一番なのか?」
☆梅本「あ、モルガンのコレクションは死後に息子さんが少し拡張してるんです。だから正確に言ったら、息子のジャック・モルガンさんが一番ですね」


≪結≫

★関谷「聞くところによるとアメリカ最大の財閥らしいな。なら美術品でも稀覯本でも何でも自由に・・・」
☆梅本「でも貴重な古書はどこかへ収蔵されると皆さん離さないのでいくらお金があってもどうにもならない事が多いです。日本でも天理が前田にあと一歩及ばなかった理由はそれです。この世界は早くから集めた方が勝ちなんです。だから何百年も前から集めてる欧州王室にはモルガンでさえ持ってないような古写本がいくらでも」
★関谷「じゃあ、その稀覯本のコレクターで、王様や皇帝まで含めて考えるとして、いったい誰が一番になるの?」
☆梅本「そうなると、これはもう全く分かりません。たとえばさっき言ったファーティマ朝の知恵の館の書だってサラディンの破壊によって消滅してるんだから、今ここにあったとすれば稀覯本の山ですよね? この世から永遠に消え去った盛期イスラムの貴重な記録ばかりだろうから。
    そういうのは国が違ったり、時代が違ったりすると、比較のしようがないんですよ。例えば、漢や唐の皇帝の蔵書と、ローマの皇帝のそれを比べることはほとんど意味をなさないし。」
★関谷「つまり皆目わからないという事か」
☆梅本「でも、近世以降のヨーロッパの王侯君主の内からであれば、なんとか決められるかもしれないです。出版文化や価値観を共有してるから。
    最有力候補は、ヴォルフォンビュッテルのブラウンシュヴァイク公家です。バチカンを別にすれば欧州最高の稀覯書の殿堂ですから。ライバルもあるのでまだ調査中ですけど。」

 

 

総目次
まずお読みください

◇主題  反町茂雄によるテーマ
反町茂雄による主題1 反町茂雄による主題2 反町茂雄による主題3 反町茂雄による主題4

◇主題補正 鏡像フーガ
鏡像フーガ 蒐集のはじめ 大名たち 江戸の蔵書家 蔵書家たちが交流を始める 明治大正期の蔵書家 外人たち 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する 昭和期の蔵書家 公家の蔵書 すべては図書館の中へ 
§川瀬一馬による主題 §国宝古典籍所蔵者変遷リスト §百姓の蔵書

◇第一変奏 グロリエ,ド・トゥー,マザラン,コルベール
《欧州大陸の蔵書家たち》
近世欧州の蔵書史のためのトルソhya

◇第二変奏 三代ロクスバラ公、二代スペンサー伯,ヒーバー
《英国の蔵書家たち》

◇第三変奏 ブラウンシュヴァイク, ヴィッテルスバッハ
《ドイツ領邦諸侯の宮廷図書館》

フランス イギリス ドイツ  イタリア
16世紀 16世紀 16世紀 16世紀  16世紀概観
17世紀 17世紀 17世紀 17世紀  17世紀概観
18世紀 18世紀 18世紀 18世紀  18世紀概観
19世紀 19世紀 19世紀 19世紀  19世紀概観
20世紀 20世紀 20世紀 20世紀  20世紀概観
仏概史  英概史  独概史  伊概史

◇第四変奏 瞿紹基、楊以増、丁兄弟、陸心源
《清末の四大蔵書家》
夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢 三国・晋・五胡十六国・南北朝 隋・唐・五代十国 宋・金・元   中華・中共    

◇第五変奏 モルガン,ハンチントン,フォルジャー
《20世紀アメリカの蔵書家たち》
アメリカ蔵書史のためのトルソ
◇第六変奏
《古代の蔵書家たち》
オリエント ギリシア ヘレニズム ローマ

◇第七変奏
《中世の蔵書家たち》
中世初期 カロリングルネサンス 中世盛期 中世末期

◇第八変奏
《イスラムの蔵書家たち》
前史ペルシア バグダッド カイロ コルドバ 十字軍以降
◇第九変奏 《現代日本の蔵書家たち》
本棚はいくつありますか プロローグ 一万クラスのひとたち 二万クラスのひとたち 三万クラスのひとたち 四万クラスのひとたち 五万クラスのひとたち 六万クラスのひとたち 七万クラスのひとたち 八万クラスのひとたち 九万クラスのひとたち 十万越えのひとたち 十五万越えのひとたち 二十万越えのひとたち エピローグ TBC

◇第十変奏 《現代欧米の蔵書家たち》
プロローグ 一万クラス 二万クラス 三万・四万・五万クラス 七万クラス 十万・十五万クラス 三十万クラス エピローグ1 

◇第十一変奏
《ロシアの蔵書家たち》
16世紀 17世紀 18世紀①   19世紀① ② ③ 20世紀① ② ③

 

 

Δ幕間狂言 分野別 蔵書家
Δ幕間狂言 蔵書目録(製作中)
◇終曲   漫画の蔵書家たち 1 
◇主題回帰 反町茂雄によるテーマ

§ アンコール用ピースⅠ 美術コレクターたち [絵画篇 日本]
§ アンコール用ピースⅡ 美術コレクターたち [骨董篇 日本]

§ アンコール用ピースⅢ 美術コレクターたち [絵画篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅣ 美術コレクターたち [骨董篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅤ レコードコレクターたち
§ アンコール用ピースⅥ フィルムコレクターたち
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