蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[67] 中国の蔵書家たちⅠ 夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢

清末四大蔵書家と銘うちましたが其処に至る中華文明全体の蔵書家を扱います。各時代ごとに分かち、まず宮廷蔵書について述べた後に個人蔵書を語る簡単な構成です。

 

 


§ 夏
 夏朝の実在には議論があり、二里頭遺跡を其れに擬するにしても其処に文字の実在は認められない。他に巴蜀文字が夏文字の名残であるとする説も有る様だが。

 

 


§ 殷周
 当時の宮廷建築における書庫の存在から、商王室、周王室、諸侯などには蔵書があったと推測することが可能である。

 ■ 恵施 
 伝承上の人物で実在すら疑われる恵施を中国最初の個人蔵書家とする事は或いは許されるかもしれない。「荘子」天下篇に「恵施は多方にして其の書は五車」という記述あり。

 


§ 春秋戦国
 春秋戦国時代には個人蔵書も存したと云われるが、やはり主に王朝のものであろう。泰西では希臘のエウリピデスが書の蒐集を始めた時期にあたる。

 

 


§ 秦
 秦の焚書坑儒は、史記によると「歴史は秦紀以外全部焼け、博士官の職務以外に詩書百家語を所蔵するものはみな焼け、詩書のことばを口にするものがあったら殺してしまえ、古のことを引いて今のことをそしるものがあったら一族全部皆殺しにせよ」という苛烈なものでありながら、医薬・占い・農業関係の三つは残している。また民間に隠されていた書も多く、此れらは次の世になってから漢の王族たちが蒐集して救出した。 〔書の五厄 その1〕

 

 


§ 前漢
 漢の高祖時代には「石渠閣」「麒麟閣」「天禄閣」などの国家の書を収める施設が建設される。又宮廷の蔵書楼も建設された。「建蔵書之策」により蔵書構築が後押しされたことが此の背景にあった。又漢初には皇族に名高い文人が出で、彼らは個人としても多くの書を蒐めている。

 ■劉徳 (-紀元前129年没)
 河間献王の通称で世に知られた。景帝の子で武帝の異母兄である。善書を訪ねて写し其の真本は手元に収め複本を金箔を添えて持主へ返した。この為国中の者は争って伝来の書を献上し、劉安の書は漢王室に並ぶ数に及んだという。「周官」「尚書「礼経」「孟子」「老子」「周礼」「書経」「儀礼」「毛詩」「左氏伝」など、先秦古文の書を多く蒐集して焚書坑儒の禍を補った。中でも其の「論語」河間七篇本は『論語』最古の版である。

 ■劉安 (紀元前179年-紀元前122年)
 高祖の孫にあたる。其の生涯は学を愛し書を集め、多彩な士をその下へと招いている。道家から陰陽家に渡る厖大な中国古代思想を収集し編纂した。そうして成った書は彼が淮南王に封じられた事に因み今日『淮南子』の名が冠される。ただ劉安は劉徳に比べると下らぬ書も求めたそうである。のち乱を企て処刑された。

 

 ■ 班雄
 前漢末期で最大の個人蔵書家といえば班雄になろうか。名臣班超の子で、叔父は漢書を執筆した班固である。揚雄や桓譚もその書を見るために訪問した。

 

 


§ 新
 新では王莽が打倒された時の叛乱によって国家蔵書が焼失している。 〔書の五厄 その2〕

 

 


§ 後漢
 後漢光武帝の遷都時には政府の書物が車二万台分あったと云われた。この時分の蔵書家の多くは学者か、政府の下賜物を受けた者たちで、一般人の蔵書家の水準は多くて百巻程であろうか。(ちなみに百巻と言っても現代の洋装本の書籍とは異なり「史記」や「漢書」ぐらいで充分100巻以上になってしまう。今なら「史記」はちくま文庫で全八巻に収まっているし、自分の持ってる筑摩書房の「史記」は細かい字で上下2冊に圧縮されているが 其れでも本紀から列伝までが全部入っている)
 ただこのような漢王室の蔵書は、後漢末期に董卓が遷都を強行した際に王允が70台の車で運搬するが、混乱と戦乱の中で一冊も無くなってしまったという(異説はある)。 〔書の五厄 その3〕

 ■ 蔡邑 (133年-192年)
 後漢末期で最大の個人蔵書家は蔡邑であろう。儒者で書家。万巻の蔵書をもっているといわれ、是は主として政府の下賜物の模様である。

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