蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[300] 主題回帰 反町茂雄によるテーマ

「日本の蒐書の歴史は、古く八世紀のあの芸亭文庫主にまで遡ります。平安朝時代の初めに中国へ渡った、弘法大師をはじめとするかなりの数の僧たちが、彼の地で多くの書物を蒐集して持ち帰った事は、当時の請来目録の類によって窺う事ができます。その以外では、平安末期の藤原信西・藤原頼長の名が知られます。以後には、鎌倉時代では、明恵上人・藤原定家・北条実時及びその一族等々、足利時代では一条兼良・上杉憲実・同憲房等の名がすぐ記憶に浮かびます。江戸時代に入ると、永続する平和と文教の向上発展に伴って、蒐集家の数は大いに増加し、一寸思い出すだけでも、徳川家康・僧天海・桂宮智仁・智忠父子・脇坂八雲軒・松平忠房・前田綱紀(松雲公)・徳川光圀から、中期以降では松平定信・水野忠央・屋代弘賢・狩谷棭斎・塙保己一・新見正路・浅野梅堂等々。更に大田南畝・馬琴・種彦・豊芥子に至るまで、その数は相当に多くあります。就中、質量を兼ねて、最も重きをなすものは、松雲公と屋代と梅堂とであろうかと愚考します。但し後の二者の蒐集は既に散逸又は亡滅し、信頼に値する目録さえ残存して居りません。幸いにして、最大最優と想像される松雲公の集は、今日完全に近く保存されて居り、目録も印行されてありますから、江戸時代の代表として、ここにはこれを採る事にしましょう。
 明治以後には、善本の蒐集家の数は一段と増加致します。青木信寅・黒川家三代・竹添井々・田中光顕・井上頼圀・田中勘兵衛・神田香厳・富岡鉄斎・平出氏三代・大野酒竹・徳富蘇峰・和田維四郎・市島春城・二代目安田善次郎・加賀豊三郎・渡辺 霞亭・池田天鈞居・松井簡治・佐佐木信綱・石井光雄・高木利太・大島景雅・守屋高蔵等々、みな錚々たるコレクターです。外人ではE・サトー、B・チェンバレン、F・ホーレーは、それぞれに立派な蒐集家で、質に於いても優れて居ります。これらのうちで、稀書珍籍の蒐集に於て、質と量を見合わせて、最も見るべきは、私見によれば、大震災の前後を併せた安田善次郎さんと、和田雲村翁で、すぐこれに次ぐは、徳富氏成簀堂文庫でしょう。最盛期のホーレー文庫(昭和二十七、八年頃の)は、或いは直ちに成簀堂の後を追う者かも知れません。ここでは安田氏と和田氏を選び採って、これに先の前田家尊経閣の集を加え、これらの一々と天理の蒐集を試みる事によって、中山正善真柱の位置を考量したいと思います。」

 

 


 後期ベートーヴェンにディアベッリ変奏曲という名曲があります。これはディアベッリという人が書いた凡庸な主題に対して、何を思ったか晩年のベートーヴェンが創造力の限りを尽くして32もの幻想的な変奏を重ねてゆく演奏至難の大曲です。管理人はやっぱりシュナーベルのやつが一番好きです。何が言いたいかというと、当サイト自体が、その真逆になってしまうことを今から危惧しつつ、訓戒の意を込めて最後に主題をそのままもう一度鳴らしてみたんです。
 それともうひとつ、下記にこの主題を欧州版(第六、第七、第一、第二、第三、第十一変奏の分に相当)へ変換してみました。ブログ自体が変奏曲を名乗る以上、各変奏ごとにこれやろうと思ってたんですが、帳尻を合わすのに案外骨が折れて、これくらいで勘弁してください。

 

 

「欧州の蒐書の歴史は、古く紀元前6世紀のあのギリシア時代のエウリピデスにまで遡ります。ローマ時代の中ごろにエジプトのムセイオンを目指した国立図書館設立の挫折はさぞかし無念であったろうと、当時の文献の類によって窺う事ができます。その以外では、ローマ末期のセレヌス=サモニクス・エパプディトスの名が知られます。以後には、修道院時代では、ボッピオ・ロルシュ・クリュニー修道院及びその系統等々、中世後期ではリチャード=ド=ベリー・ペトラルカの名がすぐ記憶に浮かびます。ルネサンス時代に入ると、永続する平和と文教の向上発展に伴って、蒐集家の数は大いに増加し、一寸思い出すだけでも、グロリエ・ドトゥ・ニッコロ=ニッコリ・ヴィスコンティ=スフォルツァ・ヴィンチェンツォ=ビネリ・フッガー家・ルテリエ大僧正・フェデリーコから、中期以降ではマザラン・コルベール・ラヴァリエール侯爵・エステ公・ボローメオ枢機卿・バーガンディ家・マリアベーキ等々。更にオルシニ枢機卿・ロバートコットン・ディエゴメンドーサ・Aマグヌッソンに至るまで、その数は相当に多くあります。就中、質量を兼ねて、最も重きをなすものは、マザランとグロリエとド・トゥであろうかと愚考します。但し後の二者の蒐集は既に散逸又は亡滅し、信頼に値する目録さえ残存して居りません。幸いにして、最大最優と想像されるマザラン公の集は、フロンドの乱で一時激減した以外はその図書館によって保存されて居り、目録も印行されてありますから、17世紀の代表として、ここにはこれを採る事にしましょう。
 18世紀以後の欧州には、善本の蒐集家の数は一段と増加致します。トーマスローリンソン・ハンススローン・三代ロクスバラ公・二代スペンサー伯・Rヒーバー・デヴォンシャー公爵・ブルーエル伯・グレンヴィル・アルジャンソン候・ブーアール・ユディン・トーマスフィリップス・カソボーン・ハウィス伯・ザウスキ兄弟・リンゼー伯・ルミャンツェフ・仏ロスチャイルド家・ノディエ・ベドオイエール伯爵・オットートット・ペータースーム・アクトン教授・Hフォックスウェル等々、みな錚々たるコレクターです。独人ではブラウンシュヴァイク公、ウィッテルスバッハ家、ハプスブルク家は、それぞれに立派な蒐集家で、質に於いても優れて居ります。これらのうちで、稀書珍籍の蒐集に於て、質と量を見合わせて、最も見るべきは、私見によれば、第二帝政の前夜にあったブラウンシュヴァイク公家と、Rヒーバー翁で、すぐこれに次ぐは、トーマス・ローリンソンでしょう。最盛期の二代スペンサー伯書庫(千七百二十七、八年頃の)は、或いは直ちにローリンソンの後を追う者かも知れません。ここではヒーバーとブラウンシュヴァイク公を選び採って、これに先のマザランの集を加え、これらの一々とモルガン図書館の蒐集を試みる事によって、ジョン・ピアポント・モルガンの位置を考量したいと思います。」

 

 

 

 

総目次
 
まずお読みください

◇主題  反町茂雄によるテーマ
反町茂雄による主題1 反町茂雄による主題2 反町茂雄による主題3 反町茂雄による主題4

◇主題補正 鏡像フーガ
鏡像フーガ 蒐集のはじめ 大名たち 江戸の蔵書家 蔵書家たちが交流を始める 明治大正期の蔵書家 外人たち 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する 昭和期の蔵書家 公家の蔵書 すべては図書館の中へ 
§川瀬一馬による主題 §国宝古典籍所蔵者変遷リスト §百姓の蔵書
 

◇第一変奏 グロリエ,ド・トゥー,マザラン,コルベール
《欧州大陸の蔵書家たち》
近世欧州の蔵書史のためのトルソhya

◇第二変奏 三代ロクスバラ公、二代スペンサー伯,ヒーバー
《英国の蔵書家たち》

◇第三変奏 ブラウンシュヴァイク, ヴィッテルスバッハ
《ドイツ領邦諸侯の宮廷図書館》

フランス イギリス ドイツ  イタリア
16世紀 16世紀 16世紀 16世紀  16世紀概観
17世紀 17世紀 17世紀 17世紀  17世紀概観
18世紀 18世紀 18世紀 18世紀  18世紀概観
19世紀 19世紀 19世紀 19世紀  19世紀概観
20世紀 20世紀 20世紀 20世紀  20世紀概観
仏概史  英概史  独概史  伊概史

◇第四変奏 瞿紹基、楊以増、丁兄弟、陸心源
《清末の四大蔵書家》
夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢 三国・晋・五胡十六国・南北朝 隋・唐・五代十国 宋・金・元   中華・中共    

◇第五変奏 モルガン,ハンチントン,フォルジャー
《20世紀アメリカの蔵書家たち》
アメリカ蔵書史のためのトルソ
 
◇第六変奏
《古代の蔵書家たち》
オリエント ギリシア ヘレニズム ローマ

◇第七変奏
《中世の蔵書家たち》
中世初期 カロリングルネサンス 中世盛期 中世末期

◇第八変奏
《イスラムの蔵書家たち》
前史ペルシア バグダッド カイロ コルドバ 十字軍以降
 
◇第九変奏 《現代日本の蔵書家たち》
本棚はいくつありますか プロローグ 一万クラスのひとたち 二万クラスのひとたち 三万クラスのひとたち 四万クラスのひとたち 五万クラスのひとたち 六万クラスのひとたち 七万クラスのひとたち 八万クラスのひとたち 九万クラスのひとたち 十万越えのひとたち 十五万越えのひとたち 二十万越えのひとたち エピローグ TBC

◇第十変奏 《現代欧米の蔵書家たち》
プロローグ 一万クラス 二万クラス 三万・四万・五万クラス 七万クラス 十万・十五万クラス 三十万クラス エピローグ1 

◇第十一変奏
《ロシアの蔵書家たち》
16世紀 17世紀 18世紀①   19世紀① ② ③ 20世紀① ② ③

 

 

Δ幕間狂言 分野別 蔵書家
Δ幕間狂言 蔵書目録(製作中)
 
◇終曲   漫画の蔵書家たち 1 
◇主題回帰 反町茂雄によるテーマ
 

§ アンコール用ピースⅠ 美術コレクターたち [絵画篇 日本]
§ アンコール用ピースⅡ 美術コレクターたち [骨董篇 日本]

§ アンコール用ピースⅢ 美術コレクターたち [絵画篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅣ 美術コレクターたち [骨董篇 欧米]
 
§ アンコール用ピースⅤ レコードコレクターたち
§ アンコール用ピースⅥ フィルムコレクターたち
 
Θ カーテンコール 
閲覧者様のご要望を 企画① 企画② 企画③ 企画④


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テーマの著者 Anders Norén

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