蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

[69] 中国の蔵書家たちⅢ 隋・唐・五代十国

§ 隋
 隋の文帝は異本探索をさせ書一巻に絹一匹を与え校写の後に書を持主に返却した。河間献王の故事を思わせる行ないであるがこの為民間の異本が多く集まる。陳を滅した後に益々経籍が備わり秘書内外に三万巻を数えた。隋は仏教に帰依し文帝の在位中経を写す事四十六蔵十三万巻に及んだ。
 煬帝が位に就いてから殺されるまで故経を修復する事六百十二蔵、九十万三千五百八十巻に及ぶ。しかし殺されると共に三十七万巻が焼けその目録の内一巻も後代に伝わる事が無かったという(倉石は副本があるので全部伝わらないというのは誇張だろうとしている)。

 

 


§ 唐
 唐の高祖の時点で、重複を含め八万巻もあり、のち太宗が二十万巻まで集めて宏文館へ置き裙遂良を館主にした。玄宗の代に多数の官僚を動員し内庫の秘書を整理した結果集賢院に八万九千巻蔵されていた。この様な唐の蔵書は黄巣の乱で散逸した。
 木版印刷の発明があり唐代には一万巻に達する蔵書家の数が増える。ちなみに日本はこのあたりからやっと個人の蒐集が始まった。


 下記は主に石田幹之助の「唐代図書雑記」がソースで、石田が丹念に正史の記述から拾い上げたもの。又渓葡は便宜的に充てた字。 

 ■ 呉競 (670年-749年) 
  一万三千巻。太宗の問答録「貞観政要」を編纂した呉競などは我が国治世者にとってとりわけ近しい名前かもしれない。彼も自らの蔵書目録を作り呉氏西斎書目と号した。
 
 ■ 将又
  一万五千巻

 ■ 韋述 (-757年没)
  二万巻。唐代の史家。その蔵書の校定の厳密な事は宮中も及ばない。また書に留まらず、古今朝臣図、歴代知名人画、魏晋以来の草隷真跡、古碑古器、薬方格式、銭譜璽譜、当代名公の尺題にまでに渡る総合的な蒐集家だった。然し安史の乱後全て失った。

 ■ 李渓
  一万巻 蔵書楼として「李書楼」がある。

 ■ 韋処厚
  一万余巻

 ■ 蘇弁 (734年-805年)
  三万巻。宰相も務めた。石田幹之助は二万としていたが一説にはもっと多く、書の量は集賢秘閣に次ぐものとされていたそうである。唐の私人の蔵書では最大ではなかろうか。自ら校刊などもしている。

 ■ 田弘正 (764年-821年)
  一万余巻。官人。

 ■ 劉伯葡
  二万巻

 ■ 杜兼
  一万巻

 

 

 

§ 五代十国
 総じて戦乱の時代ではあるが、蔵書楼の建設は普及したようである、この頃から寺院蔵書や書院蔵書も登場する。中国蔵書史のはしりである葉昌熾「蔵書紀事詩」は五代の藤縮からその記述を始めているが、竹簡、木簡、巻子本など従来の手書きの鉄本から版本への移行が全面的に進んだのが丁度この頃だからであろう。

 

 ■ 契丹王子耶律倍 (899年-937年) 「望海堂」におよそ一万巻。

 ■ 呉越の暨斉物  杭州の「垂象楼」には数千巻が積まれていた。 

 

 

 

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  2. [13] 鏡像フーガ8 昭和期の蔵書家 (1970年頃まで) – 蔵書家たちの黄昏
  3. [116] Twilight of the Book Collectors – 蔵書家たちの黄昏
  4. [210] イスラムの蔵書家たち バグダッド – 蔵書家たちの黄昏
  5. [213] イスラムの蔵書家たち 十字軍以降 – 蔵書家たちの黄昏
  6. [12] 鏡像フーガ7 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する – 蔵書家たちの黄昏
  7. [6] 鏡像フーガ1 プロローグ – 蔵書家たちの黄昏
  8. [102] 現代日本の蔵書家たち0 プロローグ – 蔵書家たちの黄昏
  9. [8] 鏡像フーガ3 大名たち – 蔵書家たちの黄昏
  10. [10] 鏡像フーガ5 明治大正期の蔵書家 – 蔵書家たちの黄昏
  11. [118] 現代欧米の蔵書家たち 10000クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  12. [113] 現代日本の蔵書家11 十五万越えのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  13. [208]中世の蔵書家たち 13,14c – 蔵書家たちの黄昏
  14. [103] 現代日本の蔵書家たち1 一万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  15. [105] 現代日本の蔵書家3 三万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  16. [108] 現代日本の蔵書家6 六万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  17. [112] 現代日本の蔵書家10 十万越えのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
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  20. [104] 現代日本の蔵書家たち2 二万クラスのひとたち – 蔵書家たちの黄昏
  21. [202] 古代の蔵書家 ギリシア – 蔵書家たちの黄昏
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