蔵書家たちの黄昏

反町茂雄の主題による変奏曲

Bibliophile Interview  Gabriel Naudé 前編

漂流教室関谷「こんにちは、漂流教室関谷です。今回はビブリオフィルインタビューと題しまして、マザラン図書館の司書をされていたガブリエル・ノーデさんをお迎えして、お話をお聞きすることにします」
Gabriel Naudé「はじめまして、私がかつてマザラン猊下のために集めた書が、今このような華美な図書館で保存されている事に感激しております」

関谷「ところで早速ですが、ローマ時代には図書館が多く作られ、本が増えすぎたことについて、セネカが苦言を呈していましたね」
Naude「セネカの見事な訓示と道徳的な助言は真実であると思えるのです。しかし・・・」

関谷「しかし?」
Naude「それをくつがえして、われわれの立場をはっきりさせたいのならば、個々人の激しい仕事と図書館によって自分を見せかけたいだけの野心との間の差異、あるいは自分だけが満足すればよいという人と公衆に喜びを与えねばならぬと考える人との間の相違をはっきり見定めることがまず必要であります。」

関谷「つまり・・・図書館というには、一個人だけの需要を満たすだけでは、満足ではないということでしょうか」
Naude「おっしゃる通りです。公衆の利用のために設立される図書館は、まず全般的でなければならないからでありますが、そうなるには、そこにきわめて広範囲な主題、主として文芸と科学について、書かれている主要著作のすべてを含まなければなりません。読者とは、ホラティウスに招かれた三人の客のようなもので『喉が違えばもとめる食物も違い』ます。」

関谷「装丁についてはどう思われますか?」
Naude「図書館として行うべきことは、目的もなく本の製本や装丁に浪費する余分な出費を減らし、その節約分を欠けているものの購入に使うことであり、こうして『本の外側と名題だけが楽しみ』である人たちを楽しく揶揄したセネカの叱責に相当しないですむのであり、製本は外見の状態であって、素晴らしく高価なものであれ、それがないからといって、その本が有益さ、妥当性や希少価値を失うものではなく、表紙で本を尊重するのは無知な人だけで、本は身にまとう礼服や衣装で知られ尊敬される人間とは違うことを知るべきです。」

関谷「図書館にとって一番大事な点は何でしょうか?」
Naude「取りあげねばならない点は、図書館が所蔵する本の秩序と配列です。ここに置かれる本は、必要に応じて利用可能となっていなければならないという理由から、それなしには、われわれの探究が目的を失い、労苦が無駄になってしまうのです。しかし主題にしたがって本が分類されるか、あるいは、特別な場所に置かれている本を容易に探しうるような何らかの手だてがなければ、それは不可能なのです。さらにこうした秩序と配置なしには、どのような量の図書コレクションでも、それが5万冊であっても、図書館の名に値しないと断言いたします。」

関谷「そのためにはどうしたらよいのでしょうか?」
Naude「作らねばならぬもっとも必要なものは図書館にあるすべての本の二種類の目録であって、さまざまな主題や知識分野のもとに記録され、思いつく第一主題のもとであらゆる著者が一瞥して見てとれる、慎重に作られた目録で、もう一つは、アルファベット順の著者のもとに配列された目録で、第一に重複が排除され、第二に、欠落が検索できて、ある著者の作品のすべてを時に特別に読みたいという人のために作られています。」

関谷「幸い現在の図書館はどこも蔵書の分類に関してはもはや大きな問題はないと思います。では、次に写本についてお聞きしますが・・・」
Naude「図書館が多数の写本を持つのは基本であります。
   これまで知られていなかった何らかの知識を与え、あるいは、利益をもたらす有用な事態を解明するために、おそらく一生をかけて苦労した偉大な人たちの無限の瞑想や労苦が、消えていったり、無知な学者の手で腐りはてるのは、まったく不幸なことであり、遺憾と見なせるのであります。」

関谷「写本を保存するために何か注意することはありますか?」
Naude「写本が貴重で、もっとも尊重されているからといって、それを別置すること自体に目的があるわけではありません」

関谷「17世紀当時の他の図書館ではどうなっていましたか?」
Naude「アンプロジアーナ図書館の一方の部分はそっくり9000冊の写本に宛てられており、すべてがアントニオ・オルギアティ氏により集められ、管理されていました」

関谷「フランスでは?」
Naude「ド・トゥ総裁閣下の図書館の場合、同一階の一部屋があり、たやすく入れるこの部屋はこの目的のために使われていることに注目すべきです。」

関谷「あなたは図書収集の専門家となられ、競売に出たコレクションを多く買われましたね」
Naude「ええ、重複があろうと副本は売りに出すことも出来ましたから。
   本屋を片端からまわり歩き回ったものです。パリには1640年代150軒の出版社=書店があり、セーヌ左岸には4,50軒の露天書籍商がありました。マザラン猊下の旅行に同行させていただき、イタリア、オランダ、ドイツ、イギリスでも買い込みました。」

関谷「では、あとに続くものに何かアドバイスをお願いします」
Naude「どんな理由にせよ、われわれにとって、および、他の人にとって有益でありうるもの一切を無視しないことです、風刺文であろうと、片面印刷、論文、スクラップ、校正刷り、その他、そうしたものは種類および主題により、いっしょにまとめておくだけの手間をかけるべきです。こうした手段によってのみ考察が可能になるからです。

   また、リチャード・ド・ベリーの採用した方法から学ぶことが出来ます。
   本への愛着と図書館設立への強烈な要望を本で刊行してすべての人に知らせるべきです。これが広く知れわたるなら、こうした計画を追求する者が、友人たちに影響を及ぼし、権威を持つようになり、手に入る稀覯書を寄贈するのを名誉と思う人は少なからず、自分の図書館や友人の図書館に自由に受け入れてくれ、端的に言うなら、出来るかぎりこの計画を支援し寄与する人は一人ならずいることになります。

   もっとも即決で、容易で、有益な方法は、先程言われたように散逸していない他の図書館をまるごと買うことです。これを即決と見なしたのは、一日もかけずに、一生をかけても集めきれない珍しくて価値のある多数の本が手に入りうるからです。容易と言ったのは、個別に購入したら相当にかかる資力と時間がかからなくて済むからです。そして最後に有益と述べたのは、買い入れた図書館が良質で立派に選ばれているなら、これによって豊かになった人の権威と評判を倍加させる役にたつからです。ポッセヴィーノがジョワユーズ枢機卿のコレクションを尊敬しているのは、それがビトー氏に属していたコレクション、同じように獲得して知っていた3つの図書館からなっていたからであります。

   上述したような上手な入手方法があるからといって、きわめて貴重な本をその価値を知っている人の手から異常な価格で買い取るためには、時に経済性の原則を越える必要があるとはっきり申し上げます。図書館で価値ありとして多額の金額を投ずるのは、情熱ある収集家がその本をきわめて高く評価しているからであって、プトレマイオス・フィラデルフォスがエウリピデスの作品に15タラントを遣い、三冊の『シビラの書』を買ったタルクイニウスは9タラントもの値段ですべてを購入、ベッサリオンは3万クラウン相当のギリシア語図書を買いいれ、ウルタード・デ・メンドーサはレヴァントから船荷一杯の本を獲得し、ピコ=デッラ=ミランドーラはヘブライ語やカルデア語その他の写本に7000クラウンを支払い、あるいは、フランスの国王がパリの医師図書館が所有数する本一冊のために金銀の紋章を約束したのは、古い文献や記録や教授団が充分に証明しているところです。」

   次回に続く

32/1/2020/   La bibliothèque Mazarine Institut de France  
企画 Joshua, Dyle, Canfield & Cruikshank LLP

 

(「図書館設立のための助言」Gabriel Naude著 藤野幸雄 藤野寛之訳より、一部会話調に変更して引用)

 

 

 

 

総目次
まずお読みください

◇主題  反町茂雄によるテーマ
反町茂雄による主題1 反町茂雄による主題2 反町茂雄による主題3 反町茂雄による主題4

◇主題補正 鏡像フーガ
鏡像フーガ 蒐集のはじめ 大名たち 江戸の蔵書家 蔵書家たちが交流を始める 明治大正期の蔵書家 外人たち 岩崎2家の問題 財閥が蒐集家を蒐集する 昭和期の蔵書家 公家の蔵書 すべては図書館の中へ 
§川瀬一馬による主題 §国宝古典籍所蔵者変遷リスト §百姓の蔵書

◇第一変奏 グロリエ,ド・トゥー,マザラン,コルベール
《欧州大陸の蔵書家たち》
近世欧州の蔵書史のためのトルソhya

◇第二変奏 三代ロクスバラ公、二代スペンサー伯,ヒーバー
《英国の蔵書家たち》

◇第三変奏 ブラウンシュヴァイク, ヴィッテルスバッハ
《ドイツ領邦諸侯の宮廷図書館》

フランス イギリス ドイツ  イタリア
16世紀 16世紀 16世紀 16世紀  16世紀概観
17世紀 17世紀 17世紀 17世紀  17世紀概観
18世紀 18世紀 18世紀 18世紀  18世紀概観
19世紀 19世紀 19世紀 19世紀  19世紀概観
20世紀 20世紀 20世紀 20世紀  20世紀概観
仏概史  英概史  独概史  伊概史

◇第四変奏 瞿紹基、楊以増、丁兄弟、陸心源
《清末の四大蔵書家》
夏・殷・周・春秋・戦国・秦・前漢・新・後漢 三国・晋・五胡十六国・南北朝 隋・唐・五代十国 宋・金・元   中華・中共    

◇第五変奏 モルガン,ハンチントン,フォルジャー
《20世紀アメリカの蔵書家たち》
アメリカ蔵書史のためのトルソ
◇第六変奏
《古代の蔵書家たち》
オリエント ギリシア ヘレニズム ローマ

◇第七変奏
《中世の蔵書家たち》
中世初期 カロリングルネサンス 中世盛期 中世末期

◇第八変奏
《イスラムの蔵書家たち》
前史ペルシア バグダッド カイロ コルドバ 十字軍以降
◇第九変奏 《現代日本の蔵書家たち》
本棚はいくつありますか プロローグ 一万クラスのひとたち 二万クラスのひとたち 三万クラスのひとたち 四万クラスのひとたち 五万クラスのひとたち 六万クラスのひとたち 七万クラスのひとたち 八万クラスのひとたち 九万クラスのひとたち 十万越えのひとたち 十五万越えのひとたち 二十万越えのひとたち エピローグ TBC

◇第十変奏 《現代欧米の蔵書家たち》
プロローグ 一万クラス 二万クラス 三万・四万・五万クラス 七万クラス 十万・十五万クラス 三十万クラス エピローグ1 

◇第十一変奏
《ロシアの蔵書家たち》
16世紀 17世紀 18世紀①   19世紀① ② ③ 20世紀① ② ③

 

 

Δ幕間狂言 分野別 蔵書家
Δ幕間狂言 蔵書目録(製作中)
◇終曲   漫画の蔵書家たち 1 
◇主題回帰 反町茂雄によるテーマ

§ アンコール用ピースⅠ 美術コレクターたち [絵画篇 日本]
§ アンコール用ピースⅡ 美術コレクターたち [骨董篇 日本]

§ アンコール用ピースⅢ 美術コレクターたち [絵画篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅣ 美術コレクターたち [骨董篇 欧米]
§ アンコール用ピースⅤ レコードコレクターたち
§ アンコール用ピースⅥ フィルムコレクターたち
Θ カーテンコール 
閲覧者様のご要望を 企画① 企画② 企画③ 企画④